18、誤解落着
私ではだめなのは分かっている。彼の相手は、私ではない。
大切に思うからこそ、傍にいてはいけない。
「エリーデ、身の程はわきまえなさいね 」
最期の時まで、母は私にそう言い続けた。
王族として第一王女の地位を与えられているけれど、私には王族の血が流れていない。
他の男の子どもを身ごもりながらも、王の側室として召し上げれた母は相当にしたたかな女性だった。
そんな母のくせに、私には身の程などという言葉をずっと投げつけ続けた。
分かっている。今の生活の全てが偽りのものだと。
決して己のものだと思ってはいけない。
私は、何も望んではいけないのだ。
彼を絶対に選んではいけない。
エリアスを愛してはいけない。
「エリーデ、目を覚まして 」
大切な彼の泣き声がする。いったい誰が泣かせたの。
早く助けてあげなきゃ、と思いながら同時になぜ?とも思った。
どうして? 私は諦めたはずなのに…
教会内の小さな部屋にあるベッドでエリーデ様は眠っている。
エリアスはエリーデ様の傍を片時も離れようとしないし、エリアスが動かなければ私も動けない。
エリーデ様に寄り添うエリアスの背中は不安げで、とても小さく見えた。
栄養失調と過度の過労。このままいけば命の危険もあったそうだ。
どうしてこんなことに…と思っていると、先ほどのシスター(メイド)が部屋に入ってきた。
「…まだ目を覚まさないのですね。このまま起きなければ、命が危ういかと」
「そんな! 」
泣きそうなエリアスの声。というか、え?ちょっと泣いてる!?
今だ…今こそ、最大のチャンスだ!
瀕死のエリーデ様には悪いけど、非常に申し訳ないけど、でも、今しかない!
ここで畳みかけなければ、私に起死回生はない。
思いを込めて、シスター(メイド)に合図をする。頼んだよ!!
「実は…エリーデ様は、王の子ではないのです 」
ぽつり、と良い感じにシスター(メイド)は話し始めた。
「そのため、今回とうとう城から追い出されたのです 」
「何を言っている? 大切な人のためだと、俺は直接エリーデから聞いた。だからこそ… 」
悲しそうにぐっと表情をかたくするエリアス。よほどショックだったらしい。
「エリーデ様は、エリアス様が国の為に結婚をすると聞いて、身を引くことを決めたのです
本当は、エリアス様のことを愛しておられたのに… 」
その言葉にエリアスは驚愕の表情を見せる。
「そんなはずは…エリーデは俺のことは弟としてしか見ていないと… 」
「いいえ!そんなことはありません! この日記が証拠です! 」
そう言ってかかげられたのは日記帳だった。 え? ちょっと、勝手にいいの!?
恐る恐る日記帳を手に取るエリアス。
「エリーデの文字だ… 」そう呟くと、日記帳のページをめくり始めた。
読み進めていくうちに驚きの表情から、だんだんと目が潤んでいって…え?また泣いてる??
最後のページまで読み終えるころには、エリアスは号泣していた。
「こんなに、俺のこと思ってくれていたのか… 」
ぎゅっとエリーデ様の手を握るエリアス。祈るようにして彼は泣く。
「俺、知っていたんだ。貴女が本当の姉じゃないって 」
血がつながっていないと知った時は、本当に安堵した。
これで貴女をちゃんと大切にすることができるって。
貴女と一緒になる方法なんていくらでもある。今の俺には容易いことだ。
あとは、ただ貴女が俺を選んでくれればいい。
一言、言ってくれれば、それでいい。 だから、
「エリーデ、目を覚まして 」
エリアスの悲痛な叫びに、私も思わず泣きそうになった。
どうか、お願いエリーデ様。貴女の大切な人をこのまま置いていってしまわないで。
こんな終わり方は、悲しすぎるよ、と強く思った、その時だった
「なか、ないで 」
絞り出したような小さな声、うっすらと開いた瞳はエリアスを見つめている。
「よかった…」泣きながら微笑むエリアスの姿は、まるで天使様みたいで
彼を綺麗だと、私は初めて思った。




