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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十五章 笑顔で歩いて行けるように
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目の敵に

 肩から大きく息をするフランツ。

 その様子は息も絶え絶えで、視線が若干ブレているようにも見えた。

 それほど苦労したのは本人に聞かなくても良く分かるんだが、ひとつ気になる点が浮き彫りになった。


「さすがのフランツも20分動くのが限界か」

「……ぜぇっぜぇっ……」


 使い始めて間もない技術をいくつも試したんだから、それも当然かもしれない。

 魔力による身体能力強化をしつつ敵対者の気配を読むだけでも卓越した技術が要求されるし、周囲の警戒も怠らずに体を纏うマナの量を薄く伸ばしながらあれだけ多くの攻撃をかわし続けることは確かに大変なことだ。


 それでもフランツは他の3人以上のいい経験が得られたはずだ。

 眠らせたヒュージゴブリンが大いびきをかきながら腹をばりばりとかく姿を一瞥して、俺は会話ができる3人へ訊ねた。


「どうだ?」

「維持できるようになったと思うよ。

 ……実戦でも使えるかはまだ分からないが……」

「これもすべてゴブリンを抑え続けてくれたフランツさんのおかげですね」

「……なぜか目の敵にされていましたね……」


 とても言い難そうにライナーは答えた。


 それは俺も気になっていたことだが、いちばん近くにいたフランツを真っ先に狙ったのは分からなくないし、他の3人とは違って気配を垂れ流しで攻撃を避け続けていたから、ディートリヒたちのことが見えていなかったのかもしれない。

 かなり衝撃的なものを見たような気もするが、ともかく3人は問題なさそうだ。


「……俺はゴブリンにモテたくて頑張ってるんじゃねぇ……。

 ……俺は、そんなことのために強くなろうとしてるんじゃ……」


 うつろな瞳でぶつぶつと呟くフランツに、かける言葉が見つからなかった。


 まぁ、必死な状況になれば覚醒するようにフランツが力を発揮するのは気配察知を教えた時から分かっていたことだし、最後のほうにはしっかりと強化魔法を維持していたことも確認できた。

 ある意味では3人よりも上達したはずだから、問題にはならないだろう。


 ……精神的な負担は大きかったみたいだが……。


「それで、トーヤ。

 次はどうするんだ?」

「フランツみたいに1対1でゴブリンの攻撃を避け続ける修練に移ろうと思う。

 強化魔法を体に薄く伸ばしつつ相手の行動を見極めながら、周囲警戒も解かない冷静さを見せればクリアだな」

「時間はどのくらいなんだ?

 さすがに20分近くも冷静さを保てないと思うんだが……」

「だいたい5分で十分だ。

 それだけあればどれくらい維持できるのか、おおよそは見当がつくからな。

 そこから先は適度に実戦を挟みながらみんなの自己鍛錬法を見ていくよ。

 クラウディアの修練にも時間を使いたいから、しばらくはバウムガルテンに滞在するつもりだ」


 とはいえ、みんなにかかりっきりってわけにもいかない。

 これまで冒険者ギルドでそれとなくエルルの話を聞いてきたが、捜索願いと彼女の風体が合致した情報はまったくなかった。


 北へ北へと進んで来ているが、そもそも出会ったのはデルプフェルトだ。

 奴隷でもない少女が遥か南とも言えるような森の中にいたことも首を傾げざるを得ないし、これだけ家が離れている理由も俺には見当がつかない。


 ……雲行きが怪しくなってきた気がする。

 最悪の状況も覚悟しておいたほうがいいかもしれない。


 いや、今はみんなの話に集中するべきだな。


「みんなの修練もしっかりと見るが、そう長くはこの町にいないと思う。

 長くてもひと月、といったところだろうか。

 ついでに剣術や体術の型を確認して修正する予定だ。

 時間が空いたからそれも仕方ないんだが、改善点は結構あるんだよ。

 4人が"魔力の流れ"を見えるようになったら卒業だな」

「……俺らにゃ、十分すぎだぜ! ……はぁ、はぁ……。

 前はたったの7日、だったからな! ……はぁ、はぁ……」


 勢いと気合は買うが、顔面蒼白で生まれたての子馬のような震えた足をしたまま言われてもな……。


「……無理するなよ、フランツ……」

「あったり前だディート!

 でもな! 俺はもっと強くなりてえんだよ!」

「何のために強くなりたいか、見つかったのか?」

「まだだッ!!」


 元気いっぱいに否定する姿に、自然と笑いが込み上げた。

 だが、あの瞳ができるのはフランツのいいところだ。


 あれは何かを掴みかけた者の目だからな。

 教えている側としては、見てるだけで嬉しく思うよ。

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