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うっかり救世主、再び

 今までで一番訳の分からないやられ方をしたギョギョン。

 その姿を呆然と眺めていると、アナウンスが俺たちに声をかける。


『いかがでしたか? 少しでも誠一様が楽しめるように私たち、頑張りましたよ!』

「あ、はい」

『それではまた、誠一様が何かに遭遇された際は、同じようにエンターテインメントに昇華させてみせましょう!』

「あ、はい」

『では、これにて――――』


 つい、同じ言葉で反応を重ねる俺に対し、アナウンスは最初から最後までテンションが高いまま、消えていった。

 ……。

 ちょっと頭が追い付かないので、一度整理しよう。

 アナウンスの言葉から推測するに、どうやら大和様から力を奪ったかと思えば、それはギョギョンの勘違いで、実際は何も奪えていなかったと。

 それもこれも、全部アナウンスの言う全知全能? とやらがやってくれたことなんだろう。

 しかも、それらはすべて、エンターテインメントにするためだと。

 ひとまず、色々言いたいことはある。

 まず、全知全能が全部やってくれるってのも意味が分からないし、ギョギョンの宇宙征服の動機もその結末もぶっ飛んでる。

 ただ、それ以上に言いたいのは……。


「やっぱり変わってなかったんだな……」

「感想それかよ!?」


 俺の呟きにアルがすかさずツッコんだ。

 いや、あれだけそれっぽい雰囲気だしてて、劇的な変化が起こると思ってたのに、ふたを開けてみれば何も変わっていないと。

 それなのにギョギョンは変わったと言い張ってたわけで……。


「何ていうか……哀れだったな」

「……ん。少し同情」

「敵だった上に、色々物騒なことを言ってたヤツに同情する余地はねぇが……こればかりはオレもオリガに同意だな。すべて計画通りかと思えば、誠一が来た時点で根本から計画を潰されて、見世物の一つにされるとか……どんな悪夢だ?」

「返す言葉もないですねぇ!」


 アルの言う通りだ。むしろ、敵より悪役してるとさえ思う。

 なんせ、せっかく頑張って計画したものが、ただのエンターテインメントとして消費されるんだからね!

 そんな俺たちの会話を聞いていたサリアは不思議そうな表情で首を傾げる。


「でも、悪いことしようとしてたんなら、仕方ないんじゃない? やられて嫌なことをするんだし、それは自分の身には起こらないって思うのは変じゃないかなぁ」


 何て言うか、サリアの言葉はとても真理をついているようにも思えた。

 俺が敵にとって悪夢であったとしても、向こうの計画が成功したらしたで俺たちからすればそれは悪夢なわけで。どっちもどっちだよな。


「一つ言えるのは、悪いことはしない、だな」

「……ん。いい子にする」


 決意に満ちたオリガちゃんの頭を撫でた。


「――いや、訳が分からんでござるよ!?」


 何か綺麗にまとまりそうだなぁと思っていると、今まで固まっていた守神さんが詰め寄ってきた。


「一体誠一殿は何なんでござるか!? いきなり拙者たちの脳内に声が聞こえたと思えば、敵は勝手にやられる……訳が分からぬでござる!」

「大丈夫ですよ」

「え?」

「俺も分かってないんで」

「それもどうかと思うでござるよ!?」


 そう言われても、どうすることもできない。分からないものは分からないのでね!


「あ、それよりも、大和様を……」

「……」


 無事に連れ戻すことができた大和様を月影さんに渡すが、その表情は何故か無表情で――――。


「……外つ国、怖い」

「月影さん!?」


 めちゃくちゃ怖がられてしまった。そんな……こんなに人畜無害な人間もそういないのに……。

 ついへこんでしまいそうになる中、俺はふと思ったことを聞いた。


「それで、これからどうするんです? 一応、ギョギョンを含めた敵はやられたみたいですけど……」


 そう、アナウンスの言葉を受け、そのまま酸欠となったギョギョンだったが、実はギョギョンだけでなく、宇宙船も次々と栄京の外に墜落していたのだ。

 つまり、今の栄京は謎の塔が建っている以外、元通りである。

 ……あの謎の塔も、結局大和様から力を奪うためのものだったらしいけど、それすら舞台装置扱いだもんなぁ。恐ろしい。


「そ、そうでござるね……ひとまずは栄京の民の様子を確認したり、色々することはあるでござる。それに、経緯はどうであれ、拙者たちは誠一殿たちに助けられたでござる。その恩に報いるためにも、ぜひとも栄京にて、もてなさせていただきたいでござるよ」


