連行
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では、どうぞ。
「主様……?」
あまりの超展開に思考が停止していると、人間バージョンのルルネが心配そうに上目遣いで見てきた。
……ロバなのに、ポニーテールって笑えるよな。え? 問題点はそこじゃないって? 現実逃避だ、気付けバカっ!
いっそこのままフリーズしてしまいたいと思っていたが、ルルネは裸の状態だし、何より周囲の目がヤバい。いや、怖くて周りを見てみる余裕はないんだけどね?
「あー、えっと……ルルネ……でいいんだよな?」
「え? そうですけど……ん?」
俺の質問に怪訝な表情を浮かべたルルネだったが、すぐに違和感に気付いたのか、自分の体を見下ろした。
「……」
「……」
そして、ゆっくり視線を俺に向けると、すごい勢いで質問してきた。
「あ、あああ主様!? どどど、どうして私は人間になっているんでしょうか!?」
「えっと……落ち着け? ちゃんと説明するから。つか、それより……」
ルルネの慌てっぷりに、逆に冷静になった俺は、ルルネの裸を隠すため、俺のローブをかけてやった。
「あ……」
「さすがに……裸だと、な……」
「~~~~っ!」
ルルネは、自分が裸であることにようやく気付いたのか、顔を真っ赤にして、俺のローブに包まった。
いや、そんな反応されると、俺も余計に恥ずかしくなるんだけどな? つか、ルルネってロバのとき裸だったよね? なぜ今さら羞恥心が? サリアとは真逆だな。
しかし……ルルネの裸を隠すため、とうとう俺はローブを脱いでしまった。
まあ、今さら勇者がどうとか気にしてる余裕ねぇよ。それ以上に、こんな公衆の面前で、裸の女の子に抱き付かれてる状況の方がヤベぇしな。
最悪、東の国とやら出身で、髪の毛が黒いのは忌子だったからとか、適当な理由をつければそれでいいや……もう知らねぇー!
ただ、俺が忌子だろうが、この街の連中は気にしないだろうしな。実際、アルの呪いがあっても、あれだけ優しかったんだし。
その事実が、ある意味で俺がローブを脱ぐのにあまり抵抗を感じさせなかった理由でもある。
さて、それより……これからどうしたもんか……。
ローブに顔を埋め、羞恥を誤魔化そうとしているルルネの頭を撫でつつ、深いため息をついていたときだった。
「誠一っ!」
「おいおい、この人だかりは何だよ……」
俺の下に、サリアとアルの二人がやって来た。
普段の俺なら、何てことなかっただろう。
だがしかし、今の俺の状況は、マズい。非常にマズい。
二人を視界に入れながら、顔を青くさせ、尋常じゃない量の汗をかく。
お願いだから、今だけは来ないでください。本当に、マジで、切実に……!
だが、俺の想いも虚しく、二人は俺たちの目の前まで来てしまった。
そして、俺と裸にローブをかけた状態のルルネを見て、二人は目を見開いて固まった。
……これが、俗にいう修羅場というやつなんでしょうか? 非モテ男の頂点だったような俺が、経験するとは思わなかった。人生何が起こるか分からねぇなぁ……。
「お、お前……」
アルは、現実逃避気味の俺を見て、徐々に涙目になっていく。
待って! 本当にヤバい!
何とか弁明しようにも、口をパクパクさせるだけで、言葉が出てこない。
あ、ダメだこれ。
俺の人生の終わりを悟ったが、アルの言葉は俺のまったく予想していなかったものだった。
「ローブ……ついに脱いだんだな!」
「ひっ、スミマセンっ! ……え?」
俺は、思わずアルを二度見してしまった。
あ、あれ? オカシイ。話がかみ合ってねぇ。
首を捻る俺と同じように、アルも不思議そうな表情をする。
「あ? どうして誠一がそんな顔するんだよ? 今までローブを脱いでなかったのに、こうしてローブを脱いで顔を晒したってことは、心の底からこの街の連中を信用したからなんだろ? オレはそれが嬉しくてな……」
「……」
俺は、アルのセリフに唖然とする。
つまり、アルは裸で抱き付いているルルネに気付いておらず、俺がローブを脱いだことに感動してたらしい。
突然すぎて、呆気にとられたが、どうやら首の皮が一枚つながったらしい。
「ねえ、誠一。その抱き付いてる子って誰?」
はい、皮が切れました!
