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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
最終章 旅の終わり
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旅の終わり

 その日は良く晴れた夏の日で、秋を感じさせる雲が宙に浮いていた。

 涼しげな風をその身に触れ、澄み渡る青空を見上げながら少年は思う。

 随分と遠くまで旅をしてきたな、と。


 今にして思えば、本当に様々なことがあった。

 多くの人と出会い、より多くの経験をした。


 巡り合うように出会った仲間たちへ視線を向ける少年は頬を緩めた。


「お?

 なんかいいことでも思いついたのか?」


 仲間の剣士に訊ねられた少年は答えた。


「いや、そうじゃないよ。

 随分と大所帯になったもんだと思っただけだよ」


 少年を入れて14名。

 これは、一般的な冒険者のチームが3つ作れる人数だ。


「さすがに俺たちも、こんな大人数で町中を歩いたことはないな」


 大きめの盾を背負った男性が言葉にした。

 思えば彼との出会いから少年の旅は始まった。

 彼との出会いがなければ、もしかしたら別の道が待っていたのかもしれない。


 そんな可能性を考えながら、少年は答えた。


「教え甲斐のある人数だな。

 まぁ、問題ないだろ」


 そう言って、少年は軽く笑い声をあげた。


「……変わったな、トーヤ」

「そうか?

 俺としては普段通りだと思ってたが」

「初めて会った頃は状況が状況だったし、そんな余裕がなくて当然か」

「あぁ、そういう意味か」


 剣士の言葉に頷きながら納得する少年。

 確かに彼の言うように、余裕なんてなかった。

 現状の把握と生きることに必死だったのかもしれない。

 そう考えれば、今の彼は随分と落ち着いたように見えたんだろう。


「厄介続きだったからな。

 いや、それは今も変わらないが……」


 だが少年は不思議と心が落ち着いていた。

 山のような面倒事を抱えつつも、どこか晴れやかな表情を見せる。


「今は"仲間"がいるからな」


 はっきりと少年は言葉にした。

 それが何を意味するのかを知る男性たちは、嬉しそうに口角を上げた。


「……ようやくトーヤの口から聞けたな」

「なんだ、言葉にしてほしかったのか?」

「そうじゃねぇけどよ、やっぱ言われたら嬉しいもんだってディートは言いたいんだよ」

「ですね。

 僕もなんだか安心できました」

「不思議な感覚ではありますが、それはきっと信頼にも通ずるように思えます」


 もっと早く言葉にするべきだったな。

 そう思いながら気恥ずかしさから躊躇っていた少年は、少しだけ後悔した。


「……それよりも、エックハルトは"答え"を見つけられたのか?」


 話を逸らすように少年は訊ねる。

 そんな彼に神官の男性は悩まずに答えた。


「はい。

 私は、私の信じた道を進みます。

 神官を辞めたとしても、人々を救えなくなるとは思えませんので」


 透き通るような覚悟を秘めた声色に、心地良さを感じた一同だった。


「会ったばかりの頃にも思ったが、エックハルトは司祭に向いてると思うよ」

「女神ステファニアを信仰しない私には務まりませんよ」


 どこか吹っ切れた様子で、彼は笑顔を見せながら答えた。


 教会すべてが敵ではない。

 しかし、その上層部は腐りきっているのだと彼も知った。

 だからこそ続く彼の言葉に、一同は重みを感じた。


「たとえ"偶像"だろうと、救われる人は多いはず。

 宗教とは迷える人を正しい道へ導き、救うために存在するものですから。

 ですが今の私には教会を信じ、神官であり続けることはできません。

 すべてが解決し、今よりも正常化された時にもう一度考えようと思っています。

 私自身がそうありたいと願えば戻りますし、そうでないのなら別の道を。

 ……ただ、それだけのことだったのかもしれませんね」


 どこまでも澄み渡る青空を見上げながら彼は言葉にする。

 少年には"管理世界"にいる本物の女神に語りかけているように見えた。




 女神ステファニアと教会、マトゥーシュの(つるぎ)、そして"神槍"。

 "偶像の女神"以外のすべてと少年は深く関わることになる。


 そんな気配を、どこか確信じみたものとして少年は感じ取っていた。



 時に聖王国暦1537年8月26日。

 世界を二分した大戦が勃発する、1年とふた月前のことだった。

 I hope to see you again somewhere around the world.

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