激闘と成長?
「はああああああああっ!」
『ぬぅぅうッ!』
俺は目の前のドラゴンに突撃すると同時に、『憎悪渦巻く細剣』と『慈愛溢れる細剣』を全力で振った。
だが、ドラゴンはそれらの攻撃を自身の爪ではじき、逸らす。爪硬っ!
『人間め……! どこまでも忌々しい種族よ……!』
憎々しげにドラゴンはそういうと、巨大な尻尾を振るい、俺を薙ぎ払う。
つか、このドラゴン……メチャクチャ強くね?
自分で言うと泣けてくるんだが、俺の攻撃力って100万超えてるんだぞ? それを防いで無事とか……。
今更だが、俺はドラゴンの名前やレベルすら分からなかった。
なので、ドラゴンの尻尾による薙ぎ払いから一旦距離をとり、そのままスキル『上級鑑定』を発動させた。
『黒龍神Lv:5000』
「レベル高っ!」
ゼアノスの倍以上じゃねぇか!
つか、レベルの最高値っていくつだよ! どんどんインフレしていってね!? いや、そんなことよりも……神? え、マジもんの神様?
目の前のドラゴン――――黒龍神のレベルや名前に驚いていると、黒龍神は鋭い爪を俺めがけて振り下ろしてきた。
『食らえっ!』
「うおっ!? 危なっ!」
『くっ……避けるな!』
「何で!?」
『攻撃が当てられんだろう!』
「だから避けてんだよ!?」
何でわざわざ相手の攻撃を受けなきゃいけないのさ。
俺は黒龍神の攻撃をどんどん回避する。
黒龍神から放たれる攻撃の余波で、部屋のあちこちが抉れていた。
『ぬぅう! なら……これでどうだ!?』
黒龍神はそう叫ぶと、真っ赤な鋭い眼光を俺に向けてきた。
何がしたいのか理解できなかった俺だが、次の瞬間、それを理解する。
「っ! か、体が……!?」
黒龍神に睨まれた俺は、凄まじい圧力にさらされ、体がまったく動かなくなった。
阻害耐性がついているにも関わらず、体は動かない。なぜだ?
動かなくなった体のまま、その理由を考察していると、黒龍神はその隙を逃さず攻撃してくる。
『ぬんっ!』
風を切り裂きながら近づく尻尾を見て、俺はちょっとした油断をしていた。
人類をおさらばした俺のステータスなら、黒龍神の攻撃を食らっても大丈夫なのでは? と。
さらに、俺にはスキル『吸収』がある。この尻尾によるダメージも、吸い込めばいいだろう。
だが、そんな油断が俺を危機に陥れた。
「がッ!?」
メキメキメキ!
動けない俺の体に、尻尾が叩き込まれた。
横っ腹にもろ攻撃を受けた俺は、そのまま壁まで吹き飛ばされる。
「がはっ! ごほっ!」
口から大量の血を吐き出した。
な、何が起こった?
自分で言うのもなんだが、俺の防御力は攻撃力と同じで100万を超えている。
ゼアノスよりレベルが格段に高いとはいえ、黒龍神の攻撃力が100万を超えているとは到底思えなかった。
しかも、俺はダメージを受けると同時に『吸収』のスキルも発動させたのだ。
しかし、俺はこうして大ダメージを受けている。
それはつまり、黒龍神の攻撃を吸収できなかったことを意味していた。
こんなに吹っ飛ばされたのは、森でサリアに吹っ飛ばされて以来だな……。
「誠一!?」
その本人であるサリアが、吹き飛ばされた俺を見て、悲鳴を上げる。
「はぁ……はぁ……」
口から流れる血を手で拭い、すぐにアイテムボックスから最上級回復薬を取り出し、一気に飲み干した。
すると、瞬時に俺の体の傷が回復する。
『ふん。まるで、自分が吹き飛ばされるとは思っていなかった、といった表情だな』
「……」
図星だった。
そんな俺を見て、黒龍神は続ける。
『我と打ち合えるだけの力を持っているようだが、所詮小僧……。己の力を過信した結果が、たった今、貴様が体験したことだ』
「…………」
悔しいが、何も言い返せなかった。
結局、無意識のうちに俺は自分の力を信じ切っていたのだ。
人間を辞めたようなステータスを手に入れて、嘆くと同時に俺は安心もしていたんだろう。
