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ギルド

「おお!」

 俺は門を抜けて街に入ると、目の前に広がる光景に思わず感嘆の声を上げた。

「うおっ!ネコ耳だと!?ば、馬鹿な……!」

 そして、街を行き交う人々の中で、ネコ耳を生やした人間もちらほらと見かけた。

 しかし……ネコ耳の獣人がちゃんと存在するとは。これは、ネコ耳メイドをお目にかかれる日はそう遠く無いやもしれん。

「しかし……本当に色々なヒトがいるなぁ」

 ネコ耳以外の耳や尻尾を生やした獣人や、異常に背の低い人と言った感じで色々な人がいる。

 まあ、知識としては知っていたけど、実際に目にすると感動が一入ひとしおだな。

 辺りをキョロキョロと観察していると、サリアが楽しそうに声をかけてくる。

「誠一見て!何か売ってるよ!」

 サリアが指さす方向では、地球の祭りなどでよく見かける焼きそばの様なモノを作って売っていた。

「おお。そう言えば、まともな食事を旅の最中はしていなかったなぁ……」

 俺もサリアも、羊から貰った食料くらいしか手持ちが無かったので、簡単な料理しか食べていなかった。

 こうして街に来たのだから、調味料なんかを揃えるのもいいだろう。

「露店がかなり多いな……。やっぱり異世界じゃ当たり前なのかな?」

 隣にいるサリアにも聞こえない程度で思わずそう呟く。

 そして、そう呟いた時、俺はある事に気付いた。

「……あれ?なんか……黒髪の人が……いない?」

 思わず探してしまったが、俺と同じ黒髪の人間が一人も見当たらない。

「え?……本当だね。誠一と同じ髪の色の人はいないね」

 俺の呟きがサリアも聞こえたらしく、軽く辺りを見渡し、そう言った。

 ……もしかするとだが、この世界では黒髪の人間は珍しいのかもしれない。

 それこそ、俺とは違う形で召喚された学校の連中が殆ど黒髪な訳だから、勇者の一人と言う扱いとして騒がれるかも。……まあ自意識過剰な気がしないでもないが。

 とにかく、勇者の一人なんて言う事を言われたら、今すぐ戦場に放り出されるだろう。学校の奴等が召喚された理由が、魔王を討伐するためだった訳だし。

 あ、でも俺クロードに対して普通に名乗ったな……。この世界じゃ誠一なんて名前珍しい筈なんだけど。騒がれなかった事を考えると、珍しい名前だな位にしか思われてないかもしれない。

 色々と気になる事はあるんだけど、それでもやっぱり一番心配なのは賢治達の事だ。大丈夫だとは思うけど……。今度、召喚された勇者の噂みたいなものを探ってみよう。何か分かるかもしれないしな。

「しっかし……迂闊にローブが脱げなくなったな」

「何で?」

「まあ……色々あるんだよ」

 サリアの質問に適当な事を言った後、俺は少し考える。

 まず、スキル『偽装』についてだ。

 最初は見た目や、相手に見えるステータスが変わっていたのに、実際に攻撃したりすると相手に見えるステータス通りの攻撃力は発揮せず、過剰な攻撃力を発揮した。

 それが、今では見た目の変化も解除され、以前と同じ様に相手に見えるステータスの表示は低下したままな上に、そのステータス通りの力に制御できるようになった。

 恐らく、最初の『偽装』は、見た目だけを偽ることで、相手を油断させる程度の効果しかなかったのだろう。だから、漫画とかに登場する様な強い奴と出会えば、『コイツ……デキるな』みたいなやり取りが発生するんだろう。

