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勇者たちから見た校内対抗戦

これの前に、【登場人物紹介まとめ:1】も投稿しております。

 俺――――高宮翔太は、ここバーバドル魔法学園の校内対抗戦というイベントを見届けるため、学園の闘技場に来ていた。

 俺たち勇者には本当なら関係のない行事のはずだったのだが、Sクラスの生徒の特訓に付き合うことになり、その結果を見届けるように言われてしまったのだ。Sクラスには、俺たちを召喚したカイゼル帝国の第一王子……テオボルトがいるから、断れないのだ。

 正直、Sクラスにはいい印象を持っていない。いや、ウィンブルグ王国の第一王子であるロベルトとか、ごく一部は普通に接してくれるしいいヤツだってのは分かってる。

 だが、それ以上にSクラスの大半が他者を見下すような連中ばっかりだったのだ。

 ……まあ、俺たち勇者も人のことを言えないけどな。

 俺たちも急に手に入れた大きな力で周囲を威圧するような行動をとってるヤツもいるわけだしな。


「……で? 何でそんな上機嫌なんですか?」

「ん?」


 俺は隣で珍しくニコニコしている神無月先輩にそう訊いた。


「ん~? 知りたいか? ん? ん?」

「珍しいくらいに腹が立つなぁ……!」


 普段、こういうことをしない神無月先輩なだけに、内容が気になってしまう。


「気になります。教えてくださいよ」

「ダメ~」


 ウゼェ……!

 いや、最近の神無月先輩はどこか変だった。

 普段の凛々しい姿はどこに行ったのかと思うほど、ポンコツな姿が目に付くのだ。

 おかしい……絶対にオカシイ……何かあったのは間違いないぞ……。

 そう言えば、神無月先輩が時々姿を消す時があるが……それが関係しているのか?

