8、騎士の祝福?
ひとしきり笑いあって、戻ろうかとしたところでヒューバートに止められた。
何かを期待している顔で、ほらっと両手を広げて待ち構えるポーズ。
「…本当にするの? これで円満解決!!良いじゃない 」
「嫌です。してくれたら僕は大人しくリリアの言うことを聞きます。そういう約束です 」
ほらっと、さらに笑顔のヒューバート。
そこにはアレクシスのようないやらしさとか妖しさは感じない。
…でも、本当にいいのかな。いや、別に悪いことじゃないんだけど、さ。
騎士の祝福は、唇でする。
相手の両頬、額、そして口の下に計4回のキスをするのだ。
それは祝福のしるし。祝い事にする儀式。
「僕の昇進祝いに、お願いします 」
「うっ… 」
跪いて、キラキラとした目で私を見るヒューバート。
そう言われてスタンバイまでされてしまうと、あとはやるしかないじゃないか。
…よし、大丈夫だ。だって、これは祝福なんだ。そう、ただのおめでとうの意味なんだ。
「いくよ。…目とじてよ 」
「嫌です。ちゃんと誤魔化さないか見てます 」
そんなことするわけないじゃん!!と思いながら、ヒューバートの両肩に手を置く。
知らない顔じゃないんだけど、これだけ間近で見るとなんだか緊張する。
ヒューバートが面白がって笑っているのを見て、ムカっとする。
私だって、やるときはやるんだからねっ!!
ちゅ、ちゅ、ちゅ、と両頬と額にして、一息。やっぱり緊張する。
よし、あとは口の下だ、と唇を近づけると、その時、ヒューバートが突然顔を上げた。
顔上げんな!!と避けようとしても避けきれず…
私はヒューバートの唇にちゅっと最後のキスをした。
「ありがとうございました 」
「ちょっとぉぉぉおおおー!! 」
超晴れ晴れとした表情のヒューバートに対して、私の顔は真っ青だ。
あんた、なんてことしてくれんの。このままじゃあ、私ヤバい!!
「僕を置いて幸せになる貴方への、ちょっとした嫌がらせです 」
そう言ったヒューバートがちょっと寂しそうだったから、私はそれ以上何も言えなかった。
でも、これは、非常にまずいと思うんだよ。うん、とっても大変なことな気がする。
「大丈夫ですよ。騎士の祝福くらい、なんでもありません 」
「違うでしょっ!! あきらかに最後のは違うでしょ 」
きこえませーんという感じでそっぽを向いたヒューバート。
姉と違って全然可愛くない。全然、心動かされない!!
あーもー、こうなったら、とことんヒューバートには私のために頑張ってもらうって決めた。
たった今、決めた!!
「追加で、一個お願いする!! 」
そうして、私は一つの提案をヒューバートに全力で投げつけた。
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私の騎士たるアレクシスへ
貴方への手紙の便箋選びに3日もかけてしまいました。
私も姉のことを笑えませんね。間が空いてしまい、ごめんなさい。
仕事は順調ですか?ケガはしていませんか?
私は毎日を健やかにすごしていますよ。もちろん、お祈りも欠かしません。
報告が一つあります。
このたび、新しい隊長が就任しました。私が推していた者です。
貴方もご存じの、ヒューバートですよ。
これで、私の成すべきことは一つ終わりました。
良かったです。本当に良かったです。
さて、今度は両親に貴方との婚約の報告のために頑張りたいと思っています。
両親にしたら姉同様、突然の申し出になることでしょうが、絶対に認めさせてみせます。
どうか待っていてくださいね。約束ですよ、待っていてくださいね。
では、今日はここまでとします。
貴方に会える日を思って。
リリア




