謎の侵入者
遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
七巻が発売いたしました。詳しことは活動報告などに記載しておりますので、そちらを確認していただけたらと思います。
ルシウスさんのおかげでようやく魔王の娘さんに魔法を使えるようになった俺は、さっそく彼女に掌をかざし、反転魔法『良くなれ』を発動させた。
すると俺の掌から光が放たれ、魔王の娘の体に吸い込まれていく。
『なっ!?』
それを見た魔族の面々は目を見開いて驚いた後、白髪のイケメンに突然胸ぐらをつかまれた。
「おい、テメェ! 一体何の魔法を使いやがった!?」
「え? い、言わないとダメですか!?」
「当たり前だろうが! 無詠唱も驚きだが、得体の知れない魔法をルーティア様に使いやがって……さっさと教えろ!」
白髪のイケメンだけでなく、他の魔族の面々からもすさまじい殺気が放たれる。
えええ……これ、本当に言わなきゃダメなの!?
言わなくても殺されそうだけど、言ったらもっと殺されそうなんですが!?
何とか乗り切ろうとするも、いい策も浮かばない上に魔族の方々の威圧がすごかったので、俺はとうとう白状してしまった……。
「…………です」
「ああ? 聞えねぇよ!」
「……『良くなれ』……です……」
「………は? 今……何て言った……?」
ああ、もう! こうなりゃヤケクソだ!
「だから! 反転魔法『よくなれ』ですよ!」
「――――フザケてんのかテメェェェェェェェ!」
ほら怒った! 言わんこっちゃない! だから嫌だったんだよ!
どこの誰だ!? こんな魔法名にしたの!
――――俺だよバカ野郎ッ!
「俺たちをバカにするのも大概にしろよ!? そんなガキのまじないみてぇな魔法で――――」
「……ん……ん? ここ……は……?」
「――――目覚めただとおおおおおおおおおおお!?」
白髪のイケメンは眠っていた魔王の娘が目を覚まし、微かに声を出した瞬間俺を突き飛ばして魔王の娘へと駆け寄った。
それに合わせて他の魔族の面々も駆け寄る。
「ルーティア様! 大丈夫ですか!? どこか体に不調は!?」
「……大丈夫。でも……一体何が……」
目を覚ました魔王の娘さんは無事っぽいが、状況の把握ができていないらしく少し驚いている。
すると妙な貫禄を漂わせる魔族の男性が魔王の娘さんに事の経緯を教えた。
「……ルーティア様。ルーティア様は今まで敵の卑劣な手段により、【呪具】による呪いを受け、死に至る眠りについておりました」
「呪い!?」
「はい。ですが、そこにいる男のおかげで呪いが解けたのです。スキルを使って確認しているので、間違いありません。ただ……」
「……ただ? 何かあったの?」
口ごもる男性魔族の様子に魔王の娘さんが首を傾げる。
どうやらスキルを使って確認したのはこの男性魔族だけだったようで、他の魔族はその男性魔族の様子に魔王の娘さんの身に何かあったのかと再び俺に殺気を向けてきた。勘弁してくれ。
「……何とお伝えすればいいのか分かりませんが、『呪い』の代わりに【永遠の健康】という見慣れない『呪い』とやらが新たに追加されております……」
『は?』
魔族の面々は全員間抜けな表情を浮かべた。
あ、魔王の娘さんもランゼさんと同じ『呪い』になったのか。どんな『呪い』だったのか知らないけど、結果オーライだな。なんせ寿命が10年延びる上に生涯病気の心配はなく、怪我もしにくくなるわけだし。
魔王の娘さんや他の魔族たちも『呪い』の効果を確認して、その内容に再び驚いていた。
「……な、何なの、このフザケタ効果は……」
全員の気持ちを代弁するかのごとく、すごく綺麗な女性魔族がそう呟いた。
すると事の成り行きを見守っていたルシウスさんが、朗らかな様子で俺の肩に手を置く。
「いやぁ、相変わらずとんでもないねぇ! 『呪い』っていうのは解呪できないのが常識なのに、まさか解呪どころか自分にとって有益な『呪い』に変えちゃうなんて!」
「……? 貴方は?」
ルシウスさんの存在に気付いた魔王の娘さんは、不思議そうにそう尋ねる。
「僕かい? 僕はルシウス・アルサーレ。血は繋がってないけど、初代魔王……って言えば分かるかな?」
「え!?」
魔王の娘さんはこれでもかというほどに目を見開く。
「そ、その名前は確かに建国者である初代魔王様と同じですが……本当に?」
「うんうん、信じられないのも無理はないけど、君の呪いを解いてくれたこの誠一君のおかげで冥界から帰って来たのさ!」
『冥界から帰って来た!?』
冥界から帰って来るというパワーワードに全員驚きっぱなし。仕方ないよね。俺もそっちの立場なら同じ反応すると思う。でも原因は俺なんですよ……!
