守神ヤイバの秘密
お知らせです。
皆様のおかげで、こちらの『進化の実~勝ち組人生~』のアニメ化が決定いたしました。
詳しい話などは、
Twitter……@aoimiku0505
こちらの方などで随時更新していけたらと思っております。
これからもぜひ、よろしくお願いいたします。
「……ヤバい、迷った」
女性陣は少し準備があるのに対し、特に準備の必要もない俺は、先にお風呂に向かったはいいものの、どこにお風呂があるのか聞くのを忘れていたため、絶賛迷子中だった。
サリアたちも場所を知らないだろうし、訊くならこのお城にいる誰かなんだろうけど、その誰かに会わない。
「てか、ここどこだ?」
思いのほか入り組んでいる場内に四苦八苦していると、徐々に歴史を感じさせるような空間になってくる。
「あれ? こっちの方はギョギョンたちの手が加わってないのか」
そこは本当に日本のお城の中といった感じの造りになっており、本来はここと似た雰囲気の空間が他の場所にも広がっていたことが想像できた。
ひとまずその空間の先に向かうと、カポーンといういかにもお風呂っぽい音が聞こえてくる。
その音を頼りに進んでいくと、脱衣所らしき場所にたどり着いた。
「どうやらここっぽいなぁ」
雰囲気としては、昔ながらの旅館みたいな……派手ではないが、とてもいい感じである。
この空間は想像通りの和風な雰囲気を感じさせるので、お風呂も非常に期待できるが、もしあのダサい空間にお風呂があったんだとしたら、そこも非常にダサいお風呂になっていただろう。
……自分で言っててなんだが、ダサいお風呂って何だ? 魚型の石像のお尻からお湯が出てるとか? どうしよう、逆に気になってきたぞ……!
ようやく待望のお風呂を見つけたというのに、妙なところでもんもんとしてしまった俺は、ひとまず目の前のお風呂に集中することで、そんな考えを忘れようと思った。
だからこそ、気付かなかったのだ。
そこに別の人の服があったことに。
そして何より、男女に分かれた暖簾がかかっていなかったことに――――。
「…………」
「…………」
俺の前には、呆然とした表情の守神さんの姿が。
ちょうどお風呂から上がるところだったのか、守神さんは立ち上がった状態で俺を見て固まっている。
俺もまさか人がいるとは思っていなかったので、一瞬目を見開いたものの、ふと無意識に視線が下に下がった。
そこには――――。
「――――な……な、ないいいいいいいいいい!?」
「せせせせせ誠一殿ぉぉぉぉおおおお!?」
慌てた様子でしゃがみ込む守神さん。
え、待って。ちょっと待って! も、守神さんって……!
呆然としていた俺は、すぐに正気に返ると急いで守神さんに背を向けた。
「ごごごごめんなさいいいいいいいい!?」
そしてここぞとばかりにぶっ飛んだ身体能力を発揮し、光速で着替えるとそのまま脱衣所から飛び出した。
とはいえ、これ以上ないほどがっつりと見てしまった俺は、頭を抱える。
「ああ……ヤバい……完全にやらかした……どうすりゃいいんだよ……」
風呂場でのラッキースケベと言えば、肝心な部分は髪だったり湯気だったりで隠れるのが普通だろ。
しかし、俺の目には何も遮るものはなく、実にハッキリと見えてしまったのだ……!
『それはもちろん、湯気が誠一様に配慮したからですね!』
「どんな配慮!? てか脳内アナウンス、最近気安く登場しすぎじゃない!?」
いきなり脳内に声が流れ込んできたかと思えば、実に困る配慮! 本当に忖度する方向おかしくね!?
ツッコミが止まらぬ俺に、脳内アナウンスは満足げな様子で答えた。
『ご安心ください。相手から見ても誠一様の姿がハッキリと見えるように配慮してますから』
「いやああああああああああああああああっ!」
どこに安心する要素があったの!? 女性の入浴中に突撃しただけじゃなく、露出癖までプラスとか救いようがないからね!?
どう考えてもギルド本部筆頭格の変態になっちゃうから!
『ちなみにですが、誠一様以外の他の存在には、湯気などが仕事をして見えないように配慮してますのでご安心を』
「他の存在!? あそこに俺と守神さん以外に誰かいたの!?」
ヤバい、こんな社会的に死に至るような現場に他の人がいたなんて! どう考えても言い逃れできなくないですか!?
