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キャラスティ絵画大会

お待たせしました!

ネットも無事つながり、やっと少し落ち着いてきたため、投稿を再開したいと思います。

まだ、大学生活に慣れていないこともあり、また投稿が止まってしまうこともあるかもしれませんが、頑張って投稿を続けるので、これからもよろしくお願いします。

 ランゼさんを助け、ルイエスたちにスキルと魔法の訓練を見てもらうことになって、早1ヵ月。

 その1ヵ月を、サリアやアルと買い物したり、採取系の依頼やスライムなどの簡単な討伐依頼を受けたりして過ごしていた。

 サリアとアルには、王城内での出来事は伝えていない。そう言う約束だからな。

 だが、王都カップの景品として、俺のスキルや魔法の訓練を手伝ってもらうことになったとは、伝えておいたが。

 その際、なぜかアルが険しい表情を浮かべ、サリアは複雑そうな表情を浮かべていた。どうしたんだろうか?

 ルルネは、あれからロバに戻ることもせず、俺と一緒に露店で食べ歩きをよくしている。……お金の心配はないが、ルルネの食欲がヤベェ。軽く俺の倍以上食うからな……。

 何はともあれ、充実した日々を過ごしていた俺だが、今日はとある用事のため、出かけることになっていた。

 その用事とは、キャラスティ絵画大会である。

 この大会には、クレイとメイの二人が参加するので、見に行かないわけにはいかない。

 サリアとアル、そしてルルネに伝えると、三人ともついて来てくれると言ったので、一緒に会場まで向かっている最中だった。


「絵、ねぇ……オレにはよく分からねぇ世界だからなぁ……」


 アルが、頭の後ろで手を組み、そうこぼす。


「うーん……私もよく分からないかも。誠一は分かる?」


 アルの言葉に反応したサリアが、俺に訊いてきたので、素直に答えた。


「いや、正直俺もよく分からないんだ。ルルネも分からないだろ?」

「え? 私は分かりますよ?」

「は!?」


 思わぬ返しに、俺は思わず声を出す。ロバなのに……芸術を理解できるだと……!?

 すると、ルルネは胸を張って答えた。


「芸術……つまり、食事ですね」

「よし、分からねぇんだな」


 相変わらずのルルネで安心するのだった。

 それから、他愛ない話をしながら歩いていると、大会の会場に辿り着いた。


「ここでやるのか……」


 キャラスティ絵画大会が開かれる場所は、俺が初めてメイと出会った広場だった。

 いつもは多くの露店が開いているのだが、今日は一つも露店が開いてなく、代わりに巨大なステージと、多くの人で溢れかえっていた。


「スゲェな……これ全部が参加者じゃないんだろうけど、このなかに何人も画家がいるんだろうなぁ」

「なぁ、誠一。メイってヤツと会わなくていいのか?」


 会場に集まった人の多さに驚いていると、アルがそう訊いてくる。


「大丈夫だよ。それに、この人の多さじゃ見つけ出すのも難しいだろ?」

「確かにな……」


 アルも人の多さに苦笑いを浮かべる。

 しかし……本当に人多いな。そのせいか、スゲェ変な人たちがたくさんいるけど。

 例えば、ピエロのような格好をした人。これだけの人口密度が濃いなかで、さすがにパフォーマンスはできねぇだろ。

 他にも、何とも言えないデザインの服を着た人や、ヘンテコな彫刻を持ち歩いてる人など、この街で見かけなかったような変人たちが多く集まっていた。


「さすが芸術家……自己顕示欲がハンパねぇ……」


 人知れず周りの人たちに戦慄していると、突然王都カップのときのような、アナウンスが聞こえてきた。


『――――大変お待たせしました。これより、キャラスティ絵画大会を開催します』

「「「うおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 若い男性のアナウンスのあと、会場にいる人たちは盛り上がった。


「うわぁ! すごい熱気だね!」

「そうだな……さすがにここまで盛り上がるような大会だとは思わなかった……」


 サリアの感心した声に、俺は同意する。

 アルもルルネも似たようなもので、周囲からの歓声に戸惑っていた。


『さて、それでは今大会の審査員の方をご紹介させていただきます。今大会の審査員を務めてくださるのは、数々の画法を確立してきた、絵画の天才――――レオン・ベルガー様です』


