帰還と完全なる消滅
「ただいまー」
「あ、誠一! お帰りなさい!」
俺はカイゼル帝国から帰還し、宿屋に戻るとさっそくサリアが出迎えてくれた。
「誠一! 勇者たちは解放できたの?」
「ああ。全員連れ出して、今はランゼさんのところで回復中だよ」
「そっかー。それなら神無月さんも安心だね!」
「これ以上、何もないといいんだけどなぁ……」
「大丈夫だよ! 誠一が動いたんだし、何とかなるよ!」
いつもサリアは元気だよな。それでいて、サリアがそう言うんなら、たぶんそうなんだろう。そう思えるくらい、俺はサリアのことを信頼していた。
そんな感じで軽くサリアとカイゼル帝国でのことを話していると、出かけていたらしいアルたちも帰って来た。
「お、誠一! 帰って来たんだな」
「ああ」
「さすが主様! いつも通り、一瞬で解決したんですね!」
「……ん。確かに、まだ一日も経ってない」
「い、言われてみれば……えっと、カイゼル帝国って遠くにある国なんですよね? それなのにどうして……」
ゾーラの鋭い指摘に、アルが何とも言えない表情で俺を見る。
「一応聞くが、お前はカイゼル帝国に行ったことあったのか?」
「いや?」
「それじゃあ、転移魔法は使ってないんだよな?」
「……ま、まあ……」
「なら、どうしてたった一日でカイゼル帝国まで行って、しかも勇者たちも解放して来れるんだよ」
「えっと……一歩踏み出したら国の方からやって来た、みたいな?」
「…………よーし、飯食いに行くか!」
「行きましょう!」
「あからさまに話題逸らさないで!?」
俺も自分で言ってて訳分かんないから!
「だってよぉ、そもそもあの超大国のカイゼル帝国まで向かって、あっさり勇者たちを解放してきた時点でおかしいんだよ。あそこにどんだけ戦力が集まってると思ってるんだ」
まあアルの言う通り、普通に考えれば単身で一国に喧嘩売りに行くみたいなもんだしな……普通に考えれば正気の沙汰じゃない。
俺は苦笑いをしつつ、ふと思い出したことを口にした。
「あ、そう言えばさ。カイゼル帝国では勇者たちの救出以外に、帝王のアルフ様の呪いも解呪してきたんだよ」
「え? そうなの?」
「うん。前にランゼさんが受けてた呪いと一緒だったから、同じ方法で解呪したんだけどね。そのあとに勇者たちを解放して、ランゼさんに預けた時点で俺の仕事は終わったはずなんだ。でも、何故か俺はカイゼル帝国の謁見の間ってところに立ってて、自分が何をしてたのか思い出せないんだよねー」
「大丈夫? もしかして、疲れてる?」
サリアが心配そうに俺の顔を覗き込む。
俺としても、自分が疲れてるのかなーって思ってしまうが、別に勇者たちを助け出した件は何の労力にもなっていなかった。
「別に俺は疲れてるとは思わないんだけど、なんだか気持ち悪くてさー」
「ふーん……あれじゃね? なんか、カイゼル帝国の悪いヤツでも倒しに行くつもりだったんじゃないか?」
「悪いヤツ?」
うーん……確かにカイゼル帝国が神無月先輩たちを呼び出し、あちこちに戦争を仕掛けていたので、迷惑な国だったことに変わりはない。
だが、帝王のアルフ様はずっと寝たきりだったって話だし、誰だろう?
「ほら、詳しくは知らねぇけど、帝王が呪いで倒れてたんなら、その側近辺りが怪しいんじゃねぇか?」
「……たぶん、ヘリオって老人がいたと思うけど、その人が帝王の次に偉い」
「あー」
あの謁見の間で儀式をしていた魔神教団の使徒か。
でも、自分の儀式にハマったせいか、あの人も死にかけてたんだよなー。
俺はその人を倒しに向かったのかな?
