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激突

「私ト、戦エ」

 そう言ってくる目の前のゴリラさん。馬鹿なんでしょうか?

「ちなみに、拒否権は……」

「無イ」

「……」

 俺、初めての体験だわ。ゴリラに人権拒否された。

 俺は考えるのをやめる。なんか色々疲れたよ……。

 ツッコむ気力の無い俺は、そっと目の前のゴリラに鑑定を使用する事にした。

『カイザーコングLv:775≪状態≫進化×1』

 後悔した。

「どぅうぇいっ!?」

 とんでもないレベルに俺はおかしな声を上げる。

 イヤイヤイヤイヤ。おかしいでしょ!?700以上!?へ?意味分からんのだけど!?

 それに、なんか今まで見た事のない≪状態≫なんてモノも表示されてるし!しかも進化×1!?俺と同じで進化した口ですか!?

 何度目をこすってみても、目の前に表示されているモノは変わらない。

「?ドウカシタカ?」

「な、何でも無いっス……」

 こう答えるしか無いじゃん!?ヤベェ……勝てる気がしねぇ……!

 そう言えば、カイザーコングって、クレバーモンキーのトップだって知識があったな……。

 やっぱり、俺に戦いを挑んでくるのも仇討ちなんだろうか?

 いや、でもそれなら何で現れた時に一斉に俺を襲わなかったんだろうか?メッチャ正々堂々と勝負申しこまれたし。

 俺が内心首を捻っていると、目の前のカイザーコングは指を鳴らす。

「安心シテイイ。私以外、誰ニモ邪魔サセナイ」

 いや、そう言う問題じゃないんですけどー!?

 なんて言う気持ちを目の前のゴリラが知る訳も無く、ゴリラはすぐに臨戦態勢に入る。

「スグ終ワル。安心」

「すぐ終わるの?それって俺死んでない?」

「……」

「なんかしゃべって!?」

 怖っ!やっぱり仇討ちなのか!?

「ジャア、行ク」

「え!?いや、ちょっ――――」

「フンッ!」

「うおうっ!?」

 カイザーコングは、すぐに俺の目の前まで移動してくると、凄まじいスピードで腕を振るってきた。

「凄イ。私、初撃避ケラレタ。初メテ。ポッ」

「何故そこで赤くなる!?」

 てか何?コイツって雌なの!?嘘だろ!?嘘であってほしいっ!……いや、ゴリラなんだから雌だろうと見た目がゴリラなのは当たり前なんだけども……!

 それ以上に気持ち悪いわっ!

「強イ雄、好キ」

「俺はゴリラが嫌いになったよ!」

 やっぱり雌か!……より最悪な方向を考えるんだとすれば、雄と言う線も……いや、考えるのは止めよう。

 こんなやり取りをしている間も、カイザーコングは次々と攻撃を繰り出してくる。

 それを、俺は軽やかなステップで避け続け――――

「エイ」

「へぶっ!」

 ――――られませんでした。

 いきなりカイザーコングが投げてきた石が、俺の顔面に直撃した。……凄く痛い。

 だが、進化の激痛に耐え続けた俺には、この石程度で叫ぶほど弱くはない!……嫌な慣れだなぁ。

 でも、あの腕力から放たれた石が顔にぶつかったのに、大きなダメージにならなくてよかった。

「ム。逃ゲル、駄目」

「駄目じゃねぇよ!?当たったら俺が死ぬじゃん!?」

 ぶんぶんと振るってくる、カイザーコングの太い腕は、確実に当たっただけで俺の体のどこかが吹っ飛びそうだった。骨なんて粉々になりそうな勢いがある。

「このままじゃ埒が明かねぇ……!『斬脚』!」

 俺はスキル『斬脚』を、アクロウルフに放った時と同じく、全力でぶっ放す。

「!」

 しかし、カイザーコングは少し目を見開いたかと思うと、その巨体からはとても考えられない様なスピードで軽々と俺の攻撃をかわした。

「危ナイ」

「お前の方が危険だよ!」

 何シレっと攻撃避けてんの!?何でそんなに体デカイのに身軽なの!?ズルくね!?

「ナラ、私モ。『瞬腕しゅんわん』」

「!?」

 ドゴッ!

