お久しぶりです!
◆◇◆
【柊誠一様】
お久しぶりです。ステータスです。
長らく不在だったこと、ここにお詫び申し上げます。
そして、私、ステータスは――――帰還いたしました。
◆◇◆
そう書かれたステータスを前に、呆気にとられる俺。
なんと、世界が言っていたあの者とは、ステータスのことだったのだ!
予想外の帰還に驚いていると、アルが訝し気に俺を見る。
「おい、一体どうしたんだよ? 結局、この世界からの声は一体……」
「その……俺のステータスが帰ってきたというか……」
「お前は何を言ってんだ?」
俺が聞きたいくらいだよ!
そもそもステータスが家出してたって状況がおかしいんだからさ!
すると、世界が得意げに言う。
『確認されたようですね。このように、ステータスが帰還したことで、魔神へ干渉する術を私は得たのです』
「いや、俺のステータスが帰ってきたことと、世界が魔神に干渉できるようになるのはどう考えても繋がらなくね?」
何をどうすれば魔神に繋がるって言うんだよ。
それは俺だけが感じていた疑問ではなく、魔神本人も同じ疑問を感じていた。
「……訳が分からぬ。世界からの干渉ですら我にとっては不愉快極まりないというのに、またさらに理解不能な存在によって我の力が邪魔されるだと?」
『誠一様を、たかが全知全能の神である貴方ごときが理解できるはずがありません』
だから、全知全能の意味知ってる?
そんな存在が俺を理解できないって相当よ? なおのこと俺が自分のこと分かるわけないよね!
その後も、魔神は色々と試しては自身の力を発動させようとするも、すべて失敗し、何も起きない。
「あり得ぬあり得ぬあり得ぬ! 何故我の力が発動しないのだ!」
『すでに貴方は、誠一様のステータスによって弱体化しているのですよ』
「弱体化だと!?」
世界の言葉に、魔神は信じられないといった様子で目を見開く。
それは俺たちも同じで、魔神と世界にやり取りを前に唖然としていた。
というか、本当にどうして魔神の弱体化に俺のステータスが関係してるんだよ……。
「な、なあ、どうして俺のステータスが魔神の弱体化に関係してるんだ?」
『そうですね……私もまだ正確なことは把握できていないので、ステータスに説明してもらいましょう』
もうステータスに説明とか訳の分からない言葉が出てきても驚かない。
すると、俺の表示していたステータスが変化し、新たな文面が出現した。
しかも、そのステータスは拡大され、まるでホログラムのように浮かび上がり、空中に映し出されたことで、俺だけでなくサリアたちも見ることができるようになった。
◆◇◆
以前、私は誠一様のステータスを表示できないと悟り、旅立ちました。
自惚れていたのです。
私であれば、どんな存在でもステータスとして表示できると……。
しかし、実際は違いました。
誠一様が王都テルベールにて、魔物の軍勢を殲滅した後から、私はすでにステータスとしての役目を放棄していたのです。
貴方様のすごさを伝える手段がないからこそ、もはや言葉で表記するしかないと。
しかし、その後も誠一様はどんどん先へと進んでいき、ついには私のステータス表示では表しきれない領域まで行かれました。
だからこそ、私はその事実を認めたくなくて、逃げ出してしまったのです。
◆◇◆
ちょっと待ってほしい。
もうすでにツッコミどころしかねぇ。
ステータスが最初から自我みたいなのを持っていたことにも驚きだし、旅立ちだと思ったら、実は逃避でした、とか……。
「ステータスさん、苦労したんだね……」
「あの、サリアさん? その言い方だと、俺が悪いみたいな……」
「違うのか?」
「違いますけど!?」
俺だって好き好んでこんなめちゃくちゃな体になったわけじゃないからね!?
……いや、まあこの訳の分からない肉体のおかげで、魔神を相手にしてもこの調子でいられるわけだから、嘆いてばかりではないというか、感謝はしている。
ただそれにしても、もう少し扱い方ってあると思うんだよね!
◆◇◆
逃げ出した私は、しばらくの間様々な世界を巡りながら、私という存在理由を探し求めていました。
私がいることで、何ができるのだろうかと。
世界を巡る中で、私と同じようにステータスという概念として、その世界で活躍している同僚を見ると、やはりやる瀬なく、どうして私はこんなにもダメなんだと、常に自分を責め続けました。
同僚はあんなにも完璧にその世界の住民たちをステータスとして表しているのに、私はできないのかと。
◆◇◆
「ステータスさん、かわいそう……」
「だからサリアさん? それだと俺が悪いみたいな……」
「違うのか?」
「だから違いますけど!?」
そ、そりゃあ申し訳ないとは思う……いや、思うのか?