 それが、ランクアップして、本当の実力さえも偽れるようになった……こんなところだろう。

 うーん……もし、俺の予想が本当なら……色々と面倒だな。

 見た目も偽装しててくれた方が、今となっては良かったかもしれん。ただ、髪の毛が金髪とかに変わるかどうかは分からないが……。

 一人であれこれ考えていると、サリアが俺の手を引っ張ってきた。

「ん……どうした?」

「どうした、じゃないよ!何時までここに立ってるの?」

「あ」

 サリアにそう言われて、俺は初めて気付いた。

 門を抜けてから、俺達は全然移動していない。

 後ろからどんどん人は追い抜いて行ってたわけだが、俺達はとても邪魔だっただろう。

「……ゴメン、んじゃ行こうか」

「うん!」

 早速歩き出すと、隣を歩くサリアに訊く。

「そう言えば、露店とかの食べ物でも買っていくか?」

「う~ん……少しお腹もすいてるし……食べる!」

「よし!」

 サリアの返事を聞いた後は、一緒に露店を巡りながら食べたいものを探した。

「凄く賑やかだなぁ」

「本当だねぇ~。皆笑顔だし!」

 どこか嬉しそうにサリアがそう言う。実際、街を行く人たちは、皆笑顔だった。

 そんな風に周りを見渡していると、何人もの人がサリアを見ている事が分かった。それも、大半が男だったが、その中には女性も交じっており、サリアの姿を見て惚けた表情を浮かべている。

