良く似てるよ
出立の準備を終えた俺たちは、ラーラさんの店に来ていた。
とは言っても身支度を整えただけで、何か荷物を持ってるってわけでもないが。
ラーラさんの魔道具店である"夢と魔法の道具屋さん"は今日も営業中だが、残念ながら開店から間もないこともあって、それほど多くの客には恵まれていないために暇を持て余していると彼女は話した。
「大通りから少し離れてるし、この辺りにある魔道具店は私のお店だけだから仕方ないんだけどね。
まぁ、近所の子供たちと遊べるから、これでもいいんだけど」
「……いや、それは魔道具屋としては問題なんじゃないか?」
確かにディートリヒの言うように、商売である以上は収入を得なければ色々と大変だと思えた。
彼女のことだからその辺りはしっかりしてるのは間違いないんだが、俺たちの想像とは違った答えが返ってきたのは意外だった。
「……魔道具屋の利益のほとんどは"戦うためのアイテム"なのよ。
もちろん日用品として使えるものも多いんだけど、金額が金額でしょう?
ひとつのアイテムが売れただけでも大きな利益に繋がる職だし、それで買ってくれたお客さんが安全に冒険できるのならいいと思える反面、そういった戦闘用アイテムが売れなければ世界は穏やかにあるのかもって思うのよね。
だからお客さんが来ないなら来ないでもいいと、私は考えているの」
……考えたこともなかった。
不思議な価値観にも思えるが、確かにそうかもしれないと思える自分がいた。
やはり彼女は損得抜きで魔道具屋が楽しいから経営しているんだろうか。
そんなふうに、俺には思えた。
「それでそれで?
トーヤ君たちは北を目指すのよね?」
「あぁ、そのつもりだよ」
「準備は大丈夫?
食材はいっぱいあるの?
お姉さんちの魔道具買ってく?」
「……さりげなく売ろうとしたな……」
「あら、ふーちゃんが買ってくれるの?
いっぱいあるからゆっくり見ていってね!」
「そんなこと言ってねぇよっ」
ふたりのやり取りを見ながら、俺たちは声を出して笑った。
本当に俺は恵まれているな。
こんなにも穏やかな気持ちになれるなんて、デルプフェルト以来かもしれない。
きっと俺にとっての特別な人たちなんだろうな、ここにいるみんなは。
「……そういえば、今回は一緒に行きたいって言わないんだな」
以前は足にすがりつきながら懇願していたのに、随分と大人しく思えた。
されたらされたで困るんだが、彼女の対応に少しだけ調子が狂う気がした。
「お店があるからね。
ほったらかして旅に出られないわ」
笑顔で答えたその言葉に何か違和感を覚えるも、深く考えないようにした。
思えば、ラーラさんには数えきれないほど助けてもらっている。
感謝を言葉にしてもしきれないほどたくさんのことをしてもらえた。
そんな彼女と出逢えたことも、俺にとっては幸運だった。
「今回も歩いて行くのか?」
「いや、乗合馬車を予約したんだ。
随分と大人数になったこともあって、街道をぞろぞろ連れ歩くと目立つからな」
8人パーティーは割と珍しいと聞いたことがある。
どちらかと言えば2チームが合流したようにも思える人数だが、うちには子供が3人いるからな。
小さなふたりがいる俺たちは、子供を護衛する冒険者に見えるかもしれない。
クラウディアの修練はゆっくり見るつもりだし、面倒事も落ち着いた今、ようやく乗合馬車を使えるようになった。
それでも襲い掛かってくる馬鹿どもはいるだろうから注意は必要だが、今後はこれまで以上に周りを見ながら進もうと思う。
「ここから北の町までは緩やかな平原と草原が続くみたいだし、のんびりとした旅を満喫できそうだよ」
「……そういや、以前も同じこと言ってたな……。
相変わらずというか、ブレないっていうか……」
「いいじゃないか、フランツ。
正直、俺はトーヤの自由精神が羨ましいよ。
……だが危険な存在がいることにも気をつけろよ?」
「あぁ。
警戒心を解いたりしないから大丈夫だ」
一応の収束を見た暗殺者の一件は、今後も最大限の警戒は必要だと思っている。
どこから情報を得ているのかも定かではない連中の情報網を侮れば、大変な事態を招くかもしれないからな。
そういった意味で言うなら、子供たちを迷宮で育てられたのは最大の収穫だな。
魔道具による武装も整えられたし、技術はもちろん精神面でも成長させられた。
当然のように子供たちだけじゃなく、レヴィアたちにも暗殺者と戦ってほしくはないと俺は思っているが、きっとそれを笑顔で断るんだろうな。
レヴィア、リージェ、リゼットに視線を向けると笑顔で応えられた。
……本当に似ているよな、俺たちは。
考え方も価値観も、色々なことが良く似てるよ。