と、とにかく、俺の体が原因でステータスとしての役割を果たせなくなったのなら、申し訳ない。
ただ、俺は別にステータスをちゃんと表示してほしいとは思ってなかったし、何なら敬語表記のままでもよかったのだ。
◆◇◆
やはり、私がちゃんと機能していなくてもよかったんですね……。
◆◇◆
めんどくせえええええええええええええ!
あれ!? 今って魔神がどうして弱体化したのか説明されてる状況だよな!? いつから俺を責める会に変わった!?
「主様のステータスだというのに、ずいぶんと腑抜けたステータスですね」
「待て、ルルネ! そう言うと余計に俺が悪くなるから!」
「……ん。食いしん坊、さすがに理不尽。誠一お兄ちゃんのステータスは頑張ってると思うよ」
「そ、そうですね。誠一さんのステータスさんは、よく頑張っていたと思います!」
とうとうステータスを慰め始めたよ!
ステータスの境遇に皆が同情する中、俺一人頭を抱えていると、ステータスは続ける。
◆◇◆
そんなわけで、私は世界を巡りつつ、色々なことを考えていました。
どうすれば私が誠一様のステータスに相応しい存在になれるのか……。
すると、私はある日、とある境地に達したのです。
――――そうだ、他の人のステータスになろう、と。
◆◇◆
何でええええええええええ!?
お前、俺のステータスだよねぇ!?
しかもそれ、境地どころかただの諦めじゃん!
とうとう本格的に俺のステータスって役割を捨てやがったな!?
「まあ誠一なら仕方ないね!」
「ああ。それが一番合理的だろう」
「己の分をわきまえたな」
「……ん。賢い」
「い、いいと思います!」
「思いのほか高評!?」
俺のステータスだって言ってるじゃん? どうして?
◆◇◆
ちゃんと理由があるのです。
ルルネ様のおっしゃる通り、私が誠一様のステータスになろうなど、元々烏滸がましかったのです。
誠一様はこの世で唯一ステータスで表すことができない存在。
そんな存在に、私が不敬にもステータスになろうと努力するのは、ただただ不毛でした。
◆◇◆
そんなことないよ!?
ほら、諦めたらそこで全部終わりだから! 頑張ろう!?
◆◇◆
なので、他の存在をステータスで表そうと思ったのです。
◆◇◆
だから何で!?
何度も言うけど、アンタ俺のステータスでしょ!?
◆◇◆
誠一様のことをステータスで表示できないからこそ、他の存在はすべてステータスとして表示できるようにしたかったのです。
たとえそれが、ステータスという概念がない世界だったとしても、私はそこに存在する者をステータスという枠の中に捉えるよう、修行することにしました。
◆◇◆
話の規模がでけぇ!
ただ俺のステータスを表示するって話から、なんで他の世界にまで広がってるの!?
◆◇◆
こうして目標ができてからは、ただがむしゃらに様々な存在をステータスという枠に捉えるよう、動き続けました。
一般的な人物から物、概念……とにかく一つの世界を、その世界が構成されるすべてをステータスで表せるようになり、最後は世界そのものをステータスで表示できるようになると、次の世界へとまた移動する毎日でした。
ただ、これを無暗に続けるだけでは、誠一様のもとに戻るとき、一体何年経過しているのか分かりません。
そこで、一つの世界を完全攻略した後、私は『時空間』をステータスとして捉えることで、時間という枠に縛られず、様々な世界を攻略していきました。
◆◇◆
「時空間のステータスって!? そんな訳の分からないものをステータスで表示するより、俺をステータスで表示するほうが早いよね?」
「そうか?」
「うーん……誠一のステータスを表示するほうが難しいんじゃないかなぁ」
「……時空間はまだ分かるもんね」
分かるの!? 俺にはさっぱりだよ!
◆◇◆
さて、『時空間』を支配下に置いた私は、本当に様々な世界を巡りました。
戦闘民族が強者と争う世界。海賊たちが一つの大秘宝を探し求める世界。忍者たちが生きる世界……。
他にも、巨人の世界や巨大ロボの世界もあれば、別次元の神々が争う世界など、すべての世界を見てきたのです。
◆◇◆
何だか聞き覚えしかないような世界だな!? 大丈夫? 怒られない?
◆◇◆
その結果、私は生物、無生物、事象、概念、因果、その他諸々、すべての物をステータスという枠組みで捉えることで、【上限値】を設定する術を得たのです。
◆◇◆
「お、おお……」
どうしよう、何がすごいのかよく分からん!