まず、負けることはないと……。
だが、今こうして俺は黒龍神に吹き飛ばされた。
なぜダメージが通ったのか、スキル『吸収』の効果を発揮しなかったのか……。いろいろ疑問に思うことはある。
でも、一つだけ分かったのは、どんな化け物じみたステータスでも、こうしてダメージを与える方法が存在するということだ。
それが、今は分からない。
分からないが……それでも戦うしかない。みんなで帰るために。
もう油断はしない。当たればダメージを受けるなら、全力で避け続けるまでだ。
顔つきが変わった俺を見て、黒龍神は目を細める。
『……ここからが正念場か』
小さく何かを呟くと、黒龍神は大きく口を開き、上を向いた。
『いいだろう。なら、我の最強の魔法を持って、消し飛ばしてくれよう……!』
そういうと、まず黒龍神の周りを炎で囲い、そのあと黒龍神は大きく口を開き、上を向いた。
大きく開いた口には、少しずつ炎が収束していくのが分かる。
そんな状態のまま、視線だけを俺に向け、器用に口を開いた状態で話す。
『我の最強の魔法……【ヘル・インフェルノ】! この魔法は、魔法を打ち消す効果すら飲み込む……! 地獄の業火で、貴様らを燃やし尽くしてくれるわ!』
「!」
つまり、黒龍神の魔法が完成すると同時に、俺たちは一瞬で燃え尽きるってことか。
俺のローブに燃え移った、炎をスキルの『吸収』で消せなかったことを考えると、この魔法も吸収できないだろう。
それに、魔法を打ち消すことすらできないということは、闇属性魔法の『マジック・ホール』も意味をなさない。
一体どうしろっていうんだよ……!
焦る俺の目の前で、どんどん炎は収束していく。
直接攻撃をして、止めさせようにも、周囲の炎が行く手を阻み、近づくことができない。
水属性の魔法も、あれほど大きな火球を消せるだけのものがあるのかさえ分からない。すべての魔法の威力や効果を、俺は知らないのだ。
試しにスキル『斬脚』を放ってみたが、行く手を阻む炎にかき消された。
このままじゃ……。
一か八か、適当に消費魔力の多い水属性魔法を放とうかと考えていたときだった。
「誠一!」
「!」
後ろで、アルトリアさんの介抱をしているサリアが俺に向かって叫んだ。
「私と戦ったときの魔法を使って!」
サリアと……戦っているときに使った魔法?
ふと、俺はサリアと初めて出会い、戦闘したときのことを思い出す。
…………。
「!」
そして、俺はそのときの魔法を思い出した。
いや、思い出したくなかったんだが、思い出してしまった。
それは、初めて使用した魔法。
さらに言えば、その魔法は失敗した。
……もう、同じ過ちは繰り返さない。
軽いトラウマだが、それでも俺はその魔法を使用することにする。
前の俺とは、違うんだ。
『む?』
目を閉じ、右腕を静かに天に掲げた。
その様子に、黒龍神は疑問符を浮かべていた。
「ふぅー……」
深く息を吐き出す。
失敗した魔法なだけあり、緊張する。
『今さら足掻いても無駄だ。もう、我の魔法は止められん……!』
黒龍神の言うように、すでに炎の塊は黒龍神の巨体に迫る大きさとなっていた。
でも、関係ない。やるって決めたんだから、やり通すだけだ。
そして、目を開くと、その呪文を叫んだ。
「『フォールディザスター』!」
それは、サリアと初めて戦ったときに使用した魔法。
それと同時に、自滅しかけた苦い思い出の魔法だ。
だが、今回は俺の頭上には発動させない。
今回発動させた場所は――――。
『フフフフ……ハハハハハハハ! 何をするかと思えば……何も起こらないではないか! 残念だったな、人間! 己の無力さを噛みしめ、朽ち果てるが――――』
…………ドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!