 しかし、そんなサリアの隣にいる俺の姿を見て、殆どの人間が訝しげな表情を浮かべていた。

 まあ、今のサリアは文句無しで可愛い。そんな奴の隣にフード被ったローブ姿の奴がいたら誰もが怪訝に思うよな。

 ただ、一つ言わせてもらうぞ。特に男性諸君はよく聞け。――――サリアはゴリラだ。

 どうでもいい事を考えつつ、俺は素直に思った事を口にした。

「この街だけがそうなのか、それとも国全体でそうなのか……どちらにせよ、皆が笑顔なのはイイ事だよな」

「そうだね!」

 活気あふれる街にいると、自然と俺たちまで楽しくなる。

 ゼアノスの知識ではこの場所はテルベール等という名前では無かった事を考えると、国も変わっているかもしれない。何ていう国名だろうか。

「……ん?あれは……教会か」

 ふと、視界の端に入った建て物に俺は視線を向けた。

 すると、青と白を基調とした、絵本の中に出てきそうな教会がそこにはあった。

「なんて言う宗教だろう……」

 少しに気なりもするが、今はさほど重要な事でもないので、スルーした。

 他にも、王都と言うだけあり大きなお城も見え、サリアと一緒に少し興奮したりもした。

 しばらくして、サリアが食べたいと思った食べ物が見つかり、俺達はそれを購入した。

「わぁ~!美味しそうだね!」

 買った物は、鶏の唐揚げの様なモノ。ただし、使われている鳥肉は、決して鶏では無い。『アブーク』と呼ばれる魔物の一種だそうだ。ここ、重要。

 一緒に同じ物を買った俺達は、食べ歩きをする。

 早速包まれた唐揚げに、針のように硬くて鋭い葉っぱで刺し、口に放り込んだ。

「あっふ!おっふ!」

 うん、熱かった。

「ほーっ!ほーっ!」

 口の中で必死にハフハフしていると、隣でサリアはフーフーして少し冷まし、それを口に放り込んだ。

「う~ん!美味しいね!」

「ほっ、ほうだね(そ、そうだね)」

 実際は熱くて味が全く分からんのだが……。俺のミスだから仕方が無い……ぐすん。

「はー……熱かった」

 一口目を食べ終えた感想がこんなモノだという事に軽く俺は絶望するのだった。普通、美味しかったって言うのにね。

 そして、全部の唐揚げを食べ終わると、俺達は目的地の場所まで移動する事にした。

「それで、クロードの話だと、ここら辺の筈なんだけど……」

「どんな場所なんだろうね~」

 俺たちが目指している所はギルドである。

 ただ、クロードの反応が未だに引っ掛かっており、凄まじい不安を覚えている。一体どんな場所なんだよ……。

 クロードに教えてもらった道を歩いて行くと、やがて一つの建物に辿り着いた。

「ここ……だよな?」

「うん、多分そうだと思うよ」

 俺達の目の前には、赤い屋根と剣と楯が描かれた看板が掛けてある建て物があった。

 ちなみに、看板の剣と楯のマーク以外にも、この世界の文字でギルドとしっかり書かれてもあった。

 二階建な上に、かなりの大きさだった。

「……」

 木で作られた両開きの扉で、誰でも気軽に入れる感じはするのだが……。

「……スゲー怖い」

 いざ建物を目の前にすると、思わず尻込みしてしまう。

 だって……クロードが凄く不穏な言葉を言ったんだもん。一体このギルドが何だって言うんだ……。

 俺の目には、目の前の意外と綺麗な建物が魔物の棲む洞窟のように見えてならない。

 よく聞こえないが、中からはなにやら叫び声も聞こえるんだけど……。

 でも、何時までも入口で突っ立っている訳にはいかない。それに、サリアから危険があるかもしれないギルドに入らせるなんてもっての外だ。

 俺は深呼吸をすると、意を決してギルドの扉を開いた。

「ほらほらほら!このクソ豚!卑しい声で啼きなさい!」

「もっと……もっとぶってええええええええええええええっ!」

 俺は無言でギルドの扉を閉めた。

「……」

 少しギルドから離れると、もう一度建て物の看板に書かれた名前を確認する。

「…………うん、ちゃんとギルドだね」

 おかしいな……ギルドに入ると、ボンテージを着た女性が、皮鎧に身を包んだむさいおっさんを縛り上げ、鞭でぶってる姿が目に飛び込んできた気がするんだけど……。

 …………そんな訳ないよな。ギルドって様々な依頼を達成してお金を稼ぐ組織だもんな。決してSMクラブみたいな場所な訳が無いよな!

 俺は一人頷くと、再びギルドの扉を開いた。

 すると、ギルドの奥の方では、気のせいだと思っていたボンテージ姿の女性がむさいおっさんを踏みつけていた。

「ハァ!ハァ!その靴で俺を踏んでくれ!」

「『踏んでくれ』ですって?『踏んでください』の間違いでしょう?」

「はぅぅぅぅ!」

 無言で他の場所に視線を向けると、目が血走った男がギルドのカウンター席を振りまわして暴れている。

「何でもいい……俺に物を壊させろおおおおおおおおお!」

「またグランドの奴が暴れてるぜ?お前、止めて来いよ」

「はあ?俺はこの街の美少女図鑑を更新させるので忙しいんだ!」

 また、他の場所に視線を向けると、そんな光景など意にも介さずに朗らかに挨拶をかわす男達がいた。

「おお!スラン氏!今日はお出かけですかな?」

「ええ。絶好の露出日和ですからな!少し市場辺りで全裸になってこようかと」

「成程……。私は広場で幼女を影からお守りしようと思いましてな。出来ればお近づきにもなりたいですしな」

「ハハハ!相変わらずですな!」

「なにはともあれ、兵隊さんのお世話にならぬよう、お互い頑張りますか!」

「そうですな!毎回兵隊さんのお世話になっていては、紳士の名折れですからな!」

 俺は再び無言でギルドの扉を閉めた。

 …………。

「――――犯罪者の集団じゃねぇかあああああああああ!」

 俺は人通りの多い場所だという事も忘れて思わず叫んだ。

「ちょっ……ええ!?ダメダメダメダメ!アカンて!犯罪者しかいねぇじゃん!?」

 ヤバいよね!?ざっと見渡しただけでドSとドM。精神異常者と純粋な変態。露出狂にロリコン野郎が1分もかからずに見つかったよ!?

 露出狂とロリコンに至っては常習犯的な発言してね!?毎回兵隊さんのお世話になってるって言ってたよね!?

「どうしたの?そんなに騒いで……」

 サリアが心配そうな眼で俺を見てくる。

 そんなサリアの方向に視線を向けると、周りの一般人が俺の事を変なモノを見るような視線を向けていた事に気付いた。

 だが、その一般人達は、俺達の後ろの建て物――――ギルドに視線を向けると、何かに納得したような表情を浮かべ、そのまま無視して行った。

 ……って何か俺まで同じ扱いされてね!?俺こんな変態じゃないよ!?