 結局、神無月先輩が上機嫌な理由が分からないまま、試合が始まってしまった。

 最初はCクラスとAクラスの試合で、俺としては非常に面白い戦いだったのだが、他の勇者には違って見えたようだ。


「ハッ! あんな魔法、俺でも使えるぜ」

「やっぱりこの世界の人間より私たちの方がすごいのね」

「これじゃあ俺たちが学園を仕切るのも余裕かもな」


 多くの勇者が、彼らを見下しているのだ。

 俺には何でそんな自信満々になれるのか分からない。

 何の苦労もせず身についた力で、人が変わっていくのが俺には怖かった。

 そんなことを思っていると、Aクラスのとある生徒が出てきたことで少し雰囲気が変わった。

 ウィンブルグ王国の第二王子であるジオニスが出てきたのだ。


「キャーッ! ジオニス君よ!」

「あの荒々しい感じが素敵よねぇ」

「私、アタックしちゃおうかしら? 私たち勇者だし、向こうも邪険に扱わないよね?」


 女子たちはジオニスの容姿を見て騒ぎ、男子はその様子を面白くなさそうに見つめている。

 ……そう、トラブルのもとになるのは、決して勇者と他クラスとは限らない。

 勇者の中でも険悪なムードが漂っているのだ。

 中でも――――。


「……面白くないねぇ」

「なぁ、アイツぶっ殺していいんじゃね?」

「そうそう。力を誇示していいって言われてるんだし、見せしめにさ~」


 如月正也、大山剛、東郷蓮人の三人だ。

 如月先輩たちは、特にムードを悪くしている人間と言ってもいいだろう。

 その力を使って、何度も女子生徒に迫ってるらしいしな。


「……面倒だな」


 神無月先輩も如月先輩たちの不穏な気配を感じ、顔を顰める。

 今は神無月先輩や俺たちが何とか抑え込んでいるけど、それも時間の問題だろう。

 様々な思惑が絡む中試合は進んでいき、次はとうとう俺たちが手伝ったSクラスとFクラスの試合になった。


「やっとかよ」

「つまんねぇよなぁ」

「てか、Fクラスとか秒殺じゃね?」

「マジウケるんですけど」

「Fクラスかわいそ~」

「魔法が使えないんだってー。それってどうやって戦うの? って感じ」


 勇者は、Fクラスのことを散々あざ笑う。

 俺も笑うわけじゃないが、FクラスがSクラスに勝つのは厳しいと思っていた。

 なんせ、元々魔法の扱いが巧い連中が集まったクラスで、そこに俺たちが訓練に付き合ったことでもっと成長したのだ。

 中でも、ウィンブルグ王国の第一王子であるロベルトは圧倒的だった。

 もともと勇者を凌ぐ実力の持ち主だったのだが、もっと強くなったのだ。正直、勇者の中で最強な神無月先輩がギリギリ戦えるかな? ってくらいの相手だ。

 ……そう、勇者であって、最強ではないのだ。

 なのに、他のみんなはそれを理解していない。

 まあ……こうして心の中で言うことしか出来ない俺は、もっとダメなのだろう。

 歯がゆい思いをする中、Fクラスが入場する。

 すると、男子連中が下種な感情を隠すこともせずいやらしい笑みを浮かべた。


「Fクラスの女連中って顔だけはいいよなぁ」

「間違いねぇ。そうだ、どうせなら俺たちが相手してやろうぜ?」

「お、いいねぇ。Fクラスなんて先の見えないクラスにいるんだ。俺たち勇者様の相手をさせてもらえて向こうも光栄だろうよ」

「まあ抵抗すれば、力づくでいけるだろうしな!」


 聞くに堪えない内容に、隣に座っていた賢治が立ち上がろうとする。

 すると、無表情で神無月先輩が止めた。


「アイツら……!」

「賢治、落ち着け」

「神無月先輩!? でも……!」

「相手が多すぎる。それに、悪感情を抱かれてる勇者が、こんな場所で騒ぎを起こしたらどうなるか分からない」

「ぐっ……!」

「ただ、これからはより一層勇者たちの動きを注意する必要があるだろう。特に、Fクラスの方を……な」


 賢治を宥めていると、試合は始まった。

 Fクラスで最初に登場したのは、熊の被り物をした男子生徒だった。


「なんだよ、アレ……!」

「ぶはっ!? 何? キャラ作ってるんですか!?」

「マジだっせぇ!」

「無様な負け顔を晒したくないってか!?」


 登場した熊の男子生徒を散々笑い倒す勇者たち。

 そんな中、Fクラスに対して登場したSクラスの生徒は、正直印象の薄い生徒だった。

 唯一覚えているのは、テオボルトにいつも引っ付いているといったくらいだろうか?

 とはいえ、腐ってもSクラスだ。実力は確かだろう。

 これは厳しい戦いになる……。

 そう思いながら試合展開を見守ろうとしたのだが――――俺たちは呆然とさせられた。


「な、なんだよ、アレ……」

「ウソだろ……?」

「意味が分からねぇよ……」


 Sクラスの生徒……確か、名前はトリマキーだったか? とにかく、彼は俺たち勇者から見ても十分な威力を持った魔法を放っていた。

 だが、Fクラスの生徒……ベアードとやらは、その魔法を防いだのだ。――――殴り飛ばして。

 意味が分からなかった。

 確かに、ベアードの手にはメリケンサックのような武器が装備されている。

 だが、明らかに魔法を防いでいるのは――――ベアードの拳圧なのだ。

 おい、どこの漫画だよ……。

 ベアードは、堂々と真正面から歩いてトリマキーに向かっていく。

 Sクラスの生徒相手に、そんな危険な行動をできる人間は勇者の中でもほとんどいない。

 というのに、ベアードは無傷でそれをやってのけたのだ。

 トリマキーは恐怖から大量の魔法を放つも、ことごとく殴り落とされ、そしてとうとう……まさかのかかと落としでトリマキーを倒したのだった。


『……』


 勇者全体を沈黙が包む。

 いや、勇者だけじゃない。

 他の生徒たちも、今のデタラメな戦いに呆然としていた。

 唯一普通にしているのは、ベアードを含むFクラスの面々だった。

 いや……まさか、あれが普通だって言いたいのか? 冗談だろ?

