勇者組の現状
「これでよし」
「本当に外れた……」
何とか混沌とした状態から抜け出した後、真面目な話に移り、翔太たちの腕輪について説明することになった。
混沌とする原因となった俺の話もあったおかげで腕輪の効果が偽装されていること、そしてその腕輪を外すことが出来ることを翔太たちに信じてもらうことが出来、たった今目の前で全員分の腕輪を外し終えたところだった。
「それにしても……『隷属の腕輪』か……確かに着けてから外せねぇなぁとは思ってたがそこまで物騒な代物だったとは……」
「やっぱり、カイゼル帝国って信用できないよね……」
腕をさすりながら翔太がそう呟くと絵里さんも表情を曇らせながらそう言った。
そんな言葉に一番衝撃を受けているのは――――ブルードだった。
「まさか父上が……」
「あ……ブルード君は関係ないんでしょ? だからブルード君自身がそこまで気に病まなくても……」
「……いや、例え父上の行いだとしても、俺がカイゼル帝国の皇族であることに変わりはない。本当に申し訳ない……」
ブルードはそう言って翔太たちに向けて頭を下げた。
その光景に俺はもちろん、神無月先輩たちは何も言えないでいると、呆れた顔をしたアグノスがブルードの頭を引っ叩いた。
「アホか、お前」
「いっ……!? 何故叩く! バカか!」
「バカはテメェだろうが! 何で親の行いを子供であるお前が謝ってんだよ」
「それは俺の父親が……」
「その考えがおかしいんだよ。皇族であるかさえ関係ねぇ。お前はお前で、親父は親父だろ? んなこと俺でも分かるっての」
アグノスの言葉は第三者だからこそ言える客観的な言葉であり、その言葉はとても重く感じた。
「そこを一緒にするからいけねぇんだ。別にお前自身が勇者に悪さしたわけじゃねぇだろ? それをお前が謝っちまったら父親の罪がお前のモノになっちまう。こんなバカな話あるかよ。そもそもお前と父親を勇者が同罪だと考えてるなら、俺からいわせりゃ勇者も十分悪いと思うぜ?」
「……そうだな。私たちがこうなった原因はカイゼル帝国や君の父君にあったとして、それを何の関係もない君を巻き込んでしまえば私たちもカイゼル帝国と変わらなくなってしまうね」
神無月先輩もアグノスの言葉に小さな笑みをこぼし、そう口にした。
その言葉に呆気にとられたブルードは、やがていつも通り自信たっぷりの笑みを浮かべた。
「フッ……俺としたことが、こんな大馬鹿者に説教されるとはな……」
「何でいいこと言ったのに馬鹿にされてんだ!? ああ!?」
「勘違いするな、褒めているのだ」
「な、なんだよ。それならそうと――――いや褒めてねぇだろ!?」
本当に仲いいね、君たち。
さっきまでの暗い雰囲気が変わったところで、翔太が唸った。
「それにしても……誠一のおかげで俺たちは解放されたわけだろ? これからどうするんだ?」
「あ……確かにそうだよね。この腕輪がないとカイゼル帝国に戻ったときに怪しまれるだろうし……」
「……そういや、何で神無月先輩は腕輪してんだ? 外してもらったんだろ?」
賢治が当然の疑問を口にすると、何故か神無月先輩は胸を張り、そしてあいりんに挑戦的な視線を向けた。
「知りたいかい? むふふ……仕方ないなぁ! じゃあ教えてあげよう! まず、誠一君が初めて隷属の腕輪を壊してくれた相手は私だ!」
「なっ!? なんスかそれ!?」
「それだけじゃないぞ。壊した後、誠一君の手で装着しなおしたことにより、私は名実ともに誠一君の物になったのだ!」
「アンタなんてこと口にしてくれてんだ……!」
確かにそうだけど! 言い方ってもんがあるじゃん!? しかも何でそんなに嬉しそうなの!?
「そ、そんなのズルいっス! ウチも! ウチも壊してせいちゃんに着けなおしてほしいっス! そしてウチもせいちゃんの所有物になるっス!」
「ズルいって何!? しかもなんちゅうことを口走ってんだよ!」
本当に神無月先輩とあいりんのこんな一面知りたくなかったなぁ! 憧れの人のままがよかったのに!
俺が頭を抱えていると、翔太が真面目な顔で呟いた。
「……そうか。誠一に着け直してもらえば命令権は誠一に移るのか……」
「何言ってんですかねぇ!?」
翔太も!? 翔太もバカになったの!?
俺がすごい顔で翔太の方を向くと、翔太は慌てて訂正した。
「ん? あ、違うぞ!? 神無月先輩みたいな気持ちは微塵もねぇからな!? 単純に誠一じゃなくても信頼できる人に着けてもらえればバレずに済むって思ったわけで……」
「ふむ……なら私が翔太たちのぶんを受けもとうか」
「え?」
すると神無月先輩がさっきとは変わって真面目な顔をしてそういう。もうずっとこのままならいいのに。
「私が付けても問題ないのであれば、私がつけよう。私じゃ不安だというのなら、例えば翔太と美羽で互いに着け合うなどして制御できる形にすればいいだろう。どうだ?」
ほんと、何で変態になったんですか?
