いざ、ダンジョンへ
何とかランゼさんを説得してルイエスの同行を認めてもらった俺たちは、行きは宝箱の転移魔法だったが帰りは俺の転移魔法を使ってバーバドル魔法学園に戻ってきた。
転移先は一応模擬戦を行った闘技場で、周囲には誰もいなかった。
ルイエスもルーティアも周りの景色を眺めている。
「すごいですね……一人でも魔力を多く消費する転移魔法を三人同時に、しかもかなりの距離の移動するのは本来難しいのではないでしょうか?」
「うん。不可能とまでは言わないけど、大量の魔力を消費するのは変わらない。でも誠一は魔力切れを起こしてる様子もないから本当にすごい」
なぜか二人からキラキラした視線を向けられた。むず痒いな。
「……そういえば、なんでルーティアは俺がすごいって思ったんだ? 俺の実力とか見たことなかっただろ?」
ふと思ったのは、ルーティアが俺のことをなぜそこまで持ち上げてくれるのだろうということだった。
確かにルーティアの『呪い』を解いたのは俺だけど、あの白髪イケメンの魔族さんも言ってたようにそれが戦闘力とかの実力につながるかっていえばそうじゃない。
ルイエスは実際に戦ったりしたから分かるんだけど……。
俺の疑問を受けて、何故か逆にルーティアが首を傾げた。
「? 私、何かおかしいこと言った? 誠一がすごいと感じたから言っただけ。特に理由はない」
「うーんミステリー」
なんだ、すごいと感じるって。そんなオーラが出てんの? 俺は見えないけど。
「まあいいや。とりあえず、俺のクラスにみんな集まってるっぽいから移動しようか」
俺は二人を連れて教室まで移動するのだった。
◆◇◆
「――――というわけで、こちらウィンブルグ王国の【剣騎士】ことルイエスと、現魔王的立場であるルーティアです」
「だからどういうわけ!? てか、このやり取りも二度目じゃない!?」
教室に辿り着いた俺は、そのままルイエスたちと一緒に中に入ると教壇に立ってそう告げた。
するとやはりヘレンはこの適当な説明に大きくツッコむ。
サリアやアルもルイエスがいることに驚いており、目を見開いていた。
「あれ!? ルイエスさん!? どうしてここに?」
「いや、ルイエスさんもだけど、隣の女誰だ? 現魔王的立場とか言ってたが……」
「うーん……説明すると長いんだけどなぁ……」
でも説明しなきゃ分からないので、宝箱に強制連行されたところから魔人教団と戦ったことも含めて全員に伝えた。
説明を聞き終えたヘレンは頭を押さえ、頬を引きつらせていた。
「あ、アンタ……どんだけ非常識を積み重ねれば気が済むのよ……」
「俺だって不本意なんですが」
「あの、誠一先生。今のお話を聞いてた感じだと、そちらの二人もこちらで過ごすということでしょうか?」
ベアトリス先生は俺にそう訊く。
「そうですね。結果的に助かったとはいえ、ルーティアは魔人教団に狙われたわけですし、魔族の方々も俺の下にいるのが一番安全だというので……」
「えっと~、魔族の方々っていうか……今のお話だとどう考えても魔族軍の将軍クラスからそう言われてると思うんですけど~……そんな人たちが誠一先生のところが一番安全っていうのはどうなんでしょうか~?」
「レイチェル、あの教師に何を言っても無駄だろう。なんせあのルイエスという女、ウィンブルグ王国最強の騎士の一人【剣騎士】だという上に、誠一先生の弟子だっていうではないか。もはやまともに取り合うほうが馬鹿らしい」
「返す言葉もねぇけどもう少し優しくして!?」
こう客観的に分析されると余計に非常識さが際立つね!
「さっすが兄貴! どんどん女性が増えるっスね!」
「誠一先生、いい加減ボクに女性を落とす方法教えてくれてもいいんじゃないかな!?」
「その純粋さが俺を傷つける」
アグノスとフローラのキラキラと輝く瞳を前に、俺はさらに精神的にダメージを負った。
「う、うぉっほん! えー、とりあえずルーティアは俺が守るためにここに居て、ルイエスは今一度鍛えなおすために俺に付いてきたってところだ。それでさっそくで悪いんだが、俺たちは少しの間授業をできない」
「え?」
「あ、あの件ですね」
アグノスたちにはまだだが、ベアトリスさんにはすでに話が回っているらしく頷いていた。
「学園長であるバーナバスさんに直接頼まれたことがあるんだ。どうもこの間の魔人教団の男が潜んでた近くの森で、ダンジョンが出現したらしい。それを調査するために俺とルイエス、ルーティア、そしてサリア、アル、ルルネ、オリガちゃんでダンジョンに向かおうと思ってる。このメンバーはもともと冒険者として俺と一緒に活動してたからな。でもアグノスたちは危険だってことで今回は待機になる」
「じゃ、じゃあ兄貴がダンジョンに行ってる間、授業はベアトリスの姐さんが?」
「そういうことになるな」
「ですが私は誠一先生のような実技の授業は私には無理なので、すべて座学です」
「ノオオオオオオオオオオオオン!」
アグノスはその場に崩れ落ちた。うむ、頑張れ。
「もう伝えることとかはないと思うが……俺がいない間、勉強頑張れよ!」
『はーい』
「嫌だああああああああああああああ!」
アグノス以外は元気よく返事をするのだった。
◆◇◆
「ここがそのダンジョンね……」
「うわー! 入口ってこんな感じなんだね!」
さっきは確認することなくサリアたちもダンジョンに行く前提で話を進めたが、サリアたちは全然気にした様子もなく了承してくれた。
そして今、俺たちの前にはいかにもダンジョンの入り口ですよ! って感じの洞窟が。
あれだ、【果て無き悲哀の森】のゼアノスがいた場所もこんな感じの洞窟だったな。
それにしても、こんな森の奥に隠れてたんだな。
今はもうないが、あの男から尋問してこの場所を調べた時、周囲には無残に殺された魔物の死体で埋め尽くされてたらしい。
その結果、生態系が崩れてダンジョンとか凶暴な魔物が出現したりしたようだ。
ちなみに実質ダンジョンは三回目になるのだが、入り口から入るのはまだ二回目なので緊張する。
「ルイエスさん! ルーティアさん! よろしくね!」
「はい、サリアさん。よろしくお願いします」
「よろしく。……貴女も誠一と同じで、少し変わった気配がする」
「そうなの? でも誠一と同じならいいや!」
サリアは相変わらずの元気さですぐにルイエスたちと打ち解けた。
するとルイエスは静かにたたずむオリガちゃんに視線を向ける。
「オリガ。お久しぶりです」
「……ん。ルイエスおねえちゃんも久しぶり」
「元気にしてましたか?」
「……ん。ばっちぐー」
どこでそんな言葉を覚えたのかは知らないが、オリガちゃんはルイエスにサムズアップした。
「黒猫の獣人……彼女もまた珍しい」
ルイエスとオリガちゃんのやり取りを見ていたルーティアは、少し目を見開く。
「やっぱり黒猫の獣人って珍しいんだ?」
「……うん。ただ、珍しいといっても……迫害対象だから……」
「あ……」
オリガちゃんはただ黒猫の獣人というだけで親に捨てられ、暗殺者として育てられたのだ。
……ほんと、くだらねぇよな。
思わずしんみりとしてしまうと、ルーティアはルルネとアルに視線を向けた。
「……そしてよく見ると、そちらの女性もまたサリアさんや誠一と同じ気配がする。それとは違うけど、貴女は誰かから祝福されてるみたい」
「む? そ、そうか……主様と一緒か……」
「祝福? オレ、誰かに祝福されるようなことあったっけ……?」
ルルネはともかく、アルは首をひねっていた。
まあアルはあの宝箱の指輪で呪いが反転して、指輪の説明文にも祝福って書いてあったはずだ。
それにしても、ルーティアは俺とか他の人には分からない気配や雰囲気のようなものを察知することができるらしい。
だってサリアだけでなくルルネまで『進化の実』の効果を受けてるって気づいたわけだし。
そんなルーティアは、俺たちを全員眺めた後、改めてダンジョンへと視線を向けた。
「……このダンジョンは……とても……とても悲しい気配が漂ってる……」
「悲しい気配?」
「うん。どうしてこんなに悲しい気配が漂ってるのかは分からないけど……」
俺には普通の洞窟にしか見えないが、やはりルーティアには違う風に見えるようだ。
「……ま、考えても分からないし、さっそく行こうか?」
俺の言葉に全員力強く頷くと、ダンジョンへと足を踏み入れるのだった。




