魔神教団
最後です。
連続で投稿しているので、前の話を読んでいない方は、そちらからご覧ください。
本編再開です。
「ルイエス・バルゼ、ただ今帰還しました。師匠」
「あのー……ルイエスさん? なぜわざわざ宿屋に来てまでその報告を?」
「いえ、私の師匠なので、陛下より先に報告をせねばと……」
「順番オカシイ」
この数日間をサリアたちとのデートで過ごした俺は、今朝サリアたちと食事をしていると、いつも通りのルイエスが宿屋に姿を現し、冒頭の言葉を言ったのだった。
ちなみに、サリアたちは部屋に戻っている。
「何? ルイエスのなかの師匠ってなんなの?」
「唯一無二の絶対的存在です」
「怖ぇよ!?」
王様より優先順位が高い存在ってナニ!? 神様!?
「師匠です」
「心読まないで!?」
なぜか、俺の心の内が読まれることが多々あった。
「まあいいや。無事に帰ってこれたようで何よりだ」
「ありがとうございます。今回の遠征で、私は師匠の教えを意識しながら戦っていましたら、バーナバス様と同じ≪超越者≫の仲間入りを果たすことができました」
「サラッととんでもない発言をしてくれるね!」
どうやらルイエスも、バーナさんと同じように、人類の到達できる最高レベル……500を越えたらしい。俺の周囲は化物だらけな気がする。一番の化物は俺ですけど?
「とにかく、師匠にこのテルベールに滞在していただいたおかげで、私は魔物の討伐に専念できたのです」
「そっか……まあ、俺如きが役に立ったのなら、よかったよ」
「そんな……あ、そう言えば、王都にも魔物が侵攻してきたようですが、師匠が全滅させたんですね。お見事です」
「あれ!? 質問じゃなくて断定!?」
「違いましたか?」
「……正解です」
認めたくないけど、認めるしかなかった。
「さて、それでは私は陛下に帰還したことを報告してきます」
「順番がだいぶ間違ってはいるが……了解。俺も、バーナさんに用事があるから、サリアたちを呼んで後から城へ向かうよ」
「そうですか。でしたら、また後ほど」
こうして、無事帰還したルイエスと別れ、俺はバーナさんに会うために、サリアたちを呼びに向かうのだった。
◆◇◆
薄暗い洞窟のなか、一人の男が奥へ進んでいた。
壁にロウソクの火が灯っているとはいえ、足元は見えないのだが、男の足取りが変わることはない。それだけ、男にとってこの洞窟は慣れ親しんだ場所だった。
やがて、奥に辿り着くと、大広間のような大きな空間に出る。
その空間には、石造りの不気味な祭壇が中心に存在していた。
普通の人から見れば、不気味な空間でも、男にはとても心地いい場所だった。
「おい、クライス~! なぁに辛気クセェ顔してんだ?」
不意に、男――――クライスの頭上から、声がかけられた。
「んふー……レスターか」
「ぎゃはははははっ! 久しぶりだなぁ!」
すると、突然クライスの目の前に、頭上から声をかけた人物が姿を現した。
くすんだ赤色の髪を逆立て、爬虫類のような目は大きく、ギョロリと擬音語が付きそうなほどだ。
黒色の短いジャケットに、茶色のズボンという簡素な服装。猫背気味であることと、舌なめずりをしている様からとても不気味に見える。
頭上から地面に降りた気配はなく、どうやって目の前に現れたのか相変わらずクライスには分からなかった。
……不気味なヤツめ……。
内心そう思うものの、仲間としてはとても頼もしい存在であり、クライスは目の前の軽薄そうな男……レスターを総合的には気に入っていた。
「失敗に失敗を重ねた豚が、今さら何をしに来たのかしら?」
レスターと会話をしていると、再び新たな声が割って入る。
「んふ……アングレア……」
忌々しそうに、クライスが視線を向けた先には、つば広帽と白黒の豪華なゴシックドレスを身に纏い、同じく黒色の日傘をさしている女が立っていた。
さらに、顔の半分を白色の仮面で覆っている。
「無様よねぇ? あれだけ入念に、決して失敗するはずがないと自信満々だったのに……どう? それが呆気なく失敗した気分は?」
「んふーんふー!」
クライスは、怒りで顔を真っ赤にさせるが、事実を言われているだけに何も言い返せなかった。
「クライス。貴方は生ぬるいのよ。殺して、殺して、殺して……そして殺す。魔物なんかに頼ることなく、自分の手で命を奪うからこそ、快感があるのではなくて?」
「ぎゃはははははっ! アングレアは相変わらずの思考回路だなぁ! でも俺の魔神様復活のためにしたこと聞いてくれよ!」
