もっと先を
「意志は固いんだな?」
そうオリヴィアに訊ねたが、どうやら聞くまでもなかったようだ。
むしろ、提案をした瞬間から意識が変わったからな。
彼女であれば、誰もが目指さなかった未踏の領域に辿り着けるかもしれない。
「はい。
私もみなさんと共に歩きます。
そして、必ず身に着けてみせます。
誰かを傷つけることのない"制する力"を。
みなさんやオーギュストのような優しい人たちを護れる盾を」
「……わかった」
俺は一言、そう答えた。
目覚めた時よりも強い輝きを瞳に宿したオリヴィアに。
強くなるには筋力や技術を磨くだけではダメだ。
それでは早いうちに限界を感じ、伸び悩むことになる。
大切なのは、確固たる"意志力"だ。
それは確実に強さと直結する"覚悟"になる。
これを持つ者と持たざる者では明確な差が出る。
そして覚悟とは、人によって違う。
まったく別の答えを見出すものだと思えるほどの差が出る。
もがくように苦しんでも見つからないかもしれない。
それでも彼女は、たった今それを手にした。
どう扱うのか、どう育てるのかでも大きく変わっていくものだから、実を結ぶように力を手にできるかは本人次第だ。
しかし、オリヴィアならきっと大丈夫だ。
確証はないけど、彼女の覚悟は本物だからな。
あとは本人の努力にもよるが、その手助けになる程度には背中を押してあげたいと思えた。
「……そうだな。
ふたりと同じ条件をオリヴィアにも出すよ」
「ありがとう、トーヤ」
「まだ分からないぞ。
3人揃って留守番することもあるんだからな」
「そうですね」
くすくすと笑いながら、オリヴィアは答えた。
まぁ、どうなるかはやってみなければ誰も分からないからな。
身体能力自体はみんな高いし、クラウディアはかなりの技術力を持ってる。
オーフェリアもそこそこ鍛えていたみたいだから下地はそれなりにできてる。
問題は、オリヴィアが自衛目的以外で戦ったことがない程度か。
それなら本当になんとかなるかもしれない。
そんな風に思ってしまう3人だった。
「……念のため確認しておくが、"種"が発芽した相手にダメージを当てられなければ、全員"管理世界"で留守番だぞ」
「うむ。
敵と対峙するのが楽しみだ」
言葉とは裏腹に、レヴィアの答えには強烈な感情が込められていた。
それは迷宮の90階層で出遭った"アンデッドワイバーン"を殴り飛ばした時と近い気配を纏っているように思えたが、あの時とは違い明確な意思を感じさせた。
レヴィアは一部の例外を除き、人のことを大切に想ってるからな。
これまでとは違う圧倒的な"悪意"を向ける敵に強い憤りを覚えているんだろう。
いや、彼女だけじゃないか。
心根の優しいフラヴィを含め、ここにいる誰もが似たような感情を抱いている。
"世界平和のため"なんて崇高なものじゃなく、ただただ許せないんだな。
……世界の管理者に気付かれずに侵入し、表には出ずに侵略を進める相手、か。
今にして思えば、ブランディーヌを狙った理由も良く分かる。
それほどの使い手であれば文字通りの意味で最強の魔物だったのか。
そんな彼女を取り込めば、恐らくこの世界でもここにいる3女神とふたり、いや、俺しか対処ができないはずだ。
エルルミウルラティールは地上に顕現できない理由があるから、結局戦えたのは残る二柱と俺だけなんだろうな。
これについても確認しておいたほうがいいかもしれない。
「現状で俺以外に対処ができる者は、この世界にいるのか?」
「残念ながら、トーヤさんのみになります。
不確定要素が含まれますので彼女は外させていただきましたが、それも現在での話になりますので」
「なるほど」
あえてみんなの話をしなかったところから推察すると、たとえレヴィアが修練を積んで強くなっても対処はできないと判断しているのか。
しかし、それも仕方のないことだと思う。
"テネブル"を"廻"で倒せたとしても、"種"を埋め込まれたものは倒せない。
恐らくは物理、魔法ともに"完全耐性"を備わってしまうんだろうからな。
……鍛えるだけじゃなく、武器も手に入れる必要があるか?
いや、インベントリに放り込んだ武具でも十分強いものが揃っているから、さらに奥を目指すことも可能だ。
あまりこういうことは聞きたくなかったが、迷宮内で入手できるアイテムについて訊ねておいたほうがいいかもしれないな。
"インヴァリデイトダガー"でダメージが与えられるならその話をしていただろうから、別の武器を探す必要がある。
……それも無駄に終わる可能性のほうが高いか。
200階層があるのかも訊ねたいところだな。
どの道、オーガ程度じゃ対人戦の練習にしかならない。
強くなるなら、もっと先を目指す必要がある。




