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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十七章 目覚め
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最悪な方向へ

 顔面蒼白で強く震えながら、まるで懇願するように助けを求めるエトワール。

 しかし、その様子からは危機的状況なことくらいしか分からなかった。


「何があった」

「……アンジェリーヌ様が……アンジェリーヌ様が……」


 大怪我でもしたのか?

 ……いや、それなら俺じゃなく薬師や教会を頼るはずだ。

 エトワールは俺がヒールを使えることすら知らない。


 一考に落ち着きを見せず、なおも半狂乱の彼女にレヴィアは言葉にした。


「呼吸を整えてから伝えてもらえるだろうか。

 いったい何がどうしたと言うのだ?」

「……す、すみません……」


 胸に両手を当てながら深く息をついたエトワールは、小さく手を震わせながら答えた。


 それは想像もしていなかった事態。

 本音を言えば、耳を疑うどころではない話だった。


「……アンジェリーヌがさらわれた?

 こんな大きな町の中にアンデッドが?」

「……はい……」


 彼女が嘘をつくはずもないことは分かっている。

 それでも、にわかには信じがたい話にしか聞こえなかった。


「ふむ。

 迷宮に出たものと同種か?」

「あれは自然に出現する類の魔物で、迷宮外ではまったく異なると言われている。

 たとえ同じ姿であっても別種だと思うよ」


 そもそもアンデッドとは、思い半ばに倒れた人の魂が肉体から離れ、放置された体に悪霊が取り憑くことで現れるらしいからな。

 町中では教会の司祭や神父、時にはシスターが適切に弔うことでそれらの出現を防いでいるとも言われるが、そこまで詳しい話は俺も学んでいない。


 だが町の外で見つければ、即討伐対象となる。

 そのまま放置するだけで増え続けるとも言われているからだと聞いた。


 ゴブリンにもホブやグリムなどの上位種がいるが、後者に向かうにつれて身体能力だけじゃなく、知能まで上がる。

 ここにアーチャーなどの武器を持ったものは除外される。

 あくまでも持っている武器種で分類しただけになるからな。


 厄介なことに、アンデッド系の魔物は一般的なそれらとは違い、この世界では特殊だと考えられているようだ。


 歩く死体とも言われるゾンビとその上位互換となるグールは迷宮でも散々戦ったが、すべてが迷宮内で生成されたような魔物だった。

 迷宮80階層とは違って大量に湧くことはないと言われているようだし、実際に10匹も出現しようとも、ある程度の強さがある武人ならばその対処はそれほど難しくはない。


 いわゆるスピリチュアル系と思われる肉体を持たないレイスやファントムなども厄介ではあるが、魔法が効きやすい弱点があるそうだから倒すのは簡単だ。


 問題はゾンビ系以外のアンデッドになる。

 その存在を俺はラーラさんから学んだ。


「……"スケルトン"か」

「……そう、思われます」


 エトワールも初めて見たそうで正確なところは分からないらしいが、少なくとも彼女が話した外見の特徴からは俺の知っている記憶とも合致する。


 ゲームやアニメ、映画など幅広く知られているアンデッドのひとつで、一言で表現するなら動く人間骨格だろうか。

 ファンタジー創作物が好きな日本人には一般的なアンデッドモンスターと分類されがちだが、この世界でのスケルトンは非常に危険視されている。


 その理由が並外れた耐久性と、身体能力の極端な高さにあると学んだ。

 武具も巧みに扱える上、並の冒険者や兵士では素早すぎて攻撃が避けられる。

 おまけに魔法もあまり効果がなく、知能はそこいらの冒険者よりも遥かに高い。


 これがスケルトン系"最弱種"と呼ばれるアンデッドだ。

 エトワールからの話を合わせて考えると、並の魔物だとはとても思えなかった。


 そもそも人の町に潜入するなんて、明らかに異常だ。

 古い文献を探したところで出てくる保証すらないほどの。

 アンジェリーヌをさらった理由は分からないが、それほどの知能ともなれば確実にスケルトンよりも格上のアンデッドになるはず。


 となれば最低でも中位のワイトか、上位のリッチかもしれない。

 最悪の場合、最上級のエルダーリッチの可能性すら俺は考えている。


 だがエルダーリッチは、この世界でも伝説上の魔物だと聞いたことがある。

 存在すら証明されていないようなおとぎ話を仮定するのは、いささか軽率か。


 仮にそんなものが存在した場合は、大変な事態どころでは済まない。

 それは文字通りの意味で"世界の終焉"となってしまうだろう。


 ちらりとレヴィアに視線を向ける。

 俺はこの時、"知らない"と彼女に言ってほしかったんだ。


 そうであればいいと期待を込めて返答を待ったが、残念ながら事態は最悪な方向へ歩み始めていたのかもしれないと思える言葉を発せられた。

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