10、魔王との決闘(=負け戦)
警戒警報、発動!!
いや、避難警報だ!! 撤退だ!!
今すぐこの場から逃げよう。じゃなきゃ、負ける。
何にか分からないけど、すっごい負ける気がする。
恐れおののいて、一歩後ろへ下がった私。
逃すまいと、大きな一歩で近寄ってくるアレクシス。
くそぅ、長身の有利を生かしやがって。ずるいぞ!!
今まで、優しくて忠実で可愛かったワンコが突然、威圧感と黒いオーラを漂わせる魔王様になった。
どうしてだ、ラスボスを倒したというのに、さらにものすごい敵が出てくるなんて。
いやだ、そんな超展開にはついていけない。信じたくないっ。
こんなの誰が想像できただろう。まさか、ラスボスが可愛いワンコだったなんて!!
突然の恐怖に、人はなすすべもなく混乱に陥る。
それこそが最も愚かしいことだと知らずに。
ということで、私のその場で最も考えられる最悪なことをした。つまり、
「こないでっ 」
叫びながら、とっさに剣を抜いてしまったのだ。
私、何してんの?味方に剣を抜くなんて、愚の骨頂だぁ。
あぁ、だめだ。やっぱり、私はハプニングに弱い。弱すぎる。
頭がぐるぐるして、いつもの判断が下せないの。
アレクシスは私を睨んだままだし、私は涙目になりながら剣を構えている。
今の私はまさに、蛇に睨まれたカエルってやつだ。
ほら私、謝るなら、ギリギリで今だよ。
分からないけど、怒っている相手にはとりあえず謝るんだ。
精一杯の誠意ってやつを示すんだ。そしたら、冷静に話し合って、えっと、それから…
なんて必死で考えていると、アレクシスがフッと笑った。
あれ、もしかして許してくれるのかな、なんて希望を持った私。
だけど、甘かった。
そこには、さらなる展開。
「俺を相手に、貴方は剣を抜くのですか。 そうですか… 」
そう言って酷薄な笑みを浮かべながら、どういうことかアレクシスも剣を抜いてしまったのだ。
ちょ、ちょ、ちょ、まって、なにしてんの?
これで、あんたまで抜いたら、もう取り返しつかないよ?
て、いうか、これってもしかして、騎士の決闘ってやつに、なるの、かな。
「受けて立ちましょう。勝者には絶対服従が掟。 …どこまで俺を信じられないのか。貴方が、分かりません 」
忌々しげに吐かれた言葉。その瞳には怒りと、なぜか悲しみが見え隠れする。
だけどね、悪いんだけど私にも貴方がよく分からないよ。
もちろん、この訳の分からなさは全体的には私が悪いのは分かっている。
だって、先に剣を抜いたのは私だから。
でも、アレクシスにだって、ちょっとは非があると思う。
折角、事件解決で円満に終わろうって時に、どうしてそんなに怒っているんだろう。
先に分からない行動をしたのは、そっちだ。
だから、私だけが悪いんじゃない。
どっちもどっちの喧嘩だ。
なんだけど、今の状況から考えて負けるのは間違いなく私の方だ。
これは、もう、結果を見るまでもなく分かっている。
彼と私とでは、実戦経験や技術やらが違いすぎるのだ。
それは、互いに剣を抜きあって構えているからこそ、痛いほどわかる。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
あぁ、今こそ、最良の言葉を私に!!
そう願ったところで、地下室の扉が勢いよく開いた。
そして、そこから入ってきたのは、黄金色に輝く美しい人。
最愛にして最悪の、紅薔薇の姫君。
「ちょっと、私のリリアに何してくれてんの!? 」
懐かしくも愛おしい姉の声。
それを聞いたとき、今まで張りつめていたものがプツンと切れた。
そして、一緒に私の強固な涙腺も見事に全壊したのだった。




