実はすげぇ人だったんだな
「……はぁ、なるようにならねぇもんだな。
素人考えじゃ魔石と道具は別物で、強い魔石を付け替えればさらに効果が強力になる、なんてイメージだったんだけどな」
フランツのしている発想は、魔工師や魔道具屋以外であれば一度は考えたことがあるものだと思う。
魔道具や魔石が万能じゃないのも理解していたつもりだが、それでも別の道を探すべきか。
「細かな話になるんだけど、属性攻撃力上昇の魔道具短剣を制作する場合に必要となる素材は"付呪されてない短剣"と"未登録の魔石"、それに属性を決定するための"小さな登録済みの魔石"の3つよ。
それらを組み合わせ、形にしてから魔力を道具全体に行き渡らせるように込めると風属性攻撃力を付与した短剣が完成するの。
魔工師が"登録"と呼ぶこの最終工程は、道具全体に魔力を通すことで中に入れた属性魔石から原石へ力を循環させ、効果を発現させる仕組みになってるのよ」
「……あー、俺には難しい話なんだが、慣れれば俺でも作れんのかな?」
「甘い! あまあまよ! ふーちゃん!
この最終工程がものすっごく緻密な作業になるの!
ちょっとでも"お腹空いたなー"なんて考えれば爆発するわよ!」
びしりと右手の人差し指をフランツへ向けるラーラさんに、緻密な作業中にそんなことを思うのはこの人だけじゃないだろうか、とは思ったが、これは言葉にしないほうがいいな。
折角ラーラさんに教えてもらった魔道具制作だが、その緻密な作業が俺には難しいと思えたからこれまで作らなかったんだよな。
面白そうな技術だし興味もかなりあるんだが、爆発するのは場所を選ぶ。
まずは人様に迷惑の掛からない拠点を持つことから始めないといけないし、俺にはちょっと難しいかもしれない。
第一、迷宮で手に入れたほうが性能は段違いだからな。
わざわざ作り出す必要性も、今となっては感じないが……。
「……なぁ、ラーラさん。
もしかして、時々町外れで爆発したって話が耳に入るのは……」
「あら、中々鋭いわね、でぃーちゃん。
憲兵隊が町を慌てて走っていないなら、十中八九魔工師が失敗したってことね」
「……魔道具制作、怖ぇぇ……」
真っ青な顔で言葉にするフランツだが、どうやらその爆発もピンキリらしい。
大きいものだと周囲の家にも影響が出るほどの衝撃で、魔道具制作は町外れでするのが法律で義務付けられているそうだ。
「それだけ魔力を循環させるのは難しい作業なのよ。
"マナを繊細に扱えない者は魔工師としての道が閉ざされる"。
そんな言葉もあるくらい、努力を求められる職業なの」
「……はぁ、実はすげぇ人だったんだな、ラーラさんは……」
「一部気になる言葉が入ってるけど、まぁいいわ」
ともあれ、魔石に関しては手詰まりだな。
何か別の方法を模索する必要はあるが、ここからは進めそうにない。
後日、テレーゼさんに聞いてみるか?
……いや、いくら大都市の冒険者ギルドマスターだろうと、この手の話を知っているとは思えない。
考えたところで妙案が出るとも思えないが、諦めるわけにはいかないからな。
そもそも、そんな簡単じゃないことくらいは覚悟していたはずだ。
それにあれだけ啖呵切ったんだから、この程度で弱音を吐いたらあの女性に申し訳が立たない。
気持ちを入れ替えるつもりで少し時間を空けて、じっくり考えてみるか。




