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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十六章 正しいと思う道を
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幸せな情景が

「……ふむ。

 これは中々の美味だな。

 香辛料が適度に効いたタレが味の決め手か」


 鉄串に刺さる牛肉を味わいながら、しみじみとレヴィアは答えた。

 横には8本の串を両手それぞれの指へ器用に挟み、肉を一心不乱に口へと掻っ込むブランシェ。

 時たま汚す口元を拭うリゼットだが、その表情はとても幸せそうだった。


 そういえば、妹が欲しかったと話してたのを思い出した。

 フラヴィもエルルも手のかからない上に、品格の高さを思わせる食べ方ができる子たちだからな。

 いつも自然体のブランシェに世話をするのが楽しくて仕方ないみたいだ。


 とても嬉しそうにハンカチで拭うリゼットと、そのたびに満足そうなブランシェの姿を横目に、俺たちは歩きながら牛串を味わった。



 "フュルステンベルク"。

 最北端に位置した大きな町で、吟遊詩人発祥の地と言われる。

 元々は読み書きのできない人に物語を聞かせていたのが始まりらしい。


 町の中心部には大きな野外劇場が設けられ、演劇や歌劇、舞踊など、様々な娯楽が無償で提供されると聞いた。

 そのためバウムガルテンや隣町のレーヴェレンツから足を運ぶ人はとても多く、活気に満ち溢れた大きな町となっている。


 すべては訪れる人が多いからこそできることなんだろうけど、それでも無償で観劇できるのはすごいと素直に思えた。


 もちろんピンキリで、若手劇団の拙い演技を見ることも多いらしいが、手に汗握る勇者の冒険譚や一国の王子と町娘の恋物語、抱腹絶倒するような喜劇まで幅広く公演しているそうだ。

 演じる者だけでなく劇作家や音楽家など、そういった分野で活躍を目指す者たちの勉強の場にもなっているんだろうな。


「"えんげき"ってなに、ごしゅじん」

「物語を人が動作や言葉で見せることだよ」

「面白そうだね!

 どんなのあるか見てみたい!」


 楽しそうなエルルの姿に、俺は安堵していた。

 これもディートリヒとフランツが励ましてくれたお陰だな。



 総人口はおよそ120万人。

 大陸の端とはいっても、これほどの賑わいを見せる町はここだけかもしれない。


 家の造りこそ変わらないが、随分と違った印象を受けた。

 いたるところで露店が設けられ、色とりどりの花で彩られた町並みと楽しそうに行き交う人たちの気配は、さながら外国のフェスティバルに来ているような気持ちになった。


 街門をくぐっただけでその空気を感じ取った子供たちがそわそわとする姿を見ていると、"夢と魔法の王国"に連れて行ってあげたいと思えた。

 きっと一日中楽しく遊んで、夜にはぐっすり眠るんだろうな。


 そんな幸せな情景が俺の頭をよぎった。

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