徐々に近づく災厄の音。
『む?……なあっ!? な、何だ!? 何が起こっている!?……水? 水が降ってきているのか!?』
頭上に響く、災厄の音に気づいた黒龍神は、上を見上げると同時に目を見開くほど驚いていた。
『ちょっ! ここに降ってきてないか!? あ、当たる! 我の魔法に当たるぅぅぅうううう!』
黒龍神の叫びも虚しく、水の災厄は頭上から無慈悲に投下された。
『があああああああああああ! 我の魔法が……我の魔法があああああああああ! がばばばばばばばばばば!』
「……」
俺も……あんな調子だったんだな。
黒龍神の様子を見て、遠い目をする俺。
黒龍神の巨体ほどあった炎の塊は、それを圧倒する水量によって、難なく消火されてしまった。
激しい水しぶきが、俺にまで飛び散ってくる。
……これ、このまま水止まらずに俺たち溺れるなんてことないだろうな……。
とたんに不安になった俺は、黒龍神の足元に『マジック・ホール』を発動させ、俺の放った魔法をすべて吸収させた。これで、部屋に水がたまる心配はないだろう。
つか、サリアと戦ったときより、威力が格段に跳ね上がってるな。これも、俺がレベルアップやらステータスやらを吸収して魔攻撃を高めたおかげだろうな。
『い、息が……! でき……あばばばばばばばばばば!』
「…………」
その気持ち、よく分かるよ。
憐みの視線を黒龍神に向ける。しかも、その黒龍神が受けている水量は、俺のときとは比べ物にならないのだ。
『と、止めろ! この水を止めろおおおおおおおおおお! ごぼぼぼぼぼぼぼぼ!』
「……」
どんどん水を飲みこんでいく黒龍神。
どうやら黒龍神は勘違いしているようなので、一つ言っておこう。
――――俺、その魔法の止める方法、知らないんだ。
心の中でそう告げると、俺はスッキリした笑顔を黒龍神に向けた。
『おい、その笑顔は何だ!? 頼む! お願いだから止めてええええええええええ!』
黒龍神の叫びも虚しく、俺の放った水の猛攻から解放されたのは、約5分後のことだった。
◆◇◆
『ぜぇ……ぜぇ……』
「…………」
水から解放された黒龍神は、息も絶え絶えだった。
俺のときより長い時間水に責められてたな……。
改めて、水って怖いなと思った。どうでもいいけど。
『おのれぇ……人間めぇ……! 許しを請いても絶対に許さんッ!』
なんかスゲー怒らせたっぽいぞ。……理由は明白だけど。
『八つ裂きにしてやるッ!』
黒龍神はそういうと、猛然と襲い掛かってきた。
『【覇爪】!』
振るわれた腕の爪から、巨大な斬撃が3本、俺に向けて放たれる。
……俺の持つスキル『剛爪』と似てるな。
そんなことを思いながら、スキル『心眼』の効果でじっくり見極め、かわす。
しかし、黒龍神の放った斬撃は、避けたにもかかわらず俺を追尾し始めた。
『我のスキル【覇爪】は貴様を切り裂くまで追い続けるぞ!』
「ちっ!」
『剛爪』より強力だな……威力も高そうだし。
何とか斬撃を振り切ろうと頑張るが、斬撃は威力を落とすどころか近づくにつれて強力になってる気がする。
もし、仮にそういう効果があるんだとすれば、非常に厄介なスキルだな。
仕方ないので、俺は避け続けることを止め、斬撃を迎え撃つ。
その際、俺はゼアノスから手に入れた、『ゼフォード流守護剣術』の技を発動させた。
「【スキル・ブレイク】!」
その名の通り、スキルを破壊するための技である。ただ、この技はスキル以外には効果を発揮しないらしく、人に向けて放ってもダメージは与えられないそうだ。どういう原理だよ。
疑問を抱きながらも、俺へと迫った斬撃をすべて、ブラックとホワイトで切り刻んだ。
そして、そのままスキル『刹那』を発動させ、一気に接近する。
また、制御できなかったらいけないので、少し力を抜いての『刹那』だった。
ただ、それでもスピードは相手の認識速度を遥かに上回るので、突然目の前に現れた俺を見て、黒龍神は目を見開いて驚いた。
『なっ!?』
「【ストーム・スラッシュ】!」
そんな黒龍神の反応を見ながら、俺はブラックとホワイトを俺自身の体を捻ることで、回転を加えた斬撃として突っ込む。
『我は……我は二度と人間に負けぬと決めたのだ……! 絶対負けんッ!』
だが、俺の攻撃を見ても、黒龍神は怯むことなく迎え撃ってくる。
黒龍神の言葉には、俺には分からない何か執念のようなものを感じた。
その後も、黒龍神は吸収できない炎を吐いたり、尻尾や爪で凄まじい攻撃を次々と繰り出してきた。
俺は、それらの攻撃を避けつつ、カウンターを何度も成功させ、黒龍神の体は血だらけとなっていた。
『はぁ……はぁ……!』
「……」
傷だらけで今にも倒れそうな黒龍神だが、その瞳は死んでいない。
荒い息遣いとともに吐き出される炎は、いつしか黒煙へと変化していた。
