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羊さん、再び

 レベル……アップ?

 せっかく和んでいたところ、その無慈悲な一言に俺の心は一気に冷えた。

 ……いや、落ち着け。まだぶっ飛んだ結果になるとは決まってないじゃないか。まあ今までのレベルアップはどれもとんでもないことになったんですけどね!

 急に表情が死んだ俺に気づいたアルが、怪訝そうに訊いてきた。


「ん? どうした? 誠一」

「……その、レベルアップしたらしくて……」

「お前まだ強くなんの!?」


 俺が聞きたいよね! 教えてくれない? 俺の体さん。どこ向かってる?

 とにかく嘆いていても仕方がないので、とっととステータスを確認する。

 何気に久しぶりだなぁとか考えていると、ステータスは――――。


◆◇◆


【柊誠一様】

 この度はレベルアップ、おめでとうございます。

 順調にお強くなられているようで、私も大変喜ばしく思います。

 しかし今の私には誠一様のステータスを表示するなどとても畏れ多く、表示できません。

 誠に申し訳ございません。

 どうか、そんな不甲斐ない私をお許しください。

 ――――ですが私は諦めません。

 今でなくとも、これから先どこかで誠一様のステータスを表示できるよう、修行の旅に出ます。

 探さないでください。

 そしていつかまた、成長した私が誠一様のステータスを表示できるようになる日を、ほんの少しでも待っていてくだされば幸いです。

 誠一様のますますのご活躍をお祈りいたします。

 では、いつかまた、会えるその日まで――――。


◆◇◆


 ――――旅に出た。


「なんでだあああああああああああああああああああああ!」


 ステータスカムバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアック!

 ステータスがステータスを放棄するって何なの!? まさかステータスが敬語になるより酷くなるとは思ってもみなかったよ!

 ってそうじゃなくて! 帰ってきてくれない!? いや、本当にどこ行ったのさ!

 どう考えてもおかしいよな! おかしいんだよな!? もう自分に不信感抱き始めてるよ!

 ぶっ飛んだ結果を恐れてはいたけど、ここまで酷いとはさすがに予想できなかった!

 感情のままに叫び、ツッコんだ俺をサリアたちはビックリして見てきた。


「誠一? どうしたの?」

「ステータスに……家出された……」

『は?』


 全員の声が一致した。

 俺も同じ反応したいよ! でも当事者だからできないよね! 泣くぞコラ。

 呆然とするサリアたちだが、やがてみんな納得したように頷いた。


「そっかぁ……でも誠一だもんね!」

「……誠一のステータス、無理してたんだな……いや待て。ステータスに自我があるってなんだよ!?」

「なるほど……主様の偉大さについにステータスですら匙を投げたんですね!」

「……誠一お兄ちゃん。それはさすがに普通じゃない……けど、納得出来ちゃった」

「師匠。……どうすればその高見まで行けるんですか? 私には師匠に追いつける未来が見えません……」

「誠一。私、よく分かった。【魔神教団】はすごく危険な組織だと思ってた。……でも今の誠一見てたらその魔神が哀れに思えてきた」

「え? え? よ、よく分からないですが……とりあえずすごいんですね?」

「納得しないでぇぇぇぇぇええええ!?」


 特にサリア! もうそれ何の根拠にもなってないよ!

 みんなが納得しちゃったので、ゾーラもそういうもんなんだと思い込んでしまったのだ。

 もう精神的に打ちのめされて、かなり辛いのだが、そんな状況で俺はゾーラに名前を名乗ってないことに気づいた。現実逃避したいんだよ!


「あー……そういえばゾーラには名前を言ってなかったな」

「あ、はい! 他の皆さんの名前はこの眼鏡を作っていただいてる間に聞きました」

「そうか。んじゃあ改めて。俺は柊誠一。誠一って呼んでくれ」

「はい! 誠一さんですね!」


 さっきまでとは違う、生き生きとしたゾーラの表情を見て、俺の荒んだ心が少しだけ癒された。


「――――いやいやいや、もっと癒されてもらいますよ!」

『っ!?』


 突然聞こえてきた声。

 その声にアルたちはすぐに武器を構えて警戒するが、俺とサリアには聞き覚えのある声だった。


「あれ? この声って……」

「ま……まさか……!?」


 戦々恐々とする俺の目の前に、ソイツ――――羊は現れた。


「お久しぶりです! みんな大好き、羊さんですよ? さあ、存分に癒されてください」

「すでにうぜぇぇぇぇぇえええええええええ!」


 ドヤ顔でこっちを見てくる燕尾服とシルクハット姿の羊に、俺は全力でそう言った。

 せっかく癒されたと思ったのに! いっきにげんなりしちまったよ!

 まさかの精神的な追撃にうなだれていると、アルが驚きながら訊いてくる。


「なんだ? 誠一とサリアの知り合いか?」

「うん、そうだよ! 羊さんっていうんだー!」

「うんうん、相変わらずサリアお嬢様は可憐ですね。それに比べ誠一様は……とうとうステータスにも逃げられましたか。うんうん、相変わらず人間じゃないですね」

「どうしてそう傷を抉ってくるかねぇ!? てか、なんでステータスが旅立ったこと知ってんだ!?」

「先ほどまでそれを眺めて笑い転げてましたので」

「相変わらず性格悪ぃ!」


 全然変わってねぇ! 逆に安心したけどよ!

 俺たちのやり取りを見ていたアルが、頬を引きつらせた。


「な、なんていうか……ずいぶんと癖のあるヤツだな」

「いやぁ、照れますね」

「褒めてはねぇよ!?」


 コイツの脳内変換機能どうなってんだ!?


「さて、誠一様のせいで前置きが長くなりましたが、そろそろ本題に入りますね」

「俺のせいか!?」

「はい、もういいですから」


 こいつ絶対ぶん殴る。


「さて、サリアお嬢様と誠一様は私が来たことで薄々感じているのではないですか?」

「あ? あー……確か、お前が来るのはダンジョンを真の意味で踏破したらだろ?」

「その通りです。そして真の意味でダンジョンを踏破できるのは、残留思念が残ったダンジョンのみ……実はこのダンジョンでは私が出てくるはずはなかったのです」

「は? そうなのか?」


 そういえば、確かに真の意味でのダンジョン踏破ができるところは、残留思念がどうとかって話だったな。

 すると羊はゾーラに視線を向けた。


「ええ。もともとこのダンジョンは魔力によって生み出された自然のダンジョンなのですが、そこにゾーラ様や蛇神様といった存在を封印されました。その結果、このダンジョンそのものが自我を持つまでに成長したのです」

「ふーん……でも、ゾーラや蛇神は生きてるし、残留思念なんてないだろ? それこそダンジョンの自我も円発生だったわけだし……」


 俺がそう訊くと、羊は指を振った。


「フ……甘いですね? 誠一様」

「え?」

「確かに、ダンジョンのボスが残留思念の持ち主である場合が多いとは言いましたが、別に他の存在の残留思念である場合もないわけではないのです。そしてこの場合、ここの自然発生したダンジョンには、蛇神様とゾーラ様のお二人を封印した蛇族の者たちの残留思念が多く残されております。まあ無念とかそんな類のものではなく、非常に強力な……それこそ呪いに近い、憎悪の思念ですね。だからこそ、ダンジョンが自我を持ったうえに、真の踏破が可能なダンジョンへと変貌したのです」

「な、なるほど……」


 ゾーラは蛇族の残留思念……それも、憎悪の類だと聞いて悲しい表情を浮かべた。

 憎悪の内容がどうであれ、蛇族や身内にいい思い出がないんだから仕方ないよな。

 そんなことを思っていると、羊は呆れ果てた様子で言った。


「はぁ……それにしても、誠一様は相変わらず滅茶苦茶ですねぇ」

「は? な、何がだよ」


 思い当たる節は多すぎるけど。


「いいですか? 今回のダンジョンは真の意味で踏破可能にはなっていましたが、できるかと言われれば不可能だったのです」

「へ?」


 羊の言葉に俺は間抜けな声を出した。

 いや……不可能? でもできちゃったからこのウザい羊がいるんだろ?


「主に真のダンジョン踏破は残留思念の無念を晴らせば、たいてい可能となります。ですが、先ほども言ったように、このダンジョンの残留思念は蛇族の憎悪です。その無念や思いを晴らすなんて到底不可能でしょう?」

「そりゃあ……まあ……」

「じゃあなぜできたのか――――そりゃダンジョン消し飛ばせば関係ないに決まってるでしょう」

「そ、そんなことないんじゃないかなぁ!?」


 羊の言葉に俺の目は泳ぎまくった。


「いや、どう考えてもおかしいでしょう? 本来壊せるはずのないダンジョンを壊すだけでなく、その残留思念ごと消し飛ばすってなんなんですか? しかもゾーラさんのように何名かはダンジョンを壊す前にダンジョンの束縛から解放してますし。いい加減『人間』騙るのやめません?」

「そんなに言うんじゃねぇよおおおおおおおお!」


 もうボコボコ! 俺の精神タコ殴りじゃん! 俺だって『人間』だとは思ってないけど、ステータスが――――ってそのステータスに家出されたんだったああああああああ!

 羊の言葉に頭を抱えていると、そんな俺を無視して羊は続けた。


「まあそこの自称人間様は置いておきましょう。何はともあれ、こうして真のダンジョン踏破ができたのは大変喜ばしいですから」

「じゃあ俺にそこまで言う必要性なくね!?」

「あら。そこに気づくとは賢いですね」

「よぉし、歯を食いしばれぇぇぇぇ!」

「ひぃぃぃぃ! 暴力反対! 反対ですよ!」


 指を鳴らして近づくと、羊は大げさに反応した。こいつ絶対バカにしてる。


「まあまあ、落ち着いてください。……さて、ルーティア様」

「え? わ、私?」


 突然話を振られたルーティアは驚く。


「ええ、貴女様です。このダンジョンは特殊ではありますが、貴女様に関係するダンジョン……とくに御父上と誠一様達も訪れた黒龍神様のダンジョンは、真のダンジョン踏破がございます。その真のダンジョン踏破がなされれば……貴女様の御父上も黒龍神も解放されることでしょう」

「そ、それは本当!?」


 ルーティアは目を見開いて詰め寄った。


「ええ、ええ。私は紳士ですからね。ウソは申しません。そんなルーティア様を含めて、皆様に情報を提供いたしましょう」

「情報?」

「はい」


 そうにっこりと笑う羊は、俺たちにこう言った。


「――――近々二つのダンジョンが真の意味で踏破されるでしょう」

「二つのダンジョンが……?」

「はい。しかも、一つは先ほど申し上げたルーティア様と所縁のある、黒龍神様のダンジョンですね」

「黒龍神が!?」


 へぇ。黒龍神のダンジョンが真の意味で踏破されるのか……。


「ん? 黒龍神のダンジョンが真の意味で踏破されたらなんかあんのか?」

「そうですね……黒龍神様がダンジョンの呪縛から解き放たれ、外を自由に出歩けるといった感じでしょうか? ですから、ルーティア様はいずれ外で会えるでしょう」

「……そっか……ちなみに、誰が踏破しそうなの?」

「うーむ……本来ならこれ以上は規則で申し上げられないのですが、せっかくですから今回の踏破報酬としてお教えいたしましょう」


 あ、そういえば真の意味でダンジョン踏破したらなんかもらえるんだったな。……俺はヘルメット貰ったけどよぉ!


「何やら不穏な気配を感じますが、まあいいでしょう。黒龍神様のダンジョンを踏破されるのは、ゾーラ様以外はご存知のゼアノス様とルシウス様です」

「ああ! ゼアノスさんたちか!」

「……誠一が前に冥界から連れて帰ってきた二人か……って冥界から連れて帰って来たって言葉にするとヤバいな」

「確か、あのお二人は師匠のご両親と今は行動を共にしているんですよね。しかも元勇者の師匠と、元初代魔王……」

「ええ。そのお二人です。黒龍神様のダンジョンの真の踏破条件は、初代魔王であるルシウス様を連れてくることです。とはいえ、死人を連れてくるなど本来不可能なのですが……冥界から連れて帰ってくるってどこまで非常識なんですか?」

「そこは俺も自覚してる」

「……なら結構。とにかく、そのお二人がダンジョンに挑むようなので、近々真の意味でダンジョン踏破されることでしょう」

「なるほどなぁ……じゃあ、もう一つは何なんだ?」


 黒龍神のダンジョンは分かったが、もう一つはどこのダンジョンが踏破されるんだろうか。

 俺はこことその黒龍神のダンジョン、そして【果て無き悲愛の森】しか知らないので、言われても分からないんだけど……やっぱり気になるよなぁ。

 すると羊は真剣な表情で告げた。


「――――魔神様のダンジョンでございます」

『!?』


 俺たちは絶句した。


「ま、魔神のダンジョン?」

「そうです。つまり――――近々、魔神が復活するでしょう」

「そんな!? おい、羊さんって言ったか? アンタ、それは阻止できねぇのかよ!?」


 羊にそうアルが食って掛かると、羊はゆっくりと首を横に振った。


「……残念ながら、無理です。私の役目はダンジョンの管理……そのダンジョンを荒らすマネは、できないようになっているのです」

「そんな……じゃ、じゃあせめて場所だけでも……!」


 そう、場所だけでもわかれば、阻止できるかもしれない。

 そう思って聞いたのだが、羊はまたも首を横に振った。


「……場所はお伝えすることができないのです」

「どうして!?」

「これも規則なのですが……それ以前に、現在魔神様のダンジョンはこの世界にございません」

「………………は?」


 羊の意味の分からない言葉に思わずそう返した。


「もともとはこの世界にございました。ですが、【魔神教団】と呼ばれる組織の面々が、魔神様のダンジョンをこの世界から切り離し、別空間へと転移させたのです。……この世界にないダンジョンの管理を、私はすることはできないため、たとえ場所を教えることが許されていたとしても、そもそもその場所が分からないのです」

『…………』


 俺たちはただ、黙ることしかできなかった。

 しかし、そんな暗い雰囲気を吹き飛ばすよう、羊は明るく言った。


「……とはいえ、黒龍神様のダンジョンよりはまだまだ先でしょう。近々といっても、他と比べればという程度の話ですから。急いだほうがいいのに越したことはありませんが、今すぐでなくとも大丈夫かと」

「そうか……まあとりあえず、その魔神のダンジョンを探さなきゃどうしようもねぇわけだな」


 なんていうか、面倒なことをしてくれたなと。

 アイツら、とにかく不気味なんだよな。

 よく分からない力を使うし、なんか負の感情がどうとかいって襲ってくるし……いいことねぇな!


「とまあ、このような感じで大変数は少ないですが、ダンジョンが真の意味で踏破されそうなのですよ」


 羊の話を聞いていた俺たちだが、不意にルーティアが真剣な表情で口を開く。


「……羊さん、でいい?」

「ええ、そうお呼びください」

「ありがとう。私のお父さんは確かにダンジョンに封印されてる……。そして貴方はそのダンジョンも真の意味で踏破すれば、お父さんは解放できるって言った。じゃあ、真の意味で解放する条件はなに?」

「なるほどなるほど……それがお聞きしたいと?」

「ダメなの?」


 どこか不安そうな表情でそう訊くルーティアを見て、羊は何故か意味ありげに俺のほうを見てきた。


「そうですねぇ……先ほどの情報とは別にダンジョンの踏破報酬を用意していたのですが、そのダンジョンの踏破報酬を放棄するというのであれば、その情報をお教えいたしましょう。いかがなさいます?」


 あ、コイツ嫌らしいこと言ってきやがった。

 ……でもまあ、正直俺はダンジョンの踏破報酬は興味ないんだよなぁ……【果て無き悲愛の森】みたいに『進化の実』が手に入るとか、それくらいぶっ飛んでるんなら話は別だけどさ。


「俺は別にいいよ? ルーティアにとって大切な情報だろうし」

「私も大丈夫!」

「オレはもともと誠一に誘われてだしな。判断は全部誠一に任せるぜ」

「師匠。私も師匠の意向に従います」


 アルとルイエスもそう言ってくれる。

 ルルネやオリガちゃん、そして何が何だか分かっていないゾーラは、もともとこの話には関わる気がないようだ。オリガちゃんなんて欠伸しちゃってるし。


「……本当に……いいの?」


 とても不安そうにルーティア言うが、本当に問題ないのだ。


「うん。遠慮しないでよ」

「……分かった。ありがとう。羊さん、その情報を教えてくれる?」

「――――かしこまりました」


 羊は恭しく礼をすると、ニヤリと笑った。


「まあ、そのダンジョンに誠一様を連れていけば万事解決ってだけなのですが」

「どんな情報だよそれ!?」


 あまりにも適当すぎるその回答に、俺は思わずツッコんだ。

 だが、羊は気にした様子もなく続ける。


「いえ、いたって真面目ですよ? なんせ、ダンジョンからの縛りを解放できちゃう上に、ダンジョン消し飛ばしてるんですから今更じゃないですか?」

「そうだけど! そうじゃないっていうか……ね!?」

「知りませんね」

「くそおおおおおおおお!」


 踏破報酬辞退して手に入れた情報が、俺が行けばいいなんてそんなの……認めたくねぇ! でも何とかできそうな気もするから本当にどうしようもない。

 頭を抱える俺に、ルーティアはさらに不安そうな表情で俺を見た。


「誠一……」

「あー……うん。ルーティアのお父さんがダンジョンに封印されてて、俺が行けば解決するんだろ? どう解決すればいいか行ってみなきゃ分からねぇけどさ……」

「うん……」

「いいよ、行こう」

「え? ほ、本当にいいの?」

「今すぐってわけにはいかないけど、絶対に行く。そしてルーティアのお父さんを解放しよう。な?」

「うん……ありがとう……!」

「まだ解放できるって決まったわけじゃないんだから、お礼いいよ」

「何寝ぼけたこと言ってるんですか? 貴方が行けばもうゴリ押しで行けますよ。ゴリラのお嫁さんが多い、『ゴリ推し』だけに?」

「もう二度と口を開くんじゃねぇ!」


 不安そうにしていたルーティアの頭を撫でていると、羊がそんなことを言ってきた。ちょっと上手いって思っちまったじゃねぇか!


「ははははは! どうやら誠一様は本当に相変わらずのようで安心いたしました」

「そうかよ……俺もお前が変わらずウザくて安心……はしてねぇな」

「おや、残念。……さて、そろそろ私は失礼させていただきますかね」


 そういうと羊はシルクハットを脱ぎ、手にしていたステッキで地面を軽く鳴らした。


「もうこの場所は誠一様の力でダンジョンですらなくなりました。よって、外に転移させることはできませんが……誠一様なら出られますよね?」

「まあな」

「よろしい。では、私が去ると致しましょう。……あ、そうそう、誠一様」

「ん?」


 羊の足元に魔法陣らしきものが輝き始めると、何かを思い出したように口を開いた。


「どうやらステータスに逃げられたようですが、称号などは変わらずに見れるはずです。ですから、称号の確認と、アイテムボックスの中を確認してみてください」

「は? まあ称号は分かったけど……アイテムボックスに何かあるのか?」


 俺の問いかけに、羊はニヤリと笑い――――。


「さて、それは見てのお楽しみですよ」

「え?」

「では、ごきげんよう!」


 結局羊は詳しいことは何も言わずに、俺たちの前から去って行った。


「……なんていうか、本当に癖の強いヤツだな」

「うん……俺、精神的に疲れたよ……」

「それは……その……どんまい」


 アルが少し遠慮がちながらも、俺の頭を撫でてくれた。……これ、恥ずかしいけど嬉しいな。


「ふぅ……じゃあ帰ろうかって言いたいところだけど、羊の言ってたことが気になるから、少し称号とか確認してもいいか?」

「うん、いいよー!」

「どうせ帰るだけですしね。その間に、私たちはゾーラさんとお話しております」


 サリアたちはそういうと、少し離れた位置でゾーラと談笑し始めた。

 ……ルイエスはともかく、サリアは俺が称号とかでいろいろ精神的なダメージを負うことを知ってるだろうから、気を使ってくれたのかもな。

 そんなことを考えながら、羊に言われた通り称号の欄を探した。

 すると、確かに羊の言った通り、レベルや攻撃力といった数値のステータスは逃げだしていたが、称号はちゃんと見ることができた。いや、ステータスにも部署的なモノでもあるの? 普通、ひとまとめでステータスって言うんじゃないの?

 まあ考えても分からないのでざっと流し読みしていくと、いくつか俺の知らない称号があった。

 それは――――。


『ダンジョン・デリーター』……ダンジョンを破壊するのではなく、消し飛ばした者に与えられる称号。普通、ダンジョンは壊せません。ましてや消し飛ばすなんてもってのほかでしょう。

『ボスの天敵』……ありとあらゆる強力な存在の天敵である者に与えられる称号。貴方様の前ではボスはカスになる。ボス系統に分類される敵対者と戦う際、ステータスが倍増。

『星の危機を救った者』……宇宙からの侵略者を倒し、この星を救った者に与えられる称号。

『全宇宙の救世主』……全宇宙にとっての救世主に与えられる称号。

『うっかり救世主』……ちょっとした手違いで様々な存在を救った者に与えられる称号。うっかりミスした際、すべていい方向に物事が動く。


 何が起こったああああああああああああああ!?

 まず『ダンジョン・デリーター』! 普通はダンジョンを壊せないって? 壊せちゃったんだよ! 綺麗サッパリ消し飛んだの!

 つか『ボスの天敵』って酷くない!? ボスって超強くてヤバいからボスなんだよねぇ!? それがカスって……もう知らねー!

 『星の危機を救った者』ってどこで!? 俺はいつどこで星の危機なんて救ったのよ!? 俺が知らないのにそんな称号与えられても困るんだけど!?

 しかも『全宇宙の救世主』って! 星の危機だけじゃねぇのかよ!? だからどこで全宇宙を救うような事態になった!? よくよく考えたらこの星も全宇宙も危機的状況だったの!? もう訳が分からねぇ!

 そして最後の『うっかり救世主』って……え、何? 他の称号と一緒に出現したってことは、うっかりミスで全宇宙救っちゃったの? そんな簡単に救えちゃうような危機だったの? 誰か教えてくれええええええ!

 どんだけ全力で嘆こうとも、誰も俺に答えは教えてくれなかった。チクショウ!

 もうすでに称号だけで手いっぱいなのだが、羊の言っていたアイテムボックスの中身を確認しようとしたところで、とんでもなく嫌な予感がした。

 でも確認しないと何分からないし……ええい、見ちゃえ!


「…………………………」


 俺はそっとアイテムボックスの中を見るのを止めた。

 え? 何があったのかって?

 HAHAHA! 何もなかったさ! そう、『最高性能宇宙船』とか、『スペース大王の心臓』とか、『龍神帝の首』とか……何もなかった! 少なくとも俺は何も見てない! はい、これで話はお終い!

 考えることを完全放棄した俺は、清々しい笑顔を浮かべてサリアたちの下に戻った。


「あ、誠一! 終わったの?」

「うん、終わったよ! 人間としてね!」

「……本当に大丈夫かよ……」


 些細なことじゃないか、うんうん。

 もうステータスにさえ逃げられたんだし……今更だよね!

 というわけで、とっとと帰って泣いていいかな?

 結果的に羊の言葉通り確認した俺は、最後の最後でとんでもない精神的ダメージを負うことになったのだった。

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― 新着の感想 ―
ステータスに家出されるとは空前絶後だなぁ
[一言] 今まで散々、チートインフレ主人公無双は読んできたけど……そっか、ステータスさんが家出したか……
[一言] 行くところまで行っちゃいましたね。 今後、どうするの。
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