「ああ……クロードの言ってた意味が分かったぜ……」

 こんな変態集団に登録したいとか言い出したら、そりゃあ止めるよな、普通……。

「ねえねえ、入らないの?」

「……うん。もう嫌だ」

 サリアがローブを引っ張り訊いてくるが、そう答えるので精いっぱいだった。

 こんな場所にサリアを入れる訳にはいかない。絶対に駄目だろ。

「残念だけど、他の仕事を探そう」

「え?どうして?」

「うん、とにかくダメ。色々アウトなんだよ」

「?」

 可愛らしく首を傾げるサリアを見て思う。絶対こんな変態集団にサリアを入れてたまるものか!……と。

「とにかく移動しよう。それで、新しい仕事を――――」

「その必要はなああああああい!」

 そこまで言いかけると、突然俺の声は何者かの大声によって遮られた。

 いきなりの事で驚いた俺は、突然現れた声の主に顔を向ける。

 するとそこには、ブーメランパンツを穿いた、褐色肌を惜しみなく晒す、裸の筋骨隆々な大男が立っていた。

 色々ツッコミどころ満載だが、取りあえず一言。

「…………誰?」

 すると、目の前の大男は、ニッと白い歯を見せ笑うと、両腕を広げた。

「私はこのテルベールに存在するギルドの長!つまり、ギルド長のガッスル・クルートだっ!気軽にガッスルと呼んでくれたまえ!」

 名乗り終えると、広げた両腕を力強く曲げ、力こぶを強調してきた。

 ガッスルは40代後半と言った顔立ちだが、清々しい程の爽やかな笑みを浮かべるせいか、裸の姿が全くおかしくない。もう板についてる。

 そんなガッスルには申し訳ないと思うが、ツッコまさせてもらおう。

「何で裸なんだよおおおおおおおおおおおお!」

 本当に変態しかいないんだな!?ここのギルド!

 つか、ブーメランパンツってどう言う事!?羊の用意したフルフェイスヘルメットと言い、世界観ガン無視過ぎだろ!?

 隣のサリアなんてガッスルの筋肉に軽く引いてるし!

 しかし、俺の質問を受けたガッスルは、呆れた表情を浮かべた。

「何を馬鹿な事を……。そんなの、この筋肉を人々に魅せるために決まっているだろう!こんなの常識だぞ!」

「ねぇ、俺がおかしいの?俺がおかしいのか!?」

 もし、ガッスルの言ってる事が常識なら、俺の知る常識は基本あてにならないと思う。

「遠くから少し君達の話しを聞かせてもらったが……。君達はどうやらギルドに登録したいようだな!」

 唖然とする俺だったが、ガッスルの言葉で正気に戻る。

「いや……もうそれは止めようかと……」

「遠慮するな!我々は何時でも新たな仲間を歓迎するぞ!」

「だから、登録しないって……」

「さあ、こんなところで突っ立ておらず、中に入りたまえ!」

「うん、まず俺の話を聞こうか!?」

 俺がどれだけガッスルに言っても、ガッスルは全く意に介さず俺達を強引にギルド内へと引き入れた。

 3度目になるギルド内は、相変わらず変態達が蔓延っており、サリアがそんな周りの様子を興味深そうに見て、おっさんを鞭打ってる女性を指差した。

「ねえ、誠一。あれ何やってるの?」

「しっ!見ちゃいけません!」

 まさか、これをやる立場になるとは思わなかったよ。

 それより、よくファンタジーの小説とかでは、人がギルド内に入るたびに雑談をしてた人たちが一斉に入口に視線を向けていたのだが、ギルドにいる冒険者たちは俺達に全く気付く事無く自分の世界へと没頭していた。

