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ザキアの決意と別れ

 オルフェの使用した、【転移の宝珠】によってカイゼル帝国まで戻ってきたザキアたち。

 ザキアは周囲を見渡し、すでにバーバドル魔法学園から転移していることに気づくと、オルフェを激しく睨みつけた。


「オルフェ、お前何を――――」

「何考えてるんですか、ザキアさん!」

「っ!?」


 ザキアが何かを言う前に、オルフェの鋭い拳がザキアの頬をとらえた。


「さっきの態度は何ですか!? 一体どうしたって言うんです!? 貴方らしくもない!」

「俺……らしく……?」


 オルフェの言葉を受け、ザキアは自身が考えている以上の衝撃を受けていた。


「さっきの学園での態度じゃ、第一部隊の連中と何も変わりませんよ! どうしてあんなことをしたんですか!?」

「俺は……っ!? ぐああああ!?」


 そこまで考えた瞬間、ザキアの頭に激しい痛みが襲い掛かった。


「ザキアさん!?」

「だ、大丈夫だ……そうか……そういう、ことか……」


 ザキアは頭を押さえ、必死に痛みに耐えると、あることを思い出した。


「……俺は、ヘリオの術に嵌っていたいたのか……!」

「ヘリオ様の!?」


 ――――≪幻魔≫の異名を持つカイゼル帝国一の魔法使い、ヘリオ・ローバン。

 世界で一人しか使えない『幻属性魔法』を操り、現カイゼル帝国の帝王、シェルド・ウォル・カイゼルの右腕として存在していた。

 平民出身の者たちで構成されているザキア率いる第二部隊の面々や、貴族出身の者たちだけで構成されている第一部隊の面々など、カイゼル帝国のあらゆる兵たちが『超越者』となったのはまだ最近の話だった。

 カイゼル帝国の兵士たちが『超越者』になったのは、帝王シェルドにヘリオがあるモノを献上したことから始まる。

 それはヘリオが見つけてきたという魔道具で、どんな人物でさえも簡単にレベルを上昇させることができ、さらにそのレベル上限を超越することができる、とんでもない魔道具だったのだ。

 本来であれば、そのような怪しい魔道具が存在することや、どこから見つけてきたかなど、訊くべきことがたくさんあるはずだった。

 それでも誰も疑問の声を上げなかったのは、ヘリオがこの魔道具を持ちだした時点で……多くの者たちがヘリオの『幻属性魔法』を受けてしまっていたからだ。

 カイゼル帝国一の魔法使いの魔法の行使に気づけるものはおらず、程度の違いはあれど、誰もがその術中にはまってしまったのだ。

 そしてヘリオは一番警戒していたザキアを特に念入りに魔法をかけていたため、ザキアは知らず知らずのうちにヘリオにとって都合がよく、操りやすい人格へと変えられていたのだ。

 ――――しかし、ここに来て、ヘリオにとっての誤算であり、ザキアにとって幸運だったことは、部下であるオルフェがヘリオの魔法にあまり影響されていなかったことと……誠一の存在だろう。