「グホッ!?」

 俺は、全くカイザーコングの動きが見えなかった。

 なんかスキルらしきモノを発動させたかと思うと、いきなり視界から掻き消え、俺の腹を凄まじい衝撃が襲っていた。つまり、俺はカイザーコングに殴られていた。

 軽々と吹っ飛ばされた俺は、森の木々を幾つも薙ぎ倒し、やがて勢いが落ちて、地面を転がった。

「げほっ!ごほっ!」

 俺は腹を押さえながら咳をする。

 口から出てくるモノは、赤黒い血だった。

「も、もう嫌だ……」

 思わず弱音を吐いてしまう。

 だが、この状態のままだと俺の命が危ないので、すぐにアイテムボックスから最上級回復薬を取り出し、一気に飲み干す。

「プハァっ!……し、死ぬかと思った……」

 ご、ゴリラ怖ぇ……。もう二度と動物園でゴリラなんざ見てやらん。……あ、地球には戻れないんだった。

 そんな事をしていると、カイザーコングが凄まじいスピードで俺に追いついてきた。

「凄イ。私ノ『瞬腕』デ死ナナカッタ」

 やっぱり殺しに来てるよ!

「マスマス興味出タ。強イ雄、欲シイ」

「ゴリラはノーサンキューだっ!」

「ゴリラ違ウ。私、サリア」

「何で無駄に美少女そうな名前なんだよっ!」

 詐欺だ!慰謝料を要求する!誰か!誰か本当に助けてッ!

 しかも、何で自分の名前なんて持ってるんだよっ!カイザーコングでいいじゃねぇかっ!何が不満なんだ!?……どうでもいいな。

 それより、俺との会話がかみ合ってねぇ……!もうホント、何なの!?

「『斬脚』が駄目なら……『剛爪』!」

 俺はその場から駆けだしながら、スキルの剛爪を発動させた。

 腕を思いっきり横に薙ぎ払うようにふるうと、5本の斬撃がカイザーコングに飛んでいく。

「トウッ!」

「避けられた!?」

 しかし、カイザーコングは軽々とその場でジャンプし、全ての斬撃を避けてしまう。

「スキル、凄イ」

「ああ、そうですかー!?」

 もうヤケクソじゃ!ボケぇ!

「武器を使って戦おうにも、俺はそもそも短剣の扱いなんてド素人だし、賢猿棍でさえ、出鱈目に振ってるだけだもんなぁ……」

 距離をとりつつ、どう戦うか考える。

 すると、空中に浮いた状態のカイザーコングが、目を疑うような行動に出た。

「ジャ、次私。『空衝くうしょう』」

「はいぃぃいい!?」

 いきなりカイザーコングは、どう言う原理か分からないが、空中を蹴り、俺に突進してきた!

「オオオオオオオ!」

「いやあああああっ!怖いいいいいい!」

 ゴリラが空から突進してくる光景がここまで怖いモノだとは思わなかったよ!

 恐らくスキルの力で空中を足場にできたのだろうが、とんでもなく恐ろしい!

 俺はギリギリ体を捻って、その場から飛び退く事に成功する。

 ズドオオオオオン!

 すると、さっきまで俺が立っていた場所に、カイザーコングがそのまま突っ込んで行った。

「……このまま自滅してくれればいいんだけど……」

 だって凄い勢いで突っ込んで行ったよ?これは流石に無傷じゃ――――

「驚イタ。『空衝』マデ、避ケル思ワナカッタ」

「ヤベェ、全然元気だ……!」

 無傷でした。もう泣きたい。

「スキルも当たらないこの状況で俺にどうしろと……」

 スキル『双牙撃』を使えばカウンターを狙えるんだろうけど、それすら避けられそう……。

 そんな感想を抱いていると、カイザーコングは攻撃をまたもや繰り出してくる。

「ジャ、『瞬腕』」

「っ!?」

 あの吹っ飛ばされたスキルかっ!

 俺は刹那の中で、それを察すると、一か八かの賭けで、賢猿棍と水霊玉の短剣を構え、『双牙撃』を発動させることにした。

「『双牙撃』っ!」

 すると、相手の動きが途端にスロー再生されているかのごとく、ゆっくりと俺に拳を突き出してくるのが目で見て分かった。

 そんな状況に驚きつつも、俺はその拳を避けながら二つの武器を相手の体めがけて突き出した。

「もらった……!」

 俺はその時確実にそう思った。

 だが、カイザーコングはそんなことでやられるようなヤツじゃなかった。

 俺の攻撃に、スローモーションの中で微かに目を見開く姿が見えたが、カイザーコングは俺の予想の斜め上の行動で対処してきた。

 ガシッ!

