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魔法の使えない森

以前投稿した【逃げる『普通』と潜む悪意】の加筆修正を少し行っております。

「…………へ?」


 気付けば森の中に立っていた俺は、呆然とするしかなかった。

 ここはどこ? 私は誰? ……なんて冗談言ってる場合じゃなくて。


「いや、本当にここどこだ!? サリアー! アルー! ヘレンー!」


 思わずその場で叫ぶが、返事は返ってこない。

 そのことを不安に思いながらも、俺は自身の首にかけていた『果てなき愛の首飾り』の効果を思い出し、すぐにサリアたちに通信を試みた。


「サリア! 聞こえるか!?」

『――――あ、誠一! 聞こえる、聞こえるよ!』


 首飾りから声が返ってきたことに安堵し、俺は一つ息を吐いた。

 冥界に行ったときはほとんど自分の意思で行ったから不安はそこまでなかったけど、いざいきなり見知らぬ土地に飛ばされると、小心者の俺は不安で仕方がないのだ。

 それに、今回は冥界の時とは違って首飾りの効果で連絡が取れるから、まだ大丈夫。


『おい、誠一! 今どこにいるんだ!?』


 一安心したところに、今度は焦った様子のアルの声が聞こえてきた。アルには普段はツッコミとして働いてもらってるし、こういった時でも心配をかけて、本当に申し訳ない。


「どこにいるって言われても……正直俺も分かんない」


 なんせ、いきなり目の前には鬱蒼とした森が広がっているのだ。

 辺りを見渡しても木々だらけで、正直どことは答えられない。

 ただ、こうして首飾りの効果が働いていることから、同じ星のどこかに飛ばされたことは間違いないので、何とかすれば合流できるはずだ。

 すると、今度はサリアの明るい声が聞こえてきた。


『よかったぁ! 誠一なら大丈夫って思っても、やっぱり心配だから……』

「サリア……ごめんな」


 いつも天真爛漫なサリアにさえ心配をかけてしまい、本当に申し訳ない。


『誠一ならそこから転移魔法で返ってこれるだろ? 早く帰ってこい。このデストラって野郎を王様に引き渡すってのもあるが……早くお前に会いたいからよ』


 頬を赤く染めながらそう言っているアルの姿が浮かんだ俺は、確かに転移魔法ですぐに帰れることを思い出し、早速魔法を行使しようとした。

 だが――――。


「あれ?」

『誠一、どうしたの?』

「いや、それが……」


 何度も転移魔法を発動させようとするが、何故か転移魔法は一向に発動しなかったのだ。


「なんだ? この場所が原因なのか?」


 もしそうだとしても、この場所が原因で俺が転移魔法を使えないのであれば、自重しない体が見過ごすはずないのだが……。

 困惑する俺に対し、本日大活躍の脳内アナウンスさんが声をかけてきた。


『誠一様。この場所は魔法が使えない土地のようです』

「え? なら、いつも通り【進化】が発動して使えるようにはならないのか?」

『残念ながら……。この土地で魔法が使えないのは、誠一様にこの特殊な土地が干渉しているのではなく、魔法そのものに干渉しているためであり、それに伴って【進化】の効果が発動しないのです』


 なんと。

 ここに来て、初めて【進化】の弱点というか、隙というモノを垣間見た。

 俺自身に効果や干渉するモノがあった場合は問答無用で適応する【進化】だが、俺の体以外には効力を発揮しないのだ。

 これで俺の化物性が薄まるかと言われれば、正直「だから何?」ってレベルで何にも変わらないのだが……こういった時に限っては不便でしかない。

 なんせ、俺そのものが関係したら【進化】が発動するのだから、結局チートどころかバグみたいな点は変わらないわけで。それでも【進化】が完璧じゃないことにちょっとした安堵感を覚えたわけだけどね。

 とにかく今すぐ帰れるわけじゃないと分かった俺は、溜息を吐くと首飾り越しにサリアたちに伝えた。


「どうもこの場所じゃ魔法が使えないみたいだから、魔法が使える場所まで移動してからそっちに戻るよ」

『……大丈夫なのか?』


 すると首飾りからアルの心配そうな声が聞こえ、俺は苦笑いを浮かべた。


「うーん……大丈夫とは言い切れないけど、ちゃんと戻るからさ。それに、こうして連絡はとれるわけだから、何かあったらすぐに連絡するよ」

『……ん。それなら待ってるぞ』

「あ、そっちも何かあったらすぐに連絡してくれよ? それこそ――――この森吹っ飛ばしてでも行くからさ」


 この森が魔法の阻害をするのなら、最終手段として森そのものを消しちゃえば問題ないという我ながらアホみたいな考えが思いついたあたり、俺の思考も徐々に体に引きずられてるのかなぁ……てか、アホみたいな考えなのにできそうなのが何とも言えねぇ……。

