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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十六章 正しいと思う道を
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自分自身が

 雷鳴が轟き、瞬く間に周囲を強く照らし出す。

 力なく座り続ける少女は、呆然と空を見上げ続ける。


 厚く重々しい灰色の空。

 世界を覆いつくさんばかりの光景。

 まるで少女の精神を投影しているかのようだった。


 近くで落雷が起きたかのような強い閃光が弾けた。

 一瞬だけ見えた少女の背後にはひとりの魔術師。

 ローブを目深にかぶり、その光景を見つめる。


 暗転するように暗闇が周囲を覆う。

 強烈な感情が渦巻く少女へ、魔術師は言葉にした。


 力が欲しいか、と。


 体を打ちつける滝のような大雨が降り注ぎ、その音はすべてを塗り潰す。

 声など届かないほどの雨音を周囲に響かせる中、少女はゆっくりと口を開いた。





 "生きる価値がない人間など、この世にはいない"

 誰かがそう言葉にした。


 命とは尊いものだ。

 何ものにも代え難いものだと。


 顔も名前も知らない誰かが言葉にした。



 確かにその通りだ。

 命が掛け替えのないものであることも間違いではない。


 しかし、悪意が蔓延るこの世界に、人々を見守り続けると聞く神が存在しない以上、果たしてそれは正しいのだろうかと思わずにはいられなかった。



 この世界に神はいない。

 そんなもの、いるはずがないんだ。

 いるとすれば、それを僭称(せんしょう)する人間だけだ。


 だからこそ、俺は思う。

 どうするべきかは"自分自身"が決めなければならないんだと。

 ほかの誰でもない自らが決断し、前に進んでいく必要があるんだと。



 ……でも。

 それでも今回の一件は、俺自身の心を深く抉るような爪痕を確かに残した。


 まるで切り刻むかのような、重く鋭い爪痕を……。




 ……結局救われたのは、誰だったんだろうか。

 ……"正しいこと"とは何なんだったんだろうか。



 きっとそれは、誰にも答えられない。

 人の数だけ答えがあるものなんだろうと思う。


 俺自身、正しい選択ができたのかもわからない。

 もしかしたら、家族に顔向けができないような非道をしたのかもしれない。



 そう思えてしまうような出来事を経験して、俺たちはこの一件について深く考えさせられることになる。

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