そんな経験を
「……それに、トーヤが教えたがる理由も分かったよ。
この技術がどれだけ大切で、何よりも"異質"なことが」
「だな。
さすがにこいつはすげぇ力だが、知られると色々問題になる」
「僕たちは、この力を正しく使わなければなりません。
あれだけ凄まじい数のポーンだろうと、今なら圧倒できるかもしれない強力なものを人前で見せれば、きっとかなり面倒なことになるでしょうね」
「84階層にいるアンデッドの歩兵か。
……悪目立ちする件については謝るよ」
その点は悪く思ってる。
生き方に制限をかけてしまうかもしれないからな。
それでも、みんなにはどうしても覚えてほしかったんだよ。
そんな申し訳なさが表情から伝わったんだろうな。
いつも以上に真面目な顔をしたフランツは、その考えを否定した。
「よせよ、トーヤ。
俺らはお前に救ってもらったんだ。
この力があれば俺の目標にも届くかもしれないし、生存率も極端に上がる。
でもな、そんなことよりも俺は、お前の気持ちが嬉しかったんだよ。
トーヤが俺たちをどれだけ大切に思っているのか再認識できたからな。
お前が信念で持ち続ける"優しい強さ"ってのは、きっと何よりも正しいと俺には思えた。
だからこそ、そんなにも強くなれたんだろうなって、やっと納得できたよ」
温かいお茶に口をつけるフランツの瞳は普段とは違い、どこか物悲しく見えた。
これまで色々あったんだろうことくらいは俺にも分かるが、それを訊ねる勇気はなかった。
不思議な感覚だな。
まるで昔の俺を見ているような気持ちになる。
当然、生きた世界はまったく違うんだろうけど、なんとなく俺と同じようにも思えたんだよな。
……本当になんだろうな。
懐かしいような、それでいて大切な何かを思い出しそうな……。
形容しづらいこの感覚が何かは分からないが、少なくとも彼は俺と似たような経験をしているのかもしれないな。
どうにも話の流れを変えたい気持ちになった。
これも俺の弱い部分のひとつなんだろうな。
「そういえば、レオンハルトのほうはどうするんだ?
相当強くなったこともバレるんじゃないか?」
人を見る目があるらしいし、戦闘技術や戦術にも秀でているとなれば、劇的に成長した彼らの強さに気づく可能性は高い。
色々と問題にならなければいいが、なんて考えるのが技術を教えた張本人の俺ってのもどうかと思うが……。
しかし予想とは裏腹に、問題にはならないだろうとディートリヒは答えた。
「レオンとは一時的なレイドを組んだだけだからな。
戦術としてはかなり勉強になったが、今後は一緒に攻略することはないだろ」
「……ものすごく残念そうな表情をしていましたが、我々の目的は迷宮の攻略ではなく"腕試し"でしたからね。
レオンさんには申し訳ありませんが、攻略するにしても我々のペースで進みたいです」
「ま、問題ねぇよ。
元々83階層を突破するための人員補充みたいなもんだからな。
ちゃんと事前に話してあったし、揉めたりはしないだろ。
そういうやつでもないしな」
「そうか」
それなら問題なさそうだな。
こういったことは一度揉めると面倒なことになるケースが多いような気がしていたが、大丈夫そうで安心した。
「それにあいつ、すげぇいいやつなんだよな。
どっちかっていやぁ、トーヤ寄りの性格だな」
「話に聞いた人物像からだと、俺とは随分違う印象なんだが?」
「なんていうのかな……。
こう、信念が通ってるって言うのかな……。
うまく言えねぇけど、なんかそんな感じなんだよ」
漠然としてるな。
いまいちよく分からないが。
「トーヤさんとは波長が合うって意味じゃないですか?
それなら僕もなんとなくわかる気がしますよ」
「それだ!」
「それってつまり、トーヤと似てるってことなの?」
首を傾げるエルルだが、それは俺も聞きたいところだな。
正直、俺とは真逆の性格に思えてならない。
「そもそも俺は、そんな"勇者"じみた性格をしてないぞ」
「確かにトーヤ君は真っ黒な服を着てるもんね!
白銀の騎士なんかじゃなくて、真っ黒くろの"魔王さま"よね!
あははは!」
腹を抱えながら豪快に笑うラーラさんだが、この"宵闇の衣"は彼女からもらったものだと認識してるのはどうやら俺の勘違いだったみたいだ。