 すると、守神さんの言葉を聞いていたサリアたちが目を輝かせた。


「また温泉入れる!?」

「もちろんでござる」

「で、では、食事も期待していいんだな!?」

「ぜひとも、栄京の味を知っていただければ……」


 どうやら影の里で満足にできなかった東の国を満喫させてもらえるみたいだ。

 俺たちはそのことに喜びながら、守神さんたちに連れられ、ひときわ大きなお城へと招待されるのだった。


◇◆◇


「――――あと少しだ!」


 誠一たちが東の国で滅茶苦茶しているころ、ウィンブルグ王国の国境付近の森の中を、神無月華蓮たちは駆け抜けていた。


「はぁ……はぁ……あ、足が……!」

「日野君! ここで止まれば、奴らに捕まるぞ……!」


 勇者のグループから抜け出した華蓮たちは、さらにアグノスたちFクラスの面々とも合流し、カイゼル帝国の手から逃れるため、まだカイゼル帝国に支配されていないであろうウィンブルグ王国へと向かっていた。

 だがその途中、ついに華蓮たちが逃げ出していることに気付いたカイゼル帝国の兵士に追われることになったのだ。

 今もなお、華蓮たちの背後からカイゼル帝国の兵士の怒声が聞こえる。


「追え! 絶対に逃がすんじゃないぞ! ウィンブルグ王国の国境付近には『剣騎士』や『黒の聖騎士』がいるやもしれん! 国境を越えられれば、それらと戦う可能性もある。我らが強いとはいえ、奴らを相手にするのは骨だ。いいか、絶対に国境を越えさせるな!」


 カイゼル帝国の兵士たちは、全員『超越者』となったこともあり、ウィンブルグ王国の最強戦力である『剣騎士』であるルイエスや、『黒の聖騎士』に負けるつもりは微塵もなかった。

 とはいえ、未だにウィンブルグ王国を支配できていないことからも、正面から戦うのは面倒だと言う認識は持っており、被害が出る可能性を嫌っていた。

 だが、カイゼル帝国の兵士たちにとって、有利な面も一つあった。

 それは、『山』がないこと。

 ウィンブルグ王国の『山』とは、文字通りの普通の山ではない。

 なんと、ウィンブルグ王国の国境の一部に存在するその『山』は、とある魔物の背中だったのだ。

 普段はその魔物は動くこともなく、常に眠っている。

 しかし、大勢の人間がその『山』の上を通ると、魔物は目を覚まし、動き始めるのだ。

 そのため、普段はカイゼル帝国の兵士たちもその方向から攻めるようなことはしない。

 しかし、華蓮たちが逃げた先は『山』のない方向だったため、カイゼル帝国の兵士たちも全力で追うことができていた。


「か、神無月先輩! あとどれくらいですか!?」

「分からない。でも、走り続けるしかない……!」


 翔太の言葉に顔を歪めながら走っていると、ついに森を抜ける。

 だが、その先には――――何もない草原が広がっていた。


「そんな……」


 今まで森の中を走ることで、カイゼル帝国からの追手をまくことができていた。

 だが、遮蔽物もなく、ただの広い草原となっては捕まってしまうのも時間の問題だった。


「おいおい、マジかよ……ここに来てこりゃねぇぜ」

「……こればかりは仕方ない。この場にいる誰も、ウィンブルグ王国の地理に詳しくないのだ」


 アグノスの言葉に、ブルードが苦々しく答える。

 全員、目の前の光景に呆然としていると、カイゼル帝国の兵士たちが追い付いた。


「まったく……手間をかけさせやがって……。どうやったのかは知らねぇが、腕輪の効果が切れてるようだな? お前たちにはもう一度、より強力なアイテムで自由を奪ってやる。それに、どうやって腕輪の効果から逃れられたのかもすべて話してもらおうか?」

「くっ!」


 華蓮たちは勇者とはいえ、レベルも特に高くはなく、戦闘能力は低い。

 そして、百人を超える『超越者』であるカイゼル帝国の兵士たちがこの場に集結していた。

 もはや、華蓮たちが逃げられる可能性はない。

 すると、華蓮たちと共に一緒に逃げてきていた、世渡愛梨の友人である野島優佳が声を上げた。


「黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって……騙してたのはテメェらだろうが! 逃げて何が悪い! そのくせ、またアタシらの自由を奪うだって? 冗談じゃねぇよ!」

