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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十五章 笑顔で歩いて行けるように
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笑顔で歩いて行けるように

「それじゃあ、俺たちは行くよ」

「あぁ。

 次に会うのは、エルルの家を見つけてからになるのか?」

「それが理想だな。

 北の町に行っても進展がなければ、一度戻ってくるよ」

「ということは、エルルとはお別れになるかもしれないな」

「……あ……そっか……。

 ……そう、なっちゃうかも……しれないんだね……」


 いつもの聡明さを見せるエルルとは違って、あまり考えていなかったようだ。

 急激に落ち込むような姿を見たディートリヒはエルルの頭に手をぽんと置き、とても優しい声色で言葉にした。


「そんな顔をするな。

 俺たちと別れるってことは、エルルが幸せに暮らしてるって意味になるんだよ。

 だからそんな顔をするな。

 エルルには笑顔がいちばん似合ってるんだから」

「安心しろ、エルル。

 トーヤは約束を破らねぇ!

 必ず家に連れ帰ってくれるって信じろ!」

「……ディートリヒさん……フランツさん……。

 ……ありがと……」


 精一杯の笑顔を見せるエルルだった。



 不安に思う心も。

 もう会えないかもしれないと感じる気持ちも。

 これから目指そうとしている場所も。


 本音を言えば、そのどれもを拭い去ってあげられるか分からない。

 まだ何も分からないと言えるほど、雲を掴むような話だからな。


 それでも俺たちは絶対に見つけなければならない。

 この子が本来いるべき場所へ送り届けるために。


 そこから先は、エルルの家を見つけてから考えればいい。

 楽観的ではあるが、今はそう考えるだけで十分だと思えた。


「みんなはこれからどうするんだ?」

「俺たちはまた10階層に入り浸る感じだな」

「まだまだ修練が必要ですし、僕たち自身が納得できるまでは鍛えるつもりです」

「10階層なら初心者さんの迷惑にもならないと思いますからね。

 トーヤさんの教えていただいたことを忘れずに研鑽を重ねていきます」

「……強く、なりてぇからな」


 呟くように放ったフランツの言葉には、かなりの重みを感じさせた。

 きっとそれは、誰もが一度は考えたことがあるものだと俺には思えた。


 それでも、強くなるためには相応の手段を用いる必要がある。

 身体的、技術的なものだけじゃなく、"心の強さ"を手に入れる必要が。


 そのために武術がある。

 体を鍛え、技を磨き、心を育む。


 どれもが必要で、同時にそれはどれかひとつでも欠けては強くなれない。

 体が弱くても、技が拙くても、心が脆くても、強くなれないんだ。




 "もっと自分に力があれば"


 俺自身、そう思ったことは何度もある。

 手を伸ばしても届かないもどかしさも、数えきれないくらい経験している。

 子供だった自分に呪いたくなるほどの無力感に苛まれたことも。


 きっと彼も、そんな経験をしてきたんだろう。

 だからこそ闇雲に力を求めるように頂点を目指したのかもしれない。


 弱い自分が嫌で。

 でも、どうしようもなくて。


 いくら頑張っても成果が出ない日々を無為に過ごしたように感じながら、それでも前に進み続けていたんだろうな。


 必死に食らいつくように。

 剣を振り続けていたんだろうな。


「……俺は、みんなに正しく使ってもらおうと思って技を教えたわけじゃないよ。

 そんなことは言われずとも実践してくれるのが分かってるからな。

 俺が技術を教えたのは、"みんなが笑顔で歩いて行けるように"なんだ。

 だからみんなは自然にしてていいんだよ。

 冒険者ってのは、"自由"であるべきだろ?」

「……だな」


 嬉しそうな表情でフランツは答えた。


 この国では"自由"が何よりも尊重される。

 国の基本理念ってのもあるんだろうけど、そういったものを求める冒険者がやって来ては定住することも多いと聞いた。


 誰だってそうだ。

 "自由"の響きに、解放感にも似た何かを少なからず感じているはずだ。


 それを履き違えた馬鹿も少なくはないらしいが、初めて会った時にディートリヒが話していたように、"良くも悪くも、何をするのも自由"なんだろうな。


 思い返してみると、あれはとても重い言葉に聞こえた。

 彼らは俺なんかが想像もつかないようなことを経験しているのかもしれないな。

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