第115話 嘘は駄目
「『是を是とし、非を非とす。この場においての虚偽は苦痛を招く』」
これは善悪の区別をこの場ではっきりとさせるという言葉です。そして、嘘を言えば苦痛が身体に走るそうです。
ただ、母が使っていたところをみると苦痛というより激痛と言ったほうがいいようなのたうち具合でしたけど。
「これにて、この会場内での虚偽の発言をしたものには、罰をあたえることになる。聖女マリー様の力を知っている者には、これがどういう意味かわかるだろう?」
ランドルフ王子が脅し文句を言います。
しかし、それは本当のことなので、嘘ではありません。それを示すように王子の身体には何も変化はみられません。
「うぐっ……これが正義の鉄槌」
後ろの方でルシア様のうめき声が聞こえてきました。
興味本位で嘘を言わないでください。それから、苦痛は私が起こしているというより、身体の拒否反応だと父が言っていました。
……あっ。母が誰に使ったかバレてしまいましたね。
「さて、マルメイヤー公爵。この女性は知っている人かな?」
これはYESかNoで、答えればいい問いかけです。ただ、知っているかどうかという曖昧なものなので、名前を知らなくても、このような人物だと知っていれば、この問いには引っかかってくるのです。
しかし、マルメイヤー公爵はだんまりを決めてしまいました。これは答えなければ、是も非も発生しないということですね。
「『沈黙は是と捉える』」
このような場合もランドルフ王子は予見して、マルメイヤー公爵が答えない場合の対策を講じてきたのです。
「沈黙は肯定とみなす。では質問を変えよう。私の命を狙っているのは貴公か?」
ずばっと、聞きましたね。内心ウザいと思っていたのではないのですか?
「そうだ」
これには素直に答えるのですね。
その言葉に周りがざわめきに包まれます。
「その悪魔のような術を使うものを婚約者にだと、それこそ国が滅んでしまう」
これは論点の差し違えですわ。
しかし、悪用すれば国は簡単に転覆させることができるので、この言葉には罰はくだりません。そして、私を婚約者にと仮定したような言葉なので、そこも引っかかることはありません。
ランドルフ王子。これは逆にこの場を上手く利用されてしまっていますわよ。