鋭い眼光を向け、覇気を荒々しくまき散らす黒龍神。
その姿は、俺のイメージする、ドラゴンの風格を感じさせた。
『我は……我は負けんぞおおおおおおおおおおお!』
黒龍神は激昂すると、口から巨大な火球を放ってきた。
そのスピードは、今までの攻撃の中でも段違いに早い。
スキルの心眼が発動してても、脅威に感じられるほどの速度を誇っていた。
迫りくる火球をスキル『刹那』で避けると、その勢いのまま、ゼアノスに止めを刺した奥義『疾風』を発動させた。
尋常じゃない速度で俺のブラックとホワイトが黒龍神に迫る。
『ガアアアアアアアアアアアッ!!』
その瞬間、咆哮を上げ、認識できない速度で動いているはずの俺を、黒龍神は鋭い眼で睨みつけた。
すると、最初の黒龍神の攻撃を食らったときのように、奥義『疾風』が強制解除され、その場から動けなる。
「くっ! また……!」
『ああああああああああああああああああああああああ!』
部屋全体を激しく振動させ、壁に亀裂を走らせるほどの雄叫びを上げた黒龍神は、鋭い爪で、直接俺の体を切り裂きにきた。
この攻撃が当たれば、俺の防御力がなぜか機能していない状態なので、あっけなく死んでしまうだろう。
それは、絶対にお断りだ。
「――――ぉぉぉぉおおおおおッ!」
俺は、動かない体を無理やり動かすため、全力で体に命令する。
ここで動かなかったら、俺は死ぬ。
そんな、驚くほど単純な結末を想像し、俺の体は一気に生存本能が覚醒し、体を動かし始めた。
迫りくる死の恐怖に、俺の体は再び進化した。
いや、体だけじゃないだろう。精神的にも、この黒龍神との戦いは成長するキッカケになった。
俺は、まだまだ成長する必要がある。現状に満足してたら、俺はいつまでたっても化け物のままだろう。
いつかは、強大過ぎるこの力を、巧く制御して使いこなせるようになりたい。
強い想いが俺の中で爆発した直後、俺の体は完全に謎の縛りから解放された。
直後、俺の頭に無機質な声が響く。
≪威圧耐性を習得しました≫
夢中で動いていた俺には、そんな言葉の意味を考える余裕もなかった。
『なっ!? くっ……!』
解放された俺の姿を見ても、黒龍神は攻撃を止めない。
俺はそれに迎え撃つ。
『おおおおおおおおお! 【龍神爪】ッ!』
光り輝く巨大な爪が俺に迫る。
ゼアノスの流派の技【スキルブレイク】でも破壊は出来ないだろう。そう思えるほど、迫りくる斬撃は強大で、圧倒的で……美しかった。
だが、それに対して俺は、ひたすら剣を振るった。
迫りくる、巨大な斬撃を切り刻むため。
何も見ず。
何も聞かず。
何もしゃべらず。
何も考えず。
ただ、夢中で剣を振るった。
ゼアノスから手に入れた流派も、習得したスキルや奥義を使うという考えすら出ないほどに。
その瞬間、聞きなれた声が頭の中に響いた。
『奥義≪剣華繚乱≫を習得しました。奥義≪剣身一体≫を習得しました』
その声が聞こえたと同時に、俺の剣撃と黒龍神の斬撃は衝突し――――。
「――――!」
――――俺は斬撃を一瞬で切り刻み、そのまま黒龍神へと到達した。
『っ……』
そして、黒龍神に反撃の隙を与えることなく、俺はブラックとホワイトで切り付け続けた。
『がああああああああああああああ!』
黒龍神は、体から魔物を倒したときに起こるエフェクトを発しながら、地面へと倒れていく。
『我は……また負けるのか……! また、あのお方を人間からお守りすることができないのか……!』
倒れ伏した黒龍神の目からは、涙が流れていた。
『我はただ、あのお方の下で笑っていたかっただけなのに――――』
涙を流し、無念を口にする黒龍神。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
最後は、哀しみの咆哮を上げると、完全に黒龍神は消えていった。
後に残ったのは、ドロップアイテムだけ。
それ以上に、俺の心には、黒龍神の言葉が強く残っていた。
「……結局、黒龍神は人間の何がそんなに憎かったんだろう……」
珍しく、しんみりとした空気になってしまう。
≪レベルがアップしました。レベルがアップしました。レベルがアップしました。レベルがアップしました≫
レベルアップを告げる声が、何度か響く。今まで一つずつしかレベルは上がらなかったのに、急に一気にレベルが上がったな。それだけ黒龍神が強かったってことか。
だが、今はあまり騒がしい気分になれなかった。
そんな俺に、サリアが駆け寄ってくる。
「誠一! 大丈夫?」
「え? あ、ああ。ケガはしてないよ」
そう答えた俺だったが、サリアは心配そうな表情を変えない。
「でも……誠一、なんだか悲しそうだよ?」
「え?」
俺、そんな悲壮な表情を浮かべていただろうか?