 ダメだコイツ等。早く何とかしないと。

 内心重いため息を吐いていると、何時の間にかギルドの受付らしき所に移動していた。

「さあ、ここで登録するんだ!」

「だから、俺達はこんな変態集団になんか登録したくないんだって!」

「何だと!?ここで登録すれば、私の様な肉体を得られるのだぞ!見よ!この肉・体・美っ!」

 マッスルポーズを次々と決めるガッスルに、俺はなんて言えばいいのか分からなかった。

 ……もうツッコミきれねぇ。何から手をつければいいんだよ……。

 ただ、一つだけ分かったのは、こんな奴がギルド長なら変態しかいないこのギルドにも納得出来るな、と。

 半眼になりながら目の前のガッスルを見ていると、突然ガッスルは目を伏せる。

「そうか……凄まじいまでに残念だな。ここのギルドで登録すれば、色々とお得なサービスが付いてくるのに……」

「……」

「宿屋だって毎食付いてくる安心安全の場所を格安で泊まる事も出来るし、どこの国に行っても道具屋や鍛冶屋なんかで色々とサービスしてもらえるんだけどなぁ~。冒険者に合わせたお勧めの依頼とかも教えてあげちゃったりするんだけどなぁ~!他のギルドじゃ駄目なんだけどなぁ~!?」

 俺の事を何度もチラ見しながら、いかにも残念だという表情を浮かべるガッスル。

 なんでだろう、物凄くガッスルをぶん殴りたくなってきた。

「そんなモノ、全く魅力的に感じないな。金には生憎困ってないし。第一、ここのギルドで登録しなくても、他のギルドで登録したってサービスの内容は変わらんだろう」

「君は分かってないな!ここのギルドがどれだけ凄いのかを!」

「うん、全然」

「見よ!この場所にいる連中を!」

 ガッスルが手で示す先には、やはり変態が蔓延るカオスな空間しか広がっていなかった。

「皆生き生きとした表情をしているだろう!?何故だか分かるか?」

「知りたくもねぇな」

「欲望に忠実なのだよ!」

「そうだろうねぇ!」

 これで抑えてるとか言ったら、世の中の人間の殆どが聖職者になると思うんだ。

「まあ、実際に私のギルドは優秀だし、本当に他の国に行ってまでサービスが受けられるのも、このギルドで登録した奴等だけだ」

「毎回兵隊さんにお世話になってるとかって言ってた人がいた気がするんだけど」

 そんな奴等が優秀な訳が無い!

