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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十八章 心から信頼する仲間たちと共に
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揉めるなよ

 アンジェリーヌとエトワールのふたりと合流した俺たちは情報交換を始めるが、やはりというべきかどちらもエルルについて知ることはできなかった。

 それを想定した上での行動だったが、こうも分からないと気持ちが重くなる。


 だが、いちばん不安なのはエルルだ。

 この子の気持ちを置いて俺たちがへこんではいられない。


 そう思っていたが、当の本人はまったく気にもせず笑顔のままだった。

 それどころか、早く森に行こうと瞳を輝かせるこの子にらしさ(・・・)を感じなかった。



 大森林の地形や魔物についての情報に差はなく、残念ながらこれ以上はフュルステンベルクで入手できないと思えた。

 恐らくは周囲の魔物や盗賊などは全ギルド、憲兵間で共有されているんだろう。

 憲兵本部にも顔を出したそうだが、魔物の変異種も確認されていないらしい。


 いわゆるヒュージ種もそれにあたる。

 一般的な個体よりも体躯が大きく、ステータスが向上した魔物だそうだが、それとは別に2、30年に一度、まったく別の進化をしたと思われるような非常に強い魔物が報告されると聞いた。


 しかし、そんなものと遭遇すれば大事件になるそうだから、旅をしている最中に遭遇することはないだろうな。


「どうするかと考えたところで、出せる結論はひとつか」

「うむ。

 何か手掛かりが掴めるやもしれん。

 まずは森の調査をしてから、今後の話をするか?」

「そうですね。

 エルルさんは行く気満々ですし、私も賛成です」

「レヴィア姉、リージェ姉、ありがとう!」

「みんなもそれでいいか?」


 と言ったところで、反対意見が出ることはなかった。

 それぞれの想いは違えど、エルルの家族を見つけたい気持ちは一緒だからな。


「エルルお姉ちゃんのおうち、楽しみ」

「んふふ、楽しみにしててね、フラヴィ。

 それじゃあ行こうよ、トーヤ!」

「明日にしてはと止めたところで聞いてもらえそうもないわね。

 このまますぐにフュルステンベルクを出発するのかしら?」

「まぁ片道7日だし、このままのんびり歩いて行くよ」

「そう。

 それじゃあ戻ってきたら連絡をちょうだい。

 お食事をしながらお話を聞かせてもらえると嬉しいわ」

「いいのか?

 最低でも2週間、もしかしたらそれ以上は戻れないかもしれないぞ?」


 そのまま共和国へ向かうことは考えていないが、それでもイレギュラーな事態が起きれば戻りも遅くなるだろう。

 俺たちを待たずに自由を満喫してもらいたい気持ちのほうが強いんだが、どうやらアンジェリーヌたちの中ではもう決められていたことだったようだ。


「大丈夫よ。

 滞在期間が延びることは知らせてあるし、私たちにはよくあるのよ。

 この町なら観劇もたくさんできるから、時間はいくらあっても足りないわ」


 なるほどな。

 確かに演劇を楽しむのなら、ここ以上の町はないかもしれない。

 フュルステンベルクでならいくらでも観られるし、料理も中々美味しかった。


 それ以外にも理由はあるようだ。


「忙しい日々を過ごしていたから、3か月はのんびりしようかとエトワールと話していたのよ。

 そこにあの事件が起こって、少し疲れちゃったこともあるのよね。

 仕事のほうは放置しても大丈夫なように信頼できる子に任せてあるし、ここの露店は中々美味しいものが揃ってるから、ふたりで何日もかけて食べ歩く予定なの」

「すでに美味しそうな露店を多数見つけています。

 順調に食べ歩いても3週間はかかるでしょう」

「さすがね、エトワール」


 とても楽しそうに話すふたりに、頬が自然と緩んだ。

 当初の目的は休暇だったみたいだし、のんびりとするつもりなんだな。


「……それに、"マトゥーシュの(つるぎ)"を書店で手に入れたわ。

 どれだけひどい内容なのか、じっくりと読んでみようと思うのよ」


 随分と挑戦的なことを言う……。

 内容が内容だけにお薦めはできないが、一言だけ言わせてもらおうと思った。


「揉めるなよ。

 行動するなら、せめて相談してほしい」

「ありがとう。

 そのつもりはないけれど、とても頼もしい言葉ね。

 ……いずれは事を構える"敵"だけれど、今はまだ情報収集だから安心して」

「その言葉を聞いて安心できる人はいないと思いますよ、アンジェリーヌ様」

「それもそうね。

 ごめんなさい、聞かなかったことにしてちょうだい」

「……行動するなら必ず相談してくれ……」

「大丈夫よ。

 私だって無策で敵と揉めたりはしないわ。

 でも、あの国で商売をしている数名の行商人には借り(・・)があるのよ。

 最低でもこれまでの清算はしてもらおうと考えているわ」


 穏やかに思えない彼女の言動に、思わずエトワールを見てしまう。

 その話についてざっくりと聞かせてもらったが、どうやら帝国で店を構えている商会の仕入れ担当と揉めているらしい。

 それも一方的に脅迫紛いの圧力をかけ続けられているようだ。


「店のほうは大丈夫なのか?」

「個人商店だから問題ないわ。

 何かあれば手紙が届く手筈になっているし、店主不在で強引な取引をしようものなら商国では重罪になるわ。

 これまでだって厚意で取引をしていたのだけれど、最近はさらに強烈なアプローチを仕掛けてくるようになっているのよね」

「アンジェリーヌ様はお優しすぎます。

 あのような不遜な輩は盗賊も同然。

 さっさと商業ギルドに報告すれば良いのです」


 怒りを露にするエトワールの姿を見るのは初めてだな……。

 どうやら相当頭にくるような対応を取られ続けているみたいだ。

 彼女の立場では口に出せないだろうから、怒りが溜まっているのか。


 そんな扱いをされても真っ当な取引をするアンジェリーヌがすごいのか、それとも事なかれ主義なだけなのか。


 エトワールの言葉遣いからは相当の嫌悪感が溢れていた。

 もしかしたら、そういったいざこざから心を癒すための休暇でもあったのかもしれないな……。

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