占いの館
シフトの時間を終えた俺は、控室に移動する。
控室では、サリアやアルも休憩している。
「あ、誠一! お疲れー!」
「うん、お疲れ様」
サリアたちが笑顔でねぎらってくれる中、俺は身に着けていたマントを脱いで一息ついた。
「ふぅ………………ちょっと死んでくる!」
「待て待て待て待て!」
俺がそう言って部屋の窓から身を乗り出そうとすると、アルが全力で俺を止めてきた。
「何いい笑顔でとんでもねぇことをサラッと言ってんだ!?」
「アル、離してくれ! もうダメだ、あんなキザなセリフ……うがああああああ! 殺してくれええええええ!」
「落ち着けバカ! お前だけじゃなくて、オレも恥ずかしいんだから我慢しろ! そもそも誰がお前を殺せるんだよ!?」
「確かに!?」
「え、そのレベル!?」
俺とアルのやり取りを見ていたヘレンが、目を見開いた。
クソおおおおおおおおお! 死んであの恥ずかしい記憶を今すぐ消し去りたいのに! こんなところで俺の体が邪魔を……! いつも俺を助けてくれてありがとうございます! ただ、もう少し自重してくれてもいいのよ?
実際に俺が仮に死にそうになったとしても……なんていうか、『あ。貴方は来ないでください』って地獄や天国、それこそ冥界さんに拒否されて、そのまま生き続けそうな気がする。というより、その程度じゃもう驚けない自分がいるのもまた事実。じゅ、寿命ではさすがに死ねるよね!? そこ、人間としてお願いしますよ!
アルに引き留められたことで少し落ち着いた俺は、げんなりした気分で呟いた。
「誰だよ、コスプレ喫茶をしようなんて言ったヤツ……ぶん殴ってやる……」
「「「誠一」」」
「ごふっ!」
俺は自分の顔を全力で殴った。うん、俺が全部悪かった。
「まあいいじゃねぇか。その……カッコよかったぞ……?」
「うんうん、誠一とっても似合ってたよ!」
「アル……サリア……」
二人ともこんな俺を慰めてくれる。
……確かに、恥ずかしいのは間違いないが、それでもお店に来てくれる生徒たちが笑顔になって、それぞれが楽しんでくれるのは嬉しい。
サリアたちの新たな一面というか、姿が見れたのもよかったし……結果的には、俺は満足している。
再び溜息を吐いた後、俺は苦笑いを浮かべた。
「二人にそう言われちゃ、これ以上は何も言えないな……ありがとう」
「うん! これからの仕事も頑張ろー!」
「よし、やっぱりちょっと死んでくる」
まだ仕事があったことを思い出し、その場から逃げ出そうとするのをアルとサリアに引き留められるのだった。
◆◇◆
「へぇ……こうしてみると、色々な出し物がやってるなぁ」
「そうだねー。あ、あれ美味しそう!」
恥ずかしさを堪えながら、何とかすべてのシフトを終えた俺は、サリアと一緒に校内を見て回っていた。
アルたちはまだシフトが残っていたり、他のメンバーと見て回ったりしている。
今まで地球の高校や中学での学園祭は、虐められてたこともあってまともに楽しめたことはなかったが、こうして見て回ると夏祭りとかとは違う空気を感じた。
生徒が出す食べ物系の出し物はそこそこのクオリティで美味しい。
俺とサリアは時々出店のモノを食べながら歩いていると、ある出店の前を通りかかった。
「占いの館?」
「へぇ……占いなんてやってるのか」
学園祭の出し物だし、どこまで本格的か分からないけど、気にはなるよな。地球でも占いを受けたことはなかったし。
「せっかくだし、受けてみる?」
「うん!」
教室を丸ごと使ったその占いの館は、中に入ると黒色のカーテンで窓を覆い、全体的に真っ暗にした中紫色の光がぽつりぽつりと浮かんでいる。
「おお、ようこそ、我が占いの館へ……こちらの席へどうぞ」