「あれは、この国の兵士たちとの交流だ」

「嫌な交流だな!」

「だが、優秀なのは事実だぞ?世間で活躍しているS級冒険者も全員このギルド出身だからな」

「成程、S級冒険者は全員変態なんだな」

 取りあえず、変態=最強という訳ですね、分かります。

「細かい事は気にしない。さあ、登録して、私と同じ肉体を手に入れよう!」

「全力でお断りします」

 アレだね。テンション高い人間がいると、自然とこっちが冷静になるね。

 冷たい目でガッスルを見ていた俺だが、次のガッスルの言葉で俺の心は揺らいだ。

「うぅむ……。しかし、このギルドでは、世界中の情報がどこのギルドよりも早く手に入れる事が出来るぞ?」

「……何で?」

「このギルドは、ただのギルドじゃない。【ギルド本部】だからだ」

「!」

 俺はガッスルの言葉に目を見開くほど驚いた。

 なんてこった……。

「変態達の集まりが、ギルドの総本山だなんて……最早手遅れだったのか……」

「君、非常に失礼な事を言ってるのに気付いているかい?」

「黙れ、変態」

「これは手厳しいな!」

 口にする言葉とは違い、何故かガッスルは笑顔でマッスルポーズを決めだした。やっぱり変態だ。

「でも、ここがギルド本部だとするなら……」

 俺が知りたかった、勇者の情報も入って来るだろう。それは、俺にとってはかなり有益な事だ。

 ギルドと言うだけあって、情報の数も半端じゃないだろう。個人で情報収集するよりも、絶対的に効率もいい筈だ。

 登録するのがいいとは頭では分かっているんだが……。

「同じ変態扱いされるのが……」

 あ、ステータス的に見れば、ある意味変態だよね。もう人間じゃねぇもん。

「何事も思い切りが大事だぞ!どうする?」

 そう訊かれてもなぁ……。

 深く考え込みそうになった時だった。今まで黙って聞いてたサリアが、俺のローブを引っ張る。

「ねぇ、誠一」

「ん?どうした?」

「私は登録してもイイと思うよ」

「え?」

「だって、皆楽しそうなんだもん。それに、便利になるなら、登録した方がいいでしょ?」

 サリアの言ってる事は分かる。便利になるという事も、ギルド本部と言う言葉を聞かされた今では、信じざる得ない。

 でも、皆が楽しそうとは言っても、内容が内容だからね!?これ勘違いしてたら大変な事になるよね!?

「……ここがギルド本部で、他の国でもサービスが受けられるって事は分かったけどよ、それだと支部みたいな場所で登録した人間が不公平じゃねぇか?」

「まあな。だが、支部で登録した人間も、このギルドで登録しなおせば、同じ様にサービスが受けられるぞ?大抵の冒険者はこの街に立ち寄るし、殆どの冒険者はここで登録しなおしているしな」

「ふぅん……」

 二度手間だけど、一応できる訳か……。

 なら、大変遺憾だが、ここで登録しておいた方がよさそうだ。

「はぁ……分かった。登録させてもらうよ」

「君ならそう言うと思っていたよ!エリス君!」

 嬉しそうにガッスルが笑うと、むさいおっさんを鞭打ちしていたボンテージ姿の女性に呼びかけた。

「あら?どうかしましたか?」

「すまないが、新規の登録者だ。手続きをしてやってくれ」

「分かりましたわ」

 そう言うと、ボンテージ姿の女性は、受付にまわり、俺達の前に現れた。

「受付をするのにこの格好はいけませんわね……」

 そう言うとボンテージ姿の女性は、指を一つ鳴らす。

 その瞬間、さっきまでのボンテージ姿から大変身し、緑と白を基調とした清潔感溢れる服装へと変わった。

「見苦しい姿をお見せしましたわ。わたくし、受付嬢のエリス・マクレーヌと申します。以後、お見知りおきを」

 自己紹介を済ませたエリスさんは、綺麗なお辞儀をした。

 そんなエリスさんの見た目は、綺麗な金髪を漫画などのお嬢様キャラでよく見るドリルの様な形でカールさせており、瞳は綺麗な青色。美少女とも美人ともとれる顔立ちで、肌も白く、全体の雰囲気とも相まって非常に華やかな印象を受けた。

 ボンテージを着ていた時で、女性の平均的な体型をしていたことが確認できている。

 なんて言うか……本当に漫画のお嬢様って感じだな。お辞儀をする時も、スカートの裾をつまんでしていたし……。

 そんな感想を抱いていると、ガッスルがエリスさんについて補足する。

「ちなみにエリス君は、マクレーヌ伯爵のご息女でもある」

「マジもんのお嬢様だった!」

 つか、なんでお嬢様がこんなギルドで働いてんの!?しかもこんな変態ばかりのギルドで!ノリノリで鞭振ってたし!

「ガッスルさん。女性の情報をペラペラと語るのは感心しませんわね?一度、調教した方がよろしいのでしょうか?」

「それだけは勘弁してください」

 ガッスル弱っ!いや、エリスさんが強いのか?それより、調教って……。

「まあいいですわ。今回は、貴方とそちらの女性が登録なさるのですわね?」

「あ、はい」

「それでは、こちらの紙に必要事項を記入していって下さいませ」

 そう言いながら手渡された紙には、名前や出身地等を記入する欄が設けられていた。

「これ、全部記入しないといけないんですか?」

「いいえ。最低名前だけ記入していただけたら、それで良いですわよ」

 ゆっる!身分証作るの簡単過ぎるだろ!……まあ出身地なんて書けない訳だし、これくらい緩い方が俺的には良いか……。

 取りあえず、サリアにも紙を渡し、どんどん記入していく。サリアは人間の言葉を覚えた時に、書くことも出来るようになっていたので、全く問題ない。

 一応俺は書き終えると、サリアの分も確認する。出身地を【果て無き悲愛の森】なんて書かれたら困るしな。

「えっと……名前はサリアで、武器は……己の拳!?」

「えへへ、カッコイイでしょ?」

 確かに拳闘士だったけども!でも、もうちょっと違う表現できなかったのか!?