よく分からないが、一旦思考を切り替えるため、頭を振った。
そして、横たわっているアルトリアさんに駆け寄る。
「……まだ、気絶したまんまだな」
「うん。たぶん、そのうち起きると思うよ」
サリアの言葉を聞いて、俺は安堵した。
とにかく、俺たちは無事、帰れるんだ。
そう、あの変態だらけのギルドに……。
…………。
……あれ?
ギルドが変態の巣窟っていうことも大問題だけど、それ以上にとんでもないことを見落としている気が……。
…………。
そこまで考えて、俺は気づいてしまった。
気づいてから思う。全力で現実逃避したいと。
「――――どうやって帰んの?」
「……え?」
俺の一言に、サリアはきょとんとした表情を浮かべる。
そして、互いに顔を見合わせると――――。
「「あああああああああああああ!?」」
帰り道が分からねええええええ! そもそもここドコ!? すごく今更だけども!
「ヤベェ! 帰る方法考えてなかった! そうだよ、いきなり飛ばされたのに帰り方もクソもねぇよな!?」
「ど、どうしよう、誠一!」
「焦るな! こういうときこそ…………こういうとき!?」
こんないきなり飛ばされて帰れなくなるときなんてねぇよバカ!
突然の事態に俺もサリアも焦る。俺に至っては、シリアスな雰囲気が台無しだよ!
アルトリアさんも未だに気絶したままなので、どうすればいいか相談することもできない。
焦っていても仕方がないと悟った俺は、一度深く息を吐き出すと、一旦心を落ち着かせた。
「ふぅ……冷静になろう。まず、手持ちの道具でこの迷宮から脱出できるモノがないかを確認しよう」
「はい! 私、何も持ってません!」
「そうだったね! なら引き続きアルトリアさんの介抱を頼む!」
「らじゃー!」
サリアはアイテムボックスを持っていないので、必然的に道具は持ち運んでいなかった。
そのままサリアはアルトリアさんの元へ戻る。
一応、俺は自分のアイテムボックスを覘いてみたが、この洞窟から脱出できそうな道具を俺は持っていなかった。
「そうだ! 黒龍神のドロップアイテムのなかに、なにかあるかもしれない」
最悪の場合、俺がこの迷宮を全部ぶっ壊してみようとは思ってるが、閉鎖的空間なので、うかつに周囲を破壊して、俺たちに被害が出ても困る。……アルトリアさんの場所まで行くときに壁壊したのは、非常時だったからだ!……冗談です。あのときは突然でこんなことになるなんて思わなかったんです。
心の中で言い訳を一通り述べたまま、俺は黒龍神のドロップアイテムに近づく。
まず、鱗やら牙やらが落ちているので、それを回収する。
『黒龍神の鱗』……黒龍神の巨体を覆う堅牢な鱗。並の武器では傷すらつかない。耐熱性に優れているため、加工するには圧倒的火力が必要。寒さなどには弱い。
『黒龍神の逆鱗』……黒龍神の無数の鱗の中でも、希少な部位。鱗より硬く、しなやかさを兼ね備えている。魔法に耐性があり、受ける魔法の威力を軽減させる。その他の効果は、主に鱗と同じ。
『黒龍神の爪』……黒龍神の強靭な爪。非常に鋭く、分厚い鉄板さえも簡単に切り裂く。非常に硬い。オリハルコンなどの、数種類の特殊な鉱物のみで加工することができる。
『黒龍神の牙』……黒龍神の強力な咢に備え付けられていた凶悪な牙。一度貫かれると、抜けなくなるようできている。
『黒龍神の骨』……非常に硬く、太い骨。加工次第では、オリハルコンに迫る強度を誇り、伝説級武器を凌駕する性能を発揮する。
『黒龍神の宝玉』……黒龍神の体内に存在していた宝玉。圧倒的魔力を蓄えており、武器に装着させれば、通常攻撃で幽体の魔物すら容易く倒すことが可能になる。さらに、食べれば、魔力が全身を駆け巡り、身体能力が向上する。その上、全魔法の威力が上がる。
「さすがゴッド!」
性能がハンパねぇ! 武器でもないのに素材がスゲー!