「あら、レスターも何かしたの?」
「おう! 公衆トイレの男性と女性を入れ替えてやったぜ!」
「小さいな!? もっと大きな絶望を与える手段はなかったのか!?」
クライスは、思わずレスターの行いにツッコんだ。
だが、アングレアは違ったらしく、戦慄している。
「男性トイレと思って入ったら、女性トイレだったなんて……その男は、変態扱いされるでしょうね……レスター……恐ろしい子っ!」
「んふー! アングレアもしっかりするのだっ!」
「おいおい、そんなに怒んなくてもいいだろぉ? ほら、こう言うじゃねぇか? 『塵も積もれば神に届く』ってよ!」
「言わんぞ!? この罰当たりめ!」
不気味な空間に似つかわしくない、和やかな雰囲気が流れていると、突然、祭壇の上に、紫色の炎が灯った。
「「「っ!!」」」
三人は、その炎を確認した瞬間、急いで祭壇のもとに移動し、首を垂れる。
すると、老若男女のどれにも当てはまらない、不思議な声が流れてきた。
『我の復活はまだか? 我が愛しき【使徒】たちよ』
その声を聞いて、クライスは歓喜に打ち震えると同時に、未だに主を復活させることのできない自分に大きく苛立った。
「んふー! も、申しわけございません! 現在、各地に散らばりし我々使徒が、魔神様の糧となる絶望を与えている最中でして……!」
これでもかというほど、クライスは額を地面に擦り付け、そう言う。
すると、紫の炎は告げた。
『よい。我は、そなたら使徒を信頼しておる。それに、我も復活を遂げるまでに、【この世の理の外に存在する神々】を屠る力をつけねばならぬ』
「それは……」
『いったい何年もの間、この地に封印されていただろうか……我を追放せし神々は、我の復活を畏れ、この星を管理することを放棄した。だが、故に我は力をつけ、復活することができるのだ! バカな神々は、我が復活するどころか、存在すら忘却の彼方へ葬り去っていることだろう。だからこそ、我の力を再び神々に知らしめ、【神】という存在がただ一柱だけでいいことを思い知らせることができるのだっ!』
言葉に同調するかのように、炎も激しく燃え盛る。
その姿を、三人はただ恍惚とした表情で見つめていた。
『さあ、我が愛しき使徒たちよ。我に絶望を。死を。混沌を捧げよ。全ての【闇】が、我の血肉となり、復活に繋がるのだ――――』
「「「はっ! すべては、魔神様のために……!」」」
紫の炎は、その場から掻き消えた。
だが、それでもしばらくの間、三人はその場から動くことができなかった。
そして、ようやく動き始めた時、三人の目には、さらに強い意志が宿っていた。
「んひっんひっんひっ。魔神様の復活のため、より濃密な絶望が必要になるな……」
「つってもよぉ、やることは今までと変わらねぇだろ?」
「んふー……いや、ただ絶望させるだけでなら、殺すだけで十分だろう。だが、もっと巨大な絶望を得るには、希望を目の前で潰すくらいをしないとダメであろうな」
「なるほど! んじゃあ、公衆トイレの大便のほうを、全部なかに人が入ってるように鍵かけちまえばいいんだな!?」
「だから、なぜやることなすことが小さいのだ!」
「ダメか? 絶望感あると思うけどなぁ……お腹痛くて、必死の思いでたどり着いたら全部に人が入ってる! な? 絶望だろ?」
「いや、そうだが……」
レスターとクライスの二人が、くだらないやり取りをしているころ、アングレアは各地に散らばっている他の使徒のことを考えていた。
そして、そのなかでも特に、絶望が集まりそうな場所にいる使徒を思い出していると、一人だけ、思い出すことができた。
「そうだわ……」
「んふー? どうかしたのか?」
「私ね、一人だけで絶望を集めるから、失敗すると思うの。クライスも一応は協力して準備していたようだけれど、それじゃあダメね。最初から最後まで、二人で協力して集めれば、より確実に絶望が集まるはずよ」
「んふー……それはいいが、だからどうしたのだ?」
「クライス。貴方、デミオロスがどこら辺にいるか覚えてる?」
「デミオロス? ……まさか!?」
クライスは、アングレアの口から出た人物のいる場所を思い出し、そして厭らしい笑みを浮かべた。
その笑みにつられ、アングレアも魅惑的な笑みを浮かべる。
「そう――――『バーバドル魔法学園』の近くよ」
――――【魔神教団】。
それが、彼らの属する組織であり、幹部に【使徒】と呼ばれる存在を置き、魔神復活のため、各地で絶望を集めるために暗躍するのだった。




