違う可能性に
手掘りで造られたかのような洞窟を進んでいくと、目に見えて分かる人口の建造物へと出たようだ。
淡い光をわずかに放っているかのような青白い石造りの通路は、まるで迷宮都市にあるダンジョン内を連想した。
「……まるで迷宮だな。
どんな原理で淡く光っているのかは分からないが、同じ鉱石なんだろうか」
「すべての迷宮は女神ステファニア様がお創りになられたと言われていますが、その詳細を知る者はいないと言われています」
不安気な声色でリゼットは言葉にした。
警戒する気持ちも分からなくはないが、周囲に魔物の気配は感じられなかった。
入口にあるゲートも見当たらないようだし、迷宮とは違うのかもしれないな。
「他の迷宮の入り口がどうなっているのかは分からないが、さっきみたいに外観では見つけられないような造りになっていたりするものなのか?」
リゼットに訊ねてみるが、さすがに彼女も聞いたことがないらしい。
すべての情報を知るわけではない以上、ここが新しい迷宮だと思っても不思議ではないし、本当にそうだったとしても別段驚くようなことではないんだろうな。
「噂程度の情報ですが、各国にはそれぞれ3、4か所はダンジョンが発見されていると聞いたことがあります。
アンジェリーヌ様はダンジョンに興味を示さないので、私も深く調べることはなかったですが」
「3、4か所か。
世界にはまだまだ隠された迷宮が存在するのか」
答えの出ないものではあるが、興味がないわけではない。
それでもバウムガルテンのダンジョンが世界最大級と言われているから、あの場所以上に収穫が得られる迷宮があるとも思えないが。
「……随分先だが、通路の奥は行き止まりみたいだな」
「主の剣の時を思い起こすな」
「俺も同じことを考えていたよ。
恐らくは先に進むための方法があるはずだ」
「ここまで罠の類がなかったのは、かえって不気味だが……」
「それって、この先にいっぱい罠があるってことなの、レヴィアお姉ちゃん」
「もしくは敵がこちらに気づいて襲い掛かってくるか。
少なくとも、より警戒をする必要があるだろうな」
息をのむブランシェは鋭く周囲に気を配る。
言われたことを素直にできるのも、この子のいいところだな。
「ブランシェは鼻が利くから、なにか気になることがあれば教えてほしい」
「うん!」
頼もしい限りだが、ここまで歩いてみて違う可能性に気付き始めた。
しかしそれを言葉にすることは危険すぎる。
もし間違っていれば大変な事態を招きかねない。
今は警戒を続けながら先へ向かうことに集中しよう。
見えていた突き当りの石壁を調べると、腕が吸い込まれるように奥へと沈んだ。
大きさを確認するが、難なく通り抜けられるほどの空洞になっていた。
「……通り抜けられるのか」
「あぁ、馬車も通れそうだ。
先行して様子を見てくるから、しばらくここにいてくれ」
「わかった」
周辺に気配は感じないが、ここを抜けた瞬間に囲まれていた、なんて状況にならないよう祈るくらいしかできないだろうな。
慎重に進み、見えない壁を通り抜けたことで一気に視界が開ける。
その光景に歩みを止めた俺は、思わず周囲を見回しながら声を小さく出した。
「……これは……」
「何かありましたか?」
「ちょっと待ってくれ」
罠を含む安全の確認をした俺は、言葉にしながら足を進めた。
「いいぞ。
大丈夫そうだ」
リゼットと馬車をひいたクラウディアに続き、リージェとレヴィアも見えない壁を越えるが、俺と同じ表情で凍り付くように固まった。
「……これは、なんて……」
「……素晴らしいです……」
形容のしようがないリージェと、目を大きく見開いたエトワールは言葉にした。
まさかこんな場所に繋がっているとは想定もしていなかったが、目に映るものが夢でも幻でもないことだけは確かなようだ。
「……白亜の大聖堂、か。
月日を感じさせないほどに美しいな……」
レヴィアの声が反響するように、陽光が窓から差し込む大聖堂内へ響き渡った。