再び汗を流しながらサリアの方に顔を向けると、サリアは純粋に疑問に思ったことを口にしただけのようで、不思議そうな表情を浮かべているだけだった。
そう、サリアだけは――。
「……誠一」
「あ、ハイ」
「ツラ貸せ」
「…………」
静かに笑うアルを見て、俺はすべてが終わったと思うのだった。
◆◇◆
「……つまり、その女はロバのルルネだって言いてぇのか?」
「……ハイ」
あの後、すぐに宿屋に戻った俺は、俺とサリアの部屋で、アルの目の前で正座させられていた。
宿屋に帰ったとき、幸い食堂のライルさんしかいなかったのだが、一瞬俺の素顔を見て驚いたような顔をしたあと、すごく生暖かい目で見られた。どうしよう、消えてしまいたい。
ただ、何とか弁明の機会が与えられたので、アルに必死に説明をし終えたところだった。
俺の弁明を聞いたアルは、一度ため息をつくと、ジト目で俺を見てくる。
「……もっとマシな言い訳はできねぇのか?」
「本当なんです! 信じてっ!」
いや、たしかにロバが女の子になるとか信じられないけども! でも……仕方がないじゃないか! なったんだもん!
まあ、実際俺の説明を聞いて、ルルネも半信半疑といった状態なんだけどな。
必死に信じてもらうように言う俺に、アルは呆れた表情を浮かべる。
「だったら証拠を見せてみろよ。そしたら信じてやるからよ」
「しょ、証拠ですか?」
「ああ、証拠だよ。じゃねぇと、信じられるわけねぇだろ?」
そりゃそうだ。
ただ、どうやって証拠を見せればいいんだろうか? ルルネに頼んで、一度ロバになってもらうか?
そんなことを思っていると、今まで黙っていたサリアが口を開く。
「アル、誠一の言ってることは本当だよ?」
「……は?」
「だから、この女の子はルルネちゃんってこと」
サリアはそういうと、俺の隣で縮こまっているルルネに笑顔を向けた。
「それにしても……そっかぁ、ルルネちゃんも進化の実を食べたんだぁ」
「ちょっ、ちょっと待て! サリア、お前は誠一のウソを信じるってのか!?」
「うん。だって、私がそうだもん」
「…………はい?」
サリアの発言に、アルは理解不能になったのか、すごく微妙な表情を浮かべていると、サリアは笑顔を浮かべ、カイザーコングのゴリアに変身した。
「私ハ、モトモト、魔物。デモ、進化ノ実ヲ食ベテ、人間ニナッタ。コレデ、信ジテクレル?」
「……」
再び人間のサリアに戻ると、もう一度アルに「ほらっ!」と笑いかけた。
そんな普通の人間なら信じられない現象を目の当たりにしたアルは、しばらくの間フリーズしていたが、やがていろいろ吹っ切れた顔になった。
「おし。考えるのはヤメだ。もうわけ分からねぇよ」
現実逃避した!? でもすごく納得できてしまう……!
まあ、目の前で、立て続けにわけ分からないことが起きたら、考えるのを放棄するしかないよなぁ。
【果てなき悲愛の森】で、似たような経験を持つ俺は、とても共感した。
「はぁ……でも、本当にこの女がロバのルルネだなんてなぁ……」
アルは、ため息をつきながら隣で俺のローブに包まってるルルネに視線を向ける。
「わ、私もまさか、人間になるだなんて思ってもいなかったです……」
ルルネも、どうやらサリアの変身を目の当たりにして、自身が進化の実によって進化したことを受け入れたようだった。
「だけどよ……さ、さすがに、裸で抱き付くのは……。そ、そういうことって、結婚してからだろ……?」
アルは、顔を真っ赤にしながらそう言う。
そんなアルの姿に、俺もルルネも再びさっきの状態を思い出して、顔を赤くした。
「……お、オレも、いつかは……そ、そういうことすんのかな……?」
「……え?」
「っ!? な、何でもねぇよっ!」
アルが小さく何かを呟いていたので、訊き返したのだが、なぜか怒られてしまった。理不尽だ。
そんなやり取りをしていると、サリアがふと気が付いた様に訊いてくる。
「そういえば、なんで誠一のローブをかけてあげたの?」
「は? いや、だって俺のローブをかけてやらなきゃ、ルルネが裸のまんまになっちまうだろ?」
「だったら、私の服着せてあげればよかったのに。羊さんから貰って、誠一が持ってるんでしょ?」
「あ」
サリアに言われて、俺は初めて気づいた。
そうだよ! 羊の野郎から貰った、サリアのための服があったじゃねぇか! しかも、ご丁寧に服のサイズまで変わるようになってるのに!
