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白百合狂想曲  作者: シズカンナ
白百合と狂犬のワルツ (番外編 )
37/39

18、誤解落着


私ではだめなのは分かっている。彼の相手は、私ではない。

大切に思うからこそ、傍にいてはいけない。


「エリーデ、身の程はわきまえなさいね 」

最期の時まで、母は私にそう言い続けた。

王族として第一王女の地位を与えられているけれど、私には王族の血が流れていない。

他の男の子どもを身ごもりながらも、王の側室として召し上げれた母は相当にしたたかな女性だった。

そんな母のくせに、私には身の程などという言葉をずっと投げつけ続けた。


分かっている。今の生活の全てが偽りのものだと。

決して己のものだと思ってはいけない。

私は、何も望んではいけないのだ。


彼を絶対に選んではいけない。

エリアスを愛してはいけない。



「エリーデ、目を覚まして 」

大切な彼の泣き声がする。いったい誰が泣かせたの。

早く助けてあげなきゃ、と思いながら同時になぜ?とも思った。

どうして? 私は諦めたはずなのに…




教会内の小さな部屋にあるベッドでエリーデ様は眠っている。

エリアスはエリーデ様の傍を片時も離れようとしないし、エリアスが動かなければ私も動けない。

エリーデ様に寄り添うエリアスの背中は不安げで、とても小さく見えた。


栄養失調と過度の過労。このままいけば命の危険もあったそうだ。

どうしてこんなことに…と思っていると、先ほどのシスター(メイド)が部屋に入ってきた。

「…まだ目を覚まさないのですね。このまま起きなければ、命が危ういかと」

「そんな! 」

泣きそうなエリアスの声。というか、え?ちょっと泣いてる!?


今だ…今こそ、最大のチャンスだ!

瀕死のエリーデ様には悪いけど、非常に申し訳ないけど、でも、今しかない!

ここで畳みかけなければ、私に起死回生はない。

思いを込めて、シスター(メイド)に合図をする。頼んだよ!!


「実は…エリーデ様は、王の子ではないのです 」

ぽつり、と良い感じにシスター(メイド)は話し始めた。


「そのため、今回とうとう城から追い出されたのです 」

「何を言っている? 大切な人のためだと、俺は直接エリーデから聞いた。だからこそ… 」

悲しそうにぐっと表情をかたくするエリアス。よほどショックだったらしい。


「エリーデ様は、エリアス様が国の為に結婚をすると聞いて、身を引くことを決めたのです

 本当は、エリアス様のことを愛しておられたのに… 」

その言葉にエリアスは驚愕の表情を見せる。

「そんなはずは…エリーデは俺のことは弟としてしか見ていないと… 」

「いいえ!そんなことはありません! この日記が証拠です! 」

そう言ってかかげられたのは日記帳だった。 え? ちょっと、勝手にいいの!?


恐る恐る日記帳を手に取るエリアス。

「エリーデの文字だ… 」そう呟くと、日記帳のページをめくり始めた。

読み進めていくうちに驚きの表情から、だんだんと目が潤んでいって…え?また泣いてる??

最後のページまで読み終えるころには、エリアスは号泣していた。


「こんなに、俺のこと思ってくれていたのか… 」

ぎゅっとエリーデ様の手を握るエリアス。祈るようにして彼は泣く。

「俺、知っていたんだ。貴女が本当の姉じゃないって 」



血がつながっていないと知った時は、本当に安堵した。

これで貴女をちゃんと大切にすることができるって。


貴女と一緒になる方法なんていくらでもある。今の俺には容易いことだ。

あとは、ただ貴女が俺を選んでくれればいい。

一言、言ってくれれば、それでいい。 だから、


「エリーデ、目を覚まして 」


エリアスの悲痛な叫びに、私も思わず泣きそうになった。

どうか、お願いエリーデ様。貴女の大切な人をこのまま置いていってしまわないで。

こんな終わり方は、悲しすぎるよ、と強く思った、その時だった


「なか、ないで 」

絞り出したような小さな声、うっすらと開いた瞳はエリアスを見つめている。

「よかった…」泣きながら微笑むエリアスの姿は、まるで天使様みたいで


彼を綺麗だと、私は初めて思った。



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