でもそれだと、わざわざ勇者たちや街の住民を解放した後、もう一度あの場所に戻る理由はないけど……。
「それか、何か不穏な気配はないか、探しに行ったんじゃない?」
「あ、それはあるかも」
サリアの言葉に俺は納得した。
言われてみれば、あんな儀式が普通に行われていたんだ。魔神がまた復活してた可能性もあったわけで、その可能性を潰すために俺はもう一度あの部屋に向かったんだな。
「あー、何だかスッキリした」
「結果的に、全部の元凶は魔神教団だったってことか」
「そうなるな」
「なんていうか、本当に迷惑な連中だったよな。使徒がどれくらい残ってるのかは分からねぇが……」
アルの言う通り、魔神本体は倒し、ヘリオも回収できたわけだが、まだこの世界のどこかに魔神を信奉する人間が残っていないとも限らなかった。
ソイツがまたヘリオと同じく妙な儀式をしていたら……考えるだけで面倒くさい。
「でもさっきも言ったけど、もう大丈夫だと思うよ!」
「おいおい、サリア、何の根拠でそう思うんだよ?」
「野生の勘!」
「……オレは時々サリアが魔物だってことを忘れそうになるよ」
ま、まあ普段のサリアは魔物感一切ないからね……。
「それよりも、誠一。勇者たちを解放してきたって神無月さんたちに教えた?」
「あ、まだだ!」
「早く教えてあげた方がいいよ! 神無月さんたちも心配してるだろうし」
「そうだな。じゃあちょっと、神無月先輩のところに行ってくる!」
「気を付けろよ! あの女、隙を見せると食われるぞ」
「ええ……?」
アルさんや……神無月先輩のことを何だと思ってるんだか……。
思わず顔を引きつらせていると、アルは真剣な表情で繰り返した。
「食われるぞ」
「…………はい」
そう言われると、そんな気がしてきた。本当に昔の神無月先輩はどこに消えたんだろうね。
そんなわけで、俺は宿を出ると、再び城へ向かい、神無月先輩たちに報告しに向かうのだった。
◆◇◆
「おお、誠一! 戻って来たか」
「あれ? ランゼさん?」
城に向かい、神無月先輩に勇者たちのことを報告しようと思っていると、ランゼさんがやって来た。
「その様子だと、向こうでやることはやったみたいだな」
「はい。とりあえず、捕まってた人たちも解放しましたし、恐らくこれ以上何か起きることはないと思います」
「そうなりゃあいいが……なんか根拠でもあんのか?」
「サリアが野生の勘って言ってました!」
「……お前も大概だが、サリアの嬢ちゃんもとんでもねぇよな」
俺は身体能力的にはおかしいかもしれないが、精神的な面ではサリアに敵わないからな。
「まあいい。お前さんが連れてきた勇者たちだが、少しずつ回復してるぞ」
「本当ですか!」
「ああ。中には目を覚ました連中もいて、あの神無月って嬢ちゃんたちも確認してるよ」
どうやら俺が報告する前に、神無月先輩たちは勇者のことを確認していたようだ。
とはいえ、一応ここまで来たので、ちゃんと口で説明はするつもりだが。
「それよりも、これからどうすんだ?」
「え?」
「あの勇者たちのことだよ。行く当てがねぇってんなら、俺の方で多少便宜は図ってやれるが……勇者ってんだし、冒険者とかの方がいいのか? ……いや、駄目だ。あの変態の巣窟に子供を入れるのは良心が……」
「えっと、ギルドに登録させるのは俺も反対ですけど、前も話した通り、地球に帰そうかなって」
「……そういや、そんな話してたな。あの時はお前も異世界人だってことに驚いて、つい流しちまってたが……マジでできるのかよ」
「できると思います」
なんせカイゼル帝国に向かう際、国の方からやって来たんだ。下手したら、この世界に地球の方からやって来る可能性もある。
なので、世界間の移動は大丈夫だと思っていた。
そんな会話をしていると、城の方から神無月先輩が駆け寄って来る。
「誠一君!」
「あ、神無月先輩!」
「……まさか、本当に解放してくるなんて……ありがとう」
神無月先輩は俺の前で立ち止まると、真剣な表情を浮かべながらそう口にし、頭を下げた。
「そ、そんな! 頭を上げてください! 俺はただ、自分のモヤモヤを解消するために行っただけですから!」
「フフ……そういうところは君らしいな。とにかく、君のおかげで勇者たちは無事解放されたんだ。どうか胸を張ってほしい」
「そうだぜ。お前がいなけりゃ、アイツらは今も生きていられるか分からねぇんだからよ」
二人そろって俺のことを褒めてくるので、何だか照れるな……。
俺は自分の気恥しさを隠すように、口を開く。
「そ、それよりも! どうします? 今すぐ地球に帰しましょうか?」
「いや、先ほど彼らの状態を見てきたが、まだ動けるようになるにはしばらく時間がかかりそうでね。一応、皆が目を覚まし次第、私の方から地球への帰還については伝えるつもりだが、ひとまずは自力で動けるようになるまでは様子を見ようと思う」
確かに、今帰したところで、体力が回復していないため、結果的に地球ですぐ入院みたいなことになりかねないもんな。
……あれ? よくよく考えると、普通に帰しても大丈夫なんだろうか?