 それでも元々効果の高い魔法であるため、ザキアの性格が変わったことを不思議に思いながらもそれを指摘しないだけの効力を発揮していた。

 バーバドル魔法学園へ行き、バーナバスと会話をして帰るだけならばザキアはこのまま性格が歪んでいく一方だった。

 だが、ここに来て誠一がまさかの文句を言うために乱入してきたのだ。

 これが他の者ならば話は変わっていた。

 『超越者』となったザキアたちを止められる者がいるはずもないため、どんなに文句を言われてもそれを退けて終わるからだ。

 しかしここでやって来てしまったのは誠一である。

 戦闘にならないとはこのことかと言わんばかりの悲惨な結末、そしてザキアや第二部隊の面々の生命の危機を前にして、オルフェにかかっていた魔法が解けたのだ。

 生半可な衝撃ではヘリオの術から抜け出すことはできないが、誠一との戦闘はそんなこと知ったことではないと言わんばかりの衝撃を与えたのだ。

 こうして正気に返ったオルフェのとっさの判断により、帝王シェルドから下賜されていた【転移の宝珠】を使用して、無事に帰ってくることができたのだった。


「ザキアさん……どうしますか? ヘリオ様の魔法が絡んでいると、かなり厄介ですよ……」

「……ああ。ヤツの魔法を受けていた今、なおのこと慎重に行動しなければならなくなった……目に見えていることから思考回路まで、すべてを疑いながら行動しなければ……」


 ザキアはそう口にしながらも、それがどれほど大変であるか分かっているため、苦い表情を浮かべるしかできない。


「……それよりも今は、第二部隊の皆を正気に返そう」

「はい」


 ザキアとオルフェは手分けをして、一人ずつヘリオの術から解くために説得していく。

 ザキア程、厳重に魔法をかけられている者はいなかったため、正気に返す作業はさほど時間がかからなかった。

 それでもヘリオの魔法を受けていたと知った第二部隊の兵士たちは、呆然とその事実を受け止めるしかできなかった。


「ま、まさかヘリオ様が……」

「俺たちは今まで何を……」

「これじゃあ第一部隊の連中と何も変わらねぇじゃねぇか……ッ!」

「一体、いくつの国を俺たちは……」


 正気に返ったことにより自身の行いを思い出した兵士たちは、その行いに激しい後悔が押し寄せた。

 ザキアを含め、第二部隊の兵士たちによって侵略された国々が多くあるからだ。

 そんな第二部隊の兵士たちに、ザキアはすぐに兵舎に戻って休息をとるように命令すると、兵士たちはフラフラになりながら兵舎へと向かっていった。

 その後ろ姿をオルフェは悲し気に見つめる。


「……とりあえず、皆が正気に戻ってよかったですね……」

「……ああ。だが、問題は何も解決していない。むしろ、複雑化した」

「え?」

「まず第一に、ヘリオが魔法を俺たちにかけたということは……陛下にも魔法を使用している可能性がある」

「それって……謀反ってことですか!?」

「いや、そこまでは分からない。だが、陛下にも魔法が使われているとすれば……陛下は確実にシェルドの味方となるだろう。それも、俺と同じかそれ以上に魔法をかけているだろうしな」


 難しい表情でそう語るザキア。


「……そしてもし仮にヘリオが謀反を考えていたとして……これが個人による行動なのか、それとも組織による行動なのかも調べる必要がある」

「ザキアさんは、ヘリオ様の背後に何かあると考えているんですか?」

「仮定の話だが、ないと言い切ることもできない。今となっては、ヤツの背後に誰がいてもおかしくない」

「そんな……」


 重い溜息を吐くと、ザキアはさらに考えを口にする。


「……そしてヘリオのことも問題だが、もう一つ大きな問題がある」

「え? ヘリオ様と同じような問題が……?」

「陛下のことだ。陛下の……いや、カイゼル帝国の王族に伝わる『アレ』を使用した陛下を止められる者がいないのだ」

「それは……」


 ザキアの言葉に、今の帝王シェルドの姿を思い浮かべ、オルフェはその先の言葉を続けることができなかった。


「今の陛下は、俺たち『超越者』などと比べ物にならない力を手にしている。……下手をすれば、陛下一人でこの世界を征服できるほどのな」

「……」

「だからこそ、俺たちが行くべきだ」

「え?」

「残念ながら……いや、幸運なことに、まだカイゼル帝国に下っていない国がある」

「確か……ウィンブルグ王国とヴァルシャ帝国、そして魔王国と……東の国ですよね」

「ああ。ウィンブルグ王国は小さな国だが、あそこには『剣騎士』や『黒の聖騎士』、『氷麗の魔人』がいる。それにギルド本部も……ん? そういえば、さっきバーバドル魔法学園で『剣騎士』の姿を見たような……」

