彼にしか出せない答えを
やるべきことを4人に伝えると、鍛錬のための準備に入った。
とはいっても何かを用意するわけじゃないから、気持ちの上で落ち着かせている程度だろう。
本音を言えばクラウディアも参加できれば良かったんだが、まずは気配察知について学ばせる必要があるからな。
彼女の強さもまだ正確に把握しているわけではないし、少し待ってもらうか。
「4人を優先して悪いな。
あとでしっかり見るからな」
「ありがとうございます。
後学のために勉強させていただきます」
彼女は満面の笑みで答えた。
初めて会った日から思っていたが、クラウディアはとても真面目で自分が得られる何かを様々なものから吸収しようとする熱心さを持っている。
それは貪欲さとは全く異なるもので、光のような輝きを連想した。
こういうのを"人徳"っていうんだろうか。
嫌味を微塵も感じない美しい気配を彼女から感じた。
それは俺の家族が持ち合わせているものと同じだ。
もしかしたらそういった波長の合う者が集まることは、極々自然なことなのかもしれないな。
「うし!
準備は万端だぜ!」
念のため、3人にも確認を取ったが、やる気は十分のようだ。
それがどれだけ長く続くのかは彼ら次第だが。
「まずは魔力による身体能力強化を体得してもらう。
これに関してはリゼットから学んだものを、俺が体験してきた経験で導き出した修練法を試すつもりだ」
正直に言えば、これはまだ確立された修練法とは言えないもので、今この場で実践することでどれだけ早く彼らが体得できるのかを見極めさせてもらわなければならない。
その了承を取ると、ディートリヒたちは笑いながら答えた。
「いまさらだな、トーヤ。
俺たちは強くなるためにここにいる。
たとえこれから試す修練法で強くなれなかったとしても、後悔なんてしない」
「そうだぜトーヤ!
俺らはまだまだ強くなる!
……"何のために"ってのはまだ分かんねぇけどよ、きっと今から体験することは俺たちにとって重要なものなんだってことくらいは分かってるつもりだよ」
「それはきっと僕たちを救ってくれる力になると確信しています。
それにトーヤさんから学べるものはどれもが真新しく、習っていてとても楽しいんですよね」
3人ならそう言うだろうと思っていた。
ほんと、みんなは別れてからもまったく変わってないよな。
みんななら安心して教えることができると確信したよ。
あとはひとりなんだが、どうやら彼も覚悟が決まりかけているみたいだな。
少しだけライナーと間を開けて答えた彼の言葉は、俺にとって頼もしく思えるものだった。
「トーヤさんの"敵"には、言いようのない不安と恐怖を感じています。
私自身がどうするべきなのかも未だに答えを見出せずにいますが、少なくとも多くの人の幸せを踏みにじる行為だということは理解しているつもりです。
私自身が行動することが"為すべきこと"だとは、まだ断言できません。
それでも"何か"を掴みかけている気がしますので、それを知るためにも学ばせていただきたいと思っています」
今回話した一件は、彼にとっても悩ましい事件になるだろう。
だからこそ彼には彼の、教会から離れて活動をするエックハルトにしか出せない答えを見つけてほしいと俺は願っている。
そして彼は3人よりも先にその戸口に立ってるはずだ。
同時にそれは苦難と苦悩を彼に与えるかもしれない。
その感覚が"何か"を掴めずに停滞する人も多いと聞く。
だが、少なくとも何かを掴みかけてる今のエックハルトなら、4人の中で真っ先に手に入れることができると俺は考えている。
それは魔力による身体能力強化を意味するものではない。
もっともっと先の、恐らく並の冒険者では生涯到達することはない領域に足を踏み入れられるはずだ。
その力をどう使うのかは彼次第だ。
目に映る人たちを救うのもいいだろう。
彼が手にした力は彼だけのものだからな。
しかし、強大な敵と対するのなら、必ず役に立つはずだ。
……俺としては関わらずに"自由"でいてほしいんだけどな。
彼を触発するような話をしてしまったが、いずれは必ず耳にする情報だ。
遅いか早いかの違いでしかないことは間違いない。
なら先に俺の言葉として話すべきだと思えたんだよな。