 そんなアナウンスの声が聞こえた後、周囲から驚きの声が聞こえてきた。


「う、ウソだろ!? あの【画聖】レオンか!?」

「今でこそ有名になった抽象画を広めただけでなく、遠近法や陰影画法などの開拓者でもあるんだよな……」

「あの人の存在が、現代の絵画を100年進歩させたって言われてるような方だぞ……」


 小さな声で囁かれている内容に、俺は驚く。

 地球の画家にとっては当たり前の技法でも、この世界じゃ違うわけで、俺でも知っているような技法をこの世界で作り出したんだとすれば、それは相当すごい人だよな。

 って言うか、ベルガーって家名、どこかで聞いたような……。

 どこで聞いたのか思い出せないでいると、王都カップと同じように、空中に魔力投影機によって、一人の老人が映し出された。

 柔和な笑みを浮かべるその老人こそ、レオンさんという人なのだろう。年老いているが、昔はイケメンだったことが顔立ちから分かる。

 すると、レオンさんは、優しげな声で話す。


『君たちの情熱が注ぎ込まれた、最高の作品を楽しみにしているよ』

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 さっき以上の熱気が、会場を包み込んだ。

 すげぇな。それだけこの老人は、画家にとって憧れの存在なんだろうな。


『レオン様、ありがとうございました。それでは、さっそく審査のほうに移りたいと思います。ナンバー1の方、よろしくお願いします』


 こうして、無事キャラスティ絵画大会が始まった。

 しかし、一つ残念なのが、あまりにも人が多いため、ステージに近づくことができず、きちんと作品を鑑賞することができないので、上空に映し出された映像で確認するしかないことだった。

 これは、仕方がないことだと割り切るしかない。

 何とか俺たちは上空の映像を眺めていると、いろいろな絵が登場していた。それらは、本物と間違ってしまいそうになるほどリアルな風景を描いた絵もあれば、クレイのように、よく分からないモノが描かれた絵まで、実にさまざまだった。

 そして、レオンさんは、それら一つ一つの作品を丁寧に評価し、良いところと悪いところの両方を教えていた。

 悪いところだけを指摘されるのではなく、良いところも指摘してくれるので、評価された参加者は全員、感激した様子だった。


『――――さて、残すことあと二人となってしまいました。それでは、次の方。よろしくお願いします』


 そして、アナウンスがそう告げたあと、ステージに登場したのは、堂々とした足取りのクレイだった。

 ……ああ、そうか! どこかで聞いた家名だと思ったら、クレイの家名と一緒じゃねぇか!

 今さらそのことに気付き、驚いていると、周囲からの声が聞こえてきた。


「彼が、【画聖】の孫……」

「堂々とした姿はさすがといったところだな」

「うぅむ……どのような作品を出してくるんだ……?」


 みんな、クレイの作品に注目している。

 俺にはクレイの絵がよく分からないのだが、周囲の芸術家たちにとっては、違うのだろう。

 そんなことを思いながら、上空に映し出されたクレイの姿を眺める。

 すると、縦横ともに、クレイの身長の倍ほどの作品が、布に被せられた状態で登場した。


「で、デカくねぇか? 他の絵って、もっと小さかったよな?」


 あまりのデカさに、隣でアルがそう訊いてくる。

 ……短い間だが、クレイが自分に大きく自信を持っていることを知っているので、俺的にはあまり驚かなかった。


『クレイ・ベルガーさん、作品名をどうぞ』


 アナウンスにそう促されると、クレイは堂々と発言し、作品にかけられた布を取り払った。


『僕の作品名……それは、【芸術】だっ!』


 布の下から出てきたのは、真っ白な画板に描かれた、真っ赤な太陽。

 そう、『太陽』である。


「あ、あのクレイの絵が……まとも、だと……!?」

『……なぜだろう。今、すごくバカにされたような気が……』


 映像に映し出されたクレイが、複雑そうな表情で呟くのをしり目に、俺は心の底から驚いていた。

 何せ、ただの三角形を【夕焼けのなか、浜辺で夕日を見つめ、彼を想う乙女の絵】とか言ってたようなヤツの絵だぞ?

 それが、今目の前に投影されている絵は、真っ赤に燃え上がる、巨大な太陽だった。


「誠一。お前の友だち、スゲー絵を描くじゃねぇか」

「うんうん! 綺麗な太陽だね!」


 アルとサリアもクレイの絵に驚いている。


「うーん……私にはリンゴに見えるのだがなぁ……」


 ルルネさん。それはアナタだけだ。

 それにしても、真っ白な画板に描かれた太陽って……まるで日本の国旗だな。

 ふとそんなことを思ってしまったが、それが分かる人間はこの場にいないだろう。


『クレイさん。それでは、作品の紹介をどうぞ』

『いいだろう! まず、この作品に込めたのは、僕の芸術に対する想いさ! 熱く燃え滾るこの想い……まさに、マッチ棒の火のようだろう?』


 なんて小さな想いなんだ……!

 つか、太陽じゃないわけ!? あの大きさでマッチ棒の火!? 見るからに太陽なんだけど!? ご丁寧に太陽のフレアまで描いてるのに!


