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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十七章 目覚め
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望んだ未来への

 視線の先に見つけたものに、俺は目を奪われた。

 鑑定結果で確信したが、これは俺がどうしても手に入れたかったものだった。


 真っすぐ進み、台座に陳列されている煌びやかな輝きを放つ宝石たちの中に置かれた透明な球体を手に取りながら答えた。


「これを貰えるだろうか?」

「その水晶ひとつだけでいいの?

 他にも色々とあるわよ?

 上品な壷とか、見事にカットされた大きな宝石とか。

 宝剣みたいなものや、豪華な鎧、盾なんかもいっぱいあるわね。

 もしかしたらアーティファクトだってあるかもしれないわよ。

 どれもこれも冒険の役に立つものばかりじゃないかしら?

 歴史的価値をしっかりと調べれば、壷ひとつでも売れば一生遊んで暮らせるだけの金貨が手に入ると思うわ」


 "売れば一生遊んで暮らせる"だなんて、冗談を言えるまで元気になったんだな。


 まぁ、たしかに武具の類も俺の読み通りアーティファクトばかりだ。

 それも絶大な効果を持つもので、ひとつでも手にすればパーティーの戦力が大幅に向上するだけじゃなく、生存率を含む安定感も格段に上昇するのは間違いない。


 だが今回に限って言えば、優先順位はこれのほうが遥かに高い。

 武具は迷宮で手に入れられるし、これ以上の性能を持つ魔道具だってあるかもしれないが、これだけは入手不可能な唯一無二のものに思えてならなかった。


 だから俺は断言した。

 これしかないと確信して。


「いや、これがいい。

 可能ならこれを貰いたい」

「そんなに価値があるものなの?」

「価値、か。

 確かにこれだけ大きなものを売れば、莫大な金貨が転がり込むだろうな。

 けど俺は、これをまったく別の用途で使いたい(・・・・)んだ」

「別の用途?」


 首を傾げるアンジェリーヌに、俺とフラヴィが体験した話を始める。

 これに関してはオーフェリアにも話し、みんなの目的にもなってもらえたことではあるが、手にした石は俺たちが望んだ未来へのアイテムとなりうるものだった。


「あくまでも可能性のひとつにすぎないが、それでも俺たちはこれを手にするために迷宮深くまで潜った。

 ……残念ながら報酬としても魔物のドロップ品としても見つけることはできなかったが、まさかここでこいつを見つけられるとは思っていなかったよ……」


 右手のひらで持った球体に左手を添えてしっかりと持つ。

 焦がれるように探し続けていたもので、それもこれは間違いなく最高の質だ。

 もしかしたらこれ以上のものは二度とお目にかかれないと思えるほどに。


「直径約10センチの加工済み球体で、魔力の通されていない未登録品。

 魔道具の専門家から最上級魔石と聞いた、無色透明の原石だ」


 本来は鉱石の部分を削り取って加工し、魔道具にはめ込んでから魔力を通すことでそれぞれの属性に合った色へと変化するらしいが、これはその直前の原石だ。

 だが内包された魔力量は桁違いに多く、明らかにレジェンダリーを超えている。


 これさえあれば、彼女を目覚めさせられるかもしれない。

 もちろんどうなるは試してみなければ分からないが、それでも俺は可能性を信じずにはいられなかった。


「……そうね。

 私もそうしてあげてほしいと思うわ。

 お花のままだなんて寂しいものね」

「ありがとう」


 心からの感謝を込めて、俺は言葉にした。



 紫と白の美しい花をインベントリから床へ置き、魔石を近づけて魔力をわずかに込める。

 こうすることで魔石を核として機能させることができるのではと、ラーラさんは推察した。


 しかし、それもすべては推察の域を出ず、前例のないことを今からしようとしているわけだから、何も起こらない結果になっても不思議ではない。

 最悪の事態が起こりうる可能性もゼロじゃない以上はもっと慎重に行動するべきなんだが、失敗するとはまったく思えないとても奇妙な感覚が俺を包んでいた。


 それほどの魔力量と密度を感じさせる原石であることも大きい。

 何よりも、これ以上のものは手に入らないと確信している。

 これでだめならまったく別の方法を見つけなければならない。


 まるで火がともるような煌めきをわずかに放つ原石。

 徐々に花全体を淡い光が包み込み、次いで強烈な閃光が宝物庫を照らした。

 あまりのことに子供たちは声を上げ、この場にいる全員は瞳を閉じた。


 光が収まるのを感じ取った俺は視線を戻すと、淡いオレンジ色の魔力を纏わせた女性がぼんやりとした表情で足を崩しながら座っていた。

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