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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十八章 心から信頼する仲間たちと共に
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魔物としか思えない

 帰って来たエルルの現状について、女神は話をしてくれた。

 本来持つはずだった肉体的な頑強さだけでなく、魔力も相当量増えたらしい。


 とはいっても超越するほど強固さではないので、場合によっては致命傷を受けることも十分に考えられるそうだ。


 これに関してはレヴィアやリージェと同じだ。

 肉体の強さに任せ、武器や魔法を体で受け止める戦い方をさせるつもりはない。

 そんな行動を取ればしっかりと注意するし、集中して改善しなければならない。

 エルルの性格上、無謀な行動を取るとは思えないが、それでも注視するべきか。


 肉体が持つ実際の頑強さはリージェ並らしいから、相当の強化がされたと思っていいだろう。

 だからといってこの子を最前線に出すつもりもないんだが、場合によってはそれが必要になることもあるかもしれないから、その辺りも学ばせた方がいいな。


 強化魔法は引き続き使えるが、一部の攻撃魔法は使用が難しくなったらしい。

 これは魔力の総量が増大したことによる影響で、エルルが得意としていた細かな操作が一時的に制限された程度だそうだ。

 また修練を積めば使いこなせるようになると、女神は話した。


 エルルは女神の魂から創られた"もうひとりの自分"とも言えるような存在で、その強さの上限もかなり向上したそうだ。

 それもすべてはこの子自身が望み、自らが選んだ答えなのだとか。

 どうやら眠っている間も女神との会話は続けていたみたいだな。


 しかしエルルは両手を見つめながら、悲しそうな声色を出した。


「……身長、おっきくない……手も、ちっちゃいまま……。

 ……リージェ姉たちみたいなオトナになりたいってお願いしたのに……」

「急激な肉体の変化は魂にも負担をかけます。

 いつかは必ず大人になるのですから、今は背伸びをせずにゆっくりと歩きながら、今の自分を大切にしましょうね」

「……うん……」


 しょんぼりとした子供を諭す母親にしか見えなくなっているが、ふたりの会話はとても不思議な光景に思えた。

 いまだにわずかな不安の残る気持ちを含みながら、俺は女神に訊ねた。


「エルルはエルル、と解釈して、いいんだよな?」

「えぇ、もちろんです。

 彼女は私の"分け身"ではありますが、肉体を与えた瞬間からエルルという"生命"としての人生を歩み始めています。

 ……しいて言えば、乳児期から幼児期を育てることが叶わなかったことに心残りはありますが……」


 その言動は、母親そのものに思えてならなかった。

 とても寂しそうな瞳でエルルを見つめる姿からは"本当ならそうありたかった"のだと、はっきりと気持ちが伝わってきた。


 ……そうか。

 エルルは実の子供として彼女が望んでいた存在だったのかもしれないな。

 それを"敵"に邪魔されたとも言い換えられるんじゃないだろうか。

 だとすれば、彼女にとっても決して赦せない対象なんだな。


「……もしかして、あのお話、してないの?」

「えぇ、これからするつもりです。

 エルルもいたほうがいいですから、あなたが戻るまで控えていました」

「そっか……」

「……あの話?」


 エルルと女神がした一連の会話に、思わず眉をひそめた。


 ……なんだ、この感覚は。

 いや、これには覚えがあった。

 あの時感じた、言いようのない違和感……。


「みなさんに、お話をしなければならないことがあります」


 神妙な顔つきで言葉にする女神エルルミウルラティール。

 その姿から、あまりいい話でないことは確実のようだ。



「まずはオリヴィアさんからお話をしましょうか。

 彼女の種族とその役割を知る者は、現在の地上ではいなくなってしまったこともあり、非常に辛い想いをさせ続けながら何の対策も取れなかった件について、深くお詫びします」


 オリヴィアに向かって深々と頭を下げる女神。

 だが、彼女も女神が発した言葉の欠片に気が付いていた。

 これまでの話からも察していたが、"取らなかったのではない"、という点だ。


 これについてはラーラさんも捕捉をした。

 たとえ彼女であっても改善するには"必要な条件"が満たないため、"管理世界"からは手を出せなかったことがいちばんの理由らしい。


 彼女たちの種族は地球で言うところの"ドリアード"と呼ばれる木の精霊に近く、魔力の媒体として使われていたのがマンドレイクだと女神は話した。


「猛毒とは、裏を返せばそれだけ強力な力を秘めているものなのです。

 そのために彼女たち種族の核となる部分を"あの花にしてしまったことがそもそもの過ちだった"と思っています」

「いや、マンドレイクに価値を見出した馬鹿どもが悪い。

 これに関しては俺でもはっきりと分かるつもりだよ。

 彼女たちを迫害してきた連中も俺の敵だからな」


 明確な悪感情が奥底から漏れ出ているが、かまわずに話を続けた。

 優しい心を持つオリヴィアには悪いが、これだけは譲れない。


「会話もせず、一方的に襲い掛かる存在を"魔物"と呼ぶんだ。

 俺からすれば、オリヴィアたちを迫害する人間のほうが魔物にしか思えない」

「……トーヤ……」


 目を丸くしながら言葉にする彼女に首を傾げてしまう。

 何か思うところでもあったんだろうか。

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