「え? それは気のせいじゃないですか? 近衛兵がそう簡単に王の元を離れるわけないじゃないですか」

「……それもそうだな。とにかく、ウィンブルグ王国は小国ながら大きな力を持っている。そしてかの『紅蓮女帝』が治めるヴァルシャ帝国は国力はまだ俺たちが『超越者』となる前と同等だ。今のカイゼル帝国の兵士たちが『超越者』になったとはいえ、あそこの兵は元々精強だ。それに女帝の力も侮れない。魔王国は言うまでもなく、強力な力を持つ魔族がいるため、ここも問題ないだろう。最後に東の国だが……あそこは謎が多すぎる。そもそも最初から陛下もあそこはあまり気にも留めていなかったうえに、東の国では内乱が激しいという話もあるくらいだ。こちらの情勢はまったく気にしていないだろう」

「……改めて考えると、残るべくして残った、という国ですね」

「そうだな。だが、ここで陛下が直接出るとなると……一瞬で勝敗がつくだろう。しかし、俺たちがいれば、まだ陛下が直接出ることはない。そう、ヘリオの傀儡として俺たちが動けば……侵略するように見せて、この事態を向こうに伝えることができるかもしれないのだ」

「つまり……ヘリオ様たちを騙す、ということですか?」


 オルフェの問いに、ザキアは静かに頷いた。


「ここで俺たちの魔法が解けたと分かれば、ヘリオがどのような行動を起こすか分からない。先ほど兵士たちの魔法は解いたつもりだが、どこにヤツの魔法が仕掛けられてるか分からない。また『幻属性魔法』によって惑わされる可能性もある」

「そんな……」

「しかし、俺はオルフェのおかげで目が覚めた。完全にとは言い難いが……それでもヘリオの魔法が使われていると分かれば、防ぐことも可能だ」

「でも……たとえザキアさんたちが正気のまま、今の陛下の状況をウィンブルグ王国などに伝えることができたとして、それは果たして意味のあることなんでしょうか? もう、今の陛下を止められる訳が……」

「先王――――アルフ様なら、今の陛下を止める方法を知っているかもしれない」

「アルフ様!? し、しかし、アルフ様は……」


 険しい表情を浮かべながらも、ザキアは決意していた。


「……ああ。今のアルフ様を救わねばならない。そのために、俺たちがすべきことは……アルフ様を救う方法を調べること、そして――――ヘリオたちに悟られることなく、傀儡のフリをしてこの危機を未だに残っているウィンブルグ王国などに伝えることだ」

「ザキアさん……」


 不安げな表情でザキアを見つめるオルフェに、ザキアは皮肉を含みながら自信を持って答えた。


「……何、『操り人形』になることは慣れている。――――やるぞ、オルフェ。この現状を……少しでも変えるために」

「……はい!」


 オルフェの反応にザキアは満足そうに頷くと、ふとバーバドル魔法学園でザキアを下した、誠一の姿が脳裏をよぎった。


「あの男は、一体……」


 ザキアの呟きに答える者は、誰もいなかった。


◆◇◆


「――――誠一さん。短い間でしたが……本当にありがとうございました」

「……」


 俺――――柊誠一の前で、荷物をまとめたベアトリスさんがそう言って頭を下げた。


「誠一さんのおかげで、Fクラスの皆が魔法を使えるようになりました。私では、決してできなかったこと……夢に見ていたことを、誠一さんが叶えてくれたんです。本当に、感謝しています」

