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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十七章 目覚め
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腑に落ちない点

 断崖側を調べていると、地面に奇妙な跡を見つけた。

 何かで(えぐ)ったようなものに見えた俺はリゼットに声をかけた。


「これは……」

「何か分かるか?」


 しゃがみながら地面を見つめるリゼットは、西側を指さしながら答えた。


「ここから真横に移動していますね。

 恐らくは断崖を沿うように走ったのかもしれません。

 女性とはいえ大人ひとりを抱え込んだとは思えない土の沈み具合に思えますが、相手がスケルトンならば重さを感じさせないほど軽い可能性もありますね。

 地面についた跡は新しいようにも見えますから、少しあちらへ進みましょうか」

「そうだな」


 頷きながら俺は答えたが、知識だけと言葉にしたリゼットのスカウト能力の高さに内心では驚いていた。


 確かにスカウトは足跡や爪痕などの痕跡を辿り、対象との距離を詰めていくものだと聞いていたが、しっかりとした説得力を感じさせる説明だった。

 いくら勉強したからといって、人命がかかっているような責任が重くのしかかる状況で発揮できることそのものが凄まじいとしか言葉が出ない。

 その並外れた集中力と判断力を俺も含め、子供たちにも学ばせたい思えた。


 10メートルほど歩いた頃、彼女は再び痕跡を見つけたようだ。


「……断崖に沿って西へ真っすぐ続いています。

 恐らくは先ほどと同じ存在がつけたものでしょう。

 一定間隔に広がる歩幅から推測すると……二足の存在が走っていますね」

「足跡を見ただけでどうして分かるの、リゼットお姉ちゃん」


 首を傾げるブランシェだが、それは俺も聞きたかった。

 さすがにこういった知識は持ち合わせていないし、習ったこともないからな。


「痕跡の形を見ると分かるんですよ。

 たとえば人が走る時、つま先を地面に強く蹴るでしょう?

 でも、かかとが地面からわずかに離れている場合も多いんです。

 踏みしめて走るなら足跡全体の大きさが残りますが、この跡を見ると……」

「……ほんとだ。

 上の部分だけ強く抉れているのに、下の方はそんなについてない……」

「……つま先のほうと違ってとても小さい……。

 リゼット姉はこれを見てどっちに進んだのかが分かったんだね」

「予想しているだけで、実際に正しいかは言ってみなければ分かりませんが、恐らくはかなりの速度を出していたと思います」

「ふむ。

 だが動物ではない理由はあるのか?」

「動物の場合はとても特徴のある足跡が残ります。

 この周辺には鹿や熊などもいると聞きましたが、鹿はひずめ、熊は指の形がはっきりと土に残るんです。

 そのどちらでもなく、この辺りは人の往来もない。

 さらに動物が走れば前足と後ろ足の間隔が離れますが、この足跡は……」


 視線を西側へ向けると、納得したようにフラヴィは答えた。


「……同じような長さでついてるの。

 動物じゃなくて、誰か(・・)ってことになるの?」

「はい。

 私はそう推察しますよ、フラヴィちゃん」


 満面の笑みで答えるリゼットに感嘆のため息しか出なかった。

 だが、どうやら彼女が推察したのはそれだけではなかったようだ。


「左右の足跡は一定の大きさ、深さを保っています。

 女性を抱えて走ったのだと仮定して、片手ではなく両手で抱くか、背中に背負っていたのかもしれません」

「……すごいな。

 足跡ひとつでそこまで分かるのか」

「追跡専門のスカウトであればもっと正確に分かるのですが、私には難しいです」


 それでもすごいと思える情報量の多さに唸っていると、リゼットは難しい顔をしながら言葉にした。


「しかし、腑に落ちない点もあります。

 これまで見つけることもなかった痕跡が、偶然に発見できたとは思えません。

 それに、まるで直角に曲がったような跡はとても気になりますね」

「つまりは罠の可能性もあると?」

「……否定しきれません」


 訊ねたリージェは言葉にしなかったが、待ち構えている可能性がある。

 これまで見つからなかったものが急に見つかったんだから、そう思ってしまうのも当然だろう。


 仮説の信憑性を高めるように、ここから先は一定間隔で足跡が続いていた。

 それはまるでこちらに来いと言わんばかりのあざとさに思えてならない。


 だが、ここで立ち止まるわけにはいかない俺たちには、こうするしかなかった。


「全員、警戒しながら進もう。

 魔物への配慮も欠かさないように」


 俺の言葉に強く頷いた全員は、気を引き締めながら足を進めた。


 それでも考えずにはいられない。

 なぜこんなことをするのかと。


 アンジェリーヌをさらった理由があるのか?

 彼女の仲間が助けに来ると踏んでの行動なのか?

 まるで誘い込むかのような足跡をわざわざ残して?


 答えの出ないものばかりが浮かんでは消えることなく俺の思考を乱し続けた。

 知能の高い相手と敵対することがどれだけ危険なのかは考えていたつもりだったが、俺の想定した範囲を超えている状況に雲行きの怪しさを感じ始めた。


 最近、良くないことが起こり過ぎている。

 気を引き締めなければ危ないのかもしれないな。

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