つか、黒龍神の宝玉! 食えんの!? 宝石だよ!?
俺は、何枚も散らばっている黒色の鱗や牙をアイテムボックスに放り込むと、黒龍神の宝玉とやらの黒色の綺麗な玉を拾う。
「これ……食えんの? マジ?」
ええ……普通に武器として加工したいんだけど、好奇心を刺激されてもいるし……。
…………。
「何事も挑戦だよな」
結局、俺は好奇心に負け、口に宝玉を放り込んだ。
口に含んでみると……あらビックリ、コーラ味。
…………。
スゲー無駄っ!
そんなことを思っていると、いつの間にか宝玉は、あめ玉のように口のなかで溶けて消えてしまった。
「いや、美味かったけども……」
しかし、身体能力が強化されたらしいのだが、イマイチ実感がわかない。
ま、そのうち分かるだろう。
楽観的に思考を切り上げ、次のアイテムへと移る。
「お次は……ステータスの書かれた球体だな」
俺に大ダメージを与えたくらいだ。相当なステータスを誇っているんだろう。
勝手な推測をしながら、すべてを確認した。
『魔力:100000』
『攻撃力:200000』
『防御力:200000』
『俊敏力:10000』
『魔攻撃:200000』
『魔防御:200000』
『運:3』
『魅力:100000』
「またか!」
また魅力で負けたよ!
ま、まあ? 相手はドラゴンだし、確かにカッコイイけども……!
それ以上に運低っ! ゼアノスどころの話じゃねぇよ!? 他が10万以上のステータスなのに!
そこまでツッコんで、ふと気づく。
「……しかし、20万の攻撃力で俺の守備力を超えるダメージって与えられるモノなのか?」
考えてみたが、ありえないだろう。
だとすると、俺にダメージを与えた方法は、ステータスじゃなく、スキルにあるかもしれない。
ステータスの球体を体内に取り込むと、そのままスキルの確認に移行する。
『スキルカード≪透過≫』……スキル『透過』を習得できる。
『スキルカード≪威圧≫』……スキル『威圧』を習得できる。
『スキルカード≪覇爪≫』……スキル『覇爪』を習得できる。
『スキルカード≪龍神爪≫』……スキル『龍神爪』を習得できる。
『マジックカード:火属性・極』……火属性の魔法が使えるようになる。
『マジックカード:固有属性≪煉獄≫』……固有属性≪煉獄≫の魔法が使えるようになる。
「ちょっと待て! なんかいろいろヤバそうな雰囲気のしかねぇぞ!?」
どれも強力そうな雰囲気に、俺はたじろいだ。
そのままスキルカードなどは、すべて俺の体内へと吸い込まれていく。
すべてのスキルを習得し終えると、今までの確認も込めて、一度ステータスを表示してみた。
≪柊誠一≫
種族:人間(人間)
性別:男(男)
職業:謎(魔法剣士)
年齢:17(17)
レベル:15(15)
魔力:1698300(100【固定】)
攻撃力:1644000(100【固定】)
防御力:1667000(100【固定】)
俊敏力:1690000(100【固定】)
魔攻撃:1674000(100【固定】)
魔防御:1632000(100【固定】)
運:1610000(100【固定】)
魅力:表示するのがバカらしくなりました(100【固定】)
≪装備≫
上質なシャツ。上質なズボン。上質な肌着。上質なパンツ。賢猿の鎖。水霊玉の短剣。夜の腕輪。黒王石のチョーカー。果てなき愛の首飾り。憎悪渦巻く細剣。慈愛溢れる細剣。
≪固有スキル≫