この世界に来たことで、彼らはステータスという概念を身に宿したわけで、魔法やスキルが使えるはずだが……その力は地球でも発動するだろう。
ただ、俺が助け出した勇者たちは魔神教団の魔法陣の力で、その力をすでに失っており、確認したところ、ステータスもレベル1、その上この世界で習得したはずのスキルや魔法まで綺麗に消えていたのだ。あの魔法陣、生命力だけじゃなく、経験とかまで奪うとか怖すぎるだろ。
他にも、なんか未知の細菌とか病原菌を持ち帰るとか……まあこの世界に来た時点で俺たちにそういった部分の影響は特にないので、心配ないとは思うが……そこらへんも気にしておいた方がいいだろう。
それこそ、勇者たちを地球に送り届ける魔法に、その辺の心配事を解消する効果も組み込めばいいわけだし。
ま、俺にそれだけの想像力があるかは別ですけどね!
それよりも……。
「あの、神無月先輩」
「ん?」
「その、カイゼル帝国に捕まっていた勇者たちですけど、彼らはその時の影響で力を失ったんです」
「そういえば、目覚めた生徒のうち何人かはそんなことを口にしていたな……」
「そういうわけで、今の彼らは地球にいた頃と何の違いもない状態なので、回復してから地球に帰還しても特に違和感なくなじめると思います。ただ……」
「……ああ、私たちのことか」
「はい……」
そう、他の勇者たちは地球の一般人と同じ力を持っているわけだが、神無月先輩たちはそうじゃない。
特に力を奪われたりしていないので、このまま地球に戻れば、それこそ漫画のヒーローのような活躍ができてしまう力を持っているのだ。
神無月先輩たちがその力を悪用するとは微塵も思っていないが、強力な力が原因で面倒ごとに巻き込まれる可能性だってある。
ただ、力があれば、地球でも楽に生活できるだろうし、一概に悪いとも言い切れなかった。
まあ強力な力に振り回されるってのは、身をもって体験済みですからね! 身の丈って大事!
神無月先輩は少し考える様子を見せると、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「また誠一君に頼ってしまうようで心苦しいが、もし可能なら、私たちの任意で力が解放できるようにすることは可能かな?」
「多分、大丈夫だと思いますけど……」
「翔太たちは、改めて聞いてみないことには分からないが、私はその方法でお願いしたい。ダメかな?」
「いえ、それは問題ないですけど……大丈夫ですか?」
「ああ。私としては、誠一君がいるこの世界に留まるつもりではいるが、地球の家族も気になる」
「それは大丈夫ですよ。もし地球に帰りたくなればいつでも連れていくんで」
「ありがとう。そして、私は向こうではそれなりに面倒な地位にいる。それこそ昔は攫われたりもしたしな」
「そんなこともありましたねぇ」
いやぁ、懐かしい。あの時の犯人たちは、神無月先輩のところの会社で真面目に働いてるらしいしな。
「つまり、向こうは向こうで私には危険があるんだ。だから、この世界で得た力は、都合がいいんだよ」
「なるほど……それなら神無月先輩に関しては力のオンオフができるようにしますね」
とはいえ、イメージとしては何だろ?
オンオフって言ったら、スイッチくらいしか思いつかないけど……。
『切り替え魔法【スイッチ】が創造されました』
唱えてませんけど!?
何も口にしていないのに、いきなり魔法が創造されると、そのまま神無月先輩の体を光が包み込む。
「こ、これは?」
「おい、誠一! お前、何をした!?」
ここで俺がやったと確信されるのは辛いものがありますね! でも本当だからなんも言えない!