すぐに案を出して見せた神無月先輩を前に本気でそう思った。
すると翔太たちは軽く話し合った後、答えを出す。
「そうですね……俺たちは別に神無月先輩に着けてもらっても大丈夫なので、お願いしてもいいですか?」
「ああ、請け負おう。世渡君たちはどうする?」
「ウチはせいちゃんに着けてもらうっス!」
「だから何で!?」
「あー……愛梨はともかく、アタシたちはお互いに着けあうからいいよ」
「ま、ウチらずっと一緒にいるしねー」
「それが正解って感じ」
「なるほど……ということなので、世渡君も大人しく彼女たちと腕輪を着けあいなさ。誠一君の奴隷は私一人で十分だ」
お願いです、神無月先輩。案外猫被るのって大事なんですよ? 最後まで被ったままでいてください。
「絶対に嫌っス! ていう訳で……えいっ!」
「へ? あ!」
「あああああああああああああああああああああああああああ!?」
ボーっとしていたところをあいりんに手をとられ、そのままあいりんの腕に腕輪を嵌めてしまった。
その光景を見ていた神無月先輩は絶叫する。
「えへへ……これでウチもせいちゃんの物っスよ!」
「世渡くんんんんんんんんんんん! き、君がいなければ私だけが誠一君の奴隷だったのにぃぃぃぃぃいいいいいいいい!?」
「怖い怖い怖い怖い!」
血の涙を流しながら悔しそうにする神無月先輩を前に俺は本気でドン引きした。いや、俺だけじゃなくて全員ドン引きしてた。よかった、俺だけじゃなくて。
本当に滅茶苦茶な雰囲気が漂う中、梨香さんがふとした疑問を訊いてきた。
「そういえば……どうして誠一君たちのクラスはこの家庭科室にいたのー? 家庭科の授業?」
「え? ああ、そうじゃないよ。ほら、今度学園祭があるらしいじゃん? それで俺らのクラスはコスプレ喫茶をすることになって、それでメニュー内容を考えるのと誰がどこまで料理できるかを調べるためにここで調理してたんだ」
『コスプレ喫茶!?』
俺の言葉に翔太たちは目を見開く。
「おいおい……ついこの間の襲撃からみんな気持ちの整理が出来てねぇのに、誠一のクラスはもう学園祭のこと考えてんのかよ……」
「あ、ちょっと待ってお兄ちゃん! あの時の襲撃者を倒したのって……」
「え? ………お前かああああああああああああああ!?」
今までフードを被ってたせいで、俺だと分からなかった翔太たちは【魔神教団】の襲撃者を倒したヤツが俺だと気付いていなかったらしい。俺としては倒したって気はしてないんだけど……。
「誠一、気付かねぇうちにずいぶんと強くなったみたいだなぁ」
「そ、そうかな? 賢治だって真面目にボクシングを続けてたわけだし、そういう意味じゃ……」
「いやいや、俺はあの時怖くて動けなかったからな? ……本当に情けねぇな。本当は少しでも誠一のためにって強くなろうと思ってたのに、今じゃ誠一の方が強いなんてよ……」
昔は泣き虫だった賢治が、ボクシングを始めた理由を俺はよく知らなかった。
確かに当時は不思議に思ったが、まさかそんな風に考えてくれてたなんて……。
「すごいねぇ、誠一君。私たち勇者の中にいなかったからどうしてるか心配だったけど、今では誠一君の方が強いんだもん」
「うんうん。誠一お兄ちゃん、相変わらず予想の斜め上をいきすぎ」
「え、ええ?」
「……アンタ、異世界でも非常識だったわけ?」
「言いがかりですよ!?」
ヘレンにそう言うが、全然信じてくれない。泣くぞ。
コスプレ喫茶の話からだいぶ脱線したなと思っていると、突然神無月先輩が目を輝かせて俺を見た。
「せ、誠一君もコスプレをするのかい!?」
「ま、まあ……そうですね」
「ビキニを着るんだね!?」
「ビキニ!?」
おい、ビキニってなんですかねぇ!? なぜ最初に思い浮かぶ選択肢がそれなの!?
ぐいぐいと詰め寄ってくる神無月先輩に困っていると、それを横からあいりんが突き飛ばした。
「邪魔っス!」
「ぶへ!?」
「神無月先輩!?」
「せいちゃん! 喫茶店ってことは、せいちゃんの手料理もあるんスか!?」
「さ、さあ? さっきまで俺が作り終えて、皆に判断してもらおうって時に神無月先輩たちが来たから……」
「もう作り終わったんスか!?」
「ははははは! 残念だったなぁ世渡君! 誠一君の手料理は私が食べてしまったよ!」
突き飛ばされたはずの神無月先輩が急に立ち上がり、勝ち誇った表情でそう告げる。
「なんですと!? せいちゃん、どういうことっスか!? どうしてウチに用意してないんスか!?」
「めっちゃ理不尽!?」
神無月先輩も何故か自慢してるが、あれ元々ルルネ用に作ったヤツだからね? おかわりがなくなったルルネ、さっきからスゲェ落ち込んでるんだけど?