瞬間記憶。完全記憶。瞬間習得。瞬間回復。完全解体。心眼。進化。業盗り。アレンジ。
≪スキル≫
【攻撃】斬脚。双牙撃。剛爪。覇爪。龍神爪。
【耐性】麻痺耐性。睡眠耐性。混乱耐性。魅了耐性。石化耐性。阻害耐性。毒耐性。疲労耐性。威圧耐性。
【移動】刹那。
【特殊】上級鑑定。超調合。道具製作:超一流。索敵。実力偽装。同化。千里眼。吸収。圧縮。全言語理解。透過。威圧。
≪魔法≫
生活魔法。水属性魔法:極。闇属性魔法:極。土属性魔法:極。空間魔法:極。火属性魔法:極。固有魔法:煉獄。
≪奥義≫
疾風。一閃。雲霧。剣華繚乱。剣身一体。
≪武術≫
ゼフォード流守護剣術:開祖。
≪称号≫
臭い奏者。ゴリラの嫁を持つ男。総ての頂点。自重知らず。雄の王。滅龍士。神斬り。
≪所持金≫
2500304060G
「もう手におえねぇ!」
ステータスが劇的に変わりすぎてる! 匠もビックリだよ!
職業が怪物から謎に変わってるし! つか、謎って何!? 俺のほうが謎だよ!?
それ以上に魅力は酷くね!? 他に比べて扱いが雑すぎるッ! 何とかならなかったの!?
しかも、知らない間に固有スキルの欄に新しいスキルが追加されてるし!
仕方なく、固有スキルから確認していく。
『進化』……≪人間≫の種族で一定レベルまで達したことにより、解放されたスキル。戦闘をする度に、体が戦闘に適応していく。常時発動。
『業盗り』……≪人間≫の種族で一定レベルまで達したことにより、解放されたスキル。相手の使用したスキルを自分のモノとして習得できる。ただし、相手が魔物の場合、習得できるスキルは、人間でも発動可能なものに限る。常時発動。
『アレンジ』……≪人間≫の種族で一定レベルまで達したことにより、解放されたスキル。業盗りで習得したスキルを、自分に最も適した形にすることができる。常時発動。
「人間やべぇ!」
固有スキルがチートすぎる!
それより、進化!? 進化の実はもう食ってないけど、俺ってまだ進化するの!?
というか、このスキルが解放された条件を当てはめると、これから先も、スキルが解放されるかもしれないのか?
……人間ってなんだっけ? こんなにチートな存在なの?
思わず種族に疑念を抱いてしまった俺だが、次に普通のスキルの確認に移る。
『全言語理解』……人類が使用するありとあらゆる言語を理解することができるスキル。魔物の言葉も理解できるようになるが、絶対ではない。常時発動。
『透過』……相手の防御力を無視し、直接攻撃を叩き込むことができるスキル。スキルによって、このスキルを防ぐことは不可能である。ただし、霊体には効果がない。
『威圧』……自分よりレベルの低い存在に使用することで、一時的に動きを封じることができるスキル。相手の精神にプレッシャーをかけて動きを止めるため、阻害耐性では効果がない。ただし、自身よりレベルの高い相手には効果を発揮しない。
『威圧耐性』……威圧を無効化する。
『覇爪』……三本の斬撃を放つことができるスキル。武器からも放つことができ、相手に接触するまで追い続ける。相手が避ければ避けるほど、威力が上がっていく。
『龍神爪』……凄まじい威力の斬撃を放つことができるスキル。光属性を含んでおり、アンデット系の魔物に有効。ただし、一直線にしか進まない。
「かはっ!?」
俺はあまりの凄さに吐血した。
な、なんというチートスキルの数……! 神は格が違うな!