「そんな、俺なんて……」


 所詮俺は、運よく力を手に入れただけに過ぎない。

 ……初めて魔物を倒したのは実力でもなんでもなく、ただ俺の体が臭くって相手が勝手に死んだだけなんだけど。

 それでもこの世界に来るときに神様から餞別としてもらった【完全解体】のスキルや、『進化の実』に救われて、俺は今、この場にいるのだ。

 まあちょっと進化の実の効果が俺の想像以上過ぎて逆に苦労することもあるけど、感謝している。

 そんな俺の力がたまたまFクラスの皆の役に立っただけで、その力がなければ俺は何もできない無力な存在にすぎないのだ。

 しかし、俺の言葉にベアトリスさんは首を振る。


「いいえ、誠一さん。過程はどうであれ、結果的に彼らが魔法を使えるようにしたのは、紛れもなく誠一さん自身です。ですから、そのことに胸を張ってください」

「……はい」


 本当に、俺は大したヤツじゃない。

 それでも、ベアトリスがそう言ってくれるなら……少しでも胸を張れるように、俺は頑張らなきゃいけないだろう。

 俺の顔を見て、ベアトリスさんはにっこり微笑むと、そのまま荷物を持って歩き始めた。


「……ベアトリスさん!」

「?」


 思わずそう声をかけると、ベアトリスさんは不思議そうな表情を浮かべながら俺の方に振り向く。


「俺が彼らに魔法を使えるようにしたというのなら、ベアトリスさんはここまで彼らを支えてきたんです! 俺だけじゃない……いや、俺以上に! ベアトリスさんはそのことに胸を張ってください! ベアトリスさんは、俺の中で一番の先生です!」

「!」


 俺の言葉を受け、目を見開くベアトリスさん。

 俺の人生の中で、ベアトリスさん以上に生徒のことを考え、生徒の成長に喜べる人を俺は見たことがない。いや、これから先もベアトリスさん以上の先生に会うことはないだろう。

 ベアトリスさんは、俺なんかとは比べ物にならないほど、Fクラスの皆を支え、寄り添ってきたんだ。

 すると俺だけでなく、同じように集まっていたアグノスたちがベアトリスさんに向かって叫ぶ。


「ベアトリスの姐さん! 姐さんが俺たちを見捨てないでくれたこと、絶対に忘れねぇ!」

「……貴女には、とても大切なことを教えてもらった。敬意と感謝を」

「……達者で」

「べ、ベアトリスさん! 本当に……本当にありがとうございました!」

「……ありがとう。ベアトリス先生には、本当に感謝しているわ」

「また、先生の授業を受けたいです~」

「完璧な私が、より完璧になったのは……すべてベアトリス先生のおかげです。ありがとうございました」

「ベアトリスぜんぜぇぇぇぇえええ。ざびじぃよぉぉぉおおおお」


 ……約一名、号泣しているけど、それだけベアトリスさんに感謝の気持ちがあるということだ。それによく見ると、フローラ以外にも涙を浮かべている生徒がいる。

 ……俺も泣きそうになってきたじゃないか、コンチクショウ。どうしてくれんだ……こういうの弱いんだよっ!

 驚いて立ち止まるベアトリスさんは、その目に涙を浮かべながらも笑顔を浮かべ、俺たちに一礼をすると去って行った。

 その姿が見えなくなると、今度はアグノスやブルードといった、男子たちが動き始める。


「さて……兄貴。俺ももう行くぜ」

「……俺も、すぐに国に戻り、今の状況を少しでも把握する必要がある」

「誠一先生にも、世話になった」

「あ、ありがとうございました!」

「……ああ、みんな元気でな」

『はい!』


 アグノスは最後まで元気に手を振りながら去って行き、ブルードはクールに、それでいて優雅に歩いていく。

 ベアードとレオン君は、途中まで一緒らしく、仲良く去って行った。


「それじゃあ私たちも行きますね~」

「先生のおかげで魔法が使えるようになり、私の美しさに磨きがかかりました。あ、惚れてはだめですよ?」

「誠一ぜんぜぇぇぇぇええええ。ざびじいよぉぉぉぉおおおお」


 レイチェルたちもそれぞれ挨拶をすると、自分の故郷に向かう馬車に乗り、去って行った。

 その姿を見つめながら、俺もフローラじゃないが、心にぽっかりと穴が開いたように感じていた。

 ……この学園に来て、皆と一緒にいるのが何だかんだ日常になっていたから、いざこうして離れると寂しいな。

 そんな俺の気持ちを察したのか、サリアが優しく寄り添ってくれる。


「大丈夫だよ。また、会えるから!」

「……そう、かな?」

「そうだよ! だって、私たちは生きてるんだからね!」

「……そりゃ死んだらお終いだからな」


 サリアの極端な言葉に、俺は苦笑いを浮かべた。……あれ? そういや冥界に行ったことあるし……死んでも会えちゃったりする?

