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これからのこと

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 帰るかって……帰れるのか!? 地球に!?」

「うん」


 真っ先に衝撃から回復した翔太が詰め寄って来る。

 正直、どうすればいいのか考えてないけど、神様が嘘を吐くとは思えないので、本当に帰ろうと思えば帰れるのだろう。

 たぶんやったことはないが、転移魔法で戻れるんじゃないかな?

 前に夜王と戦った時も同じようなことを考えたわけだが……。

 すると、ふとランゼさんがあることに気づいたようで、声を上げる。


「すまねぇ、話に割り込むんだけどよ……てっきりお前はバーバドル魔法学園でコイツ等と知り合ったもんだと思ってたが、そうじゃねぇのか?」

「あー……そういえば、説明してなかったかもしれませんね」


 言われてみれば、俺はランゼさんに東の国出身という嘘は伝えていたが、カイゼル帝国に召喚された勇者と同郷だってことは言ってなかったかもしれない。

 改めて俺は自分の置かれた状況を簡単にランゼさんに説明すると、ランゼさんは頭痛を抑えるようにこめかみに手を置いた。


「すると……なんだ? そこの嬢ちゃんたちも含めて、お前さんも異世界とやらの出身なのか?」

「そうなりますね」

「なんていうか、そう言われて納得できるような、できないような……いや、やっぱりできねぇよ。異世界出身だろうと、お前ほどぶっ飛んだヤツはいねぇだろ?」

『はい』

「全員即答!?」


 まさか勇者組全員から頷かれるとは思わなかったよ!


