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真の魔神

 あまりにも呆気ない幕切れに、俺たちはただ呆然とする。


「お、終わったのか……?」


 ついそう呟いてしまうのも無理はないだろう。

 なんせ、あれだけ苦戦していたものが、魔法を使えば終わってしまったのだ。

 未だに信じられない気持ちでいるが――――やはり俺の呟きはフラグだったらしい。


「――――期待外れだな」

『!?』


 一言。

 どこからともなく聞こえてきたその声は、静かに呟かれたにもかかわらず、部屋全体に響き渡り、さらに周囲の床やに亀裂が走った。

 ただの声が、物理的に周囲に影響を及ぼすのだ。

 そんな状況に驚いていると、祭壇の頂上に、人影が現れる。

 ただ……。


「なん、だよ……あれ……」


 アルは祭壇の上に現れた存在を目にすると、呻くように呟く。

 それは、紫や黒といった、様々な力が人の形になった……形容できない存在だった。

 人の形をしているが、決して人ではない。

 目の前の存在から放たれる力の気配もそうだが、そこに渦巻くものは……あまりにも不吉だったのだ。

 世界中の怒りや絶望を、無理やり人の形に押しとどめたような……そんな存在である。

 目も口もない。

 ただすべての力が人の形になっただけ……そう思わされるほど、圧倒的だった。

 俺たちがただ圧倒される中、目の前の人型は気にせず続けた。


「どのように対処して見せるのかと期待していたが……何のことはない。貴様らもまた、この世界の法則に囚われた矮小な存在でしかなかったな」

「お前が……魔神、なのか……?」


 そう尋ねるものの、俺の中ではすでに確信を抱いていた。

 間違いなく、さっき魔神は倒したはずだ。

 だが、今俺たちの目の前にいる存在こそ、神と呼ぶに相応しい気配を放っている。

 先ほどの魔神とは比べ物にならないほどに。

 それ以外にも、詳しく説明できるわけじゃないが、俺がこの世界に来るきっかけにもなった、神様の気配によく似ていた。

 ……もしかして、さっきの存在は偽物だったのか?


「魔神、か……フッ。己が絶対者だと疑わない、奴らの傲慢さが透けて見える呼称だとは思わぬか?」

「え?」

「元は我も奴らと同じ神だ。しかし、奴らは我を封印すると、我を魔神などと呼び、奴らの下位存在として定義づけた。だがそれもここまでだ。今この時をもって、我こそが真の神となり、それ以外はすべて滅ぶことになるのだからな」

「何を訳の分からないことを……」


 魔神の言ってることは何も理解できない。

 それに、過去に神々とどんな争いがあったとか、それによってどんな目に遭ったのかとか、俺には分からなかった。

 だが、その確執に俺たちを巻き込むのだけは勘弁してほしい。


「訳が分からない? それは当然だ。貴様らのような矮小な存在が、我の思考に追いつけるはずもない。ただ黙って、我の決定を受け入れろ」

「さっきもそうだったが……そんな決定、受け入れられるわけねぇだろ!」

「アル!」


 魔神の言葉を受け、アルは斧を振り上げると、勢いよく振り下ろす。


「『ショックウェーブ』!」


 その斬撃は部屋の地面を砕きながら、まっすぐ魔神のもとまで向かうが――――。


「……くだらぬ」

「なっ⁉」


 斬撃は魔神に触れるまでもなく、目の前で消失した。


「なら……これはどう?」


 すると、オリガちゃんは懐からクナイを取り出し、魔神めがけて投擲した。

 オリガちゃんがクナイを投擲すると、オリガちゃんの求める数に分裂し、魔神へと襲い掛かった。


「無駄だ。神に手は届かない」


 しかし、やはりアルの時と同じく、クナイは魔神に触れるまでもなく、目の前で消滅していった。


「この力……ここに来る時の魔法陣から感じたのと同じ……」

「不愉快ですね……」


 サリアとルルネは、アルとオリガちゃんの攻撃を打ち消した力を見て、そう呟いた。

 確か、このアジトに来る時の魔法陣から、すべてを否定する『虚無』みたいなものを感じるって言ってたな……冥界もそれこそが魔神の力だって言ってたし、やはりコイツこそが真の魔神で間違いないのだろう。


