闇に潜む者たち
あけましておめでとうございます。
今年も皆さまに少しでも面白いお話を提供できればと思います。
よろしくお願いいたします。
暗い闇の中、≪遍在≫のユティスは思案しながら歩いていた。
「失った戦力の補充は着々と進んでいる……だが、『神徒』クラスの戦力となると、そう簡単には手に入らない。いくつか目ぼしい者には『種』を植えておいたが、さて……」
「――――む? ユティスではないか」
「貴方は……」
不意に声をかけられたユティスが顔を上げると、そこには漆黒のローブで身を包み、闇へと溶け込んでいる一人の男が立っていた。
普通であれば、見るからに怪しい男だったが、ユティスはその男の正体を知っていた。
「≪鏡変≫殿」
「止めてくれ。同じ神徒ではないか。そう畏まられては困る」
「そうですか……では、ゲンペルさん。お久しぶりですね。というより、戻って来られたんですね?」
「ああ。どうも、教団の戦力が著しく低下していると聞いてな」
「……はい、その通りです」
ユティスは男――――ゲンペルの言葉に苦々しい表情を浮かべた。
「≪絶死≫のデストラを始め、つい最近では≪共鳴≫のヴィトールも姿を消しました」
「何? ヴィトールはともかく、デストラはいつものようにふらりとどこかへ出かけているだけなのではないのか?」
「いえ……完全にその力の波動が消えているのです。いつもなら、彼らがどこにいようと私はその下へ移動できるのですが……」
「その力が効かなかった、と」
「……はい」
屈辱的だと言わんばかりに顔を歪めるユティス。
そんなユティスを見つめるゲンペルは、首を傾げる。
「だとしたら、何故姿を消したのだ? あやつらとて、魔神様に逆らうような愚かな真似はせんだろう。……いや、デストラは分からんが、少なくともヴィトールは魔神様に忠実な僕だ。そしてデストラがヴィトールを消すというのも考えにくい。ヤツとヴィトールの力の相性は悪いからな」
「ええ。とはいえ、デストラであればヴィトールの能力も殺したうえで殺すことも可能でしょうが、いきなり裏切るにしても理由がありません。考えられるのは……誰かにやられた、ということ」
「バカな」
ユティスの推測を聞いたゲンペルは、鼻で笑った。
「それこそあり得ぬだろう。奴らを我ら神徒以外の誰が殺せるのだ? そんなことが可能なのは魔神様くらいなものだ。他の神々であれば、デストラが返り討ちにできるくらいだぞ。まあその神々も今となっては『虚無』に引きこもり、世界を回しているだけだがな」
「そのあり得ないことが起きているのですよ」
まっすぐにゲンペルを見つめるユティス。
その真剣な表情に、ゲンペルも冗談ではないことに気付き、険しい表情を浮かべる。
「……誰がそんなことを?」
「それが分からないのです」
「分からない?」
「ええ。神徒以外にも、数々の使徒が倒されています。中でもバーバドル魔法学園に捕らえられていたデミオロスを始めとする使徒たちは、魔神様の御力を失っていたのです」
「何!? それは真か!?」
「ええ。すぐに私もその原因を突き止めようと能力を発動させたのですが……彼らの記憶を辿ることができなかったのです。彼らが魔神様の御力を失う前までは辿れても、その次にはもう失った状態の記憶しか見ることができなかったのですよ。直接その時間まで能力を用いて移動しようとも思ったのですが、それもかなわず……」
「主の力で辿れぬとなると……厄介だな」
ユティスの話を聞けば聞くほど現状がかなり危険な状態にあることが分かる。
「この話を魔神様は?」
「……お伝えしている。しかし、魔神様は我々と違い、完全無欠。我らが恐れることも、あのお方にとっては恐れるに足りぬ些末事なのですよ」
「ううむ……魔神様としては気に留めるほどのことでもないが、我らはそうも言ってられぬか」
「ええ。私が直接動いてもいいのですが、魔神様から別の使命をいただいているのと、戦力の補充もしなければならないので……」
「……ふむ。では、私が行こうか」
「ゲンペルさんが?」
ユティスは思わず目を見開く。