「おうおう、この子の言う通りだぜ。なんでテメェらがすでに勝った気でいやがるんだ? ああ!?」


 優佳の言葉に続いてアグノスも口を開くと、すぐにカイゼル帝国の兵士たちを挑発する。

 口の悪い二人に、思わずブルードは頭を押さえた。


「今は言い争ってる場合じゃないんだが……」

「まあ仕方ないっスよね~。むしろ最後の悪あがき的な面もあるんじゃないっスか?」

「……愛梨、それは思ってても言っちゃダメだと思う」

「どうでもいいけど、ウチ、もう走るのはマジ勘弁してほしいんですけど」


 愛梨や優佳の友人である清水乃亜と天川瑠美も声を上げる。

 この場で自己主張が強いのは、優佳たちのグループであり、他の面々は不安そうな表情を浮かべたり、警戒したりとそれぞれの反応を見せていた。

 だが、カイゼル帝国の兵士たちにはどれも関係なく、冷たい目を向ける。


「何と言おうが、お前たちはこの場で終わりだ。――――さあ、連行しろ」


 ジリジリと距離を詰めつつ、華蓮たちを拘束しようとするカイゼル帝国の兵士たち。

 この場にいる誰もがここまでかと――――そう思った瞬間だった。


「……ん?」


 ふと、兵士の一人の耳に、耳鳴りのような音が響いた。

 最初は気のせいだと無視しようとした兵士だったが、その音は徐々に強くなり、さらには他の兵士も異変を感じ始めたことで、気のせいではないことに気付く。


「な、何だ!? 何の音だ!?」

「この音は……」


 華蓮たちの耳にも音が入り、全員が周囲を見渡す。

 すると、頭上から謎の音が来ていることに気付いた一人の兵士が、空を見上げ――――絶句した。


「な――――」


 つられて全員空を見上げた瞬間、巨大な何かが降り――――。


 ズシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!


 すさまじい衝撃波が華蓮たちに襲い掛かる。

 思わず顔を腕で庇いながら、必死に踏ん張ると、やがてすさまじい暴風と地響きが収まった。


「い、一体何が……」


 華蓮は恐る恐る顔を上げ、周囲を見渡すと……なんと、カイゼル帝国の兵士たちと華蓮たちの間に、巨大な亀裂ができていた。

 それはまるで、一つの斬撃で切り裂かれたような……そんな断面をしていた。

 華蓮と同じく、目の前の光景に気づいたカイゼル帝国の兵士は叫んだ。


「な、なんじゃこりゃあああああああああああああああ!?」


 せっかく追い詰めた華蓮たちだったが、まるで二つの団体を引き裂くように出来上がった巨大な亀裂を前に、兵士たちは動くことができない。

 なんせ、その亀裂の幅はすさまじく、500メートルは優にあり、さらに迂回しようにも亀裂の終わりが見えないのだ。

 何をどうすれば、いきなりこんな亀裂ができるのか。

 しかも、勢いだけで見れば、星を一刀両断する勢いなのだ。むしろ星が斬れていないことこそ奇跡と言える。

 だが、この状況を華蓮は逃すわけにはいかなかった。


「ハッ! 皆、今のうちに逃げるぞ!」

「お、おう!? 何だかよく分かんねぇが、アンタの言う通りだな!」

「なっ!? お、おい、待て! 待てえええええええええええ!」


 カイゼル帝国の兵士たちは必死に声を上げ、華蓮たちを追いかけようとするが、どうやっても亀裂の向こう岸に渡る手段がない。

 忌々し気に叫ぶカイゼル帝国の兵士たちを後に、華蓮たちは無事に逃げ切ることができた。

 そして、しばらく草原を走り続けていると、目の前から鎧を着た別の兵士の団体を発見する。


「あ、あれは……」

「まさか、挟み撃ちされたのか!?」


 別のカイゼル帝国の兵士かと緊張する華蓮たち。

 だが、目の前の兵士が掲げている旗を見て、ブルードは緊張を解いた。


「いや、違う。あれは……ウィンブルグ王国の旗だ」

『!』


 ようやく目的の国の兵士らしき集団を前にしたことで、華蓮たちは気が抜けそうになる。

 しかし、目の前の集団が本当にウィンブルグ王国の者なのか分からない今、簡単に気を抜くことはできなかった。

 そんなギリギリの状態でいる華蓮たちの前に、兵士たちを代表して一人の女性――――ルイエスが現れた。


「アナタ方は……確か、師匠の生徒でしたよね? 一体どうして……」


 不思議そうな表情を浮かべるルイエスだったが、見知った顔が現れたことで、華蓮たちは本当の意味で逃げ切ることができたのだと、確信するのだった。

 ――――そして、その手助けとなったあの巨大な亀裂が、どこか遠い宇宙の果てで、『人間』が夜の王と戦った際、放った一撃であることを、誰も知らない。

新作『スロー・アドベンチャー(仮)』も投稿しております。以下、作品のURLとなっております。


https://book1.adouzi.eu.org/n6817gr/


こちらはカクヨム様と小説家になろう様の両方で投稿させていただいているので、もしよろしければ読んでいただけると嬉しいです。


今年一年、読者の皆様に少しでもバカげたお話を提供できていたのであれば、幸いです。

来年もよろしくお願いいたします。

それでは、よいお年を。

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― 新着の感想 ―
あの時不発だった斬撃がココで成ったというのか きっと光速超えてるし物理の法則すら捻じ曲げてしまったとはたまげたなぁ
[一言] 今更それが来るんかいw むしろギョギョン達の船団が落っこちて来るかと思ってたわ……
[一言] まさかの伏線w
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