「え、えっと……今話していた力の切り替えをどうしよっかなって考えていたら、それ専用の魔法ができて、発動したみたいで……」
「やっぱいつもの感じかー」
ランゼさんの言葉を否定できる材料がないのが悲しいところ。
仕方ない。できちゃったんだもの。
効果を確認したところ、俺の想像通り、魔法のオンオフが自由にできるようになるといったもので、これで神無月先輩は自由に力を発揮できるようになった。
「何というか、あまり自覚はないが……これで私の問題は解決したみたいだな」
神無月先輩は自分の体の調子を確かめるように、手を握ったり、開いたりする。
ある程度確認が済むと、神無月先輩は笑みを浮かべた。
「こうして私の問題も解決したところで、勇者たちが回復するまでは私は暇になったな」
「それならよかった……神無月先輩たちも最近はバタバタしてたでしょうしね」
「神無月の嬢ちゃんたちと一緒にいた、カイゼル帝国の……確か、ブルードだったか? アイツらも帰国できそうだな」
確かに、こうして全てが解決したので、ブルードたちも自分の国に帰れるだろう。
まあブルードは帰国してから大変だろうが……彼は優秀だし、大丈夫だと思う。
魔神教団とカイゼル帝国という、一番の悩みが解決したことで、俺はようやく肩の荷が下り、ほっと一息ついた。
すると、神無月先輩が真剣な表情を俺に向ける。
「それで、誠一君。君はこれからの予定とかは決まっているのかい?」
「俺ですか? いえ、特に何も考えてないですけど……」
そもそもこの世界に来てからの俺は、特に予定を決めることもなく、その時その時の流れで行動していたからな。
そんな俺の言葉を聞いて、神無月先輩は笑みを浮かべた。
「そうかそうか! それなら、ぜひとも君にお礼がしたいんだが……」
「いえ、別にいいですよ! 俺がしたくてやったことなんですし……」
「そういうわけにはいかない! 何より、私自身が君に受け取ってほしいんだ」
「受け取ってほしい?」
「ああ! この私をぜひ――――」
「ランゼさん! ここらへんで失礼しますねッ!」
「早ッ!? お、おう、またな……」
神無月先輩の言葉を聞き終える前に、俺は一瞬で正門まで移動すると、そのままサリアたちの下に帰るのだった。
◆◇◆
誠一がカイゼル帝国から帰還し、神無月たちに説明しているころ……。
かつてバーバドル魔法学園の学園長を務めていたバーナバスは、未知の力に侵され、苦しんでいた。
「ぐ、ぬぅう……! こ、これは一体……!」
体の内から燃え上がるような、激しい力の奔流に、バーナバスは思わず膝をつき、胸を強くかきむしる。
ユティスによって、捕えていたアングレアたちが解放されて以降、バーナバスはこのような謎の力に侵されていたのだ。
最初こそその力は微々たるものだったが、今日、突然激しく動き始めたのだ。
「ふ、不幸中の幸いじゃのぅ……街中だったら、どうなっていたか……ぐっ!」
バーナバスは己の中に突如現れたその力を恐れ、周囲に被害を与える可能性を考慮し、一人で人里離れた森の中に身を隠していた。
そして今、その推測は見事に当たり、今にもバーナバスの身を焦がし、周囲の全てを焼き尽くさん勢いでバーナバスの体内で激しく燃え上がっていた。
必死に力の奔流を抑え込もうとするバーナバスに、不意に声が聞こえてくる。
『くっ! この我が、こんな老いぼれ一人支配できんとは……!』
「な、何じゃ、この声は……!」
その声はまるで、バーナバスの脳に直接語り掛けるように聞こえ、体内からバーナバスに向けて発せられたものだった。
『ユティスが残したこの種、確実に逃すわけにはいかん……!』
「ゆ、ユティスじゃと……?」
バーナバスは苦しみながらも脳内に響く言葉に、目を見開く。
ユティスとはこの謎の力を植え付けた人物にほかならず、つまり魔神教団関連の物である可能性が高かった。
『ん? 貴様、この我の声が聞こえるのか……ここまで力が落ちぶれるとは……!』
声の主は、バーナバスに気づかれる間もなくその身体を支配するつもりだったため、特にバーナバスに語り掛けるつもりはなかった。
しかし、声の主自身の力が弱っていたことと、バーナバスの体内で激しく動き回ったことから、お互いの波長がリンクし、この謎の声がバーナバスに届いたのである。
すると、声の主は開き直ったのか、声高々に言い放った。
『おい、老いぼれ! 大人しくこの我にその身を差し出せ!』
「い……いき、なり……現れて……何なんじゃ、お前は……! この体は……ワシのものじゃ……!」
