自分自身が
雷鳴が轟き、瞬く間に周囲を強く照らし出す。
力なく座り続ける少女は、呆然と空を見上げ続ける。
厚く重々しい灰色の空。
世界を覆いつくさんばかりの光景。
まるで少女の精神を投影しているかのようだった。
近くで落雷が起きたかのような強い閃光が弾けた。
一瞬だけ見えた少女の背後にはひとりの魔術師。
ローブを目深にかぶり、その光景を見つめる。
暗転するように暗闇が周囲を覆う。
強烈な感情が渦巻く少女へ、魔術師は言葉にした。
力が欲しいか、と。
体を打ちつける滝のような大雨が降り注ぎ、その音はすべてを塗り潰す。
声など届かないほどの雨音を周囲に響かせる中、少女はゆっくりと口を開いた。
"生きる価値がない人間など、この世にはいない"
誰かがそう言葉にした。
命とは尊いものだ。
何ものにも代え難いものだと。
顔も名前も知らない誰かが言葉にした。
確かにその通りだ。
命が掛け替えのないものであることも間違いではない。
しかし、悪意が蔓延るこの世界に、人々を見守り続けると聞く神が存在しない以上、果たしてそれは正しいのだろうかと思わずにはいられなかった。
この世界に神はいない。
そんなもの、いるはずがないんだ。
いるとすれば、それを僭称する人間だけだ。
だからこそ、俺は思う。
どうするべきかは"自分自身"が決めなければならないんだと。
ほかの誰でもない自らが決断し、前に進んでいく必要があるんだと。
……でも。
それでも今回の一件は、俺自身の心を深く抉るような爪痕を確かに残した。
まるで切り刻むかのような、重く鋭い爪痕を……。
……結局救われたのは、誰だったんだろうか。
……"正しいこと"とは何なんだったんだろうか。
きっとそれは、誰にも答えられない。
人の数だけ答えがあるものなんだろうと思う。
俺自身、正しい選択ができたのかもわからない。
もしかしたら、家族に顔向けができないような非道をしたのかもしれない。
そう思えてしまうような出来事を経験して、俺たちはこの一件について深く考えさせられることになる。