「まあいいじゃねぇか。勇者全員がお前みたいなのだったら、俺たちどころかどこも勝ち目がねぇよ」

「は、はぁ……そんなもんですかね?」

「魔神倒しといて何言ってんだ」


 呆れたようにランゼさんにそう言われたが、そういうもんか。

 戦争ってなると、こう……戦略とかそういうのも必要になるだろうし、一個人の戦闘力が本当に戦況を左右するのかね? よく分からないや。

 少なくとも、俺と同じような存在がたくさんいるのなら、仲間割れをさせるとか、いくらかやりようはある気がする。まあ起きないことを考えても仕方ないんだけどさ。


「ひとまずお前さんたちが異世界出身なのは分かった。だがよぉ、誠一。お前さんが今帰るかって聞いたのは、その異世界に帰るかってことだろ?」

「そうですね」

「可能なのか? そんなことが。元々神様やらカイゼル帝国の大魔術やら、色々な要因が重なって呼び出されたんだろ?」

「神様に聞いたら、大丈夫って言われましたよ?」

「神様に聞くってなんだ」


 いや、本当にそうなんですもん……。

 信じてもらわれにくいのは重々承知だが、本当のことなのだから仕方がない。


「えっと……とにかく、帰ろうと思えば帰れるんだ。だから、皆が帰りたいって言うんなら、送り届けるけど……」

「誠一は?」


 すると、サリアがどこか不安そうな表情でそう訊いてきた。

 ああ、サリアは俺も地球に帰るんじゃないかって心配してるんだな。


「大丈夫。俺はここに残るよ」

「そうなのか!?」


 俺がそう言い切ったことで、翔太は目を見開いていた。


「お前、いいのかよ?」

「うん。特に地球に未練はないしね。それに、この世界に俺の大切なものは全部あるんだ」

「それは……サリアさんたちか」

「ああ」


 不安そうに見つめるサリアの手を取り、俺はしっかりと告げた。


「俺はサリアたちが大切だし、この世界が好きだ。だから、俺はみんなと一緒に、この世界で生きていくよ」

「誠一……」

「それに、この世界には母さんたちもいるしね」

「ちょっと待て。サラッととんでもねぇこと言ったな!?」

「ああ、翔太は知らないのか。誠一君のご両親はご健在だよ」

「はあああああああああああ!?」

「う、嘘……誠一お兄ちゃんのお母さんたちが生きてるの……?」


 幼馴染である賢治や翔太、美羽は、当然俺の両親のことも知っており、地球ではすでに亡くなっていることも知っていた。

 だが、この世界に来て、冥界に足を運び、そこでゼアノスたちと一緒に生き返ったことは、神無月先輩以外には言ってなかったのだ。


「ま、まあ……色々あったんだ」

「色々ってレベルじゃねぇだろ!? 死者が蘇ってんだぞ!?」

「異世界ならそういうこともあるんじゃない?」

「さっきからお前の異世界に対する謎の信頼感は何だ!?」


 そこはほら。俺がこれだけ変わる切っ掛けとなった世界ですから。信頼してますとも。

 世界もよく俺に気を利かせて動いてくれるし。

 翔太はまだ言い足りないようだったが、やがて何を言っても無駄だと思ったのか、大きなため息を吐く。


「~~っ! はぁ……まあお前が幸せならよかったよ」

「……うん、ありがとう」

「けど、実感がわかねぇんだよなぁ……いきなり帰れるって言われても……」

「そもそも、私たちの情報って、この世界に送られる際、地球から消されるって言ってなかった?」

「あー……そういやそうだったな。しかも、こっちにきてだいぶ時間も経っちまったし、このまま帰ってもどうなるか……」


 皆帰れること自体は嬉しいようだが、翔太だけでなく全員が考え込んでしまう。


「うーん……どこまでできるか分からないけど、時間のずれとか、情報に関しても何とかなるんじゃないかな?」

「……もう今更お前が何とかしたところで驚かねぇけどよ。ただ……」

「?」


 翔太はそう言って黙り込んでしまった。

 何が気にかかっているのか分からず、全員の顔を見渡すが、やはり翔太と同じように何かを考え込んでいた。


「すまない、誠一君。少し時間をもらってもいいだろうか?」

「え? あ、はい。大丈夫ですよ。皆が帰りたいタイミングで声をかけてくれれば、いつでも送り届けるんで……」

「そう言ってもらえると助かるよ」


 結局、この日に神無月先輩たちが地球に帰るかどうかの結論は出ず、そのまま解散することに。

 皆が何を気にしているのかは分からなかったが、少しでも皆の不安を取り除ければいいなと、そう思うのだった。


◆◇◆


 数日後。

 皆それぞれの余暇を過ごす中、俺は一人でギルドに向かっていた。

 とはいっても、特に理由があるわけじゃない。

 特にすることもないし、何か手ごろな依頼でもあれば、受けてみようとか、その程度の気持ちだった。

 そんなこんなで久しぶりにギルドを訪れると、扉を開けてすぐに、褐色に輝く腹筋が飛び込んできた!


「誠一くうぅぅぅぅうん!」


 その腹筋の正体は、仕事もせずにポージングをひたすらに決めているガッスルだった。


「のわっ!? びっくりしたぁ……ってなんだよ!」

「聞いたぞ、誠一くううううん! 君には感謝してもし足りないくらいだッ!」

「え?」


 何のことか分からずに首を捻っていると、受付からエリスさんがやって来た。


「これだから脳みそ筋肉はいけませんわ。ちゃんと説明しなきゃ分かるはずないでしょう?」

「おおっと、そうだったな! HAHAHA! つい気が逸ってしまってね!」


 エリスさんに指摘されたガッスルはそう笑い飛ばすと、真面目な表情を浮かべる。


「聞いたよ、誠一君。君が魔神教団のアジトで、S級冒険者の皆を助けてくれたんだろう?」

「あ……そのことか。うん、アジトに行ったら、皆が変な装置に拘束されててさ」

「本当ならば我々が助けに向かいたかったが、そういうわけにもいかない。そんな中、君が彼らを救ってくれたんだ。だからこそ、感謝していんだよ。ありがとう」


 いつもと違い、真面目に頭を下げられた俺は、妙に居心地が悪い。


「そ、そんなこと気にしないでくれよ。俺も皆には助けられてるしさ。それに、ここの皆のことが何だかんだ好きだし……」

「それなら私と【ガッスル式ブートキャンプ】を!」

「いえいえ、わたくしの【SM講座】上級編を!」

「俺の感動を返せ!」


 せっかく真面目な雰囲気で話が進んでいたのに、油断するとすぐこれだよ!