『ええ。実に多くの目が今もなお、誠一様のご様子を覗き見ておりますよ』
「俺のプライバシーはどこに……!?」
そんなにたくさんの目が俺に向けられてるの!? ギョギョンとか以上にヤバくないか!?
『大丈夫ですよ。誠一様の活躍が次元を超えて見ていただけているだけですから』
「お願いだから俺に分かるように話して!」
最近次元がどうとか全知全能がどうとか、俺の理解の範疇を超えた話が多すぎてついていけてないんですよ!
「あ、あの……」
「ハッ!?」
脳内アナウンスの言葉すべてに反応していると、脱衣所から着替えて守神さんが出てきた。
その格好はいつも通りの和服で、守神さんは頬を赤く染めている。
そんな守神さんの様子に、俺は流れるように土下座をかました。
「本当にすみませんでしたああああああああ!」
「せ、誠一殿!? 拙者はもう気にしていないでござるから、顔を上げるでござるよ!」
優しい守神さんはこんなダメダメな俺を助け起こし、そう言ってくれる。ろくに確認もせず入った俺がどう見ても悪いのに、この対応……罪悪感で倒れそうですね!
しかし、どれだけ謝罪の意思があろうと、ここで俺が土下座を続けても守神さんにとって迷惑なのも事実。フラフラと立ち上がりながらも、俺は何度も頭を下げた。
「すみません……本当にすみません……」
「い、いえ、拙者もちゃんと説明しなかったのが悪かったでござるから……ただ、その……ここはお客様用の浴場ではなく、使用人用でござるよ……」
「そ、そうだったんですか……」
ちゃんと確認してから入ろうね! 取り返しのつかないことになっちゃうから!
守神さんに対して申し訳ない気持ちと気恥ずかしい気持ちで、つい気まずくなっていると、ふと守神さんが小さく呟いた。
「……誠一殿は、何も言わないんでござるね」
「は? 言わないって……」
どういうことだろうか? み、見てしまった感想か? それを言ったらもう変態どもの仲間入りだから! もう手遅れだろうけど! 気持ちの問題なの!
混乱しすぎてアホなことを考えている俺に対し、守神さんは静かに続けた。
「その……拙者は……女でござろう?」
「ま、まあ……はい」
「そんな拙者が刀を振るうなんておかしいでござるよね……」
「はい?」
「え?」
何を言いたいのか本気で分からず、首を捻っていると、守神さんは驚いた様子で俺を見てきた。
「お、おかしくないでござるか?」
「あの……すみません。よく意味が分からないんですけど、なんで女性である守神さんが刀を振るうとおかしいんですか?」
「そ、それは拙者が女だからで……」
何だろう、この絶妙にかみ合ってない感じ……!
少し整理をすると、恐らく守神さん……というか、東の国の文化的に、刀を女性が振るうのはおかしいと言いたいんだろ。
実際、昔の日本でそうだったのかは知らないが、サブカルチャー溢れる現代日本に慣れ親しんだ身としては、刀と女性の組み合わせはむしろ人気高そうだが……。
まあそんな話やこの国の文化を抜きにしても、俺にはいまいち理解できない。
「んー……まあ刀なんて誰が振っても危ないですからねぇ……身体的な特徴の違いはともかく、それ以外で女性が刀を持っちゃいけない理由は俺にはよく分からないというか……まあ誰が持とうが変わらないというか……」
『誠一様の場合、性別どころかどんな生物を相手にしたところで結果は同じですから。勝手に自滅するだけです』
「マジで意味が分からねぇよなぁ……」
戦うまでもなく相手が勝手に自滅するなんて恐怖でしかないよ。あれか? 物理的にじゃなくて、精神的に攻めてきてたりする感じ?
「ま、まあそんなわけで、俺からするとおかしな点は特にないと言いますか……」
「……フフ。確かに、そうでござるね。誠一殿を相手にしていたら、拙者の悩みがちっぽけに思えてきたでござるよ」
「は、はぁ……」
軽く答えたが、本人からしたらとても悩んでいたことだろうし、何だか申し訳なさしかないが……。
だが、守神さんは今までで初めて、心の底から笑っているように見えるのだった。




