【魔神教団】とは
全裸で高笑いするサリアの両親に何とか服を着せ、やっと落ち着いたと思っていると一人の女性が俺に近づいてきた。
「アナタが誠一さん?」
「え? そうですが……」
神々しい金髪を腰まで伸ばし、ドレスアーマーに身を包んだ女性に見覚えがなかったので俺は首を傾げながら答えると、女性は優しく微笑んだ。
「あら、ごめんなさい。私はエレミナ・キサ・ウィンブルグ。S級冒険者で【雷女帝】とも呼ばれているし、ランゼの妻よ」
「ランゼさんの奥さん!?」
そう言えば、校内対抗戦の時にSクラスのロベルトの紹介でお母さんがS級の冒険者って言ってたな……。
でもそんな人が俺に一体何の用だ?
「あの、どうしたんですか?」
「いえ、アナタの話をウチの主人から聞いてね。あの人が大変な目にあっているとき、私は他国にいたから……。でも、アナタが助けてくれたって聞いたから、直接お礼を言いたかったのよ。あの人を……ランゼを助けてくれてありがとう」
「頭をあげてください! ランゼさんにはお世話になっていますし、なによりこの国が俺は好きですから……」
「そう言ってもらえると、国王の妻として嬉しいわね」
エレミナさんはそう言うと優しく微笑んだ。
ふと、俺はなぜエレミナさんが冒険者をしているのか気になったので聞いてみる。
「一つ訊いてもいいですか?」
「あら、何かしら?」
「どうして冒険者をしているのですか? あ、悪い意味とかじゃなくてですね……単純に気になったんですが……」
よく考えれば失礼なことを聞いてるかもしれないが、もう口に出してしまったので後戻りはできない。
しかし、エレミナさんは怒った様子もなく教えてくれた。
「確かに、一国の王の妻が冒険者なんて変わってるわよね。昔から冒険が好きな私に好きなようにさせてくれるランゼには本当に感謝してるわ。だからこそ、私は冒険者として活動しながら他国の情勢や技術を学んで、この国に取り入れようとしてるの。他にも、外交的な意味合いもあるんだけど……最近はとある件についての情報を集めてるわね」
「とある件?」
俺が首を傾げるとエレミナさんは険しい表情を浮かべた。
「ええ――――【魔神教団】よ」
「!」
【魔神教団】……バーバドル魔法学園を襲ってきたヤツや、今回このテルベールを襲ってきたヤツらの組織か……。
何度か名前を聞いているが、その実態を俺はほとんど知らない。
……今回現れた不気味な男……アイツの能力もよく分からないし……一体何なんだ……。
俺も今までの【魔神教団】の連中を思い浮かべて思わず顔を顰めると、エレミナさんは俺に情報を教えてくれた。
「アナタはランゼの恩人でもあるし、何よりその力は大きな助けになるわ。だから、アナタにも【魔神教団】のことを知っててほしいの」
「すみません、お願いします。今回以外にも【魔神教団】のヤツとは戦ってるのですが、その実態がよく分からなくて……」
俺の言葉を受け、エレミナさんは一つ頷いた。
「分かったわ。まず、【魔神教団】って言うのはとある神を崇めている組織なの。その神が何なのか分かるかしら?」
神? うーん……だいぶ前に戦った黒龍神みたいな存在だろうか?
俺が首を捻っているとエレミナさんは続ける。
「その様子じゃ分からないようね……じゃあこの話は知ってるかしら? この世界は、もう神々から見放されてるってこと」
「あ、それは知ってます。何でも昔、一柱の神と他の神々で争いが起こり、一柱の神は負けて封印されたんですよね?」
ベアトリスさんの話ではそうだったはず。
それで、そのときの神々の力の衝突によって生まれたのが――――『進化の実』。
「そうよ。じゃあ話を戻すわね。【魔神教団】が崇めている神って言うのが……その負けた一柱の神なのよ」
「え!?」
つまり、黒龍神のような存在じゃなく、俺たちをこの世界に送った本物の神様ってことか!?