「はあ!?」

「……」

 思わずカイザーコングのしてきた行動に驚きの声を上げる。

「……本当ニ凄イ。私、ヤラレルト思ッタ」

 カイザーコングは、あのスローモーション状態だった中から、どうやったのかは分からないが、何時の間にか突き出していた拳も引っ込め、両手で俺の腕を握り、攻撃を防いでいた。

「っ!」

 本能的にこのままだと危ないと思った俺は、相手に腕を掴まれた状態で至近距離からスキル『斬脚』を繰り出した。

 すると、カイザーコングは驚くほどあっさりと俺の腕を解放し、恐らくスキル『刹那』であろう認識できないスピードで俺の『斬脚』をかわした。

「……」

 冷や汗が止まらない。

 ……強過ぎる。

 やっぱり、俺はそこまで強くないようだ。クレバーモンキーとアクロウルフと戦っていたせいで、自分の力を少し……いや、過信していたのかもしれない。

 この森を出ても、もしかしたらすぐに魔物の餌食となるんだろうか?

 ……考えるのは後にしよう。そんなネガティブ思考になればなるほど、どんどん思考回路が暗くなるからな!

 でも、スキルがこうもことごとく当たらなかったり、意味をなしていなかったりすると、いよいよ対処の仕方が分からない。

 ぶっつけ本番になるが、魔法を使用するしかないのかもしれない。

 そう思った俺は、すぐに魔法の使用を開始する。

 ステータスの欄には書かれていなかったが、俺の頭の中には水属性の魔法に対する情報が全てインプットされている。ただ、消費魔力は分かっているが、威力が実際に目にしないと分からない。

 いきなり実戦で使用するからには、水属性魔法の中でも一番消費魔力が高いモノを使用する事にした。ドラ○エのマダ○テと同じだな!一番魔力消費して、純粋に威力が一番高いし。

 それに、今の俺には水霊玉の短剣がある。ショボイ威力になる事はまず無いだろう。

 消費魔力が一番高いモノは、俺の知識の中では同じ消費魔力のモノが幾つかある。その中の一つを使用する。

「……?」

 目の前のカイザーコングは、俺が途端に静かになった事に首を捻っている。

 今、こうして襲って来ない事は好都合だ。

 それじゃあ、異世界初の魔法を使わせてもらうぜ……!

「『フォールディザスター』!」

 俺は右腕を天高く掲げ、そう叫んだ。右腕を天に掲げた理由?カッコいいからだよっ!

「ナッ!?」

 俺の使用した魔法の事を知っているのか、カイザーコングは今までの中で一番目を見開いていた。

 ふっふっふっ……どうやら俺の使用した魔法は当たりだった様だなぁ!?

 内心そんな事を思っていた時だった。

 …………ドドドドドドドドドドドドドッ!

「へ?」

 なにやら空から凄い音が聞こえてくるなと思い、思わず俺は視線を空に向けた。

「……」

 見るんじゃなかった……!

「はああああああああああ!?」

 空から聞こえる音の正体は――――凄まじい量の水だった。

「え!?ちょっ……この位置マズくね!?」

 空から降って来る水の着地地点……それは明らかに俺の今いる場所だった。

「タンマ!今避けるから――――」

 しかし、俺の頼みも虚しく、無慈悲にも空から降ってきた大量の水は、俺に凄まじい衝撃を与えた。

 ドバアアアアアアアアアアッ!

「あばばばばばばばばばばばばば!い、息が……!」

 俺はそのまま地面に縫いつけられたように身動きが取れなくなる。

「……」

 不意に視線を感じたので、何とかその方向に目を向けると、カイザーコングが唖然として、俺を見ていた。てか何でカイザーコングには被害がねぇんだよっ!

「ってそれどころじゃがぼぼぼぼぼぼぼっ!」

 ま、マジで息ができねぇ……!

 結局、俺が自分の放った水の猛攻から解放されたのは、約3分後の事だった。

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