表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十七章 目覚め
653/700

血の気が引く仮説

 そういえば、ラーラさんからは帝国の歴史については学ばなかったな。

 それを知ればこの国が滅んだ年代の特定もおおよそできそうではあるが、わざわざ危険すぎる場所に足を踏み入れて魔道具を奪還することは避けたい。

 よほどのことでもない限り、あの国とは関わらないほうがいい。


 そもそも帝国は弱肉強食が基本理念として根付いていると聞いた。

 "強さこそが正義で、弱ければ使役されるのは当然だ"などと理解に苦しむ大言を真顔で吐き捨て、それがまるで定められた法律のように思われている国へ行きたいと思うやつの方が少ないはずだ。


 それこそ敵ばかりが存在すると判断したほうが、精神的にも楽だろうな。

 そんなことを考える俺の顔色から察してくれたアンジェリーヌは言葉にした。


「この件はこれでおしまいね。

 私もあんな国とは商売上でも関わりたくないの。

 どちらにしても私は戦えないのだから、私の信じる道を歩くわ」


 そうしてもらえると助かる。

 俺は本心からそう思った。


 子供たちもいるし、オーフェリアとクラウディアは鍛えなければ危険だから、もし事を構えるとなれば俺が安心できるまで強くなってもらう必要がある。

 気配察知と魔力感知を含む技術の向上は必須だし、実戦経験も不足してる彼女たちをある程度鍛え上げるとすれば、最低でも数か月はかかるだろう。

 ふたりはリゼットとは違って"英雄の資質"持ちじゃないからな。


 急激に手にした強さは心身ともに大きな負担をかけるから、武術を教える側からすれば時間をかけて学んでほしい。


 それにオーフェリアには"あの力"を二度と使わせたくない。

 本人も使うつもりがないみたいだから助かってるが、いざとなればそれに頼るような戦い方をさせないようにする必要があるだろう。


 ふたりの修練はこれまでみんなに教えたように極端な強さまで到達しないはず。

 そんな状態で悪名高い"かの帝国"と一戦構えるわけには絶対にいかない。


 アンジェリーヌが本気で帝国と敵対するつもりなら、その時に改めて考えるか。


「ありがとう」

「……何も言っていないが」

「そうね。

 それでも、ありがとう」


 見透かされたように彼女は美しい顔で笑い、俺は視線を逸らした。



 随分と歩いた先の行き止まりに辿り着いた。

 ここはギーゼブレヒト断崖の中になるだろうな。


 そんな場所にまさか宝物庫が造られているとは誰も思わないからこそ難を逃れた、とも言えるが。


「ここがその宝物庫の入り口か。

 見た目ではまったく分からない、突き当りの壁になってるな」

「城にあるのは形だけのもので、こちらが本当の宝物庫になるらしいわ。

 まぁ、金貨や歴史的に価値があるものも置いていたと思うから、その表現も正しくはないけれど」

「でもでも、この先には危ない武器もいっぱいあるんだよね?

 この国で作られたのなら、そっちを放置すると良くないんじゃ?」


 焦ったようにエルルは言葉にしたが、実際にはそうはならないはずだ。

 そう思えるのは俺だけかもしれないが、その推察は当たっているように思えた。


「魔道具作製の工房があるかもって意味なら、きっと大丈夫だろう。

 仮にそれらが押さえられていた場合は、こうしていられないほどの危険な世界情勢になっていたはずだからな。

 強力な魔道具を作り出すのに必要な立地だとすれば今もこの国が廃墟であるはずもなく、魔工師が連れ去られた場合も混沌とした世界になっていたと思うよ。

 最悪の場合は、世界最大の軍事国家"大帝国"が勃興していたはずだ」

「ふむ。

 であれば、強力な魔道具を作り出したと知らぬ者がアーティファクトと判断した武具を持ち去ったか、研究はしたが制作は困難だと結論付けて離れたかのどちらかと考えるのが妥当か」

「今現在でも、質のいい魔道具は迷宮で手に入れたものが注目されています。

 強力な魔道具を制作できるのであれば価格は極端に低落しますから、事実上不可能と結論付けられた可能性は高いと私は思います」


 レヴィアとリゼットに加え、アンジェリーヌもその意見に賛同した。

 だがここで重要なことに気が付いた俺は、考えながら言葉にする。


「……いや、彼は問題の魔道具がこの国で造られていたとは言っていなかった。

 あくまでもこれは俺の推察に過ぎないし、本当にそんなものが人の手で作り出されたのか、その正確なところは誰にも分からない」

「でも、空を護る盾みたいなものも、この国で造られたんじゃないの?」


 エルルは訊ねるが、それについても答えは出ていない。


「それも俺の推察に過ぎない。

 凶悪な魔物が飛んでいる場所に国を置くこと自体、異質だと思えたからな。

 既存する防御系の魔道具でこれほどの広範囲を護りきるものは知らないだけで、それが人の作り上げたアイテムだと確信を得たわけじゃない。

 つまり空を護っている盾も奪われた魔道具も、アーティファクトかもしれない。

 そう考えると、どちらも迷宮内で手に入れたもので、俺たちよりもダンジョンを深く潜った可能性すら考えられる」


 この推察がもし正しいとするのなら、それはそれで大きな問題になる。

 同時に、この世界の住人の技術力が低いからこそバランスが取れていた。


「……って、ことはさ?

 迷宮にはそんな危ない武器がいっぱいあるってことなの、ごしゅじん?」

「……そう、なるな」


 ブランシェの問いに、俺は血の気を引かせながら答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