大和ムウたちのこれから
俺の【同調】スキルにより、心を取り戻した大和様は、意地でも守神さんたちから離れないと言わんばかりに二人の服を掴み、握りしめていた。
そんな大和様の様子に今まで心を封じた大和様しか知らない二人は困惑する。
「あ、あの……ムウ様?」
「余は誰がなんと言おうと二人から離れんぞ! 余は二人と一緒にいたいんじゃ!」
「そ、そう申されましても……」
「……何故急にムウ様の心が……ムウ様の心はムウ様自身の力により、封じ込められたはず……いや、正しくは『無』になったはずなのだ。それがなぜ……」
「あー……その、それは俺のせいと言いますか、俺の体のせいと言いますか……」
完全に予想外だった俺の体の作用で、勝手に大和様の消えた心が復活したのだ。
すると、月影さんはそんな俺の言葉に目を見開きつつ、すぐに納得する。
「……なるほど。誠一殿が関係しているというのであれば、考えるだけ無駄だな」
「無駄!?」
そこまで言いますか!? ……いや、無駄かもしれないね! 俺も理解できてないから!
「いや……全知全能が僕とかいう誠一が今更何をしようと驚かねぇが……」
「そ、その言葉も未だに信じられないですけどね……で、でも、誠一さんなら納得できる気がします! 私の石化する目も解決してくださいましたし……」
「さすが主様です! ところでそろそろ食べ始めません? 私、お腹が限界に近いんですが……」
「……食いしん坊、すごく適当」
「そ、そんなことないぞ!?」
大和様の異変により、なかなか食事にありつけないことで、ついにルルネが痺れを切らしてそう提案したが……今までもルルネは俺たちの会話そっちのけでずっと食事を見つめてたの知ってるからね?
前のルルネを考えるとここまで我慢できてるのはすごいけどさ。
すると、大和様が不意に俺に視線を向けると、じっと見つめてきた。
「……なるほど、お主の力か」
「え?」
「余の心が蘇った訳の話じゃ。余は月影のいう通り、心を完全に『無』へと変えたはずじゃった。じゃが……お主の力により、その『無』となったはずの心が呼び覚まされたんじゃな」
「そ、そういうことになりますね。あの……迷惑でしたか?」
結果として大和様は二人に自分の気持ちを伝えることこそできたが、大和様が心を封じた理由を考えると、俺の体が勝手にしたことが果たして大和様にとって良かったことなのか分からない。
だって大和様は人間の醜いところをたくさん見て、傷ついたから、心を封じてしまったのだ。
それをまた、同じように裏切られた状況下で心を呼び覚ましてしまってよかったのか……。
「……お主は優しいの」
「え……」
「安心するといい。余はもう大丈夫じゃ。それよりも……あのまま余が言葉を紡ぐこともできず、二人と離れるほうが嫌じゃ。余を常に守り、心の底から大切にしてくれた二人と……余は離れたくない。だから、余の心を呼び覚まし、再び感情のまま言葉を紡ぐことができることに、心から感謝しておるよ。本当にありがとう」
大和様はそういうと、すがすがしい笑みを浮かべた。
ひとまずその様子に安堵していると、アルが口を開く。
「あー……いい雰囲気のところ悪いですが、これからどうするんです? 大和様の心が解放されたのは分かりましたが、二人の解任は決定しているようですし……」
「……でも、大和様が一番偉いんでしょ? なら、大和様が一言いえば大丈夫なんじゃないの?」
オリガちゃんがそう首をかしげると、守神さんは首を振る。
「それは難しいでござるな……ムウ様は今まで心を封じ込め、この国の象徴として生きてこられた。だからこそ、元よりムウ様には政治的力はほとんどないでござる。それに……」
「……ムウ様の心が蘇ったことを、果たして信じてもらえるかどうか……」
……確かに、二人を解任するって言ってる人らも、心を封じ込めた大和様しか知らないわけで、その心が解放されるなんて全く考えてもいないし、こうして感情が取り戻された大和様を見ても偽物だ! って逆に不敬罪だのなんだのでより面倒くさいことになりそうな気がするな……。
ついその光景を想像してうんざりしていると、大和様は静かに告げた。
「ならば、余とこの二人を外つ国へと連れ出してほしい」
「え?」
「もはや余がいなくとも、この国は回る。それはこうして余の心が蘇るまで続いていることから分かることじゃ。確かに此度はこの星どころか宇宙という広い空からの外敵による侵略はあったが……それはまた特殊な事例にすぎん。だからこそ、余たちはこの国を離れ、別の場所で暮らそうと思うのじゃ。そこで、もともと外つ国から来たお主たちに頼みたいわけじゃよ」
「な、なるほど……」
「どこかよい場所を知らぬか?」
「俺もそんなに国を見て回ってるわけじゃないので、完全なことは言えませんが……」
少なくとも俺たちが今暮らしているウィンブルグ王国がとてもいい国だってことは間違いない。国王のランゼさんもすごいしっかりされてるし。
ただ……変態たちの本拠地があるんですよねぇ! いいのかな!? そんな場所勧めても!