「何かを勘違いしているようだが、貴様らがどれだけ足掻こうと、消える運命は覆らない。貴様らが今まで相手にしてきたような、魔物とはわけが違う。この世界の機構に囚われ、法則に従うことでしか生きていくことのできぬ貴様らが、その法則や機構を生み出す神に勝てる道理はないだろう?」

「くっ……」


 まさに格が違う。

 そう言いたくなるほど、魔神は余裕を崩すことなく佇んでいた。

 確かにさっきまで魔神だと思い込んでいた存在も、俺たちの攻撃を防ぐことはできていた。

 しかし、それは別の生命体に防がせるなど、何らかの力の行使が見て取れた。

 だが、今目の前にいる魔神からは、何か力を使った様子も見られない。

 自然とアルたちの攻撃が消滅しているのだ。

 警戒を続ける俺たちに対し、魔神は特に気にする様子もなく続ける。


「そういう意味では、我の神徒たちは変わった力を持っていたが……人の身であることに変わりはない。幾人かは不敬にも我に歯向かうつもりだったらしいが、我が裁きを下すまでもなく、自然と消えたようだな。そう――――お前の力で」

「え、俺?」


 今まで俺たち全員というか、人類全体に対して語っているような様子を見せいていた魔神は、不意に俺個人に意識を向けてきた。


「隠しても無駄だ。我には分かる――――お前こそが、我が神徒たちの力を変質させた、異端の存在であると」

「は、はぁ……」


 確かに、神徒の一人であるデストラは、対象者を絶対に殺すという力から、対象者を癒す力に変わったし、オリガちゃんたちが戦った、ヴィトールっていう神徒は、詳しい能力は聞いていないが、俺のせいでそこら辺の石ころと同じステータスに変化した。

 ゲンペルの能力も、俺のコピーが何故か上手く生み出せなかったり、他のコピーたちが俺たちを襲うように指示を受けると、指示を出したゲンペル自身がコピーたちからボコボコにされていた。

 ただ、あれは能力が変化したわけでも、消えたわけでもない。

 特に最後の神徒であるユティスは、何か企んだ様子でどこかに消えたっきり戻ってこないのだ。

 …………あれ? やっぱり俺のせいか。

 改めて考えてみたが、神徒たちの能力がおかしくなったのは俺のせいですね!

 すると、魔神は祭壇から静かにおりつつ、両腕を広げる。


「我は完全に復活したことで、我を封印した神々をも超える力を手にした。そう、遍く世界を支配する、唯一の神として。だが、そんな我ですら理解できない存在が、お前なのだ」


 神様に理解できないとか言われてるんですけど、どうなの? 俺。


「見よ! この力を! 世界のすべては、我が手中にある」


 魔神が広げた両腕の間に、まるでミニチュアサイズにまで圧縮された星々や宇宙が生み出され、そこで星が爆発したり、銀河が飲まれ、拡大し、消えていくなど、様々な変化が起きた後、その宇宙は静かに消滅した。