 ……うん、この話は止めよう。感動の別れが台無しになる。

 生徒を見送っていると、バーナさんが静かに近づいてきた。


「誠一君。君をこの学園に呼んでおいて、このような結果になってしまい……大変申し訳ない」

「そんな……俺はこの学園に来れたこと、感謝しています」


 この世界に来てから会えなかった神無月先輩たちと会えたし、何よりFクラスの皆に会うことができた。

 みんなと過ごした時間は、俺にとってとても大切なモノになったんだ。感謝の気持ちこそあれど、そこに怒りの気持ちなんてあるはずがない。

 俺の言葉に同調するように、アルもバーナさんに言う。


「オレも……今まで体質のこともあって、中々後進の育成に携わる機会がなかった。でも、この学園で冒険者のことを教えることができて、オレは本当に嬉しかったんです。ありがとうございました」

「うむ、学食は美味かったぞ。褒めてやる」

「……食いしん坊、ここはふざけるところじゃない」

「? 私はいたって真面目だが?」

「……手遅れだった」


 ルルネが手遅れなのは今更だよ、オリガちゃん。

 バーナさんは穏やかな笑みを浮かべると、その視線をゾーラたちに移す。


「……ゾーラ君には悪いことをしたのぅ。せっかく学園生活に慣れ始めたと思った時に……」

「い、いえ! 残念ではありますが、こんな私を受け入れてくれた学園長には感謝してます!」

「そういってもらえるとありがたいのぉ……それに、ルイエス君たちも申し訳ないことをしたの」

「そんなことは。私は本来この場にいない者ですから。学園長の好意でここにいるだけの存在にすぎません。感謝の気持ちしかありまえんよ」

「私も同じ。元々私のわがままで誠一に付いてきただけで、ここに置いてくれたことに感謝している。ありがとう」

「……うむ、確かによく考えればウィンブルグ王国の主力であるルイエス君や魔王の娘であるルーティア君がこの場にいるのはおかしいんじゃったな。いやあ、誠一君と一緒にいると常識が壊れるのぉ!」


 俺も自分の常識が壊れるので苦労してます。


「それで……これから誠一君はどうするんじゃ?」

「そうですね……特に何をしようとかまだ決めていないので、ルイエスたちを送るついでにしばらくはウィンブルグ王国のテルベールで過ごそうかなと考えております」

「そうか……なら、ウィンブルグ王国はしばらくは安泰じゃのぉ。なんせ、誠一君が向かうのじゃからな」

「あははは……ど、ドウナンデショウネ」


 俺がいることで果たしてどれだけ効果があるか分からないが、少なくとも元勇者や初代魔王とかいる時点で何が起きても大丈夫な気がする。

 俺の反応にバーナさんは笑うと、視線を別のところに移した。


「さて……誠一君たちの今後の動きは何となく分かったが……君はどうするんじゃ? ――――ヘレン君」

「え?」


 思わずバーナさんの視線の方に目を向けると、そこには何かを考えているヘレンの姿があった。

 あ、あれ? さっき、レイチェルたちと一緒に帰ったんじゃ……いや、あの時ヘレンの姿はなかったな。

 どうやら気付いていなかったのは俺だけのようで、特にサリアたちに驚いた様子は見られない。あ、あれー?

 驚きながらも何故まだヘレンが残っているのか考えていると――――。


「……誠一先生」

「は、はい?」

「私を……私を強くしてください!」

「――――は、はいぃ!?」


 ヘレンはそういって、俺に頭を下げるのだった。

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