すっかり忘れていたその事実に、ただ俺は唖然とするしかない。
じ、じゃあ、みんなの前でローブを脱いだ俺の意味は? 忌子だとか適当な設定を考えてたあの時間は?
え、全部無駄だったの? マジ?
……。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
「……まあ、ドンマイ?」
頭を抱える俺に、アルは優しくそう言葉をかけてくれた。目から汗が止まらないのはなぜ? 教えて、おじいさん!
まあ、過ぎたことを気にしてても仕方がないので、気を取り直して俺はアルに金貨二枚を渡した。
理由は、ルルネの服を買ってきてもらおうと思ったからである。
サリアは、今のところワンピースを着て過ごしているが、もともとゴリラなので、人間の服に詳しいわけがない。だからこそ、アルに頼むことにしたのだ。
ルルネも、こうして人間になれるようになったわけだしな。服は絶対に必要だろう。
「アル。そのお金で、ルルネに合う服を買ってきてくれないか? さすがに今さらサリアの服を着せるのもどうかと思うしな……」
「あ? 別にいいけどよ……ルルネの服のサイズ、オレには分からねぇぞ?」
「サイズが自動で変わる魔法がかかってる服があるだろ? できれば、それを数着頼みたい。靴と下着も買ってくれれば助かる」
「まあ、いいぜ。ちょっと待ってな」
そう言い、アルはルルネの服を買いに出かけた。
約20分後、アルが服を買って帰ってきたため、すぐにルルネに着替えてもらうことに。
その際、俺はアルに徹底的に目隠しをされたわけだが、それはまた別の話だろう。
着替え終わったルルネの姿は、黒のシャツの上から、茶色の皮ジャケットを羽織り、同じ茶色の長ズボンを穿いている。太ももの部分には、黒色のベルトのようなものが巻きつけてあり、黒のショートブーツを履いて佇む姿は、ルルネの凛とした雰囲気と相まって、すごくカッコイイ。
「一応、適当に選んで買ってきたけど、これでよかったか? まあ、自動でサイズが変わる服は、全部高いから、釣りはねぇけどな……」
このセンスで適当……だと……!?