 でもまあ、この欲望に忠実なところこそ、ギルド本部って感じがして好きなんだけどな。

 ……絶対に口には出さんぞ。言ったら調子に乗るからな。


「――――君が、誠一君かな?」

「え?」


 ガッスルたちとくだらないやり取りをしていると、不意に声がかけられる。

 その声の方に視線を向けると、そこには【魔神教団】のアジトで救った、S級冒険者の面々が立っていた。


「貴方は……」

「僕はユースト・ホラーズ。一応、S級冒険者だ」

「一応とは何だね? 君は立派なS級冒険者じゃないかッ!」

「……この人たちと比べたら、普通だからね」


 何とも言えない表情を浮かべるユーストさんを見て、俺は感動していた。

 す、すごい! S級冒険者なのに、普通の人がいる!?

 ガルガンドさんは完璧に変態だったけど、他のS級冒険者は普通なのかもしれないぞ!

 そんな望みを胸に抱きつつ、その場にいたS級冒険者全員から自己紹介をされたわけだが……うん。やっぱり変態ばっかでした!

 まともなのはオーヴァルさんとユーストさんだけじゃん! むしろこの中だと浮いてるってどういうことよ!?

 常識人がこの中だと非常識に思えるという理不尽さに恐怖していると、改めてユーストさんが口を開く。


「さて、僕たちのことはともかく……今回は君に助けられた。本当にありがとう」


 そういうと、ユーストさんに続いて他のS級冒険者たちも頭を下げた。


「そ、そんな! 頭を上げてください! さっきガッスルからもお礼を言われましたし……」

「それでも、やっぱりちゃんと自分の口から伝えたくてね。本当にありがとう」


 再度ユーストさんたちが頭を下げると、感謝を口にした。


「もし困ったことがあれば、気軽に連絡してくれ。ギルド本部に伝えてくれれば、僕のところに届くはずだからさ」

「もちろん! 責任をもって伝えるぞッ!」

「というわけで、僕はここらへんで失礼するよ。聞いた話だと、【魔神教団】は壊滅したみたいだけど、残党が暴れるかもしれないからね。君も、頭の片隅にでも入れておいてくれると嬉しいな」

「はい!」


 そういうと、ユーストさんを含め、S級冒険者の皆が去っていった。

 その姿を見送っていると、不意に視線を感じた。


「じー」

「あ、あの……何か?」


 すると、先ほど紹介された中にいた、S級冒険者の一人である、ネムさんが俺を見つめていたのだ。


「……貴方が、アルちゃんの恋人~?」

「え?」


 ネムさんの口から飛び出た言葉に驚いていると、ネムさんは頷いた。


「うん、当たってるみたいだね~」

「そ、そうです。でも、どうして?」

「私が、この街の――――」

「…………?」


 突然、ネムさんの言葉が途切れた。

 どうしたのかと首を傾げると、ネムさんの鼻からちょうちんが!?


「Zzz……」

「ね、寝てる!?」

「ネムさんは睡眠が好きな方ですからね。いつも寝てしまうんですの」

「だとしても唐突過ぎません!?」


 話してる途中でしたけど!?

 しかも、目を見開いたまま眠ってるから怖いし!

 すると、エリスさんはどこからか針を取り出し、ネムさんの鼻ちょうちんに突き刺した。


「はっ。私、寝てた~?」

「え、ええ。それはもうぐっすりと……」

「そっか~。ごめんね~。気を付けてても眠くなっちゃうんだ~」

「い、いえ、大丈夫ですよ。それで、この街がどうしたんです?」

「Zzz……」

「もう寝たの!?」


 噓でしょ!? たった数秒しか経ってませんけど!?

 驚く俺をよそに、再びエリスさんがネムさんの鼻ちょうちんに針を刺した!


「はっ」

「もう、ネムさん。せめて伝えることだけ伝えてくださいな」

「ごめん~。もう少し頑張るね~」


 不安しかねぇ!

