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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十八章 心から信頼する仲間たちと共に
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連れて行くわけには

 そんなことが可能なのか、とは思わない。

 俺が学んだ流派の極意は空を斬り裂く(・・・・・・)と聞いた。


 父は"そう言い伝えられているんだよ"と笑いながら話したが、俺はそれが冗談だとはとても思えなかった。


 そもそも"動"系統上位技の"(かい)"ですら、この世界の住人はもちろん、同じ技術を体得したみんなの中でもいちばん巧く扱えるレヴィアであろうと、反応できないほどの最高速度を叩き出してしまう。


 当然、覚えたての彼女は技術的にも完成とは程遠い拙さがある。

 練度を高め続ければ同程度の速度でも反撃できるようになるはずだが、それほどの強さに到達しなければ使いこなしている俺の"廻"には届かないだろう。


 しかし絶大な効果を持とうとも、"廻"はあくまでも上位技。

 最上位に位置する"覇"は、"廻"の比ではないほどの絶大な効果を持つ。

 これはもはや、超越した力と断言できるだけの圧倒的な差がある。


 その"覇"ですら、昇華すれば奥義に該当する(・・・・)と言われている。

 それほどの力が必要だとは思わなかった俺は、もしもに備えて"覇"をいつでも発動できるように努力はしたが、恐らく使う機会はないと考えていた。

 現にロクでもない連中はもちろん、必要とするほどの敵がいなかった。


 だがここにきて状況が大きく変わった。

 先ほどの話から察するに、神々ですら封印処置をするしか手段がないと判断した相手に俺が致命傷を与えられるのなら、それは協力どころの話ではなくなる。


 それに女神エルルミウルラティールは言っていた。

 "我々はあなたたちの技に希望(・・)を見出しています"、と。


 時空すら斬り裂く可能性のある技術で、神々すら討伐できない邪神を人間である俺たちに斃すことを望まれるとは考えもしなかったし、予想だにしない事態だ。


 ……まさか協力ではなく、可能ならそいつを斃すことを望まれるとはな。

 さすがに想定の範囲を大きく逸脱しすぎて、答えを求めることもできなかった。


 確かに物理、魔法ともに通用しない相手がいるなら、有用な手段だと思える。

 だがそんなことが可能だとすれば、"人とは呼べない存在"になってしまう。

 文字通りの意味で人の領域を越えた、人ではない何か(・・・・・・・)になってしまう。



 …………それでも。

 俺たちは、その道を選ぶんだろうな。

 たとえそうなったとしても俺は"敵"を赦せそうもないし、"俺と一緒なら大丈夫"と答える姿しか見えなかった。


「……まぁ、なるようになるか」


 とても曖昧で、解決とは程遠い答えだ。

 そんな答えでも俺には不思議と清々しく思えた。

 奇妙な感覚だが、それよりも考えるべきことは多いからな。

 きっとそのせいで自分のことはどうでもよく思えているんだろう。


 正直、問題は山積みだ。

 "管理世界"にいれば安全だが、素直に聞き入れてくれるとは思えなかった。

 さっきから戦うための心構えになったままだからな。


「駄目だぞ」

「どうしてなのごしゅじん!

 ごしゅじんが戦うならアタシも戦いたい!」

「その理由は?」

「……ぇ」


 凍り付くようにブランシェは言葉に詰まる。

 そのために俺は技術を学ばせたわけじゃない。


「"俺が戦うから自分も"、なんて理由じゃ連れて行けない。

 とても大切なことだから、みんなも良く考えてほしい。

 今後、無事である保証もなければ、最悪の結果を招きかねない。

 まして相手は、この世界を侵略してきた"異物"そのものだ」


 ゴールドスライムを倒せようが、それを凌駕する耐性持ちに攻撃が通用するとは限らないし、俺の予想では"廻"を学んだ程度の練度では"テネブル"に傷ひとつつかない可能性がある。


 そんなとんでもない存在を相手にブランディーヌが斃せたのは異常なことだと思えるが、恐らく彼女もまた特質的な存在だったはずだ。


「ブランディーヌも、いわゆる"英雄の資質"持ちだったんじゃないか?」

「そうですね。

 人の子供たちが名称付けているものに近いと思います。

 あの子は1500年の時を生きる白銀狼(フェンリル)で、研鑽を積み続けた上に聡明な子。

 同種族の中でも隔絶した強さにまで到達した子でもありますから、水龍として湖底で過ごしていた頃のレヴィアさんよりも遥かに強かったのは間違いありません。

 周囲への影響を最小限に抑えながら戦ったこともあって、相手に決定的な一撃を当てられずに相当苦労していたようです。

 彼女が開放した技を完全な形で放てば、周囲一帯は本当の意味で"氷の世界"になり、ほぼすべての生物は生きられない永久凍土になっていたでしょう。

 魔力で造られた"氷の世界"は、神々が調整をしなければ元には戻らないと予測しています」


 ……なるほどな。

 全身を貫くような強烈な気配を感じたのは、それが原因か。

 本能的にブランディーヌが持つ力の一端を感じ取ったからなんだな。


 レヴィアの時はその大きさから判断しづらかったが、今にして思えば彼女の強さを先に感じていたからこそ巨大な体躯のほうに意識が向いていたのかもしれない。


 しかし、問題はそこではない。


「それほどの使い手を倒したともなれば、攻撃のすべてを無効化されたと感じるほど手ごたえがなかっただろうな。

 "種"が覚醒すれば、文字通りの意味で手が付けられなくなると予想してるが?」

「推察になりますが、恐らくはトーヤさんの読み通りになると思われます。

 ひとたび芽吹いた"種"は、一般的な攻撃を一切受け付けない存在としてこの世界に生きる者たちを蹂躙し始めるでしょう。

 討伐が可能なのはトーヤさんの放つ一撃か、神々たる"管理者"のみになります」


 寄生されたのが人だろうが魔物だろうが、恐らくは変わらない。

 物理も魔法も効かない相手には相応の攻撃でなければ斃せないはずだ。

 その元凶と戦おうって時に、みんなを連れ歩くわけにはいかないんだよ。


「聞いての通りだ。

 このままでは、すべてが解決するまでみんなを連れて行くことはできない。

 ……みんななら俺の言っていることも……分かってもらえるだろう?」

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