久しぶりの依頼
本日7月30日より『進化の実~知らないうちに勝ち組人生~11』と、コミカライズ版の五巻が、双葉社様のモンスター文庫より発売されました。
書籍版には書き下ろしのお話もございますので、そちらもお手にしていただけると幸いです。
翌日。
昨日と同じように、俺とサリア、そしてアルは宿屋で少し遅めの昼飯を食べていた。
ちなみに、オリガちゃんとゾーラ、そしてルルネはオリガちゃんに連れられ、また孤児院を訪れている。
どうやら昨日、サリアと孤児院に行ったとき、今日も遊ぶ約束をしたらしい。オリガちゃんにとっては、年の近い友達ができたようでよかった。ゾーラも子どもたちから怖がられることなく、馴染めたようだし。
ただ、ルルネがどんな扱いを受けるかは知らないけど。
ご飯を食べていると、アルがふとあることを思い出したように口を開いた。
「そういやあ、昨日もちょっと触れたが、誠一とサリアは依頼は受けてるのか?」
「え?」
「依頼?」
思わず首を傾げると、アルは若干呆れながら続ける。
「いや、オレも最近は忙しかったから大した依頼は受けていないが、それ以上に誠一たちは依頼を受けてる様子がねぇからさ……」
「んー、私は昨日とかクレアさんの孤児院に行ったけど、依頼じゃないし……」
言われてみれば、ギルドに登録するために試験を受けて以降、まともに依頼を受けた記憶がない俺。
……完全に忘れてたというか、なんというか……。
元々ギルドに登録したのは、神無月先輩たちの情報を集めるためってのと、身分証的なモノが欲しかっただけなので、依頼への熱心な気持ちは特にないのだ。
「誠一もサリアも、試験の時にせっかくお得意様ができたってのに、全然意味がねぇじゃねぇか……」
「あ、あはは……」
返す言葉もございませんね。
ギルドに登録するときの試験で、サリアは孤児院で子どもたちの面倒を、俺はアドリアーナさんの家のミルクちゃんを散歩させる依頼を受けたわけだが、お互いに依頼主が非常に満足していただけたおかげで、アルの言う通りお得意様として定期的に依頼を受けられるはずだった。
だが、学園で先生することになったり、カイゼル帝国の兵士たちを海に捨ててきたり、ルーティアのお父さんを助けたり……普通の依頼を受ける時間が全くなかったのだ。
てか、こうして考えると濃い人生送ってるなぁ、俺。
つい遠い目をしてしまう俺に対し、アルはため息を吐いた。
「はぁ……まあ、忙しかったってのは分かるけどよ。それに、依頼は強制じゃねぇしな」
「だ、だよね!」
「――――だが!」
アルの言葉に乗ろうとするも、そんな俺の言葉を遮り、アルはジトっとした目を向けてきた。
「お前らの実力でFランクとか詐欺だからな!?」
「え、えー? そうか?」
「なんでそこで首を捻るんだよッ!」
「だって、ギルド本部の連中は実力はあるのにCランク以下の人間ばっかりじゃん」
「つまり、自分で変態って認めるわけだな?」
「ハッ!?」
アルの言葉に俺は愕然とした。
た、確かに、このままじゃあの変態達と同じ扱いに……!
「い、今すぐランクを上げないと……!」
「……まあSランクも変人しかいねぇけどな」
「救いはどこ!?」
ランクが低くてもダメだし、高くてもダメってどうすりゃいいんですかねぇ!?
すると、アルは一つため息を吐いた。
「はぁ……まあ落ち着けよ。いきなりSランクなんてことは言わねぇから、せめてFランクからは抜け出せ」
「そ、そうだな……」
ひとまず、アルの言う通りFランクから抜け出すだけでも抜け出そう。
海に行く以外にもう一つ目標を決めていると、ご飯を食べ終わったアルが立ち上がった。
「ってわけで、ギルド行くぞ」
「へ?」
「ギルドで、海のある街の方面に用事のある依頼がねぇか探してみるんだよ。運が良ければ護衛依頼もあるかもしれねぇしな」
「なるほど……」
「ってわけで、食い終わっただろ? さっさと行くぞ」
「え? あ、ちょっ!」
まだ食べている途中だった俺は急いで口にご飯をかきこむと、アルを追いかけるのだった。
◇◆◇
「む? おお、誠一君たちじゃないか! ギルドに顔を出すのは珍しいね」
久しぶりにギルド本部を訪れると、相変わらず受付の隣でマッチョポーズをとり続けるガッスルが、白い歯を輝かせながらそう言った。この人、本当に仕事してんのか?
もう何度目になるか分からない疑問を抱いていると、アルがガッスルに訊ねる。
「ガッスル、最近の依頼で海の方面に行くようなものってあるか?」
「海? どうしたんだい?」
「ああ、実は……」
ガッスルの疑問に、アルは俺が海に行きたいといった時の話を告げた。
すると……。
「せ、誠一君……そこまで精神的に疲れているとは……何があったんだい?」
「そんな目で俺を見ないで!?」
ガッスルは心の底から同情するような視線を俺に向けてきた。
「我々冒険者は自由だ。だというのに……休むという選択肢がないのは、追い詰められてる証拠じゃないのかな?」
「う、それは……」
実際は追い詰められてるわけじゃないと思うが、純粋に楽しく遊んだりした記憶がないからこそ、海に行きたいという提案をしただけなのだ。
この世界に来てからは、戦闘続きだしな。地球でも遊ぶような機会はほとんどなかったけども。
そんな俺たちの会話を聞いていた周囲の冒険者たちも、俺に可哀想なモノを見るような視線を向けてきた。
「おいおい……そんなに疲れてるんなら俺と一緒にモノを壊すか? 譲るぜ?」
「誠一氏……私と一緒に幼女を見守りますかな? 癒されますぞ?」
「いやいや、ここは私と一緒に全裸になるのもどうです? 解放的ですぞ?」
「俺を犯罪者の道に引き込もうとしないでもらえます!?」
もうイヤッ! ちょっと休みたいって言っただけでこの扱いはどうなの!? 泣くよ!?
変態からも同情されるってどんだけ俺が追い詰められてるように見えるんだろうか。
そこまで考えて、俺はふとあることに気づいた。
ああ……よくよく考えれば地球と異世界じゃ当然休むってことに対する考え方も違うのか。
どちらかと言えば、今の俺の思考回路はブラック寄りになってたわけだし。
「まあ、彼らの誘いはともかくとして、欲望を発散するのは、実に気持ちがいいものだよ! 誠一君、君も欲望をさらけ出し、一緒に衛兵さんの世話になってみよう!」
「アホなの?」
「HAHAHA! 筋肉ジョークだ!」
どんなジョークだよ。ギルドマスターがこの国の兵士さんの世話になるようなこと推奨してるんじゃないよ。
思わずガッスルを睨むも、ガッスルは気にした様子もなくポージングをとり続けた。
「んで? 結局依頼はあるのか?」
アルがガッスルを呆れた様子で見つめながらそう言うと、ガッスルはポージングを変えて答える。
「うむ、ちょうどいいことに、一つだけ護衛の依頼が来ているね。それも、アルトリア君が言うようにこの国の港町……【サザーン】までの護衛依頼だ。まだ依頼のランク設定などは決めていなかったのだが……まあアルトリア君だけじゃなく、誠一君たちもいるし、大丈夫だろう」
どうやら【サザーン】という街まで、誰かを護衛すればいいみたいだ。
ただ、俺は一つ気になることを聞いた。
「あのさ、俺とサリアはまだFランクなんだけど、護衛依頼って受けてもいいのか?」
「うーむ、本来ならD級くらいからを想定してはいるが、Aランクのアルトリア君もいるし、問題ないだろう。それに、誠一君やサリア君も強いのは、知っているよ」
「……まあ、ノーコメントで」
一応、ステータスは偽装したままで、隠しているつもりだが、最近はもう隠すのすら面倒というか、隠しきれないほど俺の体がやらかすというか……諦めた。
いや、どう考えても誤魔化しきれないほど色々やらかしてますからね! 今さらだよね!
最初は隠してた方がトラブルに巻き込まれずに済むかなぁ? とか考えてたけど、なんか隠してようが隠してなかろうがトラブルに巻き込まれるときは巻き込まれるし、あんまり意味ないなって。
「まあ、そういうわけで、依頼を受けるのは問題ないとも。ただし、ランクが低いことには変わりがないことと、相手はまだ君たちのことを知らないからね。それでもランクの低い君らを斡旋するからには、依頼金は少々安くなるかもしれないが、そこは分かってほしい」
「それは問題ねぇよ。オレとしては、どうせ海に行くなら誠一たちの実績にできるような依頼を受けてた方が得だってだけだしな」
「なるほど。では、エリス君に言って、ぜひ手続きをしてくるといい。その依頼人には私から連絡しておくから、また明日、このギルド本部に来てくれたまえ!」
ガッスルの指示通りこの護衛依頼のことをエリスさんに告げ、手続きを終えた俺たちは、ギルド本部を後にするのだった。
『小説家になろう』の他に、カクヨムの方でも活動しております。
カクヨムの方では、小説家になろうでは投稿していない小説がございますので、そちらも読んでいただけたらと思います。
詳しくはTwitterで@aoimiku0505と検索していただければ、アカウントが見つかるかと思いますので、そちらをご覧いただければと思います。