ここで初めて魔王の娘さんは俺に視線を向けた。
「……貴方が、私を助けてくれた人?」
「え? あ、はい。そういうことに……なるんですかね?」
そう答えると魔王の娘さんはベッドからおりて、俺に近づいてくる。
「あ、あの」
「……」
するとなぜか魔王の娘さんは俺の顔をじーっと見つめてきた。ナニコレ。新手の虐め? 凄い恥ずかしいし居心地悪いんだけど?
しばらく見つめられると、魔王の娘さんは俺から離れた。
「……とんでもない力を感じた。貴方、本当に人間?」
「人間です」
自信ないけど。
「……とにかく、私を助けてくれてありがとう。もしみんなの言うことが本当なら、私はもう助からなかった。それを助けてくれたからには、恩返しをする。何か欲しいモノとかある?」
前にランゼさんを助けたときもそうだったけど、国を背負う人は一つ一つの事柄に俺たち以上の責任とか柵が纏わりつくのだろう。
俺としてはお礼が欲しくて助けたわけじゃないし、咄嗟に言われても何も思いつかないんだけど……。
「えっと……お礼はいらない――――」
「まさかルーティア様のお礼を受け取らないなんて言わねぇよな?」
何なの? この白髪のイケメン。超怖いんだけど。
本格的に何も思い浮かばない俺は正直に言うことにした。
「すみません……急に言われても思い浮かばないので、また決まったときでもいいですか?」
「……それは……うん、仕方ない。でも絶対にお礼はするから、必ず考えてほしい」
「分かりました」
特にほしいモノもないけど、考えないとな。
いろいろとあったわけだが、無事に魔王の娘さんを助けるというミッションを成し遂げた俺は、ランゼさんにも報告する。
「ランゼさん、何とか助ける事が出来ましたよ」
「おお、マジかよ! いや、やっぱりお前はおかしいわ。ありがとう」
「そのお礼の仕方がおかしくないですかねぇ!?」
そんなやり取りをした後、俺はルシウスさんによってボコボコにされた【魔神教団】の三人に視線を向けた。
「それで……彼らはどうするんですか?」
「ああ……もちろんこのまま拘束して、ローナとかに任せて尋問を行うつもりだが……」
ああ……そう言えばルイエスの部下の一人のローナさんは尋問ができるんだっけ。
ふとそんなことを思い出していたときだった。
「――――困りますねぇ」
『!』
突然……本当に何の前触れもなく、虫の息状態の三人を庇うような形で薄ら笑いを浮かべ続けている不気味な男が出現した。
謎の侵入者の出現に、魔族の方々や周囲にいた冒険者らしき面々が一斉に武器を構える。
「貴様……何者だ!」
貫禄のある魔族の男性がそう口にするが、謎の侵入者はその質問に答えない。
「捕まると困るんですよねぇ。手放すには惜しい、有能な駒ですから」
「質問に答えろ!」
すると今度は白髪のイケメンが漆黒の闇らしきものを纏い、槍の形で侵入者に放った。
だが、侵入者が指を鳴らすと一瞬でその闇は消える。
「なっ!?」
「そう焦らずとも、再び会えるでしょう。では、今回はこれにて――――」
再び侵入者が指を鳴らすと、侵入者と【魔神教団】の三人は一瞬で消えていった。
……アイツは何だ? あの三人を連れて行ったってことは、【魔神教団】の仲間なんだろうけど……。
俺がそんなことよりも俺の体が一切反応しないことだった。
あんなふうに一瞬で消えたわけだから、スキルや魔法を使ったと思っていたのだが……進化が発動しないことを考えるとそのどちらでもない、本当に特殊な力だったのだろう。
俺が先ほどの侵入者について考えていると、ランゼさんは素早く兵隊さんに指示を飛ばした。
「おい、城内や街中をくまなく探せ! それと門番にも連絡しろ!」
「ハッ!」
その後しばらくの間警戒状態が続いたのだが、結局侵入者と【魔神教団】の三人を見つけることは出来なかった。
こちらの全文改稿していたものが終わり、完全新作となったものも書いております。
よろしければ読んでみてもらえると嬉しいです。
『おはようガーディアン(仮)』
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