顔が見えないようにフード付きのローブを身に纏った人に促され、俺とサリアは周りの人より少し豪華なローブに身を纏った人物の前に座った。
その人の前には水晶が置いてあり、恐らくこの水晶を使うんだろう。
「さて、ようこそいらっしゃいました。何を占いましょうかな? お二人の相性? 未来? それとも本質?」
「えっと……」
思っていた以上に色々と占ってもらえるらしく、思わず考えてしまう。
するとサリアが手を挙げた。
「はい! じゃあ私は誠一との相性をお願いします!」
「サリア?」
「えへへ。どうなるかなー? あ、誠一は何を占ってもらうの?」
サリアが俺との相性を占ってもらうらしいので、俺は少し考えてみた。
「うーん……じゃあ本質? ってヤツで」
相性と未来は何となく分かるが、本質ってのがピンとこなかったのでそれを占ってもらおうと決めた。
「なるほど……承りました。ならば、まずはそちらのお嬢さんの言う相性を占ってしんぜよう……!」
そういうと豪華なローブの人物は、両手を水晶に――――ではなく、俺たちの頭にかざした。
「キエエエエエエエエエエエエ!」
「水晶使わねぇのかよ!?」
「視えた!」
「しかも早ぇ!?」
思わずツッコんでしまった俺をよそに、ローブ姿の生徒は興奮した様子で口を開いた。
「お二人の相性は最高ですぞ! というより、ここまで相性のいい組み合わせを見たことがない! 将来は安泰、お二人にはこれからも明るい未来が待っていることでしょう! 末永く爆発しやがれコンチクショウ!」
「理不尽すぎる!」
祝われてるのか、呪われてるのか分からないな!
ただ、それでも俺とサリアの相性がいいって言われると……普通に嬉しい。いや、超嬉しい。
無意識にサリアに視線を向けると、サリアも俺の方を見て、少し恥ずかしそうに笑った。
「えへへ……これからもずっと一緒だね!」
「……そうだな」
何があっても、俺はサリアと一緒にいたい。
そう改めて思えただけでも、ここに来てよかったなと思った。
「んん! ゴホンゴホン! ここでイチャイチャムードを出すのはやめてもらえないですかねぇ!?」
「あ、す、すみません……」
別にイチャイチャしてたつもりはないんだが……はい、反省します。
「まあいいでしょう……さて、それではそちらの男性の本質を見ていきましょう」
「お、お願いします」
ローブ姿の生徒は今度は頭に手をかざすこともなく、俺の顔をじっと見つめてきた。いや、だから水晶使わないの? そこそこ大きいよ?
「視えた!」
「やっぱり使わねぇのか……」
「ってはあああああああああああああああ!?」
「へ?」
俺の顔を見ていたローブの人物は、ハッとした表情を浮かべた後、すごい勢いで後ずさった。
「な、なんなんだ、貴方は!? こう……とにかく何て言えばいいのか分からんが、滅茶苦茶だ! 【人間】という可能性をすべて詰め込み、なおかつこの世の理から逸脱……否、そんな話じゃない。一個人が数多の世界や次元と同列以上の【個】として隔絶している!? ああ、クソっ! 俺の語彙力じゃ説明できねぇ! てか、誰がこれを説明できるの!? ただの学園祭の出し物に何求めてんだ!」
「ご、ごめんなさい!?」
よく分からんが、俺は叱られてしまった。いや、本当によく分からないけど。
しかもただの学園祭の出し物って言う割には案外しっかりした占いしてるんじゃないの?
「と、とにかく! これ以上はここで占うことは無理だ。てか、誰も貴方を占えない! それこそ神様……んんん!? か、神様ですら分からない!? じゃあコイツは何なんだよおおおおおおおお!」
「「……」」
頭を抱えてしまったフードを被った生徒を前に、俺とサリアは顔を見合わせる。
これ以上ここにいてもいいことがなさそうなので、俺はお金を払うとこそこそと二人で出ていくのだった。