 そんな沈黙が続く中、試合は次に進む。

 次の対戦はSクラスからはテオボルトと、Fクラスからはそのテオボルトの弟であるブルードだった。

 ブルードとは、カイゼル帝国で会うどころか、その存在すらこの学園に来るまで知らなかったのだ。

 ……王族ならではの裏事情があるんだろう。

 とにかく、普通の関係ではない兄弟対決になったのだ。

 テオボルトは、ロベルトほどではないにしろ相当優秀な人間だ。性格はともかくとしてな。

 勇者の中でも確実に勝てるのは神無月先輩くらいで、如月先輩たちがギリギリ勝てるくらいの実力の持ち主だ。

 だからこそ、勇者の面々は徐々に正気に返り、さっきの試合を忘れてテオボルトの試合に集中しようとした。


「ま、まあさっきのはまぐれだろ」

「そ、そうだよな!」

「それに次はテオボルト君よ!」

「ハッ! ざまぁ! Fクラスの瞬殺決定だな!」


 それぞれが気持ちを盛り立てるように勝手なことを言っていると、試合はブルードが斬撃を意味の分からない方に飛ばすところから始まった。


「どこ攻撃してんだよぉ!」

「おいおい、相手がどこにいるのかも分からないんですかぁ!?」

「魔法使ったらぁ? あ、使えないんだっけぇ?」


 散々言いたい放題に勇者たちがそういうも、ブルードの斬撃は変わることなく変な場所に飛んでいき続けた。

 テオボルトも、そのことをバカにしながら大量の魔法を放つ。

 しかし、ブルードもそれらを上手く避けながら攻撃を重ねた。

 そんな展開がしばらく続くと、しびれを切らしたのか、テオボルトが勝負に出た。

 強力な追尾型の魔法を放つことで、ブルードを確実に仕留めに来たのだ。

 だが――――それがブルードの狙いだった。

 ブルードはまさかのその魔法を足場にして、テオボルトに超急接近したのだ。

 それに驚いたテオボルトが避けようとするのだが……何と、その先の足場がブルードの放ち続けた斬撃によって悪くなっており、それに足をとられたテオボルトはこけてしまう。

 そして、ブルードはテオボルトの首根っこを掴むと、テオボルトが放った魔法の盾としてテオボルト自身を使いやがったのだ!

 強力な魔法だっただけに、衝突の衝撃も大きく、闘技場全体を砂煙が包む。

 煙が晴れると、そこには無傷のブルードと黒焦げで気絶しているテオボルトの姿が。

 ブルードは兄であるはずのテオボルトをまるで汚物のように扱うと、優雅にその場を去った。


『……』


 またしても勇者の席を沈黙が包み込んだ。

 何なんだ? Fクラスって。落ちこぼれとは?

 俺たち全員の脳内を、そんなことが支配していた。

 しかし、やはりFクラスだけはこれが当たり前と言わんばかりに平然としている。

 おかしい……いろいろおかしいぞ……。

 ベアードの試合がまぐれだと思っていた者たちは、Sクラスの二度目の敗北に言葉を失っている。

 だが、如月先輩たちは正気に返ると、テオボルトたちを鼻で笑い始めた。


「フッ……所詮勇者でもないアイツらにはこれが限界なんだろうね」

「そ……そうだよな! テオボルトのヤツ、多少はやるかと思ってたんだけどよぉ」

「ま、結果を見ればってヤツだな」


 どう見ても虚勢にしか見えないのだが、他の勇者たちには違ったらしく、如月先輩の言葉に続いていった。


「そうっすよね!」

「SクラスがFクラスに負けるとか……やっぱり勇者こそが選ばれた存在なんだよ!」

「あ、次はロベルトが戦うみたいですよ?」

「ふぅん……ロベルトなら期待できるかもね」


 次の試合では学園最強であるロベルトがSクラスからは出場した。

 そして、Fクラスからは不良のような見た目の男子生徒……アグノスが出てくる。


「うわっ。頭の悪そうなヤツだなぁ」

「コイツは楽勝だな」


 アグノスの様子に、勇者は再び嘲笑う。

 ……もう読めてきたぞ。どう考えてもフラグじゃねぇか……。

 一つの予感を感じていると、試合が始まった。

 そして――――。


「え? え?」

「は?」

「うそ……」


 今までとはまた別の意味で意味が分からなかった。

 ベアードやブルードの試合は、その試合展開の斜め上具合に意味が分からなかったのだが、今目の前で繰り広げられている戦いは、ただひたすらにレベルが高すぎて意味が分からなかったのだ。