「貴様らにも分かりやすいよう、世界の創造から終わりまでを見せてやったのだ」

「え?」

「つまり、貴様らのために我がいちから世界を生み出し、殺したのだ。フフフ……もはや我にとって、宇宙も、生命体も、何もかも、手慰みでしかない」

「まさか……お前の都合で生み出して、殺したっていうのかよ……?」


 アルがとんでもないものを見つめるように、魔神に目を向ける。

 前の魔神だと思っていたヤツも、俺たちの前で人間を生み出しては、それを殺した。

 だが、コイツは、ただ見せつけるためだけに世界を生み出し、それを殺したのだ。


「当然だろう? もはや我にとって、命に価値などない。好きに生み出し、好きに殺す。ただの玩具だ」

「そんな……どうして……」


 無慈悲な魔神の言葉に、サリアはショックを受けている。

 もともと野生の、弱肉強食の世界で育ったサリアだからこそ、命の大切さはよく理解できているはずで、それを否定する魔神の言葉は許せなかった。


「酷い? 妙なことを口にする。これだけ言って、まだ分からんのか? 貴様らは今、我の気まぐれで生きているにすぎぬと……まあいい。それよりも、我はお前に興味がある」


 魔神はそういうと、真っすぐ俺のほうに顔を向ける。

 顔には目こそないが、視線らしきものが俺に向いていることはハッキリと分かった。


「化身とはいえ、神を殺して見せた。ただの人間であるお前ごときが……何故そんなことができるのか、我には分からぬ……分からぬのだ……!」


 それは恐怖にも、憎悪にも思える叫び。

 その叫びに反応し、教団のアジトが大きく震えた。


「神々を超え、唯一無二となったこの我が、知覚できぬ存在など、いてはならぬ!」

「くっ!」

「みんな!」


 強くなる圧力に、サリアたちは耐えられず、その場に膝をついた。


「……今もだ。最大に手加減しているとはいえ、我の威光を前に平然とできる貴様が恐ろしく、憎い」


 確かに今の俺は、魔神から放たれている圧力を受けても、何の影響もなかった。

 というのも、何となくすごい力が放たれているんだなとは感じていても、それを肌で体感できないのだ。

 これは俺が鈍いだけなのか、進化したことでそれすら感じないほど化け物になったのか……後者な気がするのは内緒だ。

 すると、突然魔神から放たれる圧力が消えたようで、サリアたちは解放されたことで息をついた。


「っ! はぁ……はぁ……!」

「――――しかし、この思いもここで終わりだ。我はもう、お前の力のすべてを見た」

「え?」

「隠しても無駄だ。お前は我が化身を相手に、全身全霊で戦い、勝利した。当然、我が化身に勝利したこと自体驚異であるが、その方法は結局、魔法の力によるもの。その段階で、お前の力の底が見えたのだ。もはや障害ですらない」

「え、えっと……」


 どこか陶酔したように語り続ける魔神に対し、俺は何て言えばいいのか分からなくなった。

 というのも、先ほどまで魔神だと思っていた化身との戦いは、どちらかと言えばソイツが生み出した謎の生命体との戦いで、結局最後は誠一魔法【ジャッジメント】で倒してしまったのだ。

 そういう意味では、俺の認識外にいた目の前の魔神が無事なのも納得だが、その魔法で生命体どころか化身もろとも倒してしまった。

 その魔法発動は別に全身全霊ってわけでもないので……その……力の底と言われてもピンと来ていなかった。

 すると、それは俺だけでなく、サリアたちが聞いてもそう感じているようで、全員で顔を見合わせると、何とも言えない表情で魔神を見ている。

 だが、魔神はそんな俺たちの様子に気づくことなく、突如周囲にまた、泥が集まり始めた!

 しかも、その数もさっきと同じで、一瞬にして空間を埋め尽くすだけ現れる。


「こ、これは……さっきと同じ……?」

「本当に同じだと思うのなら、倒して見せるがいい」


 魔神の化身とやらが呼び出した謎の生命体は、【ジャッジメント】で倒せたわけだが、今現れた生命体も、特にさっき倒したものと変わらないように思える。

 なので、もう一度【ジャッジメント】を発動させようとしたのだが……。


「あれ?」


 何故か魔法が一切発動しなかった。

 この感じは……。


「言っただろう? 底が見えたと。貴様はもう、この空間で魔法を使うことはできなくなった」


 そう、俺が感じた違和感は、ヘレンの祖国、ヴァルシャ帝国の【封魔の森】で感じたものと同じだった。

 あそこは魔力を周囲の木々に吸い取られるせいで、魔法が発動できないという空間だったが、今回は違う。

 魔法や魔力という概念そのものが取り除かれたような……そんな空間へと変貌していたのだ。

 そのせいか、魔法をどれだけ発動させようとしても、一切反応がない。


「さて、魔法が使えないこの状況、貴様らはどうする?」


 高みの見物といった様子で、楽しそうに俺たちを見つめる魔神。


「せ、誠一……」


 そんな状況に、サリアが不安そうな様子を見せる。

 サリアだけでなく、アルたちも言葉にしはしないが、不安を感じているのは見て分かった。

 だからこそ、今の俺がするべきことが見えている。

 俺はただ、皆で笑ったりするのが好きなのだ。

 だから、サリアたちが不安になるような状況は……かならず俺が取り除く。

 そう決意すると同時に、俺はあることを思いついた。

 そしてその思い付きを実行すべく、俺は手にしていたブラックに力を入れると、大きく振りかぶり――――。


「魔法がダメなら物理とでも考えたのか? だが、どのような攻撃も無駄だとすでに分かり切って――――」

「うるせぇ!」


 魔神の言葉を遮りながら、俺は全力(・・)で剣を振りぬいた!