 サリアの武器の場所に書かれた事以外は、特にバレて困る事も書いて無く、そのままエリスさんに渡した。

「では、一度確認させていただきますわね。まず、そちらの女性は、サリアさんで、武器は……己の拳と」

 アレ!?スルー!?驚いた俺がおかしいのか!?

「……はい、サリアさんの分には不備は御座いませんでしたわ。さて、次は……」

 エリスさんは、サリアの登録用紙を一度置くと、今度は俺の書いた紙を手に取った。

「誠一さんで、武器は剣と魔法。へぇ……優秀ですのね」

「そうですか?」

「ええ。魔法を使える人間は少ないんですのよ?まあ、そのようなローブを着て、フードを被っていらっしゃるので何となく魔法は使えると思っておりましたが」

「成程……」

 やっぱり、この世界で魔法使いは意外と貴重なようだ。

 でも、クロードが言うような目立つとまではいかないだろう。

 多分、フードを被ってる事がいけないんだろうなぁ……。まだ、勇者の情報も少ないし、脱ぎたくても脱げないんだけど。

「……大丈夫ですわね。出身地等を書かれない方は多くいますし……。二人とも記入に不備はありませんでしたわ」

 どうやら、無事登録できたらしい。

 安心して胸をなでおろす俺だったが、そんな安心も束の間だった。

「そうか!では、誠一君とサリア君!君達にはテストを受けてもらう!」

「……へ?」

 いきなり告げられた言葉に俺は間抜けな声を出す。

「うむ、テストだ!このギルドで登録すれば、色々とサービスを受けられることは先程説明したな。そんなサービスを受けられるのに、簡単に登録させるわけにはいかないのでな」

「えぇ……詐欺じゃねぇか……」

 何だよ……紙に書いて登録完了だと思ってたよ……。最初に説明しろよ……。

「まあそう落ち込むな!ほら、私の筋肉が昂っているだろう!?」

「いや、知らねぇよ」

 ムキムキの腕を見せられても、そう答える以外ないだろうが。

「とにかく!テストが終わり次第、ギルドの概要を説明しよう!」

「はぁ……テストは何すればいいんだ?つか、このテストで不合格だったらどうなるんだよ……」

「不合格なんて存在しないから安心すると良い!」

「じゃあテストの意味が無くね!?」

 なんでテストなんてするんだよ。意味ねぇじゃん。

 驚きを通り越して呆れていると、エリスさんが補足してくれた。

「テストと言うのは名目上ですわ。簡単に言いますと、登録した方の実力に合わせて依頼を斡旋するための調査の様なモノなんですの。ギルドの依頼は主に討伐、採取、雑用、護衛と分かれますわ。その中で、雑用、討伐、採取の実力調査を行うんですの」

「成程……」

「ただし、テストをするにあたり、試験監督の様な方を一人用意する必要があるんですの」

「試験監督?」

「そうですわ。それも、B級以上の冒険者ですわね。誰か、知り合いにそう言った方は?」

「いや、全く……」

「なら、ギルドの方で呼びかけますわね。取りあえず、今の時点で誰がいるか確認しましょう」

「流石、エリス君だな!仕事が早い」

「ガッスルさんは、無能ですものね。このゴミ野郎」

「ごめんなさい」

 エリスさん、言葉使い汚いな。

 そんなやり取りの後、エリスさんが早速俺達のためにB級以上の冒険者を探しに行こうとした時だった。

「おい、お前」

 不意に、俺の背中にそんな声がかけられたのだった。

次回、テンプレ……では無いですよ(笑)

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