 ロベルトの放つ超強力な魔法の数々。

 それに釘バット一本で立ち向かうアグノス。

 接近戦ではアグノスに少しの分があるものの、俺たちでは到達できないようなとんでもない剣撃が繰り広げられていた。

 どんどんヒートアップしていく戦いも、とうとう終わりが近づいてきた。

 お互いに全力という全力を出し切り、次が最後の一撃。

 二人はもう残っていない全力を気合の一言で生み出し――――結果、引き分けた。

 勝敗はつかなかった。

 だが、そんなことはどうでもよかった。

 さっきまでふんぞり返っていた勇者たちは認めたくなかった。

 バカにしていたFクラスの連中が、あんな化物じみた強さを持っているだなんて。

 珍しいことに、あの如月先輩たちでさえ顔を引きつらせている。

 俺たち勇者が……いや、会場のほぼすべての人間が信じられないモノを目にしたなか、やはりFクラスだけ通常運転だった。

 あのFクラスを教えた教師は誰だ? アイツらの普通っておかしくね?

 まるでこの結果が当然と言わんばかりのFクラスを見て、俺は誰がこんな非常識集団を生み出したのか気になった。

 Fクラスのベンチに視線を向けると、そこには控えている生徒たちの他に、三人ほど違う人がいた。

 一人はいかにも教師然とした女性だが、どうみてもあの非常識集団を生み出したとは思えない。

 もう一人は明らかに先生どころか、小学生と言っても構わない幼い少女だ。ありえないだろ。

 そして、最後の一人。

 フードを被った、怪しい人物がそこにいた。

 うん、どう考えてもアイツだろ。怪しすぎるわ。

 一体何をしたらああなるんだ? ドーピングか? でも、正直そんな雰囲気を感じなかった。

 それに、証拠がなければドーピングしてたって言いがかりになってしまう。

 第一、Fクラスの生徒は魔法を一切使っていないのだ。

 本当にどうなってるんだ……。

 俺たち勇者が言葉を失っていると、突然Sクラスから一人の男子生徒が現れ、Fクラスに文句や罵声を浴びせ始めた。

 その男子生徒は、確かフリードといった名前で、トリマキーと同じくテオボルトの取り巻きといったくらいの印象しかなかった。

 フリードの言葉を聞いていると、どうやらフリードはFクラスで戦っていない男子が一人いるのにSクラスとFクラスの対決が引き分けになるのが納得できないと言っているのだ。

 いや、意味が分からねぇ。

 二敗して一人引き分けなんだから、むしろFクラスのおかげでSクラスの敗北がなくなったって言うのに、なんでアイツはそれを分かっていないんだ? もし仮にこれで最後のFクラスの男子生徒が出てきて、フリードが負けたらSクラスの負けが確定するんだぞ?