「よろしいのですか? 私としては助かりますが、他の星で遊ばれていたのでは?」
「ああ、あそこは飽きたので滅ぼしてきた。最後は実に滑稽だったぞ。私の力で少しつついてやれば、簡単に崩壊した。それに、ここで不安となることは潰しておいた方がよいだろう。我々は魔神様とは異なり、全知全能ではないのだ。私が動くのもやぶさかではない」
「そうですか……では申し訳ありませんが、お願いしても?」
「ああ、任せておけ。その代わり、お前を借りるぞ?」
「ええ、ご自由にどうぞ」
それだけ告げると、ゲンペルは闇に溶けるように消えていく。
それを見送ったユティスは真剣な表情を浮かべた。
「……私もより動かなければなりませんね。それこそ『神徒』クラスを補充しなければ……宇宙を統べる存在であれば、格として十分ですかね?」
もう存在していない宇宙の王に意識を向けるユティス。彼がそのことを知るのはもう少し先のことだった。
「……どこの誰だか知りませんが、いずれ恐怖の底に叩き落として差し上げましょう」
最後にそうこぼすと、ユティスも闇に溶けて消えるのだった。
◇◆◇
「――――ぶぇっくしょい!」
守神さんたちにお城を案内してもらっていた俺は、急に鼻がムズムズして、つい大きなくしゃみをしてしまう。何だ? 急に……誰か噂でもしてんのか?
すると、サリアが顔を覗き込んできた。
「誠一、大丈夫? 風邪?」
「んー? いや、違うと思うけど……」
「誠一が風邪ひくワケねぇだろ。全知全能が僕なんだし」
「あ、そっかー」
「納得しないで!?」
ひくから! 俺だって風邪ひくからね! ……たぶん!
……って、あら? この世界に来て、風邪どころか病気一つしてない気が……。
つい驚きの事実に愕然としていると、オリガちゃんたちが城の中を見て、感嘆の声を上げている。
「……すごい。こんな形式のお城、初めて」
「は、はい! ウィンブルグ王国とは違った雰囲気ですが、これはこれで荘厳ですね!」
「……ん。守神さんたちの雰囲気によくあってる。異国のお城って感じ」
オリガちゃんたちの言う通り、俺たちが招かれたこのお城は、地球の日本のお城と、五重塔が合わさったような見た目をしていた。
でも地球でも修学旅行とか以外だと、日本のお城を見に行く機会なんてなかったしなぁ。俺も新鮮な気分だ。
ただ、すごく残念なのは……。
「……でも所々にある変な板。アレおかしい」
「で、ですね……」
そう、何故か日本風のお城であるにも関わらず、その内装はどこかSFチックというか、変に機械的な個所が多々見受けられたのだ。
「何だか青色の線が光ってるねー」
「どう見てもあのギョギョンとかって連中のせいだろ」
「そっかー。やっぱりダサいんだね!」
サリアさん、何て無邪気に残酷なことを口にするんですか!
確かに日本の雰囲気と合ってなさ過ぎてダサいけど!
すると、俺たちを先導していた守神さんが、悲し気に口を開く。
「……サリア殿たちのおっしゃる通り、ここは元々こんな様相ではなかったでござる。あの侵略者どもによって、勝手に改造されたのでござろう」
「本当に迷惑な話だがな。私や守神殿は住めれば特に問題はないが、ムウ様をこのような場所に住まわすなど……早く元に戻るよう、尽力しよう」
そんなこんなでちぐはぐな雰囲気の場内を歩いていると、一つの部屋に案内される。
「では、誠一殿たちにはこちらでくつろいでほしいでござる。食事もすぐに用意するでござるが、もし風呂に入りたければ先にそちらでも構わぬでござるよ」
「本当ですか? ありがとうございます」
「では、拙者たちも身支度を整える故……」
そう言うと、守神さんたちは部屋から出ていった。
「さてと……どうする? 食事の前に一応風呂に入っておくか?」
「そうだね! 綺麗にしていた方がいいんじゃない?」
特に汚れたり疲れたりはしていないが、こうして招かれた以上、身だしなみを整えてから食事に向かった方が失礼がないだろう。
そういうわけで、俺たちは早速このお城のお風呂に向かうのだった。
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