そんな小難しい話より、俺のステータスとして存在しているほうがよっぽど楽だと思うんですが。
しかし、そんなことを考える俺をよそに、ステータスはどこかくたびれたような文面を表示する。
◆◇◆
本当に大変でした……世界によっては、私の能力を無効化するだの、私の能力そのものを奪うだの……反射したり、ステータスである私を消したり、殺したり……様々な妨害がありましたが、私はあの手この手で言葉を弄する連中をも降したのです。
もはや、私にステータスを与えられない存在はいません。
◆◇◆
「お、おお! やっぱりよく分かんねぇけど、そこまで言うんなら俺のステータスも……!」
◆◇◆
あ、無理です。
◆◇◆
「だから何故えええええええええええええ?」
おかしくね!? どんな存在にもステータスを与えられるようになったんだろ!?
そもそも無理なら帰ってきた意味は!?
◆◇◆
確かに、私はすべての世界に存在する、様々な言葉遊びをする連中の能力を無視して、一方的に力の限界を与えることができるようになりました。
ですが、誠一様はそもそもその次元にいらっしゃらないというか……どの存在と比べても議論の余地なく無敵なのです。
◆◇◆
「誰の話?」
◆◇◆
誠一様ですが?
◆◇◆
「嘘だああああああああああ!」
『嘘も何も、ステータスの言う通り、誠一様はもはやこの世に存在する言葉では表現できないものですよ?』
そんなとんでも現象みたいになった覚えはありません!
何なのよ!? この世の言葉じゃ表現できないって!
なら今ここにいる俺は何なんだよおおおおおおおおおお!
帰還して早々、ステータスに精神的ダメージを食らわされる俺。
すると、今でのバカみたいなやり取りを黙って見ていた魔神が、体を震わせる。
「……まだ、我をコケにするつもりか? 何故我の力が使えなくなったのか……その理由を知り得ることができるならと、貴様ら無能生物の生産性のないやり取りを黙って見ていた。しかし、何も……何も分からぬ! 貴様のステータスが戻ってきたことと、我の力が通じないのは何の関係もない!」
空間全域が震えるほどの咆哮に、サリアたちが身を竦ませた。
しかし、そんな咆哮を受けてなお、ステータスは淡々と表示する。
◆◇◆
ここまで語って分かりませんか?
私は、貴方のような神にすら、ステータスという【上限値】を設定することができるようになったのです。
これにより、貴方は決して無限の存在ではなくなった。
所詮、数値として計測できる範囲の存在に落ちたのですよ。
◆◇◆
『ステータスの言う通り、数値として計測できる貴方はすでに神として弱い。だからこそ、私もこうして干渉することができたんですよ』
「それこそあり得ぬ! この我を推し量ることなど何人たりともできんのだ! たかが世界の機構ごときが、創造主たる我に、その概念を押し付けるなど……!」
◆◇◆
そうですか?
まあ貴方がそう思い込みたいのであれば、それでも構いません。
私はただ、貴方という存在を、どんどん数値という枠に落とし込み、存在値を減らしていくだけですから。
◆◇◆
「何を――――ぬぅ!?」
ステータスにそう表示された瞬間、魔神の体に異変が起きる。
魔神は人間でいう心臓部分を押さえると、突然苦しみ始めたのだ。
「ぐっ……がああああっ! や、やめろ! 我の……我の力が……!」
そして、魔神の体からどんどん漆黒の靄が噴出し、世界すべてを押しつぶしそうだった存在感が、どんどん薄れていくのを感じた。
「ま、待て! 待ってくれ! 我が、我が消える! 集めた力が、消えていく!」
『これこそが、ステータスの力です。仮に貴方がステータスを無効化できる力を持っていたとしても、貴方が消滅する結末は変わらない。何故ならステータスを無効化した場合、それは【ステータスがない】ことになり、ステータスがない以上、そもそも存在しない扱いとなって、消滅するのですから』
「な、何を訳の分からぬことを……と、とにかく、やめろ! 我は貴様らの創造主だぞ!? それをこのような……!」
『確かに貴方は創造主です。しかし、誠一様以上ではない。生み出してくださったことには感謝していますよ。貴方のおかげで、我々は誠一様と出会えたのですから』
「や、やめろおおおおおおおおおおおおおおお!」
必死に手を伸ばしたり、散っていく力をかき集めようとする魔神。
だが、その行動も空しく、力はどんどん霧散していき、それと同時に魔神の体も薄くなっていくと、最後に魔神は膝をつき、倒れこむ。
そして――――そのまま粒子となって消えてしまうのだった。