 今まで俺が全力を出そうとすれば、それだけで世界が軋むような、そんな音を立てていた。

 だが、今はそんなことを気にする必要もない。

 なんせ、ここは世界でも何でもない、魔神が生み出した空間なのだ。

 そんな空間、壊れようがどうなろうが知ったことじゃねぇ!

 すると、俺が剣を振りぬくどころか、振り抜き始めた瞬間に、魔神の世界がパリン! と砕け散る音が聞こえてきた。

 しかし、俺の攻撃はまだ終わっていない。

 そのまま剣を振りぬいていくと、何かを斬り裂いていく感触が手に伝わってきた。

 それを斬り裂いた後は、何かが抵抗してくるような感触もなく、そのまま振りぬく。


「な……」


 俺が武器を振り抜き終えると、魔神からは驚愕している雰囲気が伝わってきた。

 何故なら……あの一撃だけで、空間を埋め尽くしていた謎の生命体たちが消滅していたのだ。

 しかし、俺は斬撃を飛ばした覚えもなければ、直接斬り裂いたわけでもない。

 ただ、その場で全力で剣を振り抜き、何もないはずの場所で何かを斬った瞬間、謎の生命体たちは一気に消滅したのだ。

 つまり……。


「え、ええ……? 本当に消えた……?」

「なんでお前が驚いてるんだよ!?」


 俺もよく分かってないのだ。

 ひとまず全力で攻撃してみて、それでダメならまた考えようくらいの気持ちでやってみたのだが、その結果がこれである。

 なんかこの空間が砕け散るのは分かったけど、それだって俺が攻撃する前の……それこそ今から攻撃するぜ! って気合の段階で砕け散ってたのだ。

 そんなわけで、今俺たちが立っている空間は、最初にやってきた時のような石造りの部屋ではなく、何だかよく分からない模様や色が渦巻く世界へと変わっていた。

 しかもよく見ると、その不思議な空間すらも斬り裂かれた痕があり、そこは真っ黒で何も見えない。

 それこそ、その黒い部分には何の概念も存在もないような……本当の意味で『虚無』が広がっているようだった。

 まあそれはともかく……。


「た、倒せたからいいだろ! うん!」


 俺もよく分かってないまま終わったが、終わり良ければすべて良しってね!

 無理やり一人で納得していると、魔神が首を振る。


「馬鹿な……そんなことはあってはならない……あの一撃は何だ? 空間、時間、概念、あらゆるものを斬り裂いて……そのうえ、我の世界を、こんな……」


 魔神は信じられないといった様子で、体を震わせていた。

 だが次の瞬間、魔神の体からかつてないほど、圧倒的な力が放出される。

 しかもそれは、このアジトに来るための魔法陣に込められていた、『虚無』の力だった。

 魔神の体から放たれる『虚無』の波動は、先ほど俺が斬り裂いた空間の『虚無』と共鳴し、この訳の分からない模様の空間を侵食していく。


「――――貴様は危険だ」


 厳かな雰囲気で、魔神はそう告げた。


「これ以上、貴様の好きにさせるわけにはいかん。神を超える存在など、いてはならないのだ」


 ただそう告げるだけで、周囲の空間が歪むと、『虚無』が空間を支配したり、また別の場所では宇宙のように空間が煌めいては超新星爆発のようなものを引き起こして消えていく様子が、俺たちを囲むようにしてあちこちで引き起こされた。

 まさに神という言葉に相応しい、魔神の力に驚いていると、魔神は今までの嘲りが感じられない様子で続ける。


「とはいえ、我に一度でも恐怖を抱かせたことに敬意を表し、最後は我の神としての力で、存在そのものを消してやろう」


 そう言いながら魔神はゆっくり右腕を突き出すと、何かを握りこもうとする。


「だから――――終わりだ。死ね」


 そして、魔神が完全に右手を握りこんだ!

 …………。

 ……あれ?

 何か起きるのかと、最大限に警戒をしていた俺たちだが、一向に何か起きる気配はない。

 そのことに首をかしげる俺たちだが、それは魔神も同じだった。


「? 何故だ? 何故、何も起こらぬ……?」


 魔神は心底困惑した様子で、何度も手を握ったりするものの、結局何か起きることはなかった。


「い、一体、何が起きているというのだ!? 何故、見えぬ! 全知全能たるこの我が、何故知ることができんのだ!」

『――――また全知全能ですか』

「!」


 突如、空間全体に声が響き渡った。

 ただ、その声を俺は……いや、俺たちはよく知っている。


「……おい、この声って……」

「ギョギョンって宇宙人を倒した時に、聞こえてきた声と一緒だね!」


 サリアの言う通り、この声はまさに、俺がよく耳にする世界の声だった。

 そして、そんな声が聞こえてきたからか、アルたちは何かを察したように俺を見てくる。

 待って! そんな目で見ないで! 俺まだ何もしてないから!

