626/700
動き出すように
はじまりの記憶は、すす汚れた灰色の壁。
まどろむような意識の中、奥底に感じた確かなもの。
それは執念か。
それともただの渇望か。
荒れ果てた遺跡から空に咆哮を轟かせたそれには理解できなかった。
様々な負の感情が入り乱れ、激しく叫び続ける。
徐々に鮮明になる意識と記憶。
深淵のようなそれの眼は、どす黒くも紅い輝きを鋭く光らせた。
その姿はまるで、地獄の底から這い上がった亡者。
触れただけで命を摘み取られてしまいそうな、禍々しくも黒々とした負のエネルギーに身を包んだ死を司る者。
朽ち果てた漆黒のローブから覗かせる骨で形成された体躯は、目撃者のすべてを死の世界へ引きずり込まんとするかのようだった。
この日、ひっそりと静まり返る場所で、ひとつの人外が動き始める。
それが何を意味するのかも。
そしてそれの目的が何なのかも。
誰も、何も知るはずのない場所で、確かに何かが起こり始めていた。