 すでに船を漕ぎかけているネムさんは、うつらうつらしながらも何とか言葉を紡いだ。


「あのね~。アルちゃんって、特別な体質なのは知ってる~?」

「は、はい」

「その体質を少しでも抑えるように~、この街に『結界』を張ってたのが~、私なんだ~」

「!」


 ネムさんの言葉を聞いて、俺は前にアルから教えてもらったことを思い出した。

 確かアルが不幸体質だったころ、この街以外に出かけることができないと言っていた。

 逆にこの街なら大丈夫な理由が、友人の冒険者によって、この街全体に『結界』が張られているからだと……。

 すると、そんな俺の記憶とネムさんの言葉を補足するように、ガッスルが続けた。


「ネム君は凄腕の魔術師なんだ。おかげでこの街にいる間、アルトリア君の不幸体質はだいぶ抑えられていてね。だが、完全に打ち消せたわけじゃない。そこで、S級冒険者のネム君は、アルトリア君の体質を何とかしようと、色々調べながら旅をしていたんだ」

「なるほど……」


 アルもそう言ってたな。そのアルの不幸体質を何とかしようとしてくれていたのも、このネムさんだと。


「そうなんだ~。でも、この街に帰って来てビックリしたのが~、アルちゃんの不幸体質が治ってたこと~。ガッスル君に聞いたら~、君のおかげだって~。だから、お礼が言いたかったんだ~。アルちゃんを助けてくれて~、ありがとうね~」


 ふわりと笑うネムさんに、俺も答える。


「こちらこそ、アルのことを今まで支えてくれて、ありがとうございます。貴女がいたから、アルはこの街で過ごすことができたんですから」

「Zzz……」

「寝てる!?」


 真面目に答えたのに!?

 どこまでもマイペースなネムさんに翻弄されつつ、ひとまず感謝を伝えられてよかったと思うのだった。


◆◇◆


「結局、目ぼしい依頼はなかったなぁ……」


 S級冒険者の皆さんから感謝され、ネムさんからはアルのことで感謝されと、ギルドに久しぶりに顔を出したら色々なことがあった。

 だが、肝心の依頼に関しては、これといったものが見当たらなかったのだ。

 というか、恒常依頼の薬草採取や、スライムの討伐とか、それこそ俺たちがギルドに加入するときに受けたような依頼しかない。

 ……もしかして、ギルド本部って仕事がないんだろうか?

 よくよく考えれば、変態に依頼したいって人の方が珍しいだろ。


「だからガッスルって、いつも暇そうなのかなぁ」

「誠一君!」

「ん?」


 我ながら失礼極まりないことを考えていると、不意に呼び止められた。

 声の主は神無月先輩で、すっかりこの街というか、世界に馴染んだように、制服姿からこの世界で一般的な服へと変わっている。


「神無月先輩! 数日ぶりですね」

「ああ、そうだね。私としては数百年も離れていたような気分だよ」

「逆に今までは大丈夫だったのかそれ!?」


 この数日会わなかっただけでそうなら、今までもっと長く離れていたのはどうなるというんだ。恐ろしいので詳しく聞かないけどさ。


「そ、それよりも、どうです? この街は……」


 ルイエスに保護された神無月先輩たちだが、ランゼさんの取り計らいで、お城に滞在させてもらうことが決定したのだ。

 本当なら部外者である神無月先輩たちをそう簡単に泊めるのもどうなのかと思ったが、俺の知り合いってだけで許可してしまった。セキュリティ面は大丈夫なのかなぁ?

 前に操られているオリガちゃんから暗殺されかけたんだし、気を付けてほしい。

 まあ実際はルイエスとかいるし、ある程度監視はするんだろうけど……。


「素晴らしいね。カイゼル帝国じゃ、まともに街を見て回るなんてことできなかったからね……それに、街の活気も全然違う」

「そうなんですか?」

「ああ。あそこはいつもどんよりとしていて暗かったよ。それに、選民思想の強い人たちばかりだから、嫌な気配が渦巻いていたんだ。そういった周囲の視線に鈍い者たちは気づいていなかったが、翔太たちはかなり参っていた。私も、結構疲れたよ」

「うへぇ……」


 神無月先輩の説明を聞いて、俺はげんなりとした気分になった。

 神無月先輩はもともと地球でも大財閥の令嬢ってことで、それこそ汚い大人たちの世界を俺たちより多く見てきたはずだ。

 そんな神無月先輩が辟易してるんだから、よっぽどだろう。


「それに比べ、この街はとても明るいね。国王陛下も気さくな方で、周囲を支える者たちも非常に優秀だ。まあ国王から気さくに接せられるという状況は、また違った意味で心が休まらないかもしれないが……」