ゼアノスたちの時とはまた話が違うじゃん!? 大和様ってお姫様、または女王様みたいなもんでしょ?
いやもう、そんなところに連れていっていいのか本気で悩むよねぇ!
するとサリアやルルネは不思議そうな表情をしていたものの、アルやオリガちゃん、ゾーラは俺と同じくギルド本部の面々を思い出し、頭を抱えていた。ですよね!!
「お願いじゃ! どこでもいい。余たちを外の世界へと連れ出してくれ!」
あまりにも真剣な表情でお願いされた俺は――――。
***
「――――というわけで、この国で暮らしても大丈夫ですかね?」
「お前サラッととんでもねぇことしてるな!?」
大和様にお願いされた後、ひとまずウィンブルグ王国の国王様であるランゼさんに、大和様たちを連れてきてもいいか直接聞くことにした。
普通ならこんなに簡単に一国の王様に謁見できたり、話したりすることはできないはずだが、ゼアノスたちを連れてきたり、ランゼさんが呪いにかかった際、それから解放したこともあって、俺はとても優遇してもらっていた。
……いや、でも以前の魔物の襲撃が起きる前にガッスルやエリスさんも普通にお城の中歩いてたし、このお城やランゼさんって想像以上に簡単に入れるのか……? セキュリティ大丈夫?
まあルイエスとかフロリオさんみたいに強い人がお城にいるだろうから、ある程度は安心なのかもしれないけど……その警戒網を潜り抜けてランゼさんを襲撃したオリガちゃんは、とんでもなく優秀な暗殺者だったのだろう。
それはともかく、ことの経緯を軽く説明し終えたところ、ランゼさんは先ほどのような反応を見せたわけだが……そりゃそうだよなぁ。休暇のために港町に向かったら、そこから一国の騒動に巻き込まれるってどんな状況だよ。
ランゼさんは俺の言葉に驚きながらもため息をつき、苦笑いを浮かべる。
「まあお前さんのそのぶっ飛び具合にこっちとしては助けられてるんだがな。とりあえず分かった。きちんと正規の手続きを踏むのであれば、別に住むのは問題ねぇよ。さすがに俺が全部手配してやるってのは難しいが、お前のご両親とかゼアノス公に頼めば助けてくれるんじゃねぇか?」
「ありがとうございます!」
この国の懐の深さには毎回驚かされるけど、本当にありがたい。その分変態がのさばってるんですけどね!
大和様たちのことを頼み終えた俺はふとあることに気付いた。
「そう言えば、ここに来るときにルイエスたちの姿を見ませんでしたけど、どうしたんです?」
「ああ……実はこの国の国境付近でカイゼル帝国の兵士たちの姿が確認されてな。報告してきた兵士の話じゃ、何かを探しているみたいだったらしいが……なんにせよ、カイゼル帝国の連中に侵攻されても困るからな。一応の保険として、ルイエスたちを向かわせたんだ」
「なるほど……」
「ま、お前が考える話でもねぇよ、これは俺や大臣どもが考えることだ。お前さんはその東の国の姫様とやらを連れてきて、手続きをしてやりな」
「はい!」
ランゼさんから承諾をとれた俺は、再び東の国に転移魔法で戻ると、用意されていた食事を食べたのち、大和様たちやサリアたちを連れてもう一度テルベールまで戻ってくるのだった。




