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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第三章 掛け替えのないもの
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掛け替えのないもの

 小鳥がさえずる清々しい朝。

 俺達は旅支度を済ませ、店内で話をしていた。


 制服とスニーカーはインベントリにしまい、冒険者服に身をまとった。

 黒を基調とした厚手服はラーラ秘蔵の魔導具だ。

 強めの斬撃にも耐えられる耐久性を兼ね備えた特別なもので、主に迷宮40階層を冒険できるほどの高性能装備となっているらしい。


 なぜこんなものが迷宮都市から遠く離れた魔導具屋の店主が持っているのか気になって訊ねると、ひと昔前、共に冒険していた友人から貰ったはいいが、一度も着る機会はなかったそうだ。


「魔導具屋を始めてからは、そのままタンスにしまいっぱなしだったのよね」

「それは思い出の品じゃないのか?

 俺に渡さず大切に取っておいてもいいと思うんだが」

「ううん、いいのよ。

 魔導具に限らず道具はね、好んで使ってくれる人を探しているものなの。

 だからトーヤ君が大切にしてくれるなら、私はとても嬉しいわ」


 優しく微笑みながら、ラーラは俺に服を手渡した。

 友人からの貰い物ということもあり、お金はいらないわと彼女は続けた。



 防具は金属製の鎧を装備するのが、この世界では主流だ。

 どこから飛んでくるのかも分からない矢から身を守るには必須になる。

 動きやすさから皮鎧を身に纏う者も多いが、当然防御力は落ちる。


 胸部のみの金属鎧も試してみたが、重すぎて動きに制限がかかる。

 移動速度を重視した俺には合わないことから、厚手の魔法服を選んだ。

 こうすることで制限することなく行動できるようになったが、逆に防御力は安めの金属鎧並みとなっているから注意してねとラーラに言われた。


「だが安めとはいえ、金属鎧並みの防御力はあるんだろ?

 衣服が持つ本来の強度を大きく超えるんだから、十分すぎるんじゃないか?」

「そう思えるのはトーヤ君が強いからだと、お姉さん思うな……」


 珍しく苦笑いを見せた彼女が印象的で、今も脳裏に残っている。

 いずれにしても、これは彼女にとって大切な思い出の品だ。

 大事に着たいと思う。


 靴も同じ魔導具で、耐久性に優れた革のブーツだ。

 元々は登山を目的に作られたもので、山岳や湿地帯にも対応しているらしい。

 ここで厄介になってから履き続けていたもので、徐々に馴染みつつある。

 外套のような衣類もあったが、慣れないせいか動きにくさを感じて辞退した。


 腰には軽くて丈夫な革の剣帯と、フランツから貰った軽めのロングソード。

 インベントリを思わせない小さめのマジックバッグと小さな財布。

 どちらもダミーなので、少量の食料品と小銭しか入っていない。


 魔物の育成が終わったあとは迷宮都市に向かい、ダンジョン内で手に入る本物のマジックバッグを手に入れてそちらをメインで使っていく予定だ。

 ダンジョンという響きも魅力的に聞こえるが、何よりも装備品を充実させるにはもってこいだとラーラは教えてくれた。

 40階層辺りがお薦めらしく、上層で慣れてから向かった方がいいそうだ。



 やりたいことや見たい景色ができたが、まずは魔物の卵だな。

 気持ちを新たにラーラに向き直った俺は、感謝の意を込めて深く頭を下げた。


「ラーラさん、色々教えていただき、ありがとうございました」

「いいのよ。私もこの数日間、とっても楽しかったわ。

 何かあればすぐに戻って来てね。まだまだ知らないことで一杯だと思うし、イレギュラーな事態はいつの世も唐突に、何の前触れもなくやってくるものだから」

「わかった。留意しておく」

「んじゃ、俺達も行くか!」

「そうだな」

「みんなも元気でね。

 道を飛び出して馬車に轢かれないようにね、ふーちゃん」

「……俺はガキかよ……」


 俺達は声を出して笑った。

 こんな素直に笑いが出たのは、この世界に来て初めてじゃないだろうか。


 この1週間は俺にとっても掛け替えのないものになった。

 たくさんのことを学び、たくさんのことを教え、そしてたくさん笑った。


 仲間ってのはいいものなんだな。

 俺は素直にそう思えた。


 だから彼らと離れ、もう一度彼らを探そうと思う。


 この店に来ればひとりには会えるんだ。

 しばらくしたら、まずは彼女の様子を見にこよう。


 どうせ個性的な味がする糧食ばかりの生活をしているのが目に見えるからな。

 その時には何か美味しいものでも作ってあげよう。


 そんなことを考えながら、とても優しく微笑む彼女に心からの感謝をしつつ、俺はもうひとりの恩人であるラーラの下から旅立った。

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