いや、宝箱のスキル『全言語理解』も混じってて、凄く活用の幅が広がるスキルなんだが、こうしてぶっ飛んだスキルと並べられると、どうも霞んでしまう。まあ、これらのスキルの中で、一番実用性の高いスキルなんだけども。
それよりも、俺にダメージを与えることができたのは、スキル『透過』のおかげだったということか……。
阻害耐性があるにもかかわらず、体が動かなかったのは、威圧のせいか。こうして手に入れたけど、レベルが低い俺は、使いどころあんまりないかもな。威圧耐性は使えるけど。
どれも非常に強力で、その分扱いが難しそうだったが、何とか使いこなしてみようと思った。
「次は魔法か」
そういうと、魔法の欄を閲覧する。
『土属性魔法:極』……土属性を極めた。土属性の魔法が全て扱えるようになる。
『空間魔法:極』……空間魔法を極めた。空間魔法が全て扱えるようになる。
『火属性魔法:極』……火属性を極めた。火属性の魔法が全て扱えるようになる。
『固有魔法:煉獄』……火属性の魔法に、強制的に付与される魔法。火属性同士の魔法でぶつかり合った場合、強制的に煉獄の属性を持つ発動者の火属性魔法が、相手の火属性魔法を飲み込む。スキルでの消火は不可能。圧倒的水量で消すか、発動者本人の意思でのみ消すことが可能。
「ははは、チートがいっぱいだぁ」
もうダメだ。全然使いこなせる自信がねぇよ。一度に増えすぎだろ……。
しっかし……黒龍神の炎が吸収できなかったのは、煉獄の効果があったからか。スゲー厄介な属性だな。
それに、ちゃっかりサンドマンの魔法……アクロウルフといい、レベルが300超えたあたりから、何かしら魔法を極めてるのね。
宝箱も自分で習得した空間魔法があるし……。
…………。
「空間魔法……? っ!?」
俺の体に衝撃が走った。
そうだよ……そうだよ!
「空間魔法があるじゃないか!」
俺は今すぐ頭の中にインプットされた、空間魔法の名前を思い出した。
「あった!」
すると、名前の中に、『テレポート』や『転移魔法』という名前の魔法が確かに存在した。
「サリア! 俺たち、帰れるぞ!」
「ホント!? やったあ!」
アルトリアさんの近くで喜ぶサリアを見ながら、心の中で宝箱に感謝する。
宝箱よ……お前の努力は無駄じゃなかったんだ……! 俺たちの危機を、こうして救ってくれる凄いヤツなんだよ……!
俺は、静かに散って逝った宝箱に敬礼した。……殺したの俺だけど。
「これで安心してステータスの確認もできるな」
そう呟き、今度は奥義の欄を確認する。
『剣華繚乱』……無数の斬撃を放ち、相手を切り刻む奥義。スキルや魔法も斬ることができる。
『剣身一体』……剣と同化し、集中力を極限まで高める奥義。この奥義を使用後、発動する刀剣類のスキルや奥義を発動させると、威力が倍になる。
「おお、奥義っぽい」
今までで一番感心したかも。俺が自力で手に入れた奥義でもあるわけだし。
特にツッコみどころもなく、最後の称号の欄に移った。
『滅龍士』……最上位のドラゴン系統を単独で撃破した者に与えられる称号。対ドラゴン戦で、ステータスに最大の補正あり。
『神斬り』……神を切り伏せた者に与えられる称号。神との戦闘において、ステータスに最大の補正あり。
「とうとうヤっちゃったかぁ……」
俺は酷く遠い目をする。
いやぁ……今さらだけど、俺たちをこの世界に送った神自身が言ってたのに、神様存在してんじゃん。
ま、その神様から言わせたら、黒龍神なんて神様の一人でもないのかもしれないけれど。
とにかく、俺は神殺しをしちゃったらしい。うわっはー! もうどうにでもなれ!
神殺しをしたというのに、罰が当たらないだろうな? と思ってしまうあたり、俺もだいぶ壊れたらしい。いやあ、参っちゃうね!
「さて……スキルの確認は済んだし、帰る方法も見つかった。んで……」
そこまで言うと、俺は言葉を区切って、地面に落ちている冊子や大きめの宝箱に目を向ける。
「どうせ宝箱の中身はチート装備が入ってるんだろうけど、それ以上に黒龍神の過去が気になるな……」
あれだけ人間に執着してたんだ。何かしら、過去にあったんだろう。
激闘を繰り広げ、黒龍神を下した俺は、それを知りたくなった。
気が付くと、俺は自然と冊子の方向に足を向けていた。
そして、俺はこの後、いろいろ考えさせられることになるのだった。