理不尽な文句を言い続けるあいりんを引きはがし、俺は翔太に気になったことを訊く。
「な、なあ。俺たちがもう学際の準備してることに驚いていたけど、翔太たちや他の勇者たちは何もしないの?」
「ああ……それなんだがな……」
「……みんなこの間の襲撃で完全に心が折れちゃってな」
「はい? 心が折れた?」
俺は思わず聞き返してしまった。
「俺たちが最初にカイゼル帝国に召喚された時、俺たちはともかく他の連中は物語の中のような勇者になれるってんでスゲェ喜んでたわけだ。しかも話によると俺たちはこの世界の人間より強いらしいし……」
「ええ?」
勇者がこの世界の人間より強い?
俺は思わずFクラスの面々、そしてルイエスたちを見た。
……。
「えっ?」
「もうその反応ですべてを察したわ……」
いや、だって……ねぇ?
今の勇者たちのステータスやレベルは知らないけど、どう足掻いてもギルド本部の連中やルイエスたちに勝てる未来が浮かばないんだけど? もちろん、俺が普通に勇者召喚されてたとしてもだ。
あれか? 成長していけば勝てるのかな?
それにこじれそうだから言わないけど、ここには魔王の娘であるルーティアもいるからね?
「とにかく、俺たちは強いって言われ、そこの兵士さんに鍛えてもらったんだ。でもその訓練内容が素振りや模擬戦がほとんどで、実戦によるレベル上げをさせてもらえなくてさ……それにしびれを切らした連中が国に直訴した結果、こうしてこの学園に送られたのよ」
「はあ」
え、何それ、羨ましい。
今となってはサリアやアルたちに会えたから後悔も何もしてないけど、もしそうじゃないならそんな風に安全な訓練がしたかった。
俺だって好き好んであの何もない森の中で命のやり取りしたくなかったよ! 何度死にかけたか分からねぇしな!
予想以上に大切にされてたと俺は思うんだが、その実戦がしたいってもの好きだなぁ。だって怖いじゃん。しかも痛いし。
そんな安全に訓練できる状態を捨てるってなかなか……勇気があるのか? よく分からんが。
「実際この学園に来たら俺たちより強いヤツなんて一握りしかいなくてよ。それが勇者たちを増長させる結果にもなったんだが……その自信が、壊されたのさ。今となってはほとんどの連中が帰りたいって言ってるが……腕輪のこともあるし、絶望的だろうな」
「ええ……?」
俺は逆に地球では自分より強い人ばかりだったからなぁ。
勇者たちは何かを奪われたわけでもないのに心が折れる、か……難しいな。
「じゃあ帰りたいから、皆学園祭どころじゃないってこと?」
「そういうことになるな」
「あの……一応勇者たちの他のクラスは出し物を決め始めたって聞きましたが……」
「え、そうなんですか?」
「はい。やはり学園祭ですから……みんなで楽しみたいじゃないですか」
ベアトリスさんの情報が本当なら、勇者たちと違って他のクラスの生徒たちはもう前を向き始めているのだろう。
……文化の違いっていうか、治安の違いもあるんだろうけど、こんなにも逞しい人間がたくさんいるこの世界より俺たち地球人が強いってのはまずないだろうなぁ。
「不参加ってのは出来る物なのかね? ベアトリスさんの言う通りせっかくの学園祭なのになあ?」
「そうだよ! 確かにあの時は怖かったけど、楽しむときは全力で楽しまないと!」
俺が同意を求めるようにサリアを見ると、サリアは笑顔で頷いた。そうそう。死んだわけじゃないし、何より自分より相手が強いんならもうどうしようもなくね?
……あ、俺は一応死んだのか。
俺の反応を見た翔太たちは一瞬目を見開くと、すぐに苦笑いを浮かべた。
「そういうところは相変わらずだなぁ」
「そういうもんか……? まあいいや。でも何かしないと本当に勇者たちだけが出し物なしになっちゃうぞ?」
「……そうだね。難しいかもしれないが、もう一度みんなで話し合ってみよう」
「それがいいと思いますよ」
神無月先輩の言葉に俺は頷いた。まあ真面目モードの神無月先輩ならなんとかするだろう。
「せいちゃん! さあ、ウチのためにもう一度料理するっス!」
「主様! 私も! 私のためにもお願いします!」
…………あいりん、まだ言ってたのね。
『おはようガーディアン!(仮)』の方も是非、読んでみてください。
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