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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十五章 笑顔で歩いて行けるように
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いくらだって強くなれる

「そろそろ交代だな。

 "ステータスエフェクトⅢ・スリープ"」


 がくんと崩れ落ち、額から豪快に地面へ倒れ込むゴブリンを確認してこちらへ戻ってきたフランツは、入れ替わりで戦線に入るライナーと軽くハイタッチをした。


「……ふぃぃ。

 だいぶ落ち着いて動けるようになったぜ」

「お疲れ。

 避けている間も魔力の密度に変化はなかった。

 あれだけ自在に強化魔法を使えれば、そろそろ次のステージが見えるようになる頃だと思うんだが」

「んー、どうだろうな。

 俺も早くあっちの世界に行きたいんだが……」


 ちらりと視線を中央から外に向けると、ゴブリンの索敵範囲を巧みに避けながらフロアの壁側を使って追いかけっこをしてる3人の子供たちの姿が目に映った。


「……楽しそうにはしゃいでるけどよ、もうかれこれ40分は高速で追いかけ続けてるな……」

「あまりの速さに、私ではとても追いつけそうもないですね……」

「ほんとすげぇよな、あの子たちは……。

 いったいどんな修練を積んだってんだよ、トーヤ」

「特別なことはしてないぞ。

 無理なく自力を高め、それを戦闘でも発揮できるようにしただけだよ」

「……発揮って、お前なぁ……。

 あの子たちにもこんなすげぇ修練してたんだろ?

 さすがにこの難易度はどうかと俺は思うぞ……」


 呆れながら言葉にしたフランツだが、そういえば伝えてなかったなと1週間も修練を続けさせた今になってようやく気が付いた。


「我らはこういった鍛錬をした覚えがないな」

「……ぇ」


 レヴィアの言葉に凍り付くフランツ。

 ディートリヒとエックハルトのふたりも目を丸くしているようだ。


「実戦形式の鍛錬もしたが、俺たちは一度でもロビーに戻ればレオンハルトに見つかる可能性があったからな。

 どんな男かも噂程度でしか知らない状態で会えば子供たちも含めて熱烈な歓迎をされるかもしれないし、10階層に戻って修練をしようなんて迷宮に潜ってる時は考えもつかなかったよ」

「そうなんだよね。

 あたしたちはトーヤと模擬戦を何度もしてきたけど、それも卒業って言われたんだよね」

「そこからはお姉ちゃんたちとも一緒に、みんなで戦うようになったんだ。

 アタシ、ごしゅじんに認められたみたいですごく嬉しかったなぁ」

「パパはとっても強いから、卒業まで一撃も当てられなかったね」


 こちらに合流した子供たちは満面の笑みで話すが、今の動きも早すぎてディートリヒたちには見えてなかったみたいだな。


「……あの速度で走り回る子供たちを相手に一撃も当たらないって、お前どんだけ強いんだよ……。

 それに今、一瞬で戻ってきたみたいな速さで見えなかったんだが……」


 放心するフランツの気持ちも分かるが、日本では真面目に修練をしたからな。

 そう簡単に攻撃が当たるほど、"師範代"ってのは軽いものじゃないんだよ。


「そもそも攻撃を当てられたら卒業じゃないから、たとえ当てたとしても問題点が見えれば修練を続けていた。

 みんなはとても覚えが良くて上達も相当早かったが、それでも覚えることはまだまだあるから、あくまでも"俺との模擬戦は卒業"って意味なんだよ」

「……終わらねぇんだな、そんだけ強くても……。

 トーヤはもう十分強いと俺には思えるんだが……」

「若干18歳で流派のすべてを体得するやつなんて、どこにもいないだろ?」

「……そりゃそうだが、トーヤのことだからな。

 俺にはさもありなんと思えるし、そうだと言われても素直に納得するぞ」

「だよな、ディート。

 それに子供たちは俺らよりも遥かに頑張ったんだ。

 俺らも負けてらんねぇよな!」

「だな」

「私もそう思います。

 せっかく教えていただいているのですから、これを機に"誰もが憧れる冒険者"を目指しましょう」

「――ちょ!? おまっ!?」


 驚愕しながら顔を赤らめるフランツは取り乱す。

 この前その言葉をぽろりと呟いたのは失態だったと思ってるんだろうな。


 だが彼の出したその言葉は、ここにいる全員を和ませた。


「とてもいい"答え"だと俺は思うよ。

 それを恥じることなく実現できるだけの強さを手に入れるにはどうすればいいのか、おぼろげでも見えてきたんじゃないか?

 なら、その片鱗を俺に見せてくれよ。

 教えたことが間違いだったとはこの先も思うことはないけど、それでも教えた側としてはそういった成長を見れるのは何よりも嬉しいんだ」


 本心からそう思う。

 それは正しい答えのひとつで、どんなものよりもフランツらしいと確信した。


 仲間のため。

 大切な家族を護るため。

 誰もが憧れる存在になるため。


 強くなる理由は人それぞれだし、違って当たり前だ。


 何よりも強い"想い"があれば、いくらだって強くなれる。

 強い想いがあれば世界の理だって変えられるかもしれない。

 他人から聞けば弱いと思える理由でも、心に決めれば強い決意と覚悟になる。


 闇雲に力を求めてはいけない。

 仮にそれで強さを手に入れても振り回されるだけだ。

 そこには強い意志に裏付けされた決意と覚悟が必要なんだよ。


 "誰もが憧れる冒険者を目指す"

 これ以上ないほどフランツらしい答えだよ。

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