俺は、アルの服のセンスの良さに驚いた。俺の場合は、オシャレするような見た目じゃなかったからなぁ……。痩せた今でも、冒険して着飾るようなことはできないと思っている。今の服装だって、ワイシャツに黒のズボンっていう、すごくシンプルなスタイルだしな。
そんなことを思っていると、ルルネが恥ずかしそうにしながら訊いてくる。
「えっと……主様。自信ないのですが、似合ってるでしょうか……?」
「いや、メチャクチャ似合ってるから。アルも、センス良すぎだろ」
「そ、そうですか……」
「んなこと言われたの、初めてだな……」
ルルネは頬を赤く染め、嬉しそうに微笑み、アルは似たような様子で後頭部を掻きながら、視線を逸らした。
そんな二人の様子を見ながら、俺も返してもらったローブを着て、再びフードを被る。
すると、アルは残念そうな表情を浮かべた。
「おい、誠一。またフード被っちまうのか?」
「ん? いや、長い間フードを被ってたからさ、こっちの姿の方が落ち着くんだよね……」
今の言葉は本心であり、意外とフードを被る生活が快適だったのだ。日よけにもなるしな。
そこまで考えて、俺はふとあることを思い出す。
それは、俺の髪の毛のことだ。
黒色の髪だが、何かしら意味があるのか、知っておきたい。
そう思った俺は、アルに訊いてみた。
「そういえば、俺の黒髪って珍しいのか?」
「え? あー、そうだなぁ……誠一は東の国出身なんだろ?」
「えっと……似たようなもんだ」
「は? まあいい。オレは、東の国に行ったことがねぇから分からねぇけどよ、あそこじゃ黒に近い髪の連中が多いって聞いたことがあるな。たしかにこの大陸じゃあ珍しいかもしれねぇけどな。あ、そういえば、カイゼル帝国に召喚された勇者は、ほとんど黒髪だって話も聞いたような……」
「そ、そうか」
俺は、アルの言葉に安堵した。
どうやら、思った以上に東の国とやらが俺にとって都合のいい場所みたいだ。東にあるってところも、日本と似てるしな。
ほっと一息ついていると、アルがまた残念そうな表情を浮かべた。
「でもよ、本当にもったいないと思うぜ?」
「え? 何が?」
「いや、そのフードを脱いだらモテ――はっ!?」
「ん?」
言葉の途中で何かに気付いたアルは、突然すごい形相で俺の肩を掴んだ。
「だ、ダメだっ!」
「へ?」
「絶対フードを脱ぐんじゃねぇぞ! 特に女の前ではっ!」
「さっきと言ってることが違いませんか!?」
「と、とにかくダメなんだっ! いいか!? 絶対に脱ぐんじゃねぇぞ!?」
「え、えぇ……? ま、まあ、自分から脱ぐことはないと思うけど……」
俺がそういうと、アルは安心した様子を見せた。
「あ、危ねぇ……もしフード脱がせてたら、誠一がスゲー女にモテちまう……それは、ヤダ……」
何やらブツブツと呟いているが、よく聞き取れなかった。
そんなことがあったが、ルルネがこうして人間になった以上、部屋を新たに借りなければならない。
いや、ロバに戻ればその必要はないんだけど、今のところルルネは人間の姿が気に入っているようなので、部屋を借りようと思ったのだ。
つか、あんまり長期間この国に滞在するようなら、家を買ってしまった方が早いかもな……。幸い、俺の所持金は腐るほどある。生きてるうちに、使い切れる自信がねぇよ。
ただ、翔太たちと合流するなら、移動はするわけだし、家を買うのは方針を一度固めてからの方がいいかもな。
頭で少し、これからのことを考えながら宿屋の受付に移動すると、まだフィーナさんたちはいなかったので、ライルさんに事情を説明して、新たに部屋を借りた。
事情を説明って言っても、ルルネがロバだということは告げていない。いや、言ったら俺の正気を疑われるからね?
意外だったのは、ルルネが俺と同じ部屋がいいことを結構頑なに告げてきたことだ。まあ、自分で騎士とか言ってんだし、主を護るっていう意識から言ってるんだろうけど。……それにしては、食べ物関連ですでに騎士にあるまじき行動が目立っているわけですけど。
最終的には、ルルネは一人部屋を借りることになった。スゲー残念そうだったけどな。
そんなわけで、部屋も借りることができたし、休むために皆で部屋に帰ろうとしたそのときだった。
「たのもーっ!」
「……道場破りじゃないんだから、その入り方はどうかと思うよ?」
「何寝ぼけたこと言ってるんですか、くーちゃんっ! すでに戦争は始まっているんですっ! そんな気持ちでは、すぐにやられちゃいますよ!?」
「ローナは一体何と戦ってるんだい?」
「そんなの、私が知るわけないじゃないですか」
「……そうだね」
「あれ? 何でそんな可哀想なものを見る目で私を見るんですか?」
いきなり宿屋の扉が勢いよく開けられ、何やら騒がしい二人が入ってきた。
一人は、オレンジのミディアムで、少し小柄な女性。
もう一人は、藍色のショートヘアで、高身長の女性。
二人とも、性格や身長は大きく違うようだが、一つだけ同じことがある。
それは、二人が身に着けている鎧だった。
このテルベールの兵隊である、クロードの着ている銀色の鎧とも似ているが、二人の鎧は白銀で、武骨なイメージはなく、むしろ華やかさを感じる鎧だ。帯剣もしている。
見るからに騎士です、といった風貌だった。
突然登場したと思ったら、何やら言い合いを始めた二人に、俺たちは唖然とする。
どうでもいいが、二人とも優れた容姿の持ち主である。この街、無駄に美少女や美人、イケメンが多くねぇか? それに比例して、変態の数も多いんだけどさっ!