「あははは……」


 俺がランゼさんと出会ったときは、完全に一般市民に扮した状態だったので、逆に王様だって知ったときは困惑したものだ。

 だが、ランゼさんの持っている柔らかい雰囲気のおかげで、俺はすんなりと受け入れることができた。まあ俺の場合はもっと気にしろって言われそうだけどさ……。


「まあでも、気に入ってくれたのならよかったです! やっぱりこの街……この国が好きですから」

「……そうだね」


 少しの間、俺と神無月先輩は街の様子を眺めていた。

 すると、神無月先輩は何かを決心した様子で口を開く。


「……誠一君」

「はい?」

「この間、地球に帰りたいかどうかの話をしたよね?」

「あ、やっぱり帰りますか?」

「その前にだが、君に頼みたいことがあるんだ」

「え?」

「――――学校の皆を、救ってくれないか?」


 神無月先輩は辛そうな表情でそう言った。


「君にこんなことを頼むのは間違っていると、重々承知している。君を虐め、拒絶した彼らが、君に救われる資格なんてない。もちろん、その状況を助けることができなかった私も一緒だ」

「そんな……神無月先輩たちは違います! あれは俺が勝手に……」

「君はそう言ってくれるが、私はそうは思わない。私は君に甘えていたんだ。そして、そんな私が君に、君を虐めてきた連中を助けてほしいと頼むのは……おかしい。それはよく分かっている」


 そこまで言うと、神無月先輩は顔を歪ませた。


「……でも彼らのことを考えたら、どうしてもこのまま放っておくことができなくなったんだ。私一人では何もできないというのに……」

「神無月先輩……」

「身勝手な頼みだとは分かってる! でも、もし……可能なら……彼らのことを、助けてほしい……」


 神無月先輩はそういうと、俺に頭を下げた。

 ……なんていうか、今日は一日中頭を下げられる日だな。

 感謝されたり、謝られたり……。

 でも一つだけ言えるのは、俺は人が悲しんでる姿を見るより、喜んでる姿が見たい。


「神無月先輩。顔を上げてください」

「っ……」

「正直、俺は学校の皆には興味がありません。俺が本当に大切なのは神無月先輩たちです。だから、彼らがどうなろうと、もう俺には関係ない……そう思ってました」

「……」

「でも、彼らにも家族がいて、彼らのことを大切に思ってる人がいるって考えると、俺もモヤモヤした気持ちになるんです。このままでいいのかな? って……まあ今は地球で俺たちの情報は消されてますが、たとえそうだとしても、彼らに親がいるのは確かです。ただ、俺はその人の家族を考えるより、神無月先輩たちが笑ってくれてる方が重要なんですよ」

「え?」


 俺の言葉が予想外だったのか、神無月先輩呆けた表情を浮かべた。


「任せてください。俺が何とかして、皆を連れてきますから」

「誠一君……本当にいいのかい……?」

「はい! だって助けないと、神無月先輩が笑えないんでしょ? それなら助けるしかないじゃないですか」


 俺のことはどうだっていい。

 ただ、俺が大切だと思う人が笑ってくれればいいんだ。

 だから、神無月先輩が学校の皆を助けたいって言うのなら――――。


「俺が、皆を連れて帰りますよ」

「誠一君、君は……」


 安心させるように笑いかけると、神無月先輩も釣られて安心したらしく、笑みを浮かべた。


「そうか……なら、私は君への礼として、この体を差し出そう」

「え」

「いやあ、この世界での私は他に差し出せるものがないからね! なんて不便なんだ! こうなったら体を差し出すしかないよね? ほら、遠慮することはない。さあ、私に若い欲望を存分にぶつけてくれ!」

「へ、兵隊さあああああん!」


 怪しい目つきで迫って来る神無月先輩を前に、俺は全力で逃げ出すのだった。

3月30日より、『進化の実』の第14巻が発売されました。

書きおろしもございますので、こちらも読んでいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 世界もよく俺に気を利かせて動いてくれるし。 確かにこれは異世界を信頼するわなぁ…
[一言] >一個人の戦闘力が本当に戦況を左右するのかね? 軍隊を1人で海に捨ててきた奴が何言ってんだ
[一言] アニメ第二期の発表があったとかなんとか?
感想一覧
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