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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十八章 心から信頼する仲間たちと共に
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深く感謝します

 旅は順調に進み、想定した日程で何事もなく目的地へ辿り着いた。

 魔物の強さを考えれば当然と言えばそうなんだが、眼前に広がる光景に愕然としながら立ちすくむ俺たちをよそに、エルルはひときわ元気な声をあげた。


 今朝はどこか気持ちが抑えきれない様子を見せていたが、まさか悪い予感が的中したとも思いたくない俺は、ひたすらに過去の記憶を探し続ける。


 何か見落としている点があるかもしれない。

 本当はどこかに手掛かりがあって通り過ぎただけかもしれない。


 そんな現実逃避にも思える思考が、浮かんでは消えた。


「やっと着いたぁ!

 長かったね!」


 満面の笑みで言葉にするエルル。

 だがその視線の先に家はなかった。


 そこにあるのは、ごく普通の木。

 周囲の木と見比べてみても変化を感じない。

 建物の残骸もなければ、ここに人がいた痕跡も見つけられなかった。


 エルルが指さす木に触れたり周囲を回ってみたが、何かが隠されているわけでも、ましてやその先に空間が広がるわけでもない、いたって普通の木だった。


 ……いま考えていることを言葉にするのはためらわれる。

 しかし、どう考えてもこの場所に家があったとは思えない。


「ここがエルルお姉ちゃんのおうち?」

「うん!

 そうだよ!」


 フラヴィの言葉はとても自然で素直な聞き方だった。

 本心からの発言なのは、ここにいる誰もが理解している。


 それでも、確認しなければならなかった。


「……ここが、エルルの……家、なのか?」

「うんうん!」


 満面の笑みで答えるエルルに、どう反応していいのか分からずにいた。


 何か特徴があるのだろうか。

 そう思いながら視線を上に向けるが、ツリーハウスのようなものもないようだ。

 どこからどう見ても人の手が加えられた形跡は存在しない普通の樹木としか思えないものに右手を添えたエルルは、みんなを見ながら話した。


「ほらほら、こっちきて!

 みんな、もっと近寄って!」


 言われるまま傍へ近づくレヴィアたち。

 ぐるりとみんなを見回したエルルは、聞き捨てならない言葉を口にした。


「Access to system administrator privileges. Return home!」

「何を言って――」


《――受諾。

 転送します》


 瞬間、眩い光が体を包み込み、まるで空へ吸い込まれるような感覚があった。


 まばたきをするほどの時間。

 そのわずかな間に、まったく違う場所へ俺たちは立っていた。


「……草原と……青い空に、穏やかな風……?

 ……いったい、何が起こったのだ……。

 ……森は、どこへ消えた……」


 驚愕しながらレヴィアは言葉にするが、それよりもエルルの発したことのほうが俺の頭から離れずにいた。


 先ほどの言い方は、まるで……。


 ……思考が続かない。

 信じられないし、信じたくない現象にしか思えなかった。


 ……まさか……いや、そんなはずがない。


 直後、気配を感じ取り、クラウディアとオーフェリア以外の全員が右斜め前方に視線を向けた。


 そこにいたのは薄い金髪を真っすぐ腰まで伸ばした大人の女性。

 透き通ったアクアマリンを連想する瞳の、とても美しい人だった。


 俺たちがその女性の姿を見ながら凍り付いてると、エルルは言葉にしながら彼女の胸に飛び込んだ。

 膝をつきながらエルルを抱きとめた女性は、優しく頭をなでながら答えた。


「ただいま~!」

「おかえりなさい。

 疲れたでしょう?」

「少し疲れちゃった!」

「それじゃあ、おやすみなさい」

「うん!」


 答えたエルルは、光の粒子となって空へ消えた。


 その瞬間、俺の心が激しくざわついた。

 まるで睨みつけるように女性へ悪意を向けると、立ち上がった彼女は俺をなだめるような穏やかな口調で言葉を紡いだ。


「大丈夫です。

 本当に少しだけ眠っているだけですから」

「……エルルに、何をした……」

「その説明もしっかりとさせていただきますが、まずはあの子を心から大切に想ってくださっていることに深く感謝します。

 ありがとう、トーヤさん」


 ……俺の名を……。

 いや、そんなことはどうでもいい。


 怒りを鎮めろ……。

 "話をする"と、相手は言っている。

 敵じゃないんだから、心を落ち着かせろ……。



 ……本当に駄目だな、俺は……。

 エルルがいなくなった瞬間、"無明長夜"で斬る選択を選びそうになった……。


「……済まない。

 どうかしていた……」

「いいえ、(わたし)は嬉しくて仕方がありません。

 あの子のことを本当の家族として想ってもらえているのですから、あなたが謝ることなんて何ひとつないのですよ」


 心にしみるような、とても温かい声が耳に届いた。


 ……冷静になれば分かることだった。

 エルルが言葉にしたものの意味を理解しようとも思わなかったのか。

 それとも、あまりに衝撃的な展開に俺の頭が付いていかなかったのか。


 どちらにしても、最悪の答えを一方的に彼女へぶつけようとした俺が悪い。

 どんな言葉を並べても絶対に良くない行動をしようとしたことは、深く反省するべきだ。


「心からの謝罪を」

「はい、わかりました」


 優しく、何よりも美しく微笑んだ女性は、俺の暴挙を赦してくれた。


「改めて自己紹介をさせていただきます。

 私の名は"エルルミウルラティール"。

 この世界、"ラティエール"を創造した女神です」

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