 そんな風に思っていると、案の定Fクラスの男子生徒が戦いに参加することになってしまった。

 まあ、ここから見た感じだと気弱そうな少年といったイメージだったのだが、どうやらフリードが気弱な少年の怒りに触れるようなことを口にしてしまったのだ。

 もうこの先どうなるか予測できてるよ。

 思わずため息をついてしまったが……まあ結果はご想像通り。

 いろいろと酷い負け方をしたのだ――――フリードが。

 これでSクラスの完全敗北が決定した。

 ただ、勇者たちは正直フリードが出てくるまでの試合で、色々とプライドやら何やらを打ち砕かれていたので、たった今行われた一方的な試合をまともに見ていなかった。

 今もまだ、現実を受け入れられずにいると、今度はついにSクラスの教師が出てきたのだ。

 よく見ると、Fクラスの生徒は気を失っており、それを介護する形であの怪しげなフード姿の人物が抱きかかえていた。

 Fクラスの先生であろうその人物が、早く生徒を保健室に連れて行きたいと思っている中、Sクラスの先生が文句を言い始めた。

 その内容としては、不正行為をしたと言っているのだが、証拠も何もない。

 しかし、Sクラスの教師がそう言ったことで、勇者の面々も再度勢いを取り戻した。


「そうだよな……そうだよな! 普通に考えて、SクラスがFクラスに負けるってオカシイよな!」

「不正行為とかしてるんじゃねぇよ!」

「このイカサマ野郎が!」

「テメェら落ちこぼれは無様に這いつくばってればいいんだよ!」


 口々に罵声を浴びせる中、Sクラスの先生が無防備なFクラスの先生に向かって魔法を放ったのだ。


「危ないッ!」


 その様子を見て、神無月先輩が思わず声を上げていた。

 俺も思わず身を乗り出していると――――俺たちは再び呆然とさせられた。

 何と、Fクラスの先生はSクラスの先生の魔法を素手で掴んだのだ。

 ベアードの拳圧で魔法を殴り落としているのも訳が分からなかったが、素手で掴むとかもっと訳が分からない。

 それはSクラスの先生も同じだったようで、やはり先生クラスともなると俺たち勇者より圧倒的に強力な魔法をいくつも展開し、一斉に放った。

 だが、Fクラスの先生はもっと化物だった。

 飛んでくる魔法を掴んだ魔法で撃ち落としたかと思うと、追加で指の間で新たな魔法を掴み、それをSクラスの先生に直接投げ返したのだ。

 しかも、その威力がオカシイ。

 魔法を使った張本人であるSクラスの先生のモノより、明らかに威力が跳ね上がっていたのだ。

 そんな威力の魔法を前に、Sクラスの先生は尻もちをついてしまう。

 その様子を見て、Fクラスの先生も今度こそ保健室に行こうとするのだが、Sクラスの先生は諦めなかった。というより、往生際が悪かった。

 再び大量の魔法をFクラスの先生に向かって射出したのだ。

 誰もがFクラスの先生に直撃すると思った。

 実際は――――違った。


『は?』


 勇者全員が、口をそろえてそう呟いた。

 なぜなら、Sクラスの先生が放った魔法はFクラスの先生に直撃するどころか、その直前で標的をSクラスの先生に変更し、Sクラスの先生が放った以上の魔法になってSクラスの先生を襲ったのだ。

 いや……その……は?

 何で魔法を放った張本人が、その魔法でボコボコにされてるの?

 誰もが目の前の光景が理解できなかった。

 しばらくして、圧倒的な魔法による暴力がやむと、見るも無残なSクラスの先生が、人間としての尊厳を奪われたかのような哀れかつ無様な姿でそこに転がっていた。

 その姿に、勇者だけでなく会場全体が静かになる。

 Fクラスの先生はまるでその空気に耐えられないと言わんばかりに、そそくさと闘技場を去って行った。

 Fクラスの生徒がとんでもなく強いと思っていたが、そうじゃなかった。

 一番ヤバかったのは、Fクラスの先生だったのだ。


『……』


 誰もが、今まで見た光景を信じたくなかった。

 散々バカにし続けてきたFクラスが、まさか化物みたいな強さを誇る集団だなんて信じたくなかったのだ。

 そして、その信じたくないモノを真っ向から否定するため、如月先輩たちはどす黒い感情をあらわにした。


「許さない……絶対に許さない……強者は……僕たちだけでいいんだ……!」


 どう考えても八つ当たりでしかないその言葉に、なんと他の勇者たちまで賛同し始めたのだ。


「そうだッ! あんな誰かも分からないようなヤツが、俺たちより上だなんて許せねぇ……!」

「俺たち勇者が上で、他は俺たちに跪いていればいいんだよ!」

「そうよそうよ!」


 勇者の面々は、Fクラスに嫉妬以上の黒い感情を向けていた。

 これは……もう、手遅れだな。

 いつかは正気に返るって思っていたが、もう取り返しのつかないレベルにまで堕ちてしまったようだ。

 険しい表情で勇者の様子をうかがっていると、一人だけ、驚いた表情で固まっている生徒がいた。

 それは、『せいちゃん』とやらをずっと捜していた世渡愛梨だった。

 世渡は呆然とした表情で、小さく呟いたのだった。


「……せいちゃん……?」

これの前に【登場人物紹介まとめ:1】も投稿していますので、よろしければ。

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― 新着の感想 ―
[一言] oh…勇者の大半はもう手遅れだな…
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