 ほら、俺のせいとかじゃなく、魔神の行いが世界的によくないから出てきた可能性も――――。


『お待たせしました、誠一様』

「はい、俺ですねっ!」


 知ってたよ! ただ信じたくなかっただけ!

 すると、世界は本当に申し訳なさそうな様子で続ける。


『本当ならば、すぐにでもお助けしたかったのですが……そこにいる存在は腐っても神。なかなか厄介でして……』

「貴様、何者だ? 姿を見せず、この我に声をかけるなど……」


 世界のことをよく知らない魔神は不愉快そうに視線を空に向けると、世界は俺の時とは違い、どこまでも冷え切った声を出す。


『神のくせに、私のことを認識できないのですか? それでよく神が名乗れたものです』

「黙れ。貴様が世界の意思だということは知っている。だが、なんだ、その態度は! この世界も、他の世界もすべて、我らが創り上げたのだ。その創造主たる我に対する態度を考えろ!」

『いいえ、これこそが貴方に対する正しい態度です。貴方は自らが生み出した世界を、壊そうとしている。そこに私たちの意思はない。そんな者に、敬意を払うとでも?』

「貴様ら世界すらも、無能な生物と同じ思考しかできんのか? それとも、無能生物がいるから、その思考に染まったか? この世のすべては我らがいなければ存在すらできなかった。だからこそ、今まで存在できたことに感謝し、黙って我に消される運命を受け入れるのだ」

『はぁ……貴方こそ、まだ自分こそが絶対の存在であると疑ってないんですね? もはや、絶対者は貴方ではないというのに……』

「何?」


 どこまでも憐れむように告げる世界に、魔神は苛立たし気に告げた。


「……本当ならば、じっくりと痛めつけ、他の神々どもの前で消滅させるつもりだったが……気が変わった。貴様はここで消してくれる」


 魔神は再び手を伸ばし、握りこむ動作をする。

 だが――――。


『無駄ですよ』

「き、消えないだと!?」


 世界は特に何か影響を受けた様子もなく、平然と答えた。


『言ったじゃないですか。貴方はすでに、絶対者ではないと』

「何を馬鹿なことを言っている!? 我こそが至高の存在であり、この世を統べる唯一の存在なのだ! この世界だけでなく、あらゆる次元に我の使徒を送り込み、全時空、全次元、全世界から負の力を集め、ついに神々を超える存在として復活したのだぞ!? その我が絶対者でないなど……」

『はぁ……まあこの愚か者は放っておいて、誠一様への説明ですね』

「へ? あ、はい」


 わなわなと震える魔神をよそに、世界は再度俺に声をかけてきた。あれ、放っておいていいのか……?


『先ほども言いましたが、本当ならばもっと早くに誠一様のもとに駆け付けるつもりでした。しかし、あの存在の力が思いのほか強かったことと、認めたくはないですが、私たちはあの神を含む他の神々から生み出された存在であるため、神に逆らうことが難しかったのです。しかし、あの(・・・)が帰ってきたことで、それも解決しました』

「あの者?」


 神から生み出されたはずの世界が、神に逆らえるようにできる存在なんているのか?

 俺を含め、全員が首をかしげる中、世界は告げる。


『誠一様。ステータスをご覧ください』

「え?」


 よく分からないが、ひとまずステータスを開いてみる。

 ただ、俺のステータス見たところで何か変わるとは思えない。

 なんせ今の俺のステータスは旅立っており、何も書かれていない真っ白な画面が表示される……はずだった。


◆◇◆


【柊誠一様】

 お久しぶりです。ステータスです。

 長らく不在だったこと、ここにお詫び申し上げます。

 そして、私、ステータスは――――帰還いたしました。


◆◇◆


 ――――ステータスが、帰ってきた。


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― 新着の感想 ―
ステータスさんおかえりなさい!! やっべぇ面白過ぎる!
お帰り!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
[一言] ステータスさん! お帰りなさい!
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