 環境破壊とかしたくないけど、サリアたちに何かあったら、俺はそれすら無視して行くからな。


「じゃ、また何か進展があったら」

『うん、気をつけてね!』


 サリアの言葉を受け、俺たちは一旦通信を終了した。


「さて……ここがどこだかも分かんないし、適当に歩くしかないかぁ」


 山の中で無暗に動き回ると危険って言うけど、最初に異世界に降り立った場所も超危険な森の中だったわけで、今はその時よりは安全に過ごせるだろうし、何とかなるだろ。


「というわけで……ここは運試しと行きましょうかね」


 俺は適当にその場に落ちていた木の枝を拾うと、地面に立てた。


「さて、どの方向に倒れるかな?」


 すぐに木の枝から手を放すと、右に倒れた。


「おし、右か」


 今はステータスが家出中だから正確な数値は分からないけど、運はいいはずだから多分大丈夫だろう。……いや、よく考えたら家出する前でも表示されてなかったし、実際どうなんだろうか。

 とにかく俺は、この訳も分からない森をさ迷い始めるのだった。


◆◇◆


「クソッ、誠一のヤツ……何でアイツはああもトラブルに巻き込まれるんだ!?」


 ――――誠一が突然消えた後、ダンジョンに残されたサリアたちは誠一と連絡を取った。

 そして、誠一がダンジョンとは全く違う場所に無事にいることを確認し、一息ついた。

 だが、いつもなら転移魔法ですぐに帰ってこれるはずが、誠一が飛ばされた場所は魔法が使えないようで、ひとまず辺りを探索するという話を聞かされていた。


「まさか……お、オレの呪いのせいか!? もう大丈夫だと思ってたのに……!」


 ふと、今まで呪いのせいで苦しめられてきたアルは、その自分の呪いのせいで誠一が大変な目に遭っているんじゃないかと顔を青くした。


「誠一ならきっと大丈夫だよ! それに、アルのせいじゃないよ?」

「で、でも……」


 まだ不安そうな表情を浮かべるアルを、サリアは優しく抱きしめる。


「大丈夫。誠一はちゃんと戻ってくるって言ってたし、もし本当にアルの呪いが誠一に降りかかっていたとしても、すぐに呪いから逃げ出しちゃうよ!」

「……何だよ、それ……でも、否定できねぇのがおかしいんだよなぁ……」


 サリアに抱きしめられ、落ち着いたアルは苦笑いを浮かべた。


「ありがとうな、サリア」

「うん!」


 いつも通りに戻ったアルは、未だに気を失っているデストラへと目を向けた。


「さて……誠一がコイツの所持品を全部回収してくれたおかげでもうコイツには危険はないと思うが……」

「……あ、思い出した! 誠一が落とした水晶って、前に学園で兵隊さんたちと誠一が戦った時、最後に使ってたヤツじゃない?」

「ああ、あの戦いとも呼べなかったあの時か! 詳しい効果は分からねぇが、どうも任意の場所に転移できるようだから、今誠一がいる場所は、もしかするとこのデストラって野郎がここの次に向かう予定だった場所かもしれねぇな」

「とにかく私たちは、この人を国の兵隊さんに渡すことを考えよう!」

「そうだな」


 アルがデストラを雑に担ぎ上げると、ふとヘレンの様子が変なことに気付いた。


「……」

「あ? おい、どうした?」

「……魔法が……使えない場所……? いや、でも……」

「ヘレンちゃん?」

「っ! な、何かしら?」


 サリアがヘレンの顔を覗き込むと、ヘレンはようやくサリアとアルに見られていたことに気付いた。


「何って……お前の様子が変だったからよ」

「……ちょっとね。まあでも、そいつが【魔神教団】の幹部っぽい立場なら、アジトに転移してる可能性もあるんだものね……」

「ん? そうか……アジトに転移してる場合もあるのか……」


 新たな可能性に眉をひそめたアルだったが、すぐに頭を振った。


「どちらにせよ考えても仕方ねぇ。とにかく、コイツを連れてとっととダンジョンから出るぞ。いいな?」

「はい、大丈夫です。目的のレベル上げは達成できましたし……」

「よし、んじゃあ帰るぞ」


 こうして誠一が森を探索し始める頃、サリアたちは王都へと帰還するのだった。

前書きにも書きました通り、【逃げる『普通』と潜む悪意】の加筆修正を行っております。

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