さらに激しく力が動き出したことで、ますますバーナバスは苦しむものの、決して意識は手放さないと、歯を食いしばって耐えていた。
『ええい、黙れ! 魔神である我の言うことを聞かぬか!』
「ま、魔神じゃと!?」
予想外の存在に、バーナバスが驚く中、魔神は焦った様子で独り言を続けた。
『こんな老いぼれごときに手間取っている場合ではないのだ……! この機会を逃せば、我は……我は本当に消滅して――――』
『――――ここにいましたか』
『!?』
「な……」
突如、バーナバスと魔神の間に、新たな声が割り込んだ。
バーナバスはその声の主もまた、己の身を支配しようとする敵かと警戒する中、魔神が声を震わせる。
『ば、馬鹿な……どうしてここが……!?』
『もう二度と、失敗しないため、徹底的に探し出したからに決まってるじゃないですか』
その声の主は、魔神が衰退した原因である誠一のステータスだった。
状況が掴めぬバーナバスに対し、ステータスは淡々と告げる。
『そこのエルフ』
「わ、ワシのことか……?」
『そうです。そこにいるゴミを排除するので、少々お待ちください』
『なっ!? や、止めろ! ステータスごときが、何故我の邪魔をする! 我は魔神なのだぞ!?』
『そんなもの、関係ありません。むしろ、私は怒っているのです。貴方にも、そして……私自身にも』
『何!?』
するとステータスはどこか悔しさを滲ませながら続けた。
『私は確実に貴方を滅ぼしたと……そう思っていました。そう思っていたからこそ、私は誠一様にそうお伝えしたのです。ですが、貴方は生きていた。生きていたんですよ。私が己の実力を過信したばかりに……!』
『ぐっ!?』
「がっ!」
ステータスから放たれる強烈な圧は、魔神だけでなくバーナバスにも影響を及ぼし、息が詰まる。
そんな状況に晒されながら、バーナバスは切に思った。
「(争うなら、体の外でしてくれない!?)」
まったくもってその通りなのだが、魔神もステータスも互いに引けぬ理由があり、それどころではなかった。
『そして、私が力を過信した結果、貴方は巧妙に気配を隠し、私の探知から逃れた……腐っても神ということですね。ただ、その逃げた先で復活しようとしたようですが、私からのダメージで弱体化しており、失敗。こうして最後の手段であったエルフの身を乗っ取ろうとしているわけですね』
『くっ……!』
『その貴方の力を奪った存在ですが、誠一様の手で綺麗に滅ぼされました。その結果、もはや私ですらその相手が誰だったのか……もう覚えていません。しかし、結果として貴方を消滅しきれなかったから、貴方の力を得た存在を誠一様が直接手を下す羽目になったのです! こんな屈辱はありません。ですから、私は二度と失敗しないため、徹底的に貴方の存在を探りました。そしたら……こうして貴方にたどり着いたと言うわけですよ』
まさにステータスの執念ともいえる行動に、話を聞いていたバーナバスは戦慄した。
それと同時に――――。
「(誠一君って何者!?)」
もはや誠一という存在が分からなくなっていた。
『話はこれくらいにして、そろそろご退場願いましょうか』
『ま、待て! 貴様は我がいなければ、存在しなかったのだぞ!? それなのに――――』
『あ、もうその手の命乞いはいいです』
『なっ――――ああああああああぁぁぁぁぁぁ――――……』
これ以上言葉は不要と言わんばかりに、再びステータスからの圧力が強まると、魔神は言葉を発する間もなくその圧力に飲み込まれ、そのまま消滅した。
それは同時に、この世から魔神の痕跡がすべて消えたことを意味し、これから先、それこそ誠一自身が望まぬ限り、魔神が復活することはあり得ないのだった。
魔神が消えたことで、体から謎の力や焼け付く感覚が消えたバーナバスは、茫然と体を見下ろす。
「お、終わったのか……?」
『ええ。大変ご迷惑をおかけしました』
「い、いや、終わったのならいいんじゃ。その、魔神も復活しないと考えていいんかのぉ?」
『はい。もう二度と、復活することはないでしょう』
「そう、か……終わったのか……」
あれだけ世界を騒がせた魔神の呆気ない終幕に、バーナバスは何とも言えない気持ちになったが、これで世界が救われるならと安心すると、そのまま気を失う。
その様子をステータスは見つめつつ、感心していた。
『こうして他者に与える影響を恐れ、一人で抑え込もうとするとは……誠一様を教師として推薦した時もそうですが、見込みがありますね』
一人勝手にそう納得すると、ステータスは今度こそ誠一のステータスを表示するべく、再度修行の旅に出かけるのだった。