そして、いち早く正気に戻ったライルさんは、戸惑いながら声をかけた。
「えっと……アナタたちは、どちらさまでしょうか?」
「ん? ああ、すまないね。私の連れがアレなので、名乗ることを忘れていたようだ」
「ねぇ、くーちゃん。私がアレってどういう意味ですか?」
「……ははは」
「愛想笑いで誤魔化さないでくれませんか!?」
再び漫才のようなやり取りを始めた二人に、俺たちはますます困惑する。
そんな様子に気付いたのか、藍色のショートヘアの女性は、一つ咳をすると自己紹介を始めた。
「あー……コホン。私は、この国の【剣聖の戦乙女】に所属している、クラウディア・アステリオ」
「同じくワルキューレ所属、ローナ・キリザスですっ! 私は王都カップの司会をしていたんですけど、気付いてますか?」
「はぁ……」
二人の自己紹介を受けたが、俺たちは未だに困惑していた。むしろ、困惑は増したかもしれない。
だって、なぜこの国の騎士団が、この宿屋に来たのか分からないからだ。つか、ローナさんって、やっぱり王都カップの司会をしていた人だったのか。予想通り、元気でノリのいい人だな。
逆に、藍色ののショートヘアの女性――クラウディアさんは、宝塚の男性役みたいなカッコよさがある。
二人を観察しながらそんなことを思っていると、ライルさんが口を開いた。
「あの……ワルキューレの方々が、一体何のご用でしょうか?」
「ああ、忘れるところだった」
「えー! くーちゃん、仕事忘れるとかダメじゃないですかー。ぷぷぷっ」
「……彼女は放っておくとして、私たちはある人物に用があってきたんだ」
「ある人物……ですか?」
首を捻りながらそう尋ねるライルさんに、クラウディアさんは一つ頷く。
「そう。ただ、その人物はもう見つかったんだけどね」
「え?」
そういうと、クラウディアさんは、なぜか俺の方へ視線を向けてきた。
「君が、誠一君だね?」
「へ? は、はい。……いや、どうして俺の名前を……?」
「ふふふ……ロバで王都カップを優勝したんだ。それに、そのローブ姿は浮くからね。すぐに分かったよ」
「……えっと、それで、何か御用ですか?」
怪訝な表情を浮かべながらそう訊くと、クラウディアさんは答える。
「うん、簡潔に言おうか。ちょっと王城へと来てもらおうか?」
「……へ?」
「残念だけど、君に拒否権はない」
「なぜに!?」
いや、本当に何で!? 俺、何か悪いことしたっけ!?
つか、ちょっと王城までって……まるで刑事モノの「ちょっと署まで来てもらおうか?」的な感じじゃね!?
しかも、拒否権がないって……この世界は何で人権が無駄に軽いんですか!?
クラウディアさんの言葉に、俺だけでなくサリアたちまで驚いている。
だが、そんな俺たちに構うことなく、クラウディアさんとローナさんは、それぞれ俺の腕を抱え、引きずり始めた。
「さて、それじゃあ店主と、誠一君のお連れさん。ちょっと誠一君を借りるね?」
「観念しなっ! 君の悪事はここまでだっ!」
「……ローナ。別に誠一君は悪いことをしたわけじゃないからね?」
「いやぁ、こういうのって大事だと思うんですよねぇー」
引きずられながら、二人の会話を聞いていた俺は、取りあえずクラウディアさんが、俺が悪いことをしたわけじゃないと言ってくれたので、安心した。
ただ、宿屋から連れ出される直前、ローナさんじゃないが、これは言っておかなきゃダメだと思った。
「お、俺は無実だああああああああああああああっ!」
このセリフは外せません。