『そんなわけで、僕の絵は他のみんなとは違い、余計なものを一切描かなかった。この真っ白な画板が、僕の体で、真ん中のマッチの火が、僕の芸術に対する熱意だよ』

『な、なるほど……私の目には、太陽のように見えるのですが……?』

『マッチの火だ! そこを間違えないでくれたまえ』

『は、はぁ……』


 クレイよ。お前はお前で、相変わらずだなぁ……。

 まともな絵だと思ったのに、結局微塵も変わっていなかったクレイに、俺はある意味で安心してしまった。

 すると、今度はレオンさんの審査に入る。

 レオンさんは、少しの間、黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。


『――――私も、マッチ棒の火に見えるよ』


 アンタもかいっ!

 俺はレオンさんの発言に心のなかでツッコんだ。

 今までまともな評価を下してきたのに、ここにきてクレイと同じ血を示さなくてもいいでしょ!?

 愕然とした表情を浮かべていると、再び周囲からの声が聞こえてくる。


「……難解だ」

「ああ……難解だ」

「さすが、【画聖】の孫、だな……」

「あれをマッチの火と言い切るとは……」


 何で戦慄してんの!?

 一般人の俺がおかしいんだろうか? 芸術家ってコワイ。

 一人勝手に芸術家に怯えていると、レオンさんは優しい声音で言う。


『クレイ……君は、昔から素直に絵を描く子だったね。確かに、周囲には理解しにくい作品ばかりではあったけれど、それでも君の描く絵には、何か一つ、想いが込められていた。今回の作品だって、太陽に見えるそれを、君が太陽と言わずマッチ棒の火と言い切ったのは、いつかは燃え尽きてしまうその一瞬を表現したかったからなんだろう?』

『さすがです、お爺様……僕の人生は、太陽のように大きくはない。でも、その小さな人生のなかで、太陽と見紛うほどに激しく燃え盛る想い……これが、僕の芸術です』


 深い……!

 スゲー深いよ、レオンさん!

 いや、その絵を描いたクレイがすごいんだな。

 レオンさんの説明を受けて、俺はなんとなくクレイが表現したかったモノが分かった気がした。

 ……やっぱり、凡人の俺には理解できない領域だったんだな。

 ということは、あの三角形の絵と呼んでいいのかさえ分からないアレも、本当に【夕焼けのなか、浜辺で夕日を見つめ、彼を想う乙女】を描いていたってことか? ……ヤベェ、全然分からん。


『ふふ。クレイ……君の情熱は、よく伝わってきたよ。だから、君はその想いを、僕だけじゃなく、もっと多くの人に伝えられるように努力すること……それが、君の課題だよ』

『っ! はいっ!』


 こうして、クレイの作品の審査は終わった。

 ということは、次が最後の人となるわけで――――。


『……さて、いよいよ最後の方の登場です。メイ・チェリーさん、よろしくお願いします』


 ――――メイの出番である。

 アナウンスのあと、見るからに緊張した様子のメイが、ステージに登場した。……メイ、手と足が同時に出てるよ……。

 そんなメイに続く形で、クレイと同じレベルの大きさの作品が、布を被せられた状態で登場した。

 ガチガチに緊張した様子のメイを見て、隣のアルが心配そうな声を出す。


「お、おい……大丈夫か? あの子。見てるこっちが心配になるくらい緊張してねぇか?」

「あー……うん、そうだな。でも、俺たちにはどうしようもできないし……」


 そう、俺たちにはどうすることもできないのだ。

 だからこそ、メイ自身で頑張ってもらわないとダメなのだ。

 俺は心のなかで応援しながら、メイを見つめる。


『それではメイさん。作品名と紹介をどうぞ』

『はっ、はひっ!?』


 緊張しまくってるな。

 アナウンスに声をかけられたメイは、犬の尻尾をピンと伸ばし、さらに硬直させてしまった。

 だが、メイは自力でその硬直を解くと、ゆっくりと深呼吸をして、気持ちを落ち着けていた。

 そして――――。


『こ、これが……私の作品ですっ!』


 メイが布を取り払った瞬間、そこには――――。


「へ!?」


 かの英雄ナポレオンの肖像画として有名な、ジャック・ルイ・ダヴィッド作【サン=ベルナール山からアルプスを越えるボナパルト】と同じポーズをした、ロバの状態であるルルネに跨る俺の姿が描かれていたのだった……!

今回は久しぶりの投稿だったため、かなり短くなってしまいました。

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― 新着の感想 ―
おいおいおいおい これだけ笑わせてくれるぶっ飛んだ作品の作者さん、当時大学1年生だって!? 凄いな これだからなろうを読み漁るのはやめられないな〜
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