今さらだけど、規模がデカすぎてついて行けねぇよ。
「で、でも、その神は封印されてるんですよね? ならどうしてそれを崇めてるんですか?」
「……【魔神教団】の最終目標が、その一柱の神を復活させることだからよ」
「復活!? そんなことができるんですか!?」
ちょっと待て! 神様が封印した存在を俺たち人間なんかが復活させられるの!?
驚く俺に、エレミナさんは重々しく頷く。
「ええ……ただ、その復活の方法が問題なのよ」
「復活の方法?」
「世界中の『負の感情』――――憎しみ、怒り、悲しみ……そういったすべての黒い感情が、封印された神を復活させるために必要なの。そして、今回襲ってきた連中は【魔神教団】の『使徒』と呼ばれる存在で、封印されている神から特別な力を与えられ、世界中の負の感情を集めることを使命としているの」
「負の感情って……」
何だ、その分かりやすい悪い神様。
てか、昔は人間を甘やかしまくってたって神様だろ? なのに今はその人間の負の感情を集めてるって何? グレたの? 拗ねたの?
「取りあえず、何となく【魔神教団】って存在が分かりました。でも、そこまで分かってるなら、各国でその教団を取り締まればいいんじゃないですか?」
「それがそう簡単にはいかないのよ。それに、実は【魔神教団】が表に出始めたのも最近の話で、それまでは存在が噂される程度で実態は掴めていなかったの。それに、さっきも言ったけど『使徒』って存在が厄介でね……今回逃げられた原因でもあるあの不気味な男みたいな存在がゴロゴロいるから、迂闊に手が出せないのよ」
「なるほど……」
なんていうか、迷惑極まりない組織だな。
そもそも、なんでその『使徒』って連中は【魔神教団】に関与してるんだろう?
だって、復活させる神が求めるのは人間たちの負の感情なわけで、たとえ『使徒』たちが神様から特別な力を貰っていたとしても同じ人間なわけだし……。
「あの、その神様復活させた後ってどうなるんですか?」
「さあ……そこはまだ分からないけど、今のこの世界は神々に見放されてるし、ろくでもないことになるのは間違いないわね」
今回の話で【魔神教団】のことが少しは分かったが、それと同時に分からないことも増えたな……。
……俺としては、サリアたちとのんびり暮らせたらいいのに、どうも厄介ごとが付きまとうようだ。
だが、一つハッキリしたのが、たとえ昔は人間を甘やかしていたとしても今は敵だということ。
もしサリアたちに危険が及ぶなら……俺は容赦しない。
決意を固めていると、先ほどの不気味な男の捜索を指揮していたランゼさんたちが戻って来た。
「チッ……完全に逃げられた」
「仕方ないわ。『使徒』の力は完全に未知数だもの」
「だが、捕まえていた連中も奪われたのが痛い。何とかして情報を手に入れたかったんだがな……」
ランゼさんは軽くエレミナさんと話すと、俺に視線を向けた。
「誠一。本当に助かった。お前のおかげで魔王の娘さんも助ける事が出来たし、何よりお前の紹介でやって来たって連中に大いに助けられた。ありがとよ」
「いえ、力になれたなら嬉しいです! ……あ、そろそろ俺も学園に戻りますね。あまり長居してるとサリアたちに心配をかけますし、何よりバーナさんに頼まれてることもあるので……」
「おう、そうか。何もないのに越したことはないが……また何かあったらお前を頼るかもしれねぇ」
「いえ、気にしないでください。そのときはまた、力になりますから」
ランゼさんにそう告げ、母さんたちやサリアのご両親にも挨拶してバーバドル魔法学園に戻ろうとしたそのときだった。
「誠一。私も連れて行ってほしい」
「…………へ?」
ルーティアがそんなことを言いだすのだった。
こちらの全文改稿していたものが終わり、完全新作となったものも書いております。
内容は『進化の実』ほどギャグ寄りにはしていませんが、適度にギャグを織り交ぜております。
よろしければ読んでみてもらえると嬉しいです。
